家族や同僚、パートナーが発達障害の特性を持っているように見えるのに、本人が気づいていない――そんな状況で、どう伝えればいいのか悩んでいませんか?大人の発達障害は本人も気づきにくく、指摘の仕方を間違えると、関係が悪化したり、本人を傷つけたりすることがあります。この記事では、大人の発達障害を持つ可能性がある人に、どのように自覚を促し、適切な支援につなげるかについて解説していきます。
まず理解しておきたいこと
大人の発達障害について話す前に、いくつか重要なポイントを理解しておきましょう。
発達障害とは
発達障害は、脳の発達の特性によって、コミュニケーション、社会性、注意力、行動などに困難が生じる状態です。
主な発達障害には以下があります。
- ASD(自閉スペクトラム症) – コミュニケーションや社会性の困難、こだわりの強さ
- ADHD(注意欠如・多動症) – 不注意、多動性、衝動性
- LD(学習障害) – 読み書き、計算など特定の学習に困難
これらは生まれつきの特性であり、育て方や本人の努力不足が原因ではありません。
「自覚させる」という言葉について
「自覚させる」という表現には、上から目線のニュアンスがあります。
より適切なのは、「気づきをサポートする」「理解を促す」「情報を提供する」という考え方です。
本人を変えようとするのではなく、本人が自分自身を理解し、必要な支援を受けられるよう手助けすることが目標です。
なぜ本人は気づかないのか
大人になるまで発達障害に気づかない理由はいくつかあります。
軽度で目立たなかった
症状が軽く、学生時代は何とか乗り切れたため、問題が表面化しなかった。
周囲のサポートがあった
家族や友人が自然にフォローしていたため、本人が困難を感じずに過ごせた。
得意分野でカバーしていた
特定の能力が高く、苦手な部分を補えていた。
「自分は普通」という認識
生まれつきの特性なので、「これが普通」だと思っている。他の人との違いに気づいていない。
否認や防衛機制
うすうす気づいていても、認めたくない、認めると自分が壊れてしまうと感じている。
伝える前に考えるべきこと
発達障害の可能性を伝える前に、以下のことを慎重に検討してください。
1. 本当に伝える必要があるのか
伝えるべき場合
- 本人が日常生活や仕事で明らかに困っている
- 対人関係のトラブルが頻発している
- 本人が「なぜ自分はうまくいかないのか」と悩んでいる
- 適切な支援を受ければ、生活の質が向上する可能性が高い
伝えない方がいい場合
- 本人が困っていない、悩んでいない
- 単に「あなたが気になる」だけで、本人の利益にならない
- 関係性が浅く、受け入れられる可能性が低い
重要なのは、「本人のため」であって、「周囲の都合」ではないということです。
2. あなたと本人の関係性
伝える立場によって、アプローチは変わります。
家族(配偶者・親・兄弟姉妹)
最も近い存在ですが、だからこそ感情的になりやすく、伝え方が難しいこともあります。
友人
親しければ受け入れられやすいですが、距離感を間違えると関係が壊れることも。
職場の上司・同僚
仕事上の困りごとを解決するという観点からアプローチできますが、慎重さが必要です。
恋人・パートナー
将来を考える関係であれば、一緒に向き合う姿勢が大切です。
3. タイミングと環境
伝えるタイミングと場所も重要です。
避けるべきタイミング
- 本人が疲れているとき
- 感情的になっているとき
- 人前や急いでいるとき
- 他の大きなストレスを抱えているとき
適切なタイミング
- 本人が落ち着いているとき
- 二人きりでゆっくり話せるとき
- 本人が自分の困りごとについて話しているとき
4. 自分の動機を確認する
なぜ伝えたいのか、自分の動機を正直に見つめましょう。
良い動機
- 本人の困りごとを減らしたい
- 本人がもっと楽に生きられるようにしたい
- 適切な支援につなげたい
