はじめに
近年、障害のある方の就労支援の現場で大きな変化が起きています。従来の軽作業中心だった就労継続支援B型事業所において、IT分野のスキルを学べる事業所が急増しているのです。
パソコンやインターネットが普及した現代社会では、IT技術を身につけることで、在宅勤務や柔軟な働き方が可能になります。特に身体的な制約がある方や、対人関係に不安を感じる方にとって、IT分野は新たな可能性を開く扉となっています。
本記事では、就労継続支援B型でIT分野に取り組むメリット、具体的な作業内容、必要なスキル、そして実際に利用を始める方法まで、詳しく解説していきます。
就労継続支援B型とは
就労継続支援B型は、障害者総合支援法に基づく福祉サービスの一つです。一般企業での就労が困難な方に対して、雇用契約を結ばずに働く機会を提供する事業所です。
基本的な特徴
就労継続支援B型の主な特徴は以下の通りです。
雇用契約がないため、労働者としてではなく利用者として通所します。そのため、最低賃金の適用はなく、作業に応じた工賃が支払われます。全国平均の月額工賃は約16,000円程度ですが、IT系の事業所では月額3万円から5万円、中には10万円を超える事業所も存在します。
利用期間に制限がないことも大きな特徴です。就労継続支援A型や就労移行支援には利用期間の上限がありますが、B型には期限がありません。自分のペースで長く続けられるため、体調や症状の波がある方でも安心して利用できます。
柔軟な勤務時間も魅力の一つです。週1日から、1日2時間から利用できる事業所が多く、体調や生活リズムに合わせて無理なく働くことができます。
対象となる方
就労継続支援B型を利用できるのは、以下のような方です。
身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病などがあり、就労移行支援事業を利用したが企業等の雇用に結びつかなかった方、就労経験があるが年齢や体力の面で一般企業での就労が困難になった方、50歳以上の方、障害基礎年金1級受給者などが該当します。
市区町村の障害福祉窓口で相談し、受給者証の交付を受けることで利用が可能になります。
IT分野に特化した就労継続支援B型の魅力
なぜ今、IT分野なのか
IT分野が障害のある方の就労支援として注目される理由は複数あります。
身体的負担が少ないことが第一の理由です。重い物を運んだり、長時間立ち続けたりする必要がなく、座ったままパソコン作業ができます。身体障害のある方はもちろん、体力に不安がある方でも取り組みやすい分野です。
在宅ワークへの移行がしやすい点も重要です。IT技術を身につければ、将来的に自宅でフリーランスとして働いたり、在宅勤務が可能な企業への就職を目指したりすることができます。
需要が高く、将来性があることも見逃せません。デジタル化が進む現代社会では、IT人材の需要は増え続けています。基礎的なスキルから始めて、専門性を高めていけば、より高い工賃や一般就労への道が開けます。
個人のペースで作業できるのもIT作業の利点です。多くのIT作業は個人で完結でき、対人関係のストレスが少ない環境で働けます。発達障害やコミュニケーションに不安がある方にとって、大きなメリットとなります。
実際の作業内容
IT系の就労継続支援B型事業所では、様々な作業が提供されています。
データ入力は最も基本的な作業です。紙の資料をパソコンに入力したり、Excelでデータを整理したりする仕事で、タイピングができれば始められます。正確性が求められますが、マイペースで取り組めます。
ホームページ制作に取り組む事業所も増えています。HTML、CSS、JavaScriptなどの言語を学び、企業や個人事業主のウェブサイトを作成します。初心者向けのツールを使えば、プログラミング未経験でも始められます。
デザイン作業では、IllustratorやPhotoshopなどのソフトを使って、チラシ、名刺、ロゴ、SNS用の画像などを制作します。クリエイティブな仕事が好きな方に向いています。
動画編集も人気の作業です。YouTubeやSNS向けの動画を編集し、字幕やエフェクトをつける仕事です。動画需要の高まりとともに、この分野のスキルを持つ人材は重宝されています。
ライティングでは、ブログ記事やウェブサイトのコンテンツを執筆します。特定のテーマについて調べて文章にまとめる仕事で、文章を書くことが得意な方に適しています。
プログラミングに挑戦できる事業所もあります。PythonやJavaなどの言語を学び、簡単なアプリケーション開発やウェブサービスの構築に取り組みます。論理的思考が得意な方におすすめです。
ECサイト運営サポートでは、楽天やAmazonなどのネットショップの商品登録、在庫管理、顧客対応などを行います。実際のビジネスに関わる経験が得られます。
必要なスキルと学べる環境
