1. すぐに退職を決断する必要はない
うつ病で仕事が辛いとき、「もう退職するしかない」と考えてしまうかもしれません。しかし、症状が重い時期の重要な決断は、後悔につながる可能性があります。
まず知っておくべきことは、退職以外にも選択肢があるということです。休職制度、勤務時間の調整、配置転換、傷病手当金など、仕事を続けながら、または一時的に休みながら回復を目指す方法があります。
退職は、これらの選択肢を検討し、医師や信頼できる人に相談した上で、冷静に判断できる状態になってから決めても遅くありません。焦らず、まずは治療に専念し、回復してから将来のことを考えることが大切です。
2. うつ病で仕事が続けられなくなる理由
うつ病になると、さまざまな症状によって仕事の継続が困難になります。
集中力・判断力の低下
うつ病の代表的な症状として、集中力や判断力の著しい低下があります。簡単な作業でもミスが増え、資料を読んでも頭に入らず、優先順位をつけることも難しくなります。会議で話についていけない、メールの返信に異常に時間がかかるといった状況が続きます。
疲労感と意欲の喪失
朝起きることすら辛く、出勤するだけで精一杯という状態になります。以前は楽しかった仕事にも興味が持てず、何をするにも億劫に感じられます。休日に休んでも疲れが取れず、常に重い疲労感に苛まれます。
対人関係の困難
同僚との会話が負担に感じられ、人と接することを避けるようになります。電話に出るのが怖い、会議で発言できない、上司への報告が苦痛といった状況が生じます。社交性の低下により、職場での孤立感が深まることもあります。
身体症状の影響
頭痛、めまい、吐き気、動悸、胃痛などの身体症状が現れ、通勤や業務の遂行が物理的に困難になることもあります。睡眠障害により慢性的な睡眠不足に陥り、日中の眠気や倦怠感に悩まされます。
自己評価の低下
「自分は役立たずだ」「周りに迷惑をかけている」という考えに支配され、自分を責め続けます。実際には問題なく仕事をこなしていても、過度に否定的に捉えてしまい、「もうダメだ」と感じてしまいます。
3. 退職を考える前に試すべき選択肢
退職を決断する前に、まず以下の選択肢を検討しましょう。
休職制度の利用
多くの企業には休職制度があります。診断書を提出することで、一定期間仕事を休み、治療に専念できます。休職中も社会保険は継続され、傷病手当金を受け取ることができます。
休職期間は企業によって異なりますが、数ヶ月から1年以上認められることもあります。この期間に治療を進め、回復してから復職することが可能です。
勤務時間・業務内容の調整
いきなり完全に休むのではなく、勤務時間を短縮したり、業務量を減らしたりする調整も選択肢です。時短勤務、在宅勤務、残業免除などの配慮を受けることで、無理なく働き続けられる場合があります。
精神的負担の大きい業務から、比較的負担の少ない業務へ一時的に変更してもらうことも検討できます。
配置転換
職場の人間関係や業務内容がストレスの主な原因である場合、部署異動や配置転換が有効なことがあります。環境が変わることで、症状が改善するケースも少なくありません。
産業医や人事への相談
多くの企業には産業医がいます。産業医に相談することで、職場での配慮事項について助言を得られたり、人事部門との橋渡しをしてもらえたりします。
人事部門に直接相談することで、社内の支援制度について情報を得たり、働き方の調整を検討したりできます。相談内容は守秘義務で保護されるため、安心して相談できます。
傷病手当金の活用
健康保険に加入していれば、休職中に傷病手当金を受け取ることができます。給与の約3分の2が最長1年6ヶ月支給されるため、経済的な不安を軽減しながら療養できます。
退職してしまうと、この制度を利用できなくなる可能性があるため、退職前に確認することが重要です。
4. 退職を決断する際の判断基準
それでも退職を考える場合、以下の基準を参考に慎重に判断しましょう。
治療を優先すべき状態か
医師から休養が必要と診断されているにもかかわらず、職場の環境や制度上、休職が難しい場合は、退職を検討する必要があるかもしれません。健康を最優先に考えることが大切です。