避けるべき動機
- 自分が楽になりたいだけ
- 本人をコントロールしたい
- 「あなたは異常だ」とレッテルを貼りたい
伝え方の基本原則
発達障害の可能性を伝える際の基本的な原則です。
1. 「発達障害」という言葉をいきなり使わない
最初から「あなたは発達障害だ」と決めつけるのは避けましょう。
まずは具体的な困りごとに焦点を当て、「もしかしたら、こういう特性があるのかもしれない」という柔らかい表現から始めます。
2. 批判や非難ではなく、心配や気遣いとして伝える
NG例
- 「あなたは発達障害だから治療すべきだ」
- 「普通じゃないから病院に行け」
- 「みんな迷惑している」
OK例
- 「最近、困っていることがあるみたいだけど、大丈夫?」
- 「仕事で苦労しているように見えて、心配なんだ」
- 「もしかしたら、何か理由があるのかもしれないね」
3. 具体的な事実を挙げる
抽象的な批判ではなく、具体的な行動や状況を挙げましょう。
NG例
- 「あなたはいつも問題を起こす」
- 「空気が読めない」
OK例
- 「約束の時間に遅れることが多いよね」
- 「会議中に別のことを考えているように見えるときがある」
- 「物をなくすことが多くて、困っているんじゃないかな」
4. 一方的に話すのではなく、対話する
本人の気持ちや考えを聞きながら、双方向のコミュニケーションを心がけましょう。
「〜だと思うんだけど、どう思う?」「あなた自身はどう感じている?」と問いかけることが大切です。
5. 否定的なレッテルではなく、「特性」として伝える
発達障害は「欠陥」や「劣っている」ということではありません。脳の働き方の違い、個性の一つとして伝えましょう。
NG例
- 「あなたは障害者だ」
- 「あなたは普通じゃない」
OK例
- 「あなたの脳の働き方には、こういう特徴があるのかもしれない」
- 「こういう特性を持っている人は、実は結構いるんだって」
6. 強制しない
最終的な判断は本人がするものです。受診や検査を強制することはできません。
「もし良かったら」「興味があれば」という提案の形で伝えましょう。
具体的な伝え方のステップ
実際にどのように伝えるか、ステップごとに見ていきましょう。
ステップ1 信頼関係を築く
いきなり発達障害の話をするのではなく、まずは日常的な信頼関係を築きましょう。
日頃から本人の話を聞き、理解しようとする姿勢を示すことが大切です。
ステップ2 困りごとを共有する
本人が困っていることについて、一緒に考える姿勢を示しましょう。
「最近、〇〇で困っているみたいだけど、何か手伝えることある?」
本人が自分の困りごとを言葉にすることが、自覚への第一歩です。
ステップ3 情報を提供する
発達障害について、さりげなく情報を提供します。
自然な流れで提供する
- 「こんな記事を読んだんだけど、面白かったよ」
- 「テレビでこんな特集をやっていたんだ」
- 「友達が似たような悩みを持っていて、病院に行ったら改善したんだって」
本や記事を共有する
発達障害について分かりやすく書かれた本や記事を、「これ面白そうだから、良かったら読んでみて」と渡すのも一つの方法です。
ステップ4 「もしかしたら」と可能性を示唆する
直接「あなたは発達障害だ」と言うのではなく、「もしかしたら、こういう特性があるのかもしれないね」と柔らかく示唆します。
例
「最近読んだ本に、ADHDの特徴が書いてあったんだけど、〇〇さんの困りごとと似ているところがあるかもしれないと思ったんだ。もちろん、そうだと決めつけるわけじゃないけど、もし興味があれば、一度専門家に相談してみるのもいいかもしれないよ」
ステップ5 専門家への相談を提案する
「病院に行け」ではなく、「相談してみる」という軽いニュアンスで提案します。
例
- 「一度、専門家に話を聞いてもらうだけでも、何か分かるかもしれないよ」
- 「もし良かったら、一緒に病院を探してみようか?」
