解離性同一性障害は「思い込み」なのか?誤解と真実を解説

「解離性同一性障害(DID)は思い込みではないか」「演技なのでは」「本当に存在するのか」――こうした疑問や誤解は、インターネット上でもよく見られます。また、「自分の症状は思い込みではないか」と悩む当事者の方もいます。この記事では、解離性同一性障害と「思い込み」の関係について、医学的な観点から正しい情報をお伝えし、よくある誤解を解いていきます。

解離性同一性障害(DID)とは

解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder, DID)は、かつて「多重人格障害」と呼ばれていた精神疾患です。

基本的な特徴

複数のアイデンティティ(人格状態)の存在

一人の人の中に、2つ以上の明確に異なるアイデンティティや人格状態が存在します。それぞれが独自の記憶、行動パターン、世界観を持ちます。

記憶の欠如

他のアイデンティティが活動していた時間の記憶が欠如します。「気づいたら知らない場所にいた」「自分がやったはずのないことを他人から指摘される」などが起こります。

日常生活への支障

この症状によって、仕事、人間関係、日常生活に大きな支障をきたします。

発症の背景

解離性同一性障害は、多くの場合、幼少期の深刻なトラウマ(虐待、ネグレクト、暴力など)が原因で発症すると考えられています。

子どもの心は、耐えられない苦痛から自分を守るために、意識を「解離」させます。これが繰り返されることで、複数のアイデンティティが形成されるという理論が主流です。

「思い込み」という疑念が生まれる理由

なぜ解離性同一性障害は「思い込み」や「演技」と疑われやすいのでしょうか。

1. 目に見えない症状

骨折や癌のように、検査で客観的に証明できる病気ではありません。本人の訴えと行動観察が主な診断材料となるため、「本当か?」と疑われやすいのです。

2. メディアの影響

映画やドラマで、解離性同一性障害が過度に劇的に描かれることがあります。「24人の人格」「突然人格が入れ替わる」といった極端な描写が、非現実的な印象を与え、「作り話では?」という疑念を生みます。

3. 診断の難しさ

解離性同一性障害の診断は非常に難しく、専門家でも意見が分かれることがあります。誤診も起こり得るため、「本当に存在するのか」という議論が続いています。

4. 「自己暗示」の可能性

治療者の誘導や、メディアの情報によって、症状が形成されたり強化されたりする可能性(医原性)が指摘されています。

5. 詐病の問題

実際には、法的責任を逃れるために解離性同一性障害を装う人もいます。こうした事例が報道されることで、全体への不信感が生まれます。

医学的な見解:本当に存在するのか

解離性同一性障害が実際に存在する病気なのかについて、医学界の見解を見てみましょう。

国際的な診断基準に記載されている

解離性同一性障害は、以下の国際的な診断基準に正式に記載されています。

DSM-5(アメリカ精神医学会の診断基準)

解離性同一性障害として明確に定義されており、診断基準が示されています。

ICD-11(WHOの国際疾病分類)

「解離性同一症」として記載されています。

これらの診断基準に載っているということは、国際的に「存在する病気」として認められているということです。

脳科学的な研究

近年の脳画像研究では、解離性同一性障害の患者に、特徴的な脳の活動パターンや構造の違いが見られることが報告されています。

  • 海馬や扁桃体(記憶や感情に関わる部分)の容積の変化
  • 異なる人格状態での脳活動パターンの違い
  • 解離症状に関連する脳領域の活動の変化

これらは、「単なる思い込み」や「演技」では説明できない、客観的な所見です。

専門家の間でも議論がある

ただし、医学界でも解離性同一性障害については意見が分かれています。

存在を支持する立場:

  • 臨床経験から、明らかに複数の人格状態を持つ患者がいる
  • トラウマと解離の関連は明確
  • 治療によって改善するケースがある

懐疑的な立場:

  • 診断基準が曖昧で、過剰診断の可能性がある
  • 治療者の暗示や期待によって症状が形成される可能性(医原性)
  • 文化的・社会的な影響が大きい

現在のところ、「解離性同一性障害という現象は存在するが、その本質や原因については研究が必要」というのが、多くの専門家の見解です。

「思い込み」と本物の区別

では、本当の解離性同一性障害と「思い込み」や「演技」をどう区別するのでしょうか。

本物の解離性同一性障害の特徴

1. 本人が苦しんでいる

本物の解離性同一性障害では、本人が症状に苦しんでおり、日常生活に深刻な支障をきたしています。「面白い」「特別」と感じているのではなく、「困っている」「どうにかしたい」と感じています。

2. 症状を隠そうとする

多くの患者は、症状を恥ずかしく思い、隠そうとします。むしろ「普通に見られたい」と願っています。

3. 記憶の欠如が実際にある

他の人格状態の時の記憶が本当に欠如しており、「自分がやったはずのこと」「行ったはずの場所」を覚えていません。

4. 一貫性のない行動

自分でも説明できない行動の変化があります。例えば、ある日は右利きで、別の日は左利きになっているなど。

5. トラウマの歴史

多くの場合、幼少期の深刻なトラウマの歴史があります。

6. 他の精神症状を伴う

うつ病、不安障害、PTSD、自傷行為など、他の精神症状を併発していることが多いです。

「思い込み」「演技」の特徴

1. 注目を集めたい

症状を積極的にアピールし、特別扱いされることを望んでいる。

2. 症状の描写が劇的すぎる

映画やドラマのような、非現実的な症状の描写。

3. 都合よく症状が出る

困った状況や責任から逃れたいときに限って症状が出る。

4. 医学的な矛盾

医学的に説明がつかない症状の組み合わせや、診断基準と一致しない。

5. トラウマの歴史がない、または矛盾する

深刻なトラウマの歴史がない、または話が変わる。

6. 治療に協力的でない

治療を受けようとしない、または治療が進むことを拒む。

診断の難しさ

ただし、これらの区別は簡単ではありません。専門家でも判断が難しいケースがあります。

また、「思い込み」と「本物」の間には、グレーゾーンもあります。最初は思い込みや暗示から始まったものが、本当の症状に発展することもあり得ます。

当事者が「自分は思い込みでは?」と悩む場合

解離性同一性障害の当事者の中には、「自分の症状は思い込みではないか」「演技しているのではないか」と悩む方がいます。

なぜそう感じるのか

1. 周囲からの疑い

家族や友人、時には医療者からも「本当に?」と疑われることで、自分でも自信がなくなります。

2. 記憶がある場合

すべての時間の記憶が欠如するわけではなく、部分的に覚えている場合もあるため、「自分で演じているのでは」と感じることがあります。

3. コントロールできる瞬間がある

完全にコントロールを失うわけではなく、時には意識的に切り替えを抑えられることもあるため、「自分の意思では?」と疑います。

4. メディアとの違い

映画やドラマで描かれる劇的な症状と自分が違うため、「自分は本物ではない」と感じます。

専門家の診断を信頼する

もし専門医が解離性同一性障害と診断したのであれば、その診断を信頼することが大切です。

「思い込みかもしれない」という疑念自体が、病気の一部であることもあります。解離性同一性障害の患者は、自己認識が不安定で、自分の症状を疑うことがよくあります。

グレーゾーンの可能性

診断基準を完全には満たさないが、解離症状がある「部分的な解離性障害」の可能性もあります。

診断名にこだわるよりも、「今、自分が困っていること」に焦点を当て、適切な治療を受けることが重要です。

医原性DIDの問題

医原性DID(Iatrogenic DID)とは、治療者の誘導や暗示によって、症状が作られたり強化されたりする現象です。

どのように起こるのか

1. 治療者の誘導

「あなたには別の人格がいるはずだ」と治療者が強く示唆することで、患者がそれに応えようとする。

2. 過度な解離の探索

催眠療法などで、過度に「別の人格」を探そうとすることで、症状が作られる。

3. 期待への応答

治療者の期待に応えようとして、無意識に症状を演じてしまう。

4. 記憶の誤植

誘導的な質問によって、実際にはなかった記憶(特にトラウマの記憶)が作られる。

問題の深刻さ

