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自殺対策やいじめ防止など、社会的に重要な課題に取り組むNPO法人には、行政だけでは届きにくい支援を担う役割が期待されています。一方で、補助金や助成金などの公金を受け取る場合には、活動内容だけでなく、適正な会計処理や内部統制、情報公開などのガバナンスが欠かせません。
2026年8月、東京都は、自殺対策事業を実施していたNPO法人「再チャレンジ東京」について、虚偽の実績などに基づく補助金申請があったとして、約4,893万円の交付決定を取り消し、約3,779万円の返還を請求したと公表しました。法人はすでに解散しており、破産手続きも完了しています。
この記事では、再チャレンジ東京の補助金不正受給問題を整理しながら、NPO法人に求められるガバナンス、内部統制、公金運用の透明性、そして行政側のチェック体制について考えます。
1.再チャレンジ東京とはどのような団体だったのか
再チャレンジ東京は、東京都新宿区を拠点として、いじめや自殺の防止を目的とした活動を行っていたNPO法人です。
学校での授業や相談事業、作文コンクールなどを通じて、子どものいじめや自殺を防ぐための啓発活動に取り組んできました。内閣府のNPO法人ポータルサイトによると、同法人は「青少年のいじめ・自殺の防止策を企画・立案し、実施すること」を目的として設立され、2025年10月29日に破産手続き開始の決定を理由として解散しています。
東京都も、自殺対策に取り組む民間団体を対象とした補助事業を実施しており、再チャレンジ東京はその支援を受けていました。
つまり今回の問題は、単なるNPO法人内部の会計問題ではありません。自殺対策という公益性の高い事業に対して交付された公金が、どのように管理され、どのように確認されていたのかという点が問われる事案です。
2.発覚した補助金不正受給の内容
東京都によると、再チャレンジ東京について、2018年度から2024年度までの補助金交付決定額は合計4,893万9,000円でした。このうち、すでに交付されていた3,779万3,000円について返還請求が行われています。
問題となったのは、実際の活動実績と申請内容が一致していなかったことです。
報道では、実際には実施していない相談事業や学校での授業を実施したように報告したほか、作文コンクールの審査員などへの謝礼について、実際の支払額と異なる領収書を作成していたとされています。
東京都は、2018年度から2023年度について「偽りその他不正の手段」により補助金の交付を受けたことなどを取消理由として挙げています。また、補助事業者には、収入や支出を明らかにした帳簿を備え、証拠書類を整理・保管することなどが求められていました。
補助金制度では、単に「活動した」と報告するだけでは十分ではありません。実際に事業が行われたことを示す記録や領収書などの証拠書類が、適切に管理されていることが重要です。
3.不正が発覚したきっかけと東京都の対応
今回の問題では、書類上の実績だけでなく、実際の事業現場を確認することの重要性も浮き彫りになりました。
報道によると、東京都が2025年1月に相談事業の現地を確認したところ、法人が報告していた実績と実際の実施状況に違いがあることが判明し、その後、調査が進められました。東京都は関係者へのヒアリングなどを行い、警視庁にも相談しています。
東京都は2026年8月24日、補助金の交付決定を取り消し、既に交付した約3,779万円の返還を請求しました。小池百合子都知事も、今後は現地確認や書類確認をより厳正に行い、不正には厳格に対応する考えを示しています。
このことからも、補助金の審査では「書類がそろっているか」だけではなく、「申請された事業が実際に行われているか」を確認する仕組みが重要だと分かります。
4.法人の解散・破産で浮かぶ公金回収の難しさ
今回の事案で大きな問題となるのが、返還請求された補助金を実際に回収できるのかという点です。
再チャレンジ東京は2025年10月29日に解散しており、内閣府のNPO法人ポータルサイトでは、解散理由として「破産手続開始の決定」が記載されています。
また、報道では2026年1月に破産手続きが完了したとされています。東京都が返還を求めても、法人に十分な資産が残っていなければ、実際の回収は難しくなります。
ここで重要なのは、NPO法人は法人格を持つため、法人の債務が当然に理事個人の債務になるわけではないという点です。
そのため、公金の不正受給が発覚しても、法人の資産が乏しくなっていれば、返還請求がそのまま回収につながるとは限りません。
今回のケースは、補助金を「交付した後」の管理だけでなく、問題が発生した場合に公金をどう回収するのかというリスク管理についても考えさせる事例といえます。
5.実質的な後継団体と事業継続をどう考えるか
もう一つ注目されるのが、法人解散後の活動です。
報道では、再チャレンジ東京の活動と関係の深い「いじめ・自殺防止国民運動本部」が、解散後もいじめ防止などの活動を続けていることが指摘されています。過去の資料でも、両者が併記されて活動していたことが確認できます。