- 「カウンセリングを受けてみるのもいいかもしれないね」
ステップ6 付き添いを申し出る
一人で受診するのは不安なものです。「一緒に行こうか?」と付き添いを申し出ると、ハードルが下がります。
ステップ7 受け入れるまで待つ
すぐには受け入れられないこともあります。焦らず、本人のペースを尊重しましょう。
一度断られても、時間をおいて再度話題にすることはできます。
立場別の伝え方
関係性によって、伝え方のポイントが異なります。
配偶者・パートナーの場合
ポイント
- 「私たちの問題」として一緒に向き合う姿勢を示す
- 「あなたのせいだ」と責めるのではなく、「一緒に解決しよう」と伝える
- 日常生活の具体的な困りごとから話を始める
例
「最近、お互いに疲れているよね。もしかしたら、〇〇のことで困っている部分があるのかもしれないし、一度専門家に相談してみない? 一緒に行くよ」
親が成人した子どもに伝える場合
ポイント
- 成人しているので、本人の自己決定を尊重する
- 過度に干渉しない、押し付けない
- 「心配している」という気持ちを素直に伝える
例
「あなたが仕事で苦労しているのを見ていて、親として心配なんだ。もし何か手助けになることがあれば、力になりたいと思っている。こういう特性について調べてみたんだけど、もし興味があれば一緒に見てみない?」
職場の上司・同僚の場合
ポイント
- 仕事のパフォーマンス向上という観点から話す
- プライバシーに配慮し、慎重に
- 産業医や人事部門と連携することも検討
例
「最近、業務で困っていることがあるように見えるんだけど、何かサポートできることはある?もし必要なら、産業医に相談してみるのもいいかもしれないよ」
友人の場合
ポイント
- 友達として心配していることを伝える
- 押し付けがましくならないよう注意
- 「こんな情報があるよ」と提供する程度にとどめる
例
「最近、〇〇で困っているって言っていたよね。実は、私も似たような悩みを持っている人の話を聞いたことがあって、その人は専門家に相談したら楽になったらしいんだ。もし興味があれば、情報を共有するよ」
否定・拒否された場合の対応
「自分は発達障害なんかじゃない」と否定されることもあります。
よくある反応
- 「自分は普通だ」
- 「そんなわけない」
- 「余計なお世話だ」
- 「自分を障害者扱いするな」
- 怒り出す、泣き出す
対応のポイント
1. 感情的にならない
否定されても、こちらまで感情的にならないようにしましょう。
2. 無理強いしない
「やっぱりそうだ」「絶対に病院に行くべきだ」と押し付けないこと。
3. 引き下がる
「そうだよね。ごめんね」と一度引き下がりましょう。
4. ドアは開けておく
「もし、将来的に話したくなったら、いつでも聞くからね」と伝えましょう。
5. 時間をおいて再度話題にする
時間が経ち、本人が自分の困りごとを強く感じるようになったら、再度話題にすることもできます。
受け入れには段階がある
発達障害を受け入れるには、時間がかかります。
- 否認 – 「そんなわけない」
- 怒り – 「なぜ自分が」
- 取引 – 「もしそうなら、どうすればいいのか」
- 抑うつ – 「自分はダメな人間だ」
- 受容 – 「これが自分なんだ。じゃあ、どう生きるか」
これらの段階を経て、ゆっくりと受け入れていきます。焦らず、見守りましょう。
やってはいけないこと
以下のような対応は、関係を悪化させたり、本人を傷つけたりします。
1. 決めつける
「あなたは絶対に発達障害だ」と断定しないこと。診断は専門家がするものです。
2. 人前で指摘する
他の人がいる前で「あなたは発達障害かもしれない」と言うのは、本人を深く傷つけます。
3. 周囲に言いふらす
本人の同意なく、他の人に「〇〇さんは発達障害かもしれない」と話すのは、プライバシーの侵害です。
4. 「だから○○なんだ」と全てを発達障害のせいにする