未経験でも大丈夫
IT系の就労継続支援B型事業所の多くは、未経験者を歓迎しています。「パソコンを触ったことがない」という状態からスタートできる事業所も少なくありません。
最初は基本的なパソコン操作から学びます。マウスの使い方、キーボードのタイピング、ファイルの保存や整理など、基礎の基礎から丁寧に教えてもらえます。
次にOfficeソフトの使い方を習得します。Word、Excel、PowerPointといった、どの職場でも使う基本的なソフトウェアの操作を学びます。これだけでもデータ入力や事務作業の仕事に就くことができます。
事業所によっては、専門的なスキルを学べる環境も整っています。プログラミング言語、デザインソフト、動画編集ソフト、SEO対策などの知識を、実際の仕事を通じて身につけていきます。
資格取得のサポート
多くのIT系事業所では、資格取得を支援しています。
MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト) は、Word、Excel、PowerPointなどのスキルを証明する資格で、事務職への就職に有利です。
ITパスポートは、ITに関する基礎知識を証明する国家資格で、IT業界への第一歩となります。
ウェブデザイン技能検定、Illustratorクリエイター能力認定試験、Photoshopクリエイター能力認定試験など、専門的な資格にも挑戦できる環境があります。
資格取得は自信につながるだけでなく、一般就労を目指す際の大きなアピールポイントになります。
工賃と将来のキャリアパス
工賃の実態
IT系の就労継続支援B型事業所の工賃は、従来の軽作業中心の事業所と比べて高い傾向にあります。
全国の就労継続支援B型事業所の平均月額工賃は約16,000円ですが、IT系事業所では月額3万円から5万円が一般的です。スキルが向上し、高度な作業ができるようになれば、月額10万円を超えるケースもあります。
工賃は時給制の場合と出来高制の場合があり、事業所によって異なります。時給は300円から1,000円程度、出来高制では作業の質と量に応じて工賃が決まります。
一般就労へのステップアップ
就労継続支援B型でIT スキルを身につけた後のキャリアパスは多様です。
一般企業への就職を目指す方も多くいます。事務職、ウェブデザイナー、プログラマー、データ入力スタッフなどの職種で、障害者雇用枠を利用して就職するケースが増えています。
就労継続支援A型への移行も選択肢の一つです。B型でスキルを磨いた後、雇用契約を結んで最低賃金以上の給与を得られるA型事業所に移ることで、収入を増やすことができます。
フリーランスとして独立する道もあります。在宅でウェブ制作、ライティング、動画編集などの仕事を受注し、自分のペースで働く方も増えています。
そのまま長く働き続ける選択も尊重されるべきです。無理にステップアップを目指す必要はなく、自分に合った環境で安定して働き続けることも立派なキャリアです。
利用開始までの流れ
相談から利用まで
就労継続支援B型を利用するには、いくつかのステップがあります。
ステップ1 市区町村の窓口で相談
まずは、お住まいの市区町村の障害福祉課や福祉事務所に相談します。自分の状況を説明し、就労継続支援B型の利用を希望していることを伝えます。
ステップ2 相談支援事業所での面談
市区町村から紹介された相談支援事業所で、専門の相談支援員と面談します。あなたの希望や状況、必要な支援について詳しく話し合い、サービス等利用計画案を作成してもらいます。
ステップ3 障害福祉サービス受給者証の申請
市区町村に必要書類を提出し、受給者証の交付を申請します。医師の診断書や障害者手帳が必要になる場合があります。
ステップ4 受給者証の交付
審査が通れば、受給者証が交付されます。これにより、就労継続支援B型事業所を利用できるようになります。
ステップ5 事業所の見学・体験
複数のIT系事業所を見学し、実際に作業を体験してみましょう。雰囲気、作業内容、スタッフの対応などを確認します。
ステップ6 利用契約
自分に合った事業所が見つかったら、事業所と利用契約を結びます。個別支援計画を作成し、具体的な支援内容や目標を決めていきます。
ステップ7 利用開始
契約後、実際に通所を始めます。最初は週1日、1日2時間といった短時間から始め、徐々に増やしていくことも可能です。
事業所選びのポイント
IT系の就労継続支援B型事業所を選ぶ際は、以下の点をチェックしましょう。
提供している作業内容が自分の興味や目標に合っているか確認します。データ入力だけなのか、プログラミングやデザインも学べるのか、将来どんなスキルが身につくのかを確認しましょう。
スタッフの専門性も重要です。IT分野の実務経験があるスタッフがいるか、初心者にも丁寧に教えてくれる体制があるかを見極めます。
