双極性障害の原因を徹底解説!遺伝・脳・環境要因とメカニズム

1. 双極性障害とは

双極性障害は、気分が高揚する「躁状態」と、気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。かつては「躁うつ病」と呼ばれていました。

躁状態では、異常に気分が高揚し、活動的になり、睡眠時間が短くても平気で、次々とアイデアが浮かび、衝動的な行動をとります。一方、うつ状態では、気分が落ち込み、何事にも興味を失い、疲労感が強く、自分を責める思考にとらわれます。

双極性障害は、単なる気分の波ではなく、脳の機能的な問題が背景にある疾患です。適切な治療を受けなければ、症状が悪化し、社会生活に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

この記事では、双極性障害の原因について、遺伝的要因、脳の仕組み、環境要因、発症のメカニズムなど、様々な角度から詳しく解説していきます。

2. 双極性障害の原因は複合的

双極性障害の原因は、一つの要因だけでは説明できません。遺伝的要因、生物学的要因、心理社会的要因、環境要因など、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

これは「生物・心理・社会モデル」と呼ばれる考え方で、現代の精神医学では広く受け入れられています。遺伝的な脆弱性を持つ人が、ストレスや環境要因にさらされることで、双極性障害を発症するという理解です。

つまり、遺伝的要因があるからといって必ず発症するわけではなく、逆に遺伝的要因がなくても発症することがあります。様々な要因の相互作用が、発症に関与しているのです。

3. 遺伝的要因

双極性障害には、強い遺伝的要因があることが、多くの研究で示されています。

家族研究からの知見

双極性障害の患者の第一度近親者(親、子、兄弟姉妹)は、一般人口に比べて双極性障害を発症するリスクが約10倍高いとされています。

一般人口における双極性障害の発症率は約1%から2%ですが、双極性障害患者の第一度近親者では約10%から15%に上昇します。

また、双極性障害患者の家族には、うつ病の発症率も高いことが知られており、気分障害全般に共通する遺伝的要因があると考えられています。

双子研究からの知見

一卵性双生児(遺伝子が100%同じ)の一方が双極性障害を発症した場合、もう一方も発症する確率(一致率)は約40%から70%とされています。

一方、二卵性双生児(遺伝子が50%同じ)の一致率は約5%から10%程度です。

この違いは、遺伝的要因が双極性障害の発症に大きく関与していることを示しています。ただし、一卵性双生児でも一致率が100%ではないことから、遺伝だけで決まるわけではなく、環境要因も重要であることが分かります。

遺伝子研究の進展

近年の遺伝子研究により、双極性障害に関連する複数の遺伝子が特定されつつあります。ただし、一つの遺伝子が原因というわけではなく、多数の遺伝子がそれぞれ小さな影響を与えることで、発症リスクが高まると考えられています(多遺伝子性)。

関連が示唆されている遺伝子には、神経伝達物質の機能に関わる遺伝子、神経細胞の成長や保護に関わる遺伝子、概日リズム(体内時計)に関わる遺伝子などがあります。

遺伝的要因の解釈

遺伝的要因があるということは、「双極性障害になりやすい体質」を受け継ぐということであり、必ず発症するわけではありません。

逆に、家族歴がなくても、遺伝子の突然変異や、他の要因によって発症することもあります。

4. 脳の構造と機能の異常

双極性障害の患者では、脳の構造や機能に特徴的な変化が見られることが、画像研究などから明らかになっています。

脳の構造的変化

MRI研究により、双極性障害患者では、以下のような脳の構造的変化が報告されています。

前頭前野の容積減少が見られます。前頭前野は、判断、計画、衝動のコントロールなどを司る領域です。この領域の機能低下が、衝動的な行動や判断力の低下に関係している可能性があります。