自傷行為や自殺念慮がある場合は、すぐに医師に相談し、必要に応じて入院治療も検討すべきです。命に関わる状態では、仕事よりも治療が最優先です。
職場環境が回復の妨げになっているか
パワハラやいじめなど、職場環境そのものが病気の原因であり、改善の見込みがない場合、その環境から離れることが回復への近道となることもあります。
ただし、可能であれば退職前に、人事部門への相談、労働組合への相談、外部の労働相談窓口への相談などを試みることをお勧めします。
経済的な見通しが立っているか
退職後の生活費をどう確保するか、具体的な計画が必要です。貯蓄、失業保険、傷病手当金、障害年金、家族の支援など、収入源を確認しましょう。
計画なく退職すると、経済的不安がさらにストレスとなり、回復を妨げる可能性があります。
冷静に判断できる状態か
うつ病の症状が重い時期は、判断力が低下しています。重要な決断は、症状がある程度落ち着いてから行うべきです。
医師、家族、信頼できる友人など、複数の人に相談した上で決めることが望ましいです。周囲の客観的な意見を聞くことで、視野が広がります。
次のステップが見えているか
退職後、どのように生活し、どのように回復を目指すのか、ある程度の見通しが立っていることが理想です。治療計画、経済面、生活リズムの維持など、具体的なイメージを持つことが大切です。
5. 休職と退職の違い・メリット・デメリット
休職と退職、それぞれの特徴を理解した上で選択しましょう。
休職のメリット
社会保険が継続されるため、健康保険、厚生年金、雇用保険の加入が維持されます。傷病手当金を受け取ることができ、給与の約3分の2を最長1年6ヶ月受給できます。
復職の可能性が残っており、回復後に同じ職場に戻れる選択肢があります。退職に比べて心理的な負担が軽く、「また戻れる場所がある」という安心感が回復を後押しします。
キャリアの空白期間を最小限に抑えられ、履歴書上も「休職期間」として説明できます。
休職のデメリット
休職期間には限りがあり、期間内に回復しなければ退職になる可能性があります。職場との連絡を完全に断つことは難しく、復職への不安がストレスになることもあります。
企業によっては休職中の給与が支給されず、傷病手当金のみでは生活が厳しい場合もあります。
退職のメリット
職場のストレスから完全に解放され、治療だけに集中できます。復職のプレッシャーがなく、自分のペースで回復を目指せます。
回復後、新しい環境で再スタートを切ることができ、過去のストレス要因から離れた新たなキャリアを築ける可能性があります。
退職のデメリット
収入が途絶え、経済的な不安が大きくなります。失業保険は受給できますが、自己都合退職の場合は給付制限期間があり、すぐには受け取れません。
社会保険の切り替え手続きが必要で、国民健康保険や国民年金への加入により、保険料負担が増える可能性があります。
キャリアに空白期間ができ、再就職時に説明が必要になります。回復後の再就職活動が負担になることもあります。
退職後、孤独感や社会から切り離された感覚が症状を悪化させる可能性もあります。
6. 退職手続きの流れと注意点
退職を決めた場合、適切な手順を踏むことが大切です。
退職の意思表示
まず直属の上司に退職の意思を伝えます。就業規則で退職予告期間が定められていることが多いため(通常1ヶ月から2ヶ月前)、それに従いましょう。
口頭だけでなく、退職願または退職届を書面で提出します。メールでの提出を求められる場合もありますが、できれば書面で正式に提出するのが望ましいです。
退職理由の伝え方
うつ病であることを正直に伝えるか、一身上の都合とするかは、本人の判断です。体調不良を理由にする場合、詳細を説明する義務はありませんが、診断書の提出を求められることもあります。
会社都合退職にできないか相談する価値もあります。会社都合であれば、失業保険の給付制限期間がなく、すぐに受給できるため、経済的負担が軽減されます。
必要な手続き
退職時に会社から受け取る書類を確認しましょう。離職票(失業保険申請に必要)、源泉徴収票(確定申告や再就職時に必要)、年金手帳、雇用保険被保険者証、健康保険資格喪失証明書などです。
