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ディスグラフィア(書字障害)は、知的能力は正常なのに、文字を書くことに著しい困難がある学習障害の一種です。「字が汚い」「マスからはみ出す」「書くのが極端に遅い」「漢字が覚えられない」「作文が書けない」など、書字に関する様々な困難が現れます。
単なる「不器用」や「練習不足」ではなく、脳の情報処理の特性による障害です。
学校では板書を写すのに時間がかかり授業についていけない、テストで時間内に書き終わらない、ノートを取れないなど、学習に深刻な影響が出ます。自己評価が下がり、学習意欲を失うこともあります。
しかし適切な理解と支援により、困難を軽減し、学習を進めることができます。代替手段(タブレット、パソコン)の活用、合理的配慮の提供、本人の強みを活かすアプローチが重要です。
この記事ではディスグラフィアの特徴、原因、診断、支援方法について詳しく解説します。
ディスグラフィアとは
定義
ディスグラフィア(Dysgraphia)は、書字障害とも呼ばれ、知的能力に問題がないにもかかわらず、文字を書くことに著しい困難がある学習障害です。
学習障害(LD)の一種
ディスグラフィアは学習障害(Learning Disabilities: LD、日本では限局性学習症/SLD)の一つです。
学習障害の3つの主要タイプ
- ディスレクシア(読字障害): 読むことの困難
- ディスグラフィア(書字障害): 書くことの困難
- ディスカルキュリア(算数障害): 計算・数学の困難
これらは単独で現れることもあれば、複数が併存することもあります。
「字が汚い」との違い
ディスグラフィアは単に「字が汚い」「不器用」というレベルではありません。
一般的な字が汚い
- 練習により改善する
- 努力次第で克服できる
- 内容は書ける
ディスグラフィア
- 練習してもなかなか改善しない
- 努力しても書字が極めて困難
- 文字の形、配置、内容の構成など多面的な困難
有病率
学齢期の子どもの約5から20パーセントに何らかの書字困難があると推定されます。ディスグラフィアと診断される程度の重症例は約5から10パーセントです。
性差
男児にやや多い傾向がありますが、女児にも見られます。
発見時期
小学校入学後、文字を書く学習が本格化する時期(1年生から3年生)に気づかれることが多いです。就学前に気づかれることは少ないです。
ディスグラフィアの症状・特徴
ディスグラフィアの症状は多様で、個人により現れ方が異なります。
1. 文字の形の問題
字形が整わない
- 文字の形が崩れている
- 鏡文字(左右反転した文字)を書く
- 似た文字を混同(「わ」と「ね」、「シ」と「ツ」など)
- ひらがな、カタカナ、漢字の形が覚えられない
- 漢字の偏と旁が離れる、くっつきすぎる
- 線が曲がる、はみ出る、途切れる
文字のバランスが悪い
- 大きさが不揃い(一つだけ大きい、小さい)
- 傾きがバラバラ
- 文字の間隔が不均等
マスや罫線に合わせられない
- マスからはみ出す
- マスの中心に書けない
- 行をまたぐ、斜めになる
2. 書く速度の問題
極端に書くのが遅い
- 板書を写すのに時間がかかり、授業についていけない
- テストで時間内に書き終わらない
- 他の子の何倍も時間がかかる
- 一文字書くのに何十秒もかかる
3. 筆圧の問題
筆圧が弱すぎる、強すぎる
- 筆圧が弱く薄くて読めない
- 筆圧が強すぎて紙が破れる、手が痛くなる
- 筆圧のコントロールができない
4. 書字動作の問題
ぎこちない書き方
- 鉛筆の持ち方が不自然
- 姿勢が悪い(極端に近づく、体を傾けるなど)
- 手や腕全体が緊張している
- 書いている間、舌を出す、体を揺するなど余計な動きがある
疲れやすい
- 少し書いただけで手が疲れる
- 長時間書けない
5. 漢字学習の困難
漢字が覚えられない
- 何度練習しても覚えられない
- 覚えてもすぐ忘れる
- 読めるけど書けない
- 部首や画数を間違える
- 似た漢字と混同
漢字テストの点数が極端に低い
