はじめに:お金にまつわる疑問と不安
就労継続支援B型事業所の利用を検討している方や、すでに利用している方が最も気になることの一つが、「お金」の問題です。「どれくらいもらえるのか」「どれくらいかかるのか」「結局、手元にいくら残るのか」という疑問は、誰もが抱くものです。
「B型に通うと月にいくらもらえるのか」という収入面の疑問だけでなく、「利用料はかかるのか」「交通費は自己負担なのか」「昼食代はどうなるのか」「その他に何か費用がかかるのか」という支出面の疑問もあります。そして最も重要なのは、「収入と支出を差し引いて、実際に手元にいくら残るのか」「生活費を賄えるのか」「赤字にならないのか」という現実的な問題です。
また、「年金や手当と併せるとトータルでいくらになるのか」「税金はかかるのか」「生活保護を受けている場合はどうなるのか」「家族に扶養されている場合の影響は」など、他の収入との関係も気になるところです。
特に、一人暮らしを考えている方、家計の足しにしたい方、経済的自立を目指している方にとって、B型事業所でどれくらいのお金が得られるのかは、利用を決める上で非常に重要な判断材料です。逆に、「お金のことはあまり気にしていない」という方でも、実際にどれくらいの収支になるのかを知っておくことは大切です。
本記事では、B型事業所でもらえる工賃の実態、工賃の計算方法と受け取り方、利用料などの支出、交通費や昼食代などの実費、収支のシミュレーション、工賃と年金・手当の関係、税金や社会保険への影響、そして「お金だけではない価値」について、詳しく解説していきます。これから利用を検討している方、すでに利用中でお金の不安がある方、ご家族や支援者の方々にとって、実践的な情報となれば幸いです。
B型事業所でもらえる工賃の実態
まず、B型事業所でどれくらいの工賃がもらえるのか、現実を理解しましょう。
全国平均の工賃
月額約1万6千円、時給約200円 厚生労働省の調査(令和4年度)によれば、B型事業所の平均工賃は以下の通りです。
- 月額平均:約16,507円
- 時給平均:約233円
これが、B型事業所の工賃の現実です。一般のアルバイトやパートの時給(1,000円前後)と比べると、はるかに低い水準です。
工賃の幅
事業所によって大きな差 平均は月額約1万6千円ですが、事業所によって大きく異なります。
- 低い事業所: 月額数百円〜5千円程度
- 平均的な事業所: 月額1万円〜2万円程度
- 高い事業所: 月額3万円〜5万円程度
- 非常に高い事業所: 月額10万円以上(極めて稀)
同じ地域でも、事業所によって2倍、3倍の差があることは珍しくありません。
通所日数・時間による違い
働いた分だけ 当然ですが、通所日数や時間によって工賃は大きく変わります。
例1:週5日、1日6時間(月20日、120時間)
- 時給200円の場合:200円 × 120時間 = 24,000円/月
例2:週3日、1日4時間(月12日、48時間)
- 時給200円の場合:200円 × 48時間 = 9,600円/月
例3:週1日、1日2時間(月4日、8時間)
- 時給200円の場合:200円 × 8時間 = 1,600円/月
フルタイムで通える方と、短時間・少日数の方では、月額で数倍の差が出ます。
初心者と経験者の差
慣れると上がる 多くの事業所では、利用開始当初は工賃が低く、作業に慣れて効率が上がると工賃も上がります。
- 初心者(最初の1〜3ヶ月): 時給100円〜150円程度
- 中級者(半年〜1年): 時給200円〜250円程度
- ベテラン(1年以上): 時給250円〜300円以上
ただし、事業所によって昇給制度の有無や幅は異なります。
作業内容による違い
高単価の作業ほど高工賃
- 単純軽作業(袋詰め、シール貼りなど): 時給100円〜200円程度
- やや専門的な作業(PC入力、清掃など): 時給200円〜300円程度
- 専門的な作業(製造、技術作業など): 時給300円〜500円以上
作業内容によっても工賃が変わります。
地域による違い
都市部と地方
- 都市部(東京、大阪など): 平均よりやや高い(月額2万円前後)
- 地方都市: 平均的(月額1万5千円前後)
- 過疎地域: 平均よりやや低い(月額1万円前後)
ただし、地方でも農作業などで成功している事業所は高工賃のこともあります。
工賃の計算方法と受け取り方
工賃がどのように計算され、どう受け取るのかを理解しましょう。
計算方法
B型事業所の工賃計算方法は、主に3つあります。
時間給制
働いた時間に応じて 最も一般的な方法です。
- 時給○○円 × 実際に働いた時間 = 工賃
例:時給200円 × 80時間/月 = 16,000円/月