健康保険は、国民健康保険への加入、健康保険の任意継続(最長2年間)、家族の扶養に入るのいずれかを選択します。任意継続は、会社負担分も自分で払うことになりますが、国民健康保険より安い場合があります。
年金は、国民年金への切り替え、または家族の扶養に入ります。市区町村の窓口で手続きを行います。
傷病手当金の継続受給
退職前から傷病手当金を受給していた場合、退職後も最長1年6ヶ月まで継続して受給できる可能性があります。ただし、条件があるため、退職前に健康保険組合に確認することが重要です。
退職日に出勤してしまうと、継続受給の権利を失う場合があるため、注意が必要です。
失業保険の手続き
退職後、ハローワークで求職申込みを行い、失業保険(雇用保険の基本手当)を申請します。自己都合退職の場合は、申請から約2ヶ月の給付制限期間があり、その後に受給開始となります。
ただし、病気療養中で就職活動ができない場合は、受給期間の延長手続きを行うことができます。最長3年間延長でき、回復後に失業保険を受け取ることが可能です。
7. 退職後の生活と経済面の支援
退職後の生活を支える制度について知っておきましょう。
傷病手当金
退職前から受給していた場合、条件を満たせば退職後も継続受給できます。給与の約3分の2が最長1年6ヶ月支給されます。
加入していた健康保険組合に申請書を提出し、医師の意見書を添付します。通常、1ヶ月ごとに申請を繰り返します。
失業保険(雇用保険の基本手当)
雇用保険に加入していた期間に応じて、一定期間給付が受けられます。ただし、病気療養中で就職活動ができない場合は、受給期間を延長する手続きが必要です。
回復して求職活動ができる状態になったら、ハローワークで延長解除の手続きを行い、失業保険を受け取ることができます。
障害年金
うつ病が重症で、長期間働けない状態が続く場合、障害年金を申請できる可能性があります。初診日から1年6ヶ月経過後、または症状が固定した時点で申請できます。
障害の程度によって、障害基礎年金(1級・2級)、障害厚生年金(1級・2級・3級)が支給されます。申請には医師の診断書が必要です。
生活保護
どうしても生活が困難な場合は、生活保護を申請することもできます。資産や収入の状況に応じて、最低限の生活費が支給されます。市区町村の福祉事務所に相談しましょう。
医療費の軽減
自立支援医療制度を利用すると、精神科の通院医療費の自己負担が1割に軽減されます。市区町村の窓口で申請できます。
高額療養費制度により、月の医療費が一定額を超えた場合、超過分が払い戻されます。
8. 退職後の治療と回復に向けて
退職後は、治療に専念し、焦らず回復を目指すことが大切です。
治療を継続する
定期的に医療機関を受診し、医師の指示に従って治療を続けましょう。薬物療法、精神療法(カウンセリング、認知行動療法など)を組み合わせて行います。
自己判断で薬をやめたり、受診をやめたりすると、症状が悪化したり再発したりする可能性があります。
生活リズムを整える
退職後も、毎日決まった時間に起き、規則正しい生活を心がけましょう。生活リズムの乱れは症状の悪化につながります。
朝日を浴びる、適度な運動をする、バランスの取れた食事をするなど、基本的な生活習慣を大切にします。
焦らず休む
「早く治さなければ」と焦ると、かえって回復が遅れます。今は休むことが仕事だと考え、十分に休息を取りましょう。
何もしない時間を自分に許し、罪悪感を持たないことが大切です。
社会とのつながりを保つ
完全に引きこもると、孤独感が増し、症状が悪化する可能性があります。無理のない範囲で、家族や友人とコミュニケーションを取りましょう。
地域の精神保健福祉センター、デイケア、患者会などに参加することで、同じ悩みを持つ人とつながることもできます。
回復の段階を理解する
回復は直線的ではなく、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら進みます。一時的に症状が戻っても、それは失敗ではなく回復過程の一部です。
小さな改善を喜び、自分を励ますことが大切です。
9. 再就職を考えるタイミングと準備
回復してきたら、次のステップを考え始めましょう。
再就職のタイミング