他の教科は普通なのに、漢字だけ全くできない。
6. 文章表現の困難
作文が書けない
- 何を書いていいかわからない
- 文章の構成ができない
- 文が途中で終わる、主語と述語がかみ合わない
- 接続詞が使えない
- 極端に短い文章しか書けない
考えを文字にできない
- 口頭では説明できるのに、書くとまとまらない
- 頭の中の考えを文字にする過程で混乱する
7. 綴りの問題
ひらがな、カタカナの誤り
- 「を」「お」、「は」「わ」などの使い分けができない
- 促音(小さい「っ」)、拗音(小さい「ゃ、ゅ、ょ」)が書けない
- カタカナがひらがなになる、その逆
8. 写字の困難
板書を写せない
- 黒板を見て、ノートに書き写すことが極めて困難
- 一文字ずつ見ては書き、見ては書きを繰り返す
- どこまで写したかわからなくなる
- 写し間違いが多い
教科書を書き写せない
音読の宿題で教科書を書き写すことができない。
9. 心理的影響
自己評価の低下
- 「自分はできない」「頭が悪い」と思い込む
- 努力しても成果が出ず、自信を失う
学習意欲の低下
- 書くことが嫌になる
- 宿題をやらない、学校に行きたくない
不安、抑うつ
- 書くことへの強い不安
- 失敗を恐れる
- 気分の落ち込み
問題行動
- 授業中に立ち歩く、おしゃべりする(書字課題を避けるため)
- 反抗的になる
ディスグラフィアのタイプ
ディスグラフィアにはいくつかのタイプがあります。
1. 運動性ディスグラフィア(Dyslexic Dysgraphia)
特徴
- 自発的に書くことは困難だが、書き写し(模写)は比較的できる
- 綴りは正常
- 運動の協調性の問題
原因
微細運動スキル(手指の細かい動き)の障害。
2. 言語性ディスグラフィア(Motor Dysgraphia)
特徴
- 自発的に書くこと、書き写しともに困難
- 綴りの問題
- 書く速度が極端に遅い
原因
言語処理の問題。音韻認識(音と文字の対応)の困難。
3. 空間性ディスグラフィア(Spatial Dysgraphia)
特徴
- 文字の配置、間隔、大きさのコントロールが困難
- 空間認知の問題
- 綴りは正常
- 書く速度は正常
原因
視空間認知の障害。
実際には混合型が多い
多くの場合、これらの複数の要素が組み合わさっています。
ディスグラフィアの原因
ディスグラフィアの原因は完全には解明されていませんが、脳の機能や構造の違いが関与すると考えられています。
脳の機能的差異
関与する脳領域
書字には複数の脳領域が協働します。
- 前頭葉: 運動の計画、実行
- 頭頂葉: 視空間認知、手と目の協調
- 側頭葉: 言語処理、音韻認識
- 小脳: 運動の協調、自動化
ディスグラフィアでは、これらの領域の機能や連携に問題があると考えられています。
神経画像研究
脳画像研究で、書字に関わる脳領域の活動パターンや構造に違いが報告されています。
遺伝的要因
家族集積性
ディスグラフィアや他の学習障害は家族内で発症しやすい傾向があります。
遺伝率
遺伝的要因が関与しますが、特定の原因遺伝子は見つかっていません。
発達的要因
微細運動発達の遅れ
手指の細かい動きの発達が遅い。
視覚-運動統合の問題
見たものを運動に変換するプロセスの困難。
言語発達の問題
音韻認識、語彙、文法の発達の遅れや困難。
環境的要因
教育機会の不足
適切な指導を受けていない。
早期の学習経験
初期の書字学習での失敗体験が自信を失わせる。
ただし環境要因だけでは説明できず、本質的には神経発達の特性です。
他の障害との関連
発達性協調運動障害(DCD)
運動の協調性の問題。ディスグラフィアと併存しやすい。
注意欠如・多動症(ADHD)
注意の持続困難、衝動性により書字が影響を受ける。併存率が高い。
自閉スペクトラム症(ASD)
微細運動の問題、こだわりによる書字困難。併存することがある。
ディスレクシア(読字障害)
読みと書きは関連が深く、併存しやすい。
ディスグラフィアの診断
診断基準(DSM-5)
DSM-5では、ディスグラフィアは「限局性学習症/限局性学習障害(Specific Learning Disorder)」の「書字表出の困難を伴う」タイプとして分類されます。