発達障害があっても、すべての行動が発達障害のせいではありません。
5. 比較する
「〇〇さんも発達障害だけど、ちゃんとしている」と比較するのは逆効果です。
6. 同情しすぎる
「可哀想」という態度は、本人の自尊心を傷つけます。
7. 強制的に受診させる
成人であれば、本人の意思が最優先です。
自覚した後のサポート
本人が発達障害の可能性を受け入れたら、次のステップに進みます。
専門機関への受診をサポート
受診先
- 精神科
- 心療内科
- 発達障害専門のクリニック
初診は予約が数週間〜数か月待ちのこともあるので、早めに予約しましょう。
診断を受けた後
診断が出ても、出なくても、大切なのは「困りごとを減らす」ことです。
診断が出た場合
- 薬物療法、心理療法などの治療を受ける
- 生活の工夫を取り入れる
- 必要に応じて障害者手帳の取得を検討
診断が出なかった場合
- 診断基準を満たさなくても、困りごとは存在する
- カウンセリングや生活の工夫は有効
- 「グレーゾーン」として、必要なサポートを受ける
日常的なサポート
理解と共感を示す
発達障害の特性を理解し、「わざとじゃない」と認識しましょう。
具体的な工夫を一緒に考える
忘れ物が多いなら→チェックリストを作る 時間管理が苦手なら→アラームを活用する
良いところを認める
発達障害の人には、優れた能力や才能もあります。そこを認め、伸ばしましょう。
自分自身もケアする
支える側も疲れます。自分のケアを忘れずに。
よくある質問(FAQ)
Q 本人が「自分は普通だ」と主張し続けたら?
A 無理に自覚させようとしても逆効果です。本人が困っていないなら、そのままでもいいのかもしれません。困ったときに相談できる関係性を保つことが大切です。
Q 診断を受けたくないと言われたら?
A 診断を受けるかどうかは本人の選択です。診断がなくても、困りごとを減らす工夫はできます。
Q 伝えたら関係が悪くなった。どうすればいい?
A 時間が必要です。謝罪し、「あなたのためを思って言ったけど、傷つけてしまったならごめん」と伝え、距離を置きましょう。
Q 家族が発達障害を認めず、本人に伝えさせてくれない
A 家族の理解を得ることも大切ですが、本人の利益を最優先に考えましょう。必要に応じて、専門家や第三者に相談することも検討してください。
まとめ
大人の発達障害の可能性を身近な人に伝えることは、非常に繊細で勇気のいる行動です。伝え方を間違えれば、相手を深く傷つけ、関係性を損なう危険性もはらんでいます。しかし、その一方で、本人が長年抱えてきた「生きづらさ」の原因に気づき、より良い人生を歩むための大きな一歩となる可能性も秘めています。
最も大切なのは、「自覚させる」のではなく、「本人が自分自身を理解し、より楽に生きられるようサポートする」という姿勢です。批判や決めつけを避け、具体的な困りごとに寄り添いながら、あくまで「心配している」という愛情や思いやりをベースに対話することが、信頼関係を壊さずに気づきを促す鍵となります。
本人がすぐに受け入れられない場合でも、焦る必要はありません。受け入れには時間がかかることを理解し、本人のペースを尊重しながら、いつでも相談に乗れるというドアを開けておくことが重要です。診断を受けるかどうかは最終的に本人の選択ですが、診断の有無にかかわらず、困りごとを減らすための工夫を一緒に考えていくことは可能です。
このプロセスは、伝える側にとっても精神的な負担が大きいものです。一人で抱え込まず、必要であれば専門家や信頼できる第三者に相談し、自分自身の心のケアも忘れないようにしてください。
この記事で紹介した考え方やステップが、あなたとあなたの大切な人との間に、より深い理解と信頼に基づいた関係を築くための一助となれば幸いです。

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