扁桃体の容積増大も報告されています。扁桃体は、感情(特に恐怖や不安)の処理に関わる領域です。この領域の過活動が、気分の不安定さに関連している可能性があります。

海馬の容積減少も見られます。海馬は、記憶の形成に重要な役割を果たします。

白質の異常として、脳の異なる領域を結ぶ神経線維(白質)に異常が見られることも報告されています。

脳の機能的変化

機能的MRI(fMRI)やPETスキャンなどの研究により、双極性障害患者では、特定の脳領域の活動パターンに異常が見られることが分かっています。

感情の調節に関わる神経回路(前頭前野-扁桃体回路など)の機能不全が、気分の極端な変動に関係していると考えられています。

報酬系の過活動が、躁状態における過度な快感や衝動的行動に関連している可能性があります。

神経伝達物質の異常

脳内の神経細胞間で情報を伝える化学物質である神経伝達物質の不均衡が、双極性障害の症状に関与していると考えられています。

ドーパミンは、報酬、動機づけ、快感に関わる神経伝達物質です。躁状態ではドーパミンの活動が過剰になり、うつ状態では不足すると考えられています。

セロトニンは、気分、睡眠、食欲などの調節に関わります。セロトニンの不足が、うつ症状に関連している可能性があります。

ノルアドレナリンは、覚醒、注意、ストレス反応に関わります。気分の変動に関与していると考えられています。

GABA(ガンマアミノ酪酸)は、抑制性の神経伝達物質です。興奮を抑える働きがあり、その機能不全が気分の不安定さに関係している可能性があります。

グルタミン酸は、興奮性の神経伝達物質です。過剰な活動が、躁症状に関連している可能性があります。

5. 神経生物学的メカニズム

双極性障害の発症には、より複雑な神経生物学的メカニズムが関与していると考えられています。

神経可塑性の異常

神経可塑性とは、脳が経験に応じて変化する能力のことです。双極性障害では、この神経可塑性に異常があると考えられています。

神経栄養因子(特にBDNF   脳由来神経栄養因子)の減少が報告されており、これが神経細胞の成長や保護、シナプス可塑性に影響を与えている可能性があります。

細胞内情報伝達系の異常

神経伝達物質が受容体に結合した後、細胞内でどのように情報が伝達されるかという「細胞内情報伝達系」にも異常があることが示唆されています。

特に、イノシトールリン酸経路やタンパク質キナーゼC経路などの異常が報告されています。

ミトコンドリア機能の異常

脳のエネルギー代謝に関わるミトコンドリアの機能異常も、双極性障害に関与している可能性が指摘されています。

炎症と免疫系の異常

近年の研究では、脳内の慢性的な炎症や免疫系の異常が、双極性障害の発症や悪化に関与している可能性が示唆されています。

双極性障害患者では、炎症性サイトカインの増加が報告されています。

6. 概日リズムの障害

双極性障害では、概日リズム(体内時計)の障害が重要な役割を果たしていると考えられています。

睡眠-覚醒リズムの異常

双極性障害患者では、睡眠-覚醒のリズムが不安定になりやすいことが知られています。

躁状態では睡眠時間が極端に短くなり、うつ状態では過眠になることがあります。

不規則な生活リズムや、睡眠の乱れが、症状の悪化や再発の引き金となることが多くあります。

概日リズム遺伝子の関与

体内時計を調節する遺伝子(時計遺伝子)の変異が、双極性障害のリスクを高める可能性が示唆されています。

季節性

双極性障害では、季節によって症状が変動することがあります。春や秋に躁状態が、冬にうつ状態が現れやすいという報告があります。

これは、日照時間の変化が体内時計や神経伝達物質に影響を与えるためと考えられています。

7. 環境要因とストレス

遺伝的・生物学的要因に加えて、環境要因も双極性障害の発症に重要な役割を果たします。

ストレスフルな生活出来事

重大なストレス体験が、双極性障害の最初のエピソードの引き金となることがあります。

喪失体験(死別、離婚、失業など)、人間関係の問題、仕事のストレス、経済的困難などが、発症のきっかけとなることがあります。

ただし、一度発症した後は、ストレスがなくても自然に気分のエピソードが繰り返されるようになることがあります(キンドリング現象)。

幼少期の逆境体験

幼少期の虐待、ネグレクト、トラウマ体験などが、双極性障害のリスクを高める可能性が示唆されています。

これらの体験が、ストレス反応系や脳の発達に影響を与え、将来的な脆弱性を高めると考えられています。

薬物使用

アルコールや違法薬物(特に覚せい剤、コカインなど)の使用が、双極性障害の発症や悪化に関与することがあります。

これらの物質は、脳内の神経伝達物質のバランスを乱し、気分の変動を引き起こす可能性があります。

医薬品の副作用

一部の抗うつ薬は、双極性障害の患者では躁転(うつ状態から躁状態への急激な変化)を引き起こすことがあります。

ステロイド薬などの他の薬剤も、気分の変動を引き起こすことがあります。