設備や機材の充実度も確認しましょう。最新のパソコンや専門ソフトが揃っているか、一人一台のパソコンが使えるかなどをチェックします。
工賃の水準と支払い方法も大切なポイントです。時給制か出来高制か、平均的な月額工賃はいくらかを確認します。
通所のしやすさも考慮しましょう。自宅からの距離、交通手段、送迎サービスの有無などを確認します。
雰囲気や人間関係も見学時に感じ取ってください。他の利用者の様子、スタッフの対応、事業所全体の雰囲気が自分に合っているか確認しましょう。
実際の利用者の声
成功事例
Aさん(30代、発達障害)
「コミュニケーションが苦手で、以前の職場では人間関係に悩んでいました。IT系のB型事業所でプログラミングを学び始めて2年、今では簡単なウェブアプリケーションが作れるようになりました。作業中は一人で集中でき、自分のペースで進められるのがとても合っています。月の工賃も5万円になり、将来はフリーランスのプログラマーを目指しています」
Bさん(40代、うつ病)
「長年勤めた会社を体調不良で退職し、自信を失っていました。最初は週2日、1日3時間からのスタートでしたが、データ入力の仕事を通じて少しずつ自信を取り戻せました。今ではExcelのマクロも使えるようになり、事務職への再就職を考えています。自分のペースで働ける環境があることに感謝しています」
Cさん(20代、身体障害)
「車椅子を使用しているため、通勤や職場での移動に制約がありました。IT系のB型事業所で動画編集を学び、今では在宅でも作業ができるようになりました。YouTuberの動画編集を任されることもあり、やりがいを感じています。将来は完全在宅のフリーランスとして独立したいです」
大切なのは自分に合ったペース
これらの成功事例に共通するのは、「自分のペースで」取り組めたことです。就労継続支援B型では、無理なスピードを求められることはありません。
体調の波がある日もあれば、調子が良い日もあります。大切なのは、長く続けられる環境で、少しずつスキルと自信を積み重ねていくことです。
よくある質問
Q1 パソコンを触ったことがなくても大丈夫ですか?
はい、大丈夫です。多くのIT系事業所では、パソコンの電源の入れ方から丁寧に教えてくれます。マウスの使い方、文字の入力方法など、基礎の基礎から学べる環境が整っています。
Q2 週何日から利用できますか?
事業所によって異なりますが、週1日、1日2時間から利用できるところが多いです。体調や生活リズムに合わせて、徐々に日数や時間を増やしていくことができます。
Q3 利用料金はかかりますか?
就労継続支援B型の利用には、原則として自己負担があります。ただし、世帯の収入に応じた上限額が設定されており、多くの場合、利用料は無料または月額数千円程度です。生活保護受給世帯や市町村民税非課税世帯は無料です。
Q4 障害者手帳がなくても利用できますか?
障害者手帳がなくても、医師の診断や自立支援医療の受給など、障害があることを証明できれば利用可能な場合があります。まずは市区町村の障害福祉窓口で相談してください。
Q5 年齢制限はありますか?
基本的に18歳以上であれば利用できます。上限はありませんので、高齢の方でも利用可能です。
Q6 一般就労へ移行できる可能性はありますか?
はい、IT系のB型事業所からの一般就労移行実績は増えています。スキルを身につけ、資格を取得することで、障害者雇用枠での就職や、在宅勤務可能な企業への就職など、様々な可能性が開けます。
Q7 在宅で作業することはできますか?
事業所によっては、一定のスキルが身についた後、在宅での作業を認めているところもあります。特にコロナ禍以降、在宅ワークの導入が進んでいます。
まとめ
就労継続支援B型におけるIT分野の取り組みは、障害のある方にとって大きな可能性を秘めています。
身体的負担が少なく、個人のペースで作業でき、将来性のあるスキルが身につく。そして何より、在宅ワークへの道が開けることで、働き方の選択肢が大きく広がります。
「自分にできるだろうか」という不安を感じるのは自然なことです。しかし、多くの事業所では未経験者を歓迎し、基礎から丁寧に教えてくれる環境が整っています。
大切なのは、最初の一歩を踏み出すこと。まずはお住まいの地域のIT系就労継続支援B型事業所を調べて、見学に行ってみてください。実際に事業所を訪れ、作業を見学し、スタッフや利用者と話すことで、具体的なイメージが湧いてくるはずです。
あなたのペースで、あなたに合った方法で、新しいスキルを身につけ、働くことの喜びを感じられる場所が、きっと見つかります。
IT技術という武器を手に、自分らしい働き方を実現する第一歩を、今日から始めてみませんか?

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