出来高制
作った量に応じて 作業の成果物の数や質に応じて工賃が決まります。
- 1個○○円 × 完成個数 = 工賃
例:1個10円 × 1,600個/月 = 16,000円/月
作業が早い人、正確な人ほど工賃が高くなります。
混合制
時間給+出来高 基本的には時間給で、さらに成果に応じてボーナスが加算される方式です。
例:時給150円 × 80時間 + 出来高ボーナス4,000円 = 16,000円/月
控除項目
工賃から引かれるもの 事業所によっては、以下のものが工賃から控除されることがあります。
- 昼食代: 1食300円〜500円程度(利用する場合)
- おやつ代: 月額数百円程度(提供される場合)
- 材料費: 創作活動などで使う材料の一部負担
- 積立金: レクリエーション費用などの積立(任意の場合が多い)
ただし、多くの事業所では昼食代以外は控除されません。
支払い時期
いつもらえるか
- 翌月払い: 最も一般的。例えば、4月分の工賃を5月に支払い
- 当月払い: 一部の事業所。4月分を4月末に支払い
具体的な支払日は事業所によって異なります(毎月15日、25日、末日など)。
受け取り方法
どうやって受け取るか
- 銀行振込: 最も一般的。指定の口座に振り込まれる
- 現金手渡し: 一部の事業所。事業所で直接受け取る
銀行振込の場合、通帳記帳や振込通知で確認できます。
工賃明細
内訳の確認 多くの事業所では、工賃明細書が発行されます。
明細に記載される内容:
- 通所日数、時間
- 時給または単価
- 総工賃
- 控除項目(昼食代など)
- 手取り額
明細書で、どのように計算されたかを確認できます。
B型事業所の利用料と自己負担
B型事業所を利用するために、費用はかかるのでしょうか。
利用料の基本
原則:所得に応じた自己負担 B型事業所の利用には、「障害福祉サービス利用料」がかかります。ただし、所得に応じた負担上限月額が設定されており、多くの方は無料または少額です。
負担上限月額
所得に応じた4区分
| 区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限月額 |
|---|---|---|
| 生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
| 低所得 | 市町村民税非課税世帯(概ね300万円以下) | 0円 |
| 一般1 | 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満) | 9,300円 |
| 一般2 | 市町村民税課税世帯(所得割16万円以上) | 37,200円 |
実際の負担:
- 生活保護受給者: 0円(無料)
- 市町村民税非課税世帯: 0円(無料)
- 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満): 上限9,300円/月
- 市町村民税課税世帯(所得割16万円以上): 上限37,200円/月
ほとんどの方は無料
実態 実際には、B型事業所の利用者の約8〜9割が「生活保護」または「低所得」区分に該当し、利用料は無料です。
利用料の計算方法
日割り計算 利用料は日割りで計算され、実際に通所した日数分のみ請求されます。ただし、上限月額を超えることはありません。
例:
- 1日の利用料が1,000円
- 月20日通所した場合:1,000円 × 20日 = 20,000円
- しかし、「一般1」区分の場合、上限が9,300円なので、実際の負担は9,300円
食費・光熱費は別
実費負担 利用料とは別に、以下は実費負担です。
- 昼食代
- おやつ代(提供される場合)
- 創作活動の材料費(一部負担の場合)
交通費・昼食代などの実費負担
利用料以外に、どのような費用がかかるのでしょうか。
交通費
基本的に自己負担 通所にかかる交通費は、基本的に自己負担です。
金額の例:
- 徒歩・自転車: 0円
- バス(片道200円、往復400円): 月20日通所で8,000円/月
- 電車(片道300円、往復600円): 月20日通所で12,000円/月
- 車(ガソリン代): 距離による
交通費補助がある事業所も: 一部の事業所では、交通費の一部または全額を補助してくれることがあります。見学時に確認しましょう。
送迎サービス: 事業所によっては、無料または有料(数百円/日)で送迎サービスがあります。これを利用すれば交通費を大幅に節約できます。
昼食代
1食300円〜500円程度 事業所で昼食を提供している場合、1食300円〜500円程度かかります。
月額の例:
- 1食400円 × 月20日 = 8,000円/月
持参も可能: 多くの事業所では、弁当を持参することも可能です。その場合、昼食代はかかりません。
昼食の選択肢:
- 事業所の昼食を利用: 有料(300円〜500円/食)
- 弁当持参: 食材費のみ(自宅で用意)
- 外食・コンビニ: 500円〜1,000円/食
その他の費用
あまり多くない
- おやつ代: 提供される場合、月額数百円程度
- レクリエーション費: イベント参加費、月額0円〜1,000円程度
- 材料費: 創作活動などで一部負担の場合、月額数百円程度
- 作業着・エプロン代: 初回のみ、数千円程度(事業所による)
多くの事業所では、これらの費用はほとんどかかりません。
収支のシミュレーション
実際に、どれくらいの収支になるのか、いくつかのケースでシミュレーションしてみましょう。
ケース1:フルタイム、交通費あり、昼食利用
条件:
- 週5日、1日6時間(月20日、120時間)
- 時給200円
- 交通費:往復400円(バス)
- 昼食:事業所で1食400円
- 利用料:0円(低所得区分)
収入:
- 工賃:200円 × 120時間 = 24,000円
支出:
- 利用料:0円
- 交通費:400円 × 20日 = 8,000円
- 昼食代:400円 × 20日 = 8,000円
- 合計:16,000円
手取り:
- 24,000円 – 16,000円 = 8,000円/月
ケース2:週3日、送迎あり、弁当持参
条件:
- 週3日、1日4時間(月12日、48時間)
- 時給200円
- 交通費:0円(送迎サービス利用)
- 昼食:弁当持参(食材費含まず)
- 利用料:0円(低所得区分)
収入:
- 工賃:200円 × 48時間 = 9,600円
支出:
- 利用料:0円
- 交通費:0円
- 昼食代:0円(弁当持参)
- 合計:0円
手取り:
- 9,600円 – 0円 = 9,600円/月
ケース3:週5日、市町村民税課税世帯
条件:
- 週5日、1日6時間(月20日、120時間)
- 時給200円
- 交通費:往復600円(電車)
- 昼食:事業所で1食400円
- 利用料:9,300円(一般1区分)
収入:
- 工賃:200円 × 120時間 = 24,000円
支出:
- 利用料:9,300円
- 交通費:600円 × 20日 = 12,000円
- 昼食代:400円 × 20日 = 8,000円
- 合計:29,300円
手取り:
- 24,000円 – 29,300円 = -5,300円/月(赤字)
このように、利用料がかかる世帯では、工賃だけでは赤字になることもあります。
ケース4:高工賃の事業所、週5日
条件:
- 週5日、1日6時間(月20日、120時間)
- 時給400円(高工賃の事業所)
- 交通費:往復400円(バス)
- 昼食:事業所で1食400円
- 利用料:0円(低所得区分)
収入:
- 工賃:400円 × 120時間 = 48,000円
支出:
- 利用料:0円
- 交通費:400円 × 20日 = 8,000円
- 昼食代:400円 × 20日 = 8,000円
- 合計:16,000円
手取り:
- 48,000円 – 16,000円 = 32,000円/月
高工賃の事業所では、手取りも増えます。
工賃と年金・手当の関係
B型の工賃と、年金や手当との関係を理解しましょう。
障害年金との併給
問題なく併給できる B型の工賃を得ていても、障害年金は減額されません。両方とも受け取ることができます。
例:
- 障害基礎年金2級:約65,000円/月
- B型工賃:16,000円/月
- 合計:81,000円/月
生活保護との関係
収入認定されるが、控除あり 生活保護を受けている場合、B型の工賃は「収入」として認定されます。しかし、「勤労控除」があり、一定額は収入から差し引かれます。
勤労控除の例:
- 工賃が15,000円の場合、約8,000円が控除され、7,000円が収入認定される
- 生活保護費が7,000円減額される
結果として、手元に残るお金は増えますが、全額がプラスになるわけではありません。
児童扶養手当との関係
所得制限あり 児童扶養手当(ひとり親家庭への手当)には所得制限があります。B型の工賃も所得に含まれますが、月額1〜2万円程度なら影響はほとんどありません。
特別障害者手当との関係
併給可能 特別障害者手当(重度障害者への手当、月額約27,000円)は、B型の工賃と併給できます。
税金や社会保険への影響
B型の工賃に、税金や社会保険はかかるのでしょうか。
所得税