8. 心理社会的要因

心理的・社会的な要因も、双極性障害の経過に影響を与えます。

性格特性

完璧主義、几帳面、責任感が強い、といった性格特性を持つ人は、ストレスを溜め込みやすく、双極性障害のリスクが高まる可能性があります。

認知的脆弱性

物事を極端に捉える思考パターン(二分思考)、否定的な自己評価などの認知的な特徴が、症状の悪化に関与することがあります。

家族環境

家族内の高い感情表出(批判的、敵対的、または過度に感情的な家族関係)が、再発リスクを高めることが知られています。

逆に、サポーティブで安定した家族環境は、症状の安定に寄与します。

社会的サポートの不足

孤立、社会的サポートの欠如が、症状の悪化や再発のリスクを高めます。

9. 身体疾患との関連

一部の身体疾患が、双極性障害の発症や悪化に関連することがあります。

甲状腺機能異常

甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症が、気分の変動を引き起こすことがあります。双極性障害患者では、甲状腺機能異常の合併が多いことが報告されています。

神経疾患

多発性硬化症、てんかん、頭部外傷などの神経疾患が、二次的に双極性障害様の症状を引き起こすことがあります。

クッシング症候群

副腎皮質ホルモンの過剰分泌により、気分の変動が起こることがあります。

10. 発症のモデル

双極性障害の発症は、「ストレス-脆弱性モデル」で説明されることが多くあります。

ストレス-脆弱性モデル

遺伝的・生物学的な脆弱性を持つ人が、環境ストレスにさらされることで発症するという考え方です。

脆弱性が高い人は、比較的軽いストレスでも発症する可能性があります。逆に、脆弱性が低い人は、非常に強いストレスがなければ発症しません。

キンドリング仮説

最初のエピソードは、明確なストレスやきっかけがあって起こることが多いですが、エピソードを繰り返すうちに、脳の変化が進み、ストレスがなくても自発的にエピソードが起こるようになるという仮説です。

これは、再発を繰り返すほど、次のエピソードまでの期間が短くなる傾向があることを説明します。

早期の治療介入と再発予防が重要である理由の一つです。

11. 双極I型と双極II型での原因の違い

双極性障害には、双極I型と双極II型があります。

双極I型は、明確な躁状態を経験するタイプです。双極II型は、軽躁状態とうつ状態を繰り返すタイプで、躁状態ほどの重症度はありません。

両者の原因には重複する部分が多いですが、遺伝的負荷はI型の方が高いという研究もあります。

II型は、環境要因の影響を受けやすい可能性も示唆されています。

12. 原因究明の意義と今後の研究

原因究明がなぜ重要か

双極性障害の原因を理解することは、以下の点で重要です。

より効果的な治療法の開発につながります。原因メカニズムを理解することで、それに基づいた新しい治療薬や治療法を開発できます。

早期発見と予防が可能になります。リスク要因を知ることで、早期に発見し、予防的介入ができる可能性があります。

偏見の軽減にも寄与します。双極性障害が脳の疾患であることを理解することで、「気の持ちよう」といった誤解を減らし、適切な支援につながります。

今後の研究の方向性

バイオマーカーの開発として、血液検査や脳画像検査などで診断できるバイオマーカーの開発が進められています。

個別化医療の実現に向けて、遺伝子情報や脳の特性に基づいて、個々の患者に最適な治療を選択する個別化医療の研究が進んでいます。

脳科学の進展により、より詳細な脳の機能や神経回路の理解が進むことで、新たな治療標的が見つかる可能性があります。

13. まとめ   原因を知ることの意味

双極性障害の原因は、単一の要因では説明できません。遺伝的要因、脳の構造と機能の異常、神経伝達物質の不均衡、概日リズムの障害、環境要因、ストレスなど、多くの要因が複雑に絡み合って発症します。

遺伝的要因は重要ですが、遺伝だけで決まるわけではありません。環境要因も大きく関与しており、ストレス管理や規則正しい生活が、症状の安定に重要です。

双極性障害は、脳の機能的な問題が背景にある医学的な疾患です。本人の性格や意思の問題ではありません。

原因を理解することで、適切な治療を受け、症状をコントロールし、充実した生活を送ることが可能になります。

もし双極性障害と診断された場合、あるいはその疑いがある場合は、専門医の診察を受け、適切な治療を継続することが大切です。薬物療法に加えて、生活リズムの調整、ストレス管理、心理療法などを組み合わせることで、症状の安定を目指すことができます。

双極性障害の原因研究は日々進歩しており、将来的にはより効果的な治療法や予防法が開発される可能性があります。現在できる最善の治療を受けながら、希望を持って前向きに生きていくことが大切です。

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