1. 大人の男性の発達障害とは
発達障害は、脳の発達の偏りによって生じる特性で、幼少期から症状が現れます。しかし、子どもの頃は気づかれず、大人になってから職場や人間関係での困難をきっかけに、初めて発達障害と診断されるケースが増えています。
特に男性の場合、社会から求められる役割や期待が大きいため、発達障害の特性が仕事や対人関係で顕著な問題として表面化しやすい傾向があります。また、男性は女性に比べて発達障害の割合が高いことも知られています。
発達障害には、主にASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)の3つのタイプがありますが、これらが重複して現れることも多くあります。
この記事では、大人の男性の発達障害に焦点を当て、それぞれの特徴、職場や日常生活での困りごと、診断方法、対処法について、詳しく解説していきます。
2. ASD(自閉スペクトラム症)の特徴
ASDは、社会的コミュニケーションの困難さと、限定された反復的な行動や興味を特徴とする発達障害です。
社会的コミュニケーションの困難
空気を読むことが苦手です。場の雰囲気や相手の気持ちを察することが難しく、「KY(空気が読めない)」と言われることがあります。
会議中に突然関係ない話をする、相手が困っている表情をしているのに気づかず話し続ける、冗談や皮肉を文字通りに受け取るといった特徴があります。
暗黙のルールが理解できないことも特徴です。明文化されていない社会的なルールや慣習を理解することが困難です。
職場の暗黙のルール(上司より先に帰らない、飲み会には参加すべきなど)が分からない、敬語の使い分けが適切にできない、TPOに合わせた服装ができないといったことがあります。
会話のキャッチボールが苦手です。一方的に自分の興味のある話をする、相手の反応を見ずに話し続ける、会話の適切なタイミングで交代できないといった特徴があります。
視線が合わない、または合わせ続けるなど、アイコンタクトが不自然になります。相手の目を見て話すことが苦痛、または逆に凝視してしまうことがあります。
ボディランゲージや表情の読み取りが困難です。相手の表情から感情を読み取ることが難しく、身振り手振りの意味も理解しにくいです。
限定された反復的な行動・興味
特定の物事への強いこだわりがあります。特定の分野に対して非常に深い知識を持ち、それについて話し続けることがあります。
鉄道、パソコン、アニメ、数字など、特定の分野に深い興味を持ち、それ以外のことには関心が薄いことがあります。
ルーティンへのこだわりも特徴的です。決まった手順や日課を好み、変化を嫌います。
毎日同じルートで通勤する、同じ席に座る、同じメニューを注文するなど、変化があるとストレスを感じます。予定の変更に対応することが困難です。
感覚過敏または鈍麻があります。特定の音、光、触覚、匂いなどに過敏に反応する、または逆に鈍感であることがあります。
オフィスの蛍光灯の音が気になる、特定の服の肌触りが耐えられない、人混みが苦手、逆に痛みに鈍感などの特徴があります。
職場での困りごと
報告・連絡・相談(ホウレンソウ)が苦手です。何を報告すべきか判断できない、タイミングが分からない、質問の仕方が分からないといったことがあります。
チームワークが難しいという特徴もあります。他者と協力して仕事を進めることが困難です。自分のやり方にこだわり、他者の意見を受け入れにくいことがあります。
臨機応変な対応ができないため、マニュアル通りの仕事は得意だが、予期せぬ事態への対応が苦手です。
言葉を額面通りに受け取るため、「適当にやっておいて」「早めに」といった曖昧な指示が理解できず、困惑します。
一方で、集中力が高く、正確な作業が得意という強みもあります。特定の分野では高い能力を発揮することがあります。
3. ADHD(注意欠如・多動症)の特徴
ADHDは、不注意、多動性、衝動性を特徴とする発達障害です。子どもの頃の多動性は、大人になると目立たなくなることが多いですが、不注意や衝動性は持続します。
不注意の特徴
集中力が続かないことが特徴です。仕事に集中しようとしても、すぐに他のことに気が散ります。会議中に別のことを考えてしまう、話を聞いているつもりでも内容が頭に入らないといったことがあります。
ケアレスミスが多いのも特徴です。確認作業を怠る、細かい部分を見落とす、書類の記入漏れが多いといったことがあります。
物をよく失くす傾向があります。財布、鍵、携帯電話、書類など、頻繁に物を失くします。デスクが散らかり、必要な物がどこにあるか分からなくなります。
先延ばし癖があります。締切のある仕事を後回しにし、ギリギリになって慌てます。面倒な作業や興味のない仕事を避けてしまいます。
時間管理が苦手です。遅刻が多い、予定を忘れる、時間の見積もりが甘く、作業が時間内に終わらないといったことがあります。
マルチタスクができないため、複数の仕事を同時に進めることが困難です。優先順位をつけることが苦手です。