ほぼかからない B型の工賃は「給与所得」ではなく「雑所得」として扱われます。年間の工賃が約20万円以下(月額約1万6千円程度)なら、所得税はかかりません。
年間20万円を超えても、基礎控除(48万円)などがあるため、実際に所得税がかかるのは年間50万円以上の工賃がある場合です。
住民税
ほぼかからない 住民税も、年間の所得が一定額以下なら非課税です。B型の工賃程度では、ほとんどの方が非課税です。
社会保険(健康保険・厚生年金)
加入義務なし B型事業所は雇用契約ではないため、社会保険に加入する義務はありません。
国民健康保険や国民年金に加入している方は、引き続きそちらに加入します。B型の工賃は、保険料の計算には影響しません(雑所得として扱われるため)。
扶養の範囲
扶養から外れることはほぼない 家族の扶養に入っている場合、B型の工賃程度では扶養から外れることはほとんどありません。
扶養の基準は年間所得103万円以下(給与所得控除後)または130万円以下(社会保険の扶養)ですが、B型の工賃は年間20万円程度なので、影響ありません。
生活費を賄えるのか
B型の工賃だけで生活できるのでしょうか。
現実的には不可能
月額1〜2万円では生活できない B型の平均工賃である月額約1万6千円では、一人暮らしの生活費を賄うことは不可能です。
一人暮らしの最低生活費(例):
- 家賃:30,000円〜50,000円
- 光熱費:10,000円
- 食費:30,000円
- 通信費:5,000円
- その他:10,000円
- 合計:85,000円〜105,000円
工賃だけでは、全く足りません。
年金や手当との組み合わせ
トータルで考える 障害年金、特別障害者手当、家族の支援などと組み合わせることで、生活が成り立ちます。
例:
- 障害基礎年金2級:65,000円/月
- B型工賃:16,000円/月
- 特別障害者手当:27,000円/月
- 合計:108,000円/月
このくらいあれば、質素ながらも一人暮らしが可能です。
B型の工賃は「補助的収入」
主な収入ではない B型の工賃は、「主な生活費を稼ぐ」というより、「年金などに上乗せされる補助的な収入」「お小遣い」と考えるのが現実的です。
お金だけではない価値
最後に、B型事業所の「お金では測れない価値」について触れておきます。
居場所・つながり
孤独からの解放 月額1万6千円という金額は少ないですが、「自分の居場所がある」「人とつながっている」という価値は、お金では測れません。
生活リズム
健康的な生活 毎日決まった時間に起きて、外出して、作業をすることで、生活リズムが整います。これは、精神的・身体的健康にとって非常に重要です。
社会参加の実感
「働いている」という誇り 金額は少なくても、「自分も働いている」「社会に貢献している」という実感は、自己肯定感を高めます。
成長の機会
スキルアップと自信 新しいスキルを身につける、責任を果たす、人とコミュニケーションを取るなど、成長の機会があります。
次のステップへの準備
A型や一般就労への架け橋 B型を、より高い収入を得られるA型や一般就労への準備期間と考えれば、工賃の低さも納得できます。
まとめ:現実を知った上で、価値を見出す
就労継続支援B型事業所でもらえる工賃は、全国平均で月額約1万6千円、時給約200円程度です。事業所によって数千円から数万円まで幅があり、通所日数・時間、経験、作業内容、地域によっても変わります。
工賃は時間給制、出来高制、混合制で計算され、翌月に銀行振込または現金で受け取ります。利用料は所得に応じて0円〜37,200円/月ですが、約8〜9割の方は無料です。
実費として、交通費(月額0円〜12,000円程度)、昼食代(月額0円〜8,000円程度)がかかります。収支をシミュレーションすると、手取りは月額数千円〜3万円程度になることが多く、利用料がかかる世帯では赤字になることもあります。
B型の工賃は障害年金や手当と併給でき、税金や社会保険はほとんどかかりません。ただし、工賃だけで生活することは不可能で、年金や手当と組み合わせて考える必要があります。
お金は確かに重要ですが、B型事業所には、居場所、つながり、生活リズム、社会参加の実感、成長の機会、次のステップへの準備など、お金では測れない価値もあります。
B型を利用する際は、「どれくらいお金がもらえるか」だけでなく、「自分にとってどんな価値があるか」を総合的に考えて判断してください。そして、もし経済的自立が必要なら、A型や一般就労へのステップアップも視野に入れましょう。
現実を知った上で、あなたにとってのB型の価値を見出してください。応援しています。

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