医原性DIDは、実際に報告されているケースがあり、深刻な問題です。

不適切な治療によって、症状が悪化したり、存在しなかった症状が作られたりすることがあります。

適切な治療を受けることの重要性

だからこそ、解離性障害の治療経験が豊富な、信頼できる専門家を選ぶことが重要です。

  • 誘導的な質問をしない
  • 過度に「別の人格」を探さない
  • 患者のペースを尊重する
  • エビデンスに基づいた治療を行う

こうした姿勢を持つ治療者を選びましょう。

SNSと解離性同一性障害

近年、SNSで解離性同一性障害を公表する人が増えています。これには良い面も悪い面もあります。

良い面

  • 当事者同士がつながり、孤独感が和らぐ
  • 正しい情報が共有される
  • 社会的な理解が広がる

悪い面

  • 注目を集めるために、症状を誇張する人がいる
  • 医学的に不正確な情報が広まる
  • 「流行」のように扱われ、軽視される
  • 本当に苦しんでいる人が信じてもらえなくなる

情報の見極め

SNS上の情報は、必ずしも正確ではありません。医学的な情報は、信頼できる医療機関や専門家から得るようにしましょう。

家族や周囲の人へ

家族や友人が解離性同一性障害と診断された場合、どう接すればいいのでしょうか。

やってはいけないこと

1. 「演技だろう」と決めつける

症状を疑ったり、否定したりしないでください。

2. 「別の人格」を面白がる

病気を娯楽として扱わないでください。

3. 過度に人格を区別する

あくまで一人の人間です。人格ごとに全く違う対応をする必要はありません。

4. トラウマを詮索する

無理に過去を聞き出そうとしないでください。

できること

1. 専門家の診断を尊重する

医師が診断したのであれば、それを信頼しましょう。

2. 本人の苦しみを理解する

本人は症状に苦しんでいます。その苦しみを受け止めてください。

3. 安全な環境を提供する

安心できる、安全な環境が回復には不可欠です。

4. 治療をサポートする

通院に付き添ったり、治療を続けられるようサポートしたりしてください。

5. 自分自身もケアする

支える側も疲れます。自分のケアを忘れずに。

よくある質問(FAQ)

Q: 解離性同一性障害は本当に存在するの?

A: 国際的な診断基準に記載されており、医学的に認められた病気です。ただし、その本質や原因については、研究が続いています。

Q: 映画のように劇的に人格が入れ替わるの?

A: 映画やドラマの描写は誇張されています。実際の症状はもっと微妙で、本人も周囲も気づかないこともあります。

Q: 誰でもなる可能性があるの?

A: 深刻なトラウマを経験しても、すべての人が発症するわけではありません。発症には、個人の素因や環境など、複数の要因が関わっています。

Q: 治るの?

A: 「複数の人格が統合される」という形での完治は難しいこともありますが、適切な治療によって、症状をコントロールし、日常生活を送れるようになる人は多くいます。

Q: 自分が解離性同一性障害かどうか、どう判断すればいい?

A: 自己診断は危険です。記憶の欠如、アイデンティティの混乱、説明できない行動の変化などがあれば、専門医を受診してください。

Q: 診断されたら、周囲に伝えるべき?

A: 伝えるかどうかは個人の判断です。理解してくれる人にだけ伝える、仕事では伝えないなど、自分で決めて大丈夫です。

まとめ

解離性同一性障害は、「思い込み」や「演技」ではなく、国際的に認められた精神疾患です。

ただし、診断が難しく、医原性の問題や詐病の可能性もあるため、慎重な評価が必要です。

重要なポイント:

  • 国際診断基準に記載された正式な病気
  • 脳科学的な研究でも客観的な所見がある
  • 「思い込み」と本物の区別は専門家でも難しい
  • 医原性DIDの問題には注意が必要
  • 当事者は症状に苦しんでおり、サポートが必要
  • SNSの情報を鵜呑みにせず、専門家に相談を

もし自分や身近な人が解離性同一性障害かもしれないと思ったら、解離性障害の治療経験が豊富な精神科医や心療内科医に相談してください。

「思い込みかもしれない」と一人で悩むのではなく、専門家の評価を受けることが、適切な支援への第一歩です。

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