もちろん、ある法人が解散したからといって、同じ分野で別の団体が活動すること自体が直ちに問題になるわけではありません。
重要なのは、旧法人と新しい団体との関係性や、資産・事業・役員などがどのように引き継がれているのかを明確にすることです。
特に、過去に公金の不正受給が問題となった法人と実質的に同じ関係者や事業基盤を持つ団体が、再び公的な補助金を受ける場合には、行政による慎重な確認が必要になります。
6.NPO法人に求められるガバナンスと内部統制
今回の問題から、NPO法人側のガバナンスにも重要な課題が見えてきます。
ガバナンスとは、簡単にいえば、組織が適切に運営されるように監督・管理する仕組みです。
特に公金を扱うNPO法人では、代表者だけに会計や事業管理を集中させないことが重要です。
例えば、
- 支出を担当者一人だけで決定しない
- 領収書や請求書を複数人で確認する
- 銀行口座と会計帳簿を定期的に照合する
- 事業実績を客観的な資料で記録する
- 理事会や監事が定期的にチェックする
- 補助金ごとに専用の管理資料を作成する
- 不正を発見した際の内部通報ルートを整える
といった仕組みが有効です。
特に重要なのは、「代表者を信頼しているから大丈夫」という考え方から脱却することです。
内部統制は、誰かを疑うためだけの仕組みではありません。担当者のミスや不正を早期に発見し、組織そのものを守るための仕組みでもあります。
公金運用の透明性を高めるために必要な視点
行政側にも補助金交付後の実績確認をより厳格に行う体制づくりが求められます。
書類上の整合性だけでなく実際に事業が行われているかどうかを定期的に確認する仕組みがなければ同様の不正は今後も起こり得ます。
また法人が解散した後に実質的な後継団体が同様の事業を継続できてしまう現状は補助金制度や法人監督の枠組みに抜け穴があることを示しています。
行政としては補助金交付先の法人がどのような経緯で解散し新しい団体がどのような関係にあるのかを継続的に把握する体制の整備が今後の課題となるでしょう。
7.公金運用の透明性を高めるために行政ができること
行政側にも、補助金交付後のチェックを強化することが求められます。
補助金審査では、申請書や実績報告書などの書類確認が基本になります。しかし、書類だけでは実際の活動状況を把握できない場合があります。
そのため、
- 定期的な現地確認
- 事業参加者や関係者への確認
- 領収書など証拠書類の突合
- 支出先への確認
- 実績数値と実際の活動記録の照合
- 過去の補助金実績を踏まえたリスク評価
- 法人の解散や役員変更などの継続的な把握
など、複数の方法を組み合わせたチェックが重要です。
東京都も今回の事案を受け、現地確認や書類確認をより厳正に行う方針を示しています。
公金の透明性を高めるには、「不正を見つけること」だけではなく、「不正が起こりにくい仕組みを最初から作ること」が重要です。
8.NPO法人を利用する側も確認しておきたいポイント
NPO法人を支援したり、寄付をしたり、サービスを利用したりする側にとっても、団体の透明性を確認することは大切です。
内閣府のNPO法人ポータルサイトでは、法人情報だけでなく、事業報告書などの公開情報を確認できる仕組みが整えられています。検索画面では、事業報告書等や財務情報、監事監査などの項目から法人を確認できます。
確認するときは、単に「有名な団体だから」「活動実績が多いから」と判断するのではなく、
- 事業内容が明確か
- 事業報告書が公開されているか
- 会計情報が確認できるか
- 役員構成が分かるか
- 補助金や助成金の実績が説明されているか
- 活動実績と公開情報に大きな違いがないか
などを確認するとよいでしょう。
NPO法人の信頼性は、理念だけでなく、情報公開と日々の組織運営によって支えられています。
まとめ
再チャレンジ東京の補助金不正受給問題は、NPO法人のガバナンスと公金運用の透明性について、多くの課題を示す事案となりました。
東京都は、2018年度から2024年度までの交付決定約4,893万円を取り消し、既交付額約3,779万円の返還を請求しています。法人はすでに解散し、破産手続きも完了しているため、公金を実際に回収できるのかという問題も残されています。
NPO法人側には、理事会や監事による監督、複数人による会計チェック、証拠書類の適切な管理、事業実績の正確な記録など、実効性のある内部統制が求められます。
一方、行政側にも、書類審査だけに頼らず、現地確認や関係者への確認などを組み合わせた補助金の実績確認が必要です。
NPO法人は、行政だけでは対応しきれない社会課題を支える重要な存在です。だからこそ、公金を受け取る団体には、活動の公益性だけでなく、会計の透明性と説明責任が求められます。
今回の問題を一つの法人だけの特殊な出来事として終わらせるのではなく、「公金を誰に託し、どのように監督し、問題が起きた場合にどう責任を果たしてもらうのか」という制度全体の課題として考えることが、今後のNPO法人と行政の信頼関係を守るうえで重要になるでしょう。