多動性・衝動性の特徴
大人になると身体的な多動性は減少しますが、内的な落ち着きのなさは残ります。
じっとしていられない感覚があります。会議中に貧乏ゆすりをする、落ち着きなく動く、長時間座っていることが苦痛といった特徴があります。
話し過ぎる傾向もあります。相手の話を遮って話し始める、一度話し出すと止まらない、考える前に話してしまうことがあります。
衝動的な行動が見られます。深く考えずに行動する、衝動買いをする、計画性なく行動するといった特徴があります。
感情のコントロールが難しいこともあります。イライラしやすい、怒りっぽい、感情の起伏が激しいといったことがあります。
職場での困りごと
締切を守れないことが問題になります。スケジュール管理ができず、納期に遅れることが多くなります。
同じミスを繰り返すため、注意されても改善されず、信頼を失うことがあります。
会議や打ち合わせに遅刻することが頻繁にあります。時間の感覚が弱く、遅刻の常習犯になってしまいます。
重要な書類を失くすなど、仕事に支障をきたすことがあります。
一方で、興味のあることには過集中できるという強みもあります。創造性が高く、アイデアが豊富という長所もあります。
4. ASDとADHDの併存
ASDとADHDは、併存することが珍しくありません。両方の特性を持つ場合、困難さがより複雑になります。
ASDの特性として、ルーティンを好むのに、ADHDの特性として、集中力が続かず計画通りに実行できないといった矛盾が生じることがあります。
両方の特性を持つ場合、それぞれに対する対処法を組み合わせる必要があります。
5. 学習障害(LD)の特徴
学習障害は、知的発達に遅れはないものの、読む、書く、計算するなど特定の学習に著しい困難がある状態です。
大人の学習障害の特徴
読字障害(ディスレクシア)では、文字を読むことが困難です。読むスピードが遅い、読み間違いが多い、文章の意味を理解しにくいといった特徴があります。
メールや報告書を読むのに時間がかかる、契約書などの長文を読むことが苦痛といったことがあります。
書字障害(ディスグラフィア)では、文字を書くことが困難です。誤字脱字が多い、文章を書くのに時間がかかる、手書きの文字が読みにくいといった特徴があります。
算数障害(ディスカリキュリア)では、計算や数の概念の理解が困難です。暗算ができない、お金の計算が苦手、数字の桁を間違えるといった特徴があります。
職場での困りごと
書類作成に時間がかかる、メールの文章に誤字が多い、数字を扱う業務でミスが多いといった問題が生じます。
6. 大人の男性の発達障害が見過ごされやすい理由
子どもの頃は適応できていた
学校では決まったルーティンがあり、明確な指示があるため、適応できていたケースが多くあります。親や教師のサポートがあったため、問題が表面化しなかったこともあります。
社会に出て初めて困難に直面
社会人になると、曖昧な指示、臨機応変な対応、複雑な人間関係など、発達障害の特性が困難となる場面が増えます。
男性特有の要因
男性は感情を表現することが苦手とされる文化があり、困っていても助けを求めにくい傾向があります。
「男らしくあるべき」というプレッシャーから、弱音を吐けず、一人で抱え込んでしまうことがあります。
「努力不足」と誤解される
発達障害の特性による困難が、本人の努力不足、やる気のなさ、性格の問題として捉えられ、適切な支援につながらないことがあります。
7. 診断を受けるメリット
自己理解が深まる
診断を受けることで、長年の「なぜ自分は他の人と違うのか」「なぜうまくいかないのか」という疑問が解決します。
自分の特性を理解することで、自己肯定感が回復し、自分を責めることが減ります。
適切な対処法が分かる
自分の特性に合った対処法や支援を知ることができます。どのような環境や仕事が向いているかが分かります。
周囲の理解が得られる
診断があることで、職場や家族に説明しやすくなります。必要な配慮を求める根拠となります。
支援制度を利用できる
障害者手帳を取得すれば、障害者雇用枠での就労、就労支援サービス、医療費助成などを利用できる可能性があります。
8. 診断の受け方
受診の流れ
医療機関の選択として、精神科、心療内科、発達障害の専門外来などを受診します。発達障害の診断経験が豊富な医療機関を選ぶことが望ましいです。
初診では、現在困っていること、これまでの生活歴、幼少期の様子などを詳しく聴取されます。可能であれば、幼少期を知る家族に同席してもらうと良いでしょう。
心理検査として、WAIS(ウェクスラー成人知能検査)などの知能検査、その他の発達特性を評価する検査が行われます。
診断は、DSM-5やICD-11などの国際的な診断基準に基づいて行われます。
診断までに数回の受診と数週間から数か月かかることがあります。
診断の難しさ
大人の発達障害の診断は、子どもに比べて難しいことがあります。幼少期の記録や記憶が不明確、長年の経験で対処法を身につけており特性が目立たない、二次障害(うつ病、不安症など)が前面に出ているといった理由からです。