医師から就労可能と判断されたら、再就職を考え始めることができます。ただし、完全に回復してからでなくても、段階的に社会復帰することも可能です。
自分が「働きたい」「働けそうだ」と感じることが重要です。周囲の期待や経済的な事情だけで焦って動き出すと、再発のリスクが高まります。
段階的な社会復帰
いきなりフルタイムで働くのではなく、アルバイトやパート、短時間勤務から始めることも選択肢です。就労継続支援A型・B型などの福祉サービスを利用して、働く習慣を取り戻す方法もあります。
就労移行支援事業所では、就職に向けた訓練やサポートを受けることができます。
履歴書の空白期間の説明
面接で空白期間について聞かれたら、正直に体調不良で休養していたことを伝える方法と、自己研鑽やスキルアップの期間として説明する方法があります。
うつ病であることを開示するかは本人の判断ですが、理解のある職場であれば、正直に伝えた方が働きやすい場合もあります。
障害者雇用も選択肢
障害者手帳を持っている場合、障害者雇用枠での就職も検討できます。配慮を受けながら働けるため、無理なく長く働き続けられる可能性が高まります。
ハローワークの専門援助部門では、障害者の就職支援を行っています。
再発予防
新しい職場でも、無理をしすぎない、ストレスを溜め込まない、定期的に医師の診察を受けるなど、再発予防を心がけましょう。
自分のストレス耐性や限界を理解し、無理のない働き方を選ぶことが大切です。
10. よくある質問(FAQ)
Q: うつ病であることを会社に伝えるべきですか? A: 必ずしも伝える必要はありませんが、休職や配慮を求める場合は、診断書の提出が必要になることがあります。信頼できる上司や人事担当者に相談し、必要な支援を受けることで、働き続けられる可能性が高まります。ただし、偏見や不当な扱いを受ける心配がある場合は、慎重に判断しましょう。
Q: 休職中に転職活動をしてもいいですか? A: 法律上は禁止されていませんが、休職は治療に専念するための制度です。休職中に転職活動をしていることが会社に知られると、信頼を失ったり、休職を打ち切られたりする可能性があります。まずは回復に専念し、復職するか退職するかを冷静に判断することが望ましいです。
Q: 退職後、すぐに再就職しないとダメですか? A: 焦る必要はありません。まずは治療と回復を優先しましょう。失業保険の受給期間を延長すれば、回復後にゆっくり就職活動ができます。無理に急いで再就職しても、再発するリスクが高まります。
Q: 退職を引き止められたらどうすればいいですか? A: 退職の意思が固いなら、丁寧に断りましょう。法律上、退職の自由は保障されており、会社が無理に引き止めることはできません。ただし、会社側の提案(休職、配置転換、業務軽減など)が自分にとって有益な場合は、再検討する価値もあります。
Q: 家族に反対されています。どうすればいいですか? A: 家族が心配するのは自然なことです。退職後の生活計画、経済面の見通し、治療方針などを具体的に説明し、理解を求めましょう。可能であれば、医師に同席してもらい、家族に現状を説明してもらうことも有効です。ただし、最終的には自分の健康を最優先に考えることが大切です。
Q: 退職後、何もする気が起きません。このままでいいのでしょうか? A: 退職直後は、心身ともに疲れ切っている状態です。焦らず、まずは十分に休むことが必要です。ただし、数ヶ月経っても改善が見られない場合は、医師に相談し、治療方針を見直すことも検討しましょう。デイケアや訪問看護などのサービスを利用することで、生活リズムを取り戻せる場合もあります。
うつ病での退職は、人生の大きな決断です。焦らず、利用できる制度や支援を最大限活用し、自分にとって最善の選択を見つけてください。何より大切なのは、あなたの健康です。一人で抱え込まず、医師、家族、信頼できる人に相談しながら、一歩ずつ前に進んでいきましょう。
相談窓口
- こころの健康相談統一ダイヤル: 0570-064-556
- 労働条件相談ほっとライン: 0120-811-610
- よりそいホットライン: 0120-279-338

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