アスペルガー症候群と虚言癖の関係 大人が抱える課題と理解

はじめに

アスペルガー症候群(現在は自閉スペクトラム症  ASDに統合)を持つ大人の中には、周囲から「嘘をつく」「話を盛る」といった指摘を受けることがあります。しかし、定型発達の人が想像する「虚言癖」とは、その背景や動機が大きく異なることが少なくありません。

本記事では、アスペルガー症候群と虚言癖の関係について、誤解されやすいポイントや実際のメカニズム、そして適切な理解と対応方法について詳しく解説します。

アスペルガー症候群における「嘘」の特性

1. 意図的な虚言とは異なる背景

アスペルガー症候群の方が事実と異なることを述べる場合、多くは以下のような理由が考えられます。

記憶の特性による誤認 アスペルガー症候群の方は、細部に強いこだわりを持つ一方で、文脈や全体像の把握が苦手な傾向があります。そのため、出来事の一部を鮮明に覚えていても、時系列や因果関係を誤って認識していることがあります。本人にとっては「事実を語っている」つもりでも、客観的には誤った情報となってしまうのです。

言葉の字義通りの解釈 比喩や曖昧な表現の理解が難しいため、誰かの言葉を字義通りに受け取り、それを事実として伝えることがあります。例えば、「山のように書類がある」という表現を聞いて、実際に大量の書類があったと理解し、そのまま他者に伝えるようなケースです。

社会的期待への過剰適応 社会的コミュニケーションの困難さから、「こう答えるべきだ」と考えて事実と異なることを述べることがあります。これは悪意ではなく、円滑な対人関係を築こうとする努力の表れであることが多いのです。

2. 認知の特性と「事実」の認識

アスペルガー症候群の方の認知特性として、以下の点が「虚言」と誤解される原因となります。

  • 視点取得の困難さ  自分の視点と他者の視点を切り替えることが難しく、自分が知っている情報と他者が知っている情報の区別がつきにくい
  • パターン認識の強さ  一度経験したパターンを過度に一般化し、類似した状況でも同じことが起きたと認識してしまう
  • 感覚情報の処理  感覚過敏や鈍麻により、実際の体験とは異なる記憶が形成されることがある

真の虚言癖との違い

病的虚言(Pseudologia Fantastica)の特徴

真の虚言癖、特に病的虚言と呼ばれる状態には、以下のような特徴があります。

  • 自己を大きく見せる、または同情を引くための計画的な嘘
  • 一貫性のあるストーリーを作り上げる能力
  • 嘘がバレても新たな嘘で取り繕う
  • 嘘をつくこと自体に快感や満足感を得る

一方、アスペルガー症候群の方の場合は、これらの特徴とは異なり、むしろ以下の点が見られます。

  • 嘘をつく意図がない、または社会的適応のための防衛的な対応
  • 指摘されると困惑し、パニックになることが多い
  • 一貫したストーリーを維持することが難しい
  • 嘘がバレることへの強い不安や罪悪感

大人のアスペルガー症候群が抱える課題

職場での誤解

社会人として働く中で、以下のような問題が生じやすくなります。

報告・連絡・相談の齟齬 自分が重要だと思った情報のみを伝え、上司や同僚が必要とする文脈情報が抜け落ちることがあります。結果として「話が違う」「嘘をつかれた」と受け取られることがあります。

進捗状況の認識のズレ タスクの完了基準について、自分なりの解釈で判断してしまい、実際の要求とは異なる状態で「完了した」と報告してしまうことがあります。

対人関係における困難

過去の出来事の再構成 思い出を語る際に、自分の解釈や感情が混ざり込み、事実とは異なる内容になることがあります。悪意はないものの、友人や家族との認識のズレが生じ、信頼関係に影響を与えることがあります。

社交辞令の誤解 「また会いましょう」「今度飲みに行きましょう」といった社交辞令を字義通りに受け取り、約束として認識してしまいます。その約束が果たされないと「嘘をつかれた」と感じる一方で、自分が同様の表現を使った場合には相手から「嘘つき」と思われることもあります。

適切な理解と対応方法

本人ができる対処法

記録を残す習慣 スマートフォンのメモアプリやボイスレコーダーを活用し、重要な会話や出来事を記録することで、記憶の曖昧さを補うことができます。

確認の習慣化 「私の理解では〇〇ということですが、合っていますか?」と、自分の理解を相手に確認する習慣をつけることで、認識のズレを早期に修正できます。

感情と事実の分離 日記などを通じて、「起きた事実」と「自分が感じたこと」を分けて記録する練習をすることで、客観的な事実の把握能力が向上します。

周囲ができるサポート

誤解を前提としない姿勢 「嘘をついている」と決めつけるのではなく、「認識にズレがあるかもしれない」という前提で接することが大切です。

具体的な質問 「どうだった?」ではなく、「何時に誰とどこで何をしましたか?」といった具体的な質問をすることで、より正確な情報を得ることができます。

視覚的なサポート 口頭での指示だけでなく、メールやメモで文字として残すことで、認識のズレを防ぐことができます。

専門的な支援の重要性

診断とカウンセリング

未診断の大人のアスペルガー症候群の方は、長年「自分は嘘つきだ」「信用されない」という自己認識を持ち、二次的な精神的問題(うつ病、不安障害など)を抱えることがあります。

適切な診断を受けることで、自分の特性を理解し、適切な対処法を学ぶことができます。認知行動療法やソーシャルスキルトレーニングも効果的です。

就労支援

職場での困難が大きい場合、障害者雇用や就労支援機関の利用も選択肢となります。ジョブコーチによるサポートや、職場への合理的配慮の依頼なども検討できます。

まとめ

アスペルガー症候群の大人が「虚言癖」と誤解されるケースは、多くの場合、認知特性や社会的コミュニケーションの困難さに起因するものです。真の虚言癖とは異なり、悪意や操作的な意図はありません。

重要なのは、本人と周囲の双方が特性を理解し、具体的なコミュニケーション方法を工夫することです。記録の習慣化、確認の徹底、視覚的サポートの活用などにより、誤解は大きく減らすことができます。

もし自分や身近な人がこうした困難を抱えている場合は、専門家への相談を検討することをお勧めします。適切な理解とサポートがあれば、より良い対人関係と社会生活を築くことができるのです。

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