費用
診断には保険が適用されます。初診料や心理検査を含めて、数千円から1万円程度が一般的です。
9. 発達障害の男性が仕事で困らないための対処法
ASDの場合の対処法
明確な指示を求めることが大切です。曖昧な指示は理解できないので、具体的な指示を求めましょう。「いつまでに、何を、どのように」を明確にします。
マニュアルを作ることも有効です。仕事の手順をマニュアル化し、それに従って作業します。チェックリストを活用します。
コミュニケーションのルールを学ぶために、ソーシャルスキルトレーニング(SST)を受けることも一つの方法です。
一人で集中できる環境を作ることで、オープンスペースが苦手な場合は、個室やパーティションで区切られたスペースを希望します。
得意分野を活かす仕事を選ぶことも重要です。専門性の高い仕事、データ分析、プログラミングなど、自分の強みを活かせる仕事を選びます。
ADHDの場合の対処法
スケジュール管理ツールを使うことが重要です。スマートフォンのアラーム、リマインダー機能、カレンダーアプリを活用します。
タスクを細分化することで、大きな仕事を小さなタスクに分け、一つずつ完了させます。ToDoリストを作成し、完了したらチェックします。
締切を前倒しにすることも有効です。自分の中での締切を、実際の締切より早く設定します。
集中できる環境を整えるために、ノイズキャンセリングイヤホンを使う、スマートフォンを見えない場所に置くなどの工夫をします。
定期的に休憩を取ることで、長時間の集中が難しいので、ポモドーロテクニック(25分作業、5分休憩)などを活用します。
物の定位置を決めることで、鍵、財布、書類など、よく使うものの置き場所を固定します。
共通する対処法
自分の特性を上司や同僚に伝えることを検討します。どのような配慮があると働きやすいかを具体的に伝えます。
ストレス管理を行うことも大切です。適度な運動、十分な睡眠、リラクゼーション技法などでストレスをコントロールします。
支援機関を活用することで、就労移行支援事業所、障害者就業・生活支援センターなどの支援を受けられます。
ジョブコーチ制度を利用することも一つの方法です。職場に専門家が訪問し、本人と職場の両方にアドバイスを提供します。
10. 人間関係での対処法
家族との関係
自分の特性を説明することが重要です。発達障害について理解してもらい、どのようなサポートが必要かを伝えます。
家事の分担を明確にすることで、曖昧にせず、具体的に「誰が何をいつまでに」を決めます。
コミュニケーションの方法を工夫するために、口頭だけでなく、メモやメールも活用します。
恋愛・結婚
発達障害の特性は、恋愛や結婚にも影響を与えることがあります。
相手に自分の特性を伝えることで、早い段階で自分の特性を説明し、理解してもらうことが大切です。
コミュニケーションのすれ違いに注意するために、相手の気持ちを想像することが苦手な場合は、直接聞くことも必要です。
カップルカウンセリングを受けることも一つの方法です。
友人関係
自分のペースで付き合うことが大切です。無理に多くの友人を作る必要はありません。
共通の趣味を通じた友人作りをすることで、同じ興味を持つ人との交流は、比較的容易です。
11. 二次障害の予防と対応
発達障害の特性により、社会生活で困難を経験し続けると、うつ病、不安症、適応障害などの二次障害を発症することがあります。
二次障害のサイン
気分の落ち込みが続く、何事にも興味が持てない、不安が強い、眠れない、食欲がない、自己肯定感の著しい低下などが見られたら、早めに医療機関を受診しましょう。
予防のために
自分の特性を理解し、無理のない生活を送ることが予防につながります。ストレスを溜め込まず、適度に発散することも大切です。
12. まとめ 自分らしく生きるために
大人の男性の発達障害には、ASD、ADHD、LDなど様々なタイプがあり、それぞれ特徴的な症状があります。社会的コミュニケーションの困難、不注意、衝動性、学習の困難などが、職場や人間関係で問題となることがあります。
しかし、発達障害は適切な理解と対処により、強みを活かしながら社会で活躍することが十分に可能です。自分の特性を理解し、適切な環境や支援を得ることで、生活の質を大きく向上させることができます。
もし自分が発達障害かもしれないと感じたら、まずは専門医に相談してみましょう。診断を受けることで、長年の疑問が解決し、適切な対処法が見つかります。
発達障害は、決して克服すべき欠点ではなく、一つの個性です。自分の特性を理解し、活かす方法を見つけることで、自分らしく充実した人生を送ることができます。一人で抱え込まず、専門家や支援機関の力を借りながら、自分に合った生き方を見つけていきましょう。

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