診断基準(要約)
A. 学習や学業的技能の使用に困難があり、以下の症状の少なくとも1つが6ヶ月以上持続:
- 不正確またはゆっくりで努力を要する読字
- 読んだものの意味を理解することの困難
- つづりの困難
- 書字表出の困難(文法や句読点の正確さ、明瞭さや構成の困難)
- 数字の概念、数値、計算の習得困難
- 数学的推論の困難
B. 影響を受けた学業的技能が、その人の生活年齢に期待されるより著しく低く、学業的または職業的な行動、日常生活に著しい障害を引き起こしている
C. 困難は学齢期に始まる
D. 知的発達症、視力や聴力の問題、他の精神的または神経学的障害、心理社会的逆境、学業的指導の言語の習熟度不足、または不適切な教育的指導ではうまく説明されない
特定子: 書字表出の困難を伴う
綴り、文法、句読点の正確さ、書字表出の明瞭さまたは構成の困難。
診断のプロセス
1. 問診
- 発達歴: 言語発達、運動発達
- 学習歴: いつから困難が始まったか、どのような困難か
- 家族歴: 家族に学習障害があるか
- 教育環境: 適切な指導を受けているか
2. 標準化された検査
知能検査
WISC(ウェクスラー児童用知能検査)など。知的能力が平均以上または平均範囲であることを確認。
学力検査
- 書字能力の評価: 漢字書字テスト、作文課題など
- 読字能力の評価: ディスレクシアの併存を確認
- 算数能力の評価
視覚-運動統合検査
ベンダー・ゲシュタルト検査、ベリー視覚運動統合検査など。
その他
発達性協調運動障害のスクリーニング、注意機能の評価など。
3. 実際の書字サンプルの評価
学校でのノート、作文、テストなどを確認。
4. 観察
書字の様子を観察。姿勢、鉛筆の持ち方、書く速度、疲労など。
5. 教師からの情報
学校での困難の様子。
6. 他疾患の除外
視力障害、聴力障害、知的障害、脳の器質的疾患などを除外。
診断を行う専門家
小児神経科医、児童精神科医
医学的診断。
心理士、言語聴覚士
心理検査、言語評価。
作業療法士
微細運動能力、視覚運動統合の評価。
学校心理士、特別支援教育コーディネーター
学校での評価。
早期発見の重要性
早期に発見し、適切な支援を開始することで、学習の遅れを最小限に抑え、二次的な問題(自己評価の低下、学習意欲の喪失)を予防できます。
支援と治療
ディスグラフィアを「治す」特効薬はありませんが、適切な支援により困難を軽減し、学習を進めることができます。
1. 教育的支援(最も重要)
個別指導計画(IEP)の作成
子どもの特性に応じた個別の教育支援計画を作成。
特別支援教育
- 通級指導教室: 週に数時間、個別または小集団で特別な指導を受ける
- 特別支援学級: 少人数で個別のニーズに応じた指導
- 特別支援学校: 重度の場合
通常学級での合理的配慮
- 板書の量を減らす、プリントを配布
- ノートのコピーを提供(友達のノートをコピー)
- 時間延長(テスト、課題提出)
- 口頭での回答を認める
- 選択式問題を増やす
- 漢字の書き取りの量を減らす、読めればOKとする
- 座席の配慮(前の席、黒板の見やすい位置)
書字指導の工夫
- マスの大きいノートを使う
- 太い鉛筆、書きやすいペンを使う
- 鉛筆グリップを使用
- なぞり書き、点つなぎから始める
- 一画ずつ確認しながら書く
- 多感覚アプローチ(見る、聞く、触る、動くを組み合わせる)
- 砂、粘土で文字を作る
- 空書き(空中で文字を書く)
漢字学習の工夫
- 部首の理解
- 漢字の成り立ち、意味を教える
- 視覚的イメージと結びつける
- 繰り返し練習(短時間を何度も)
- ICTの活用(漢字学習アプリ)
作文指導の工夫
- マインドマップ、アウトラインを使う
- 型を提供する(起承転結など)
- 短い文から始める
- 口頭で話してから書く
- 代筆(親や教師が本人の話を書く)
2. 代替手段・補助技術の活用(ICT)
タブレット、パソコンの使用
- タイピング練習(タッチタイピング)
- ワープロソフトで文章作成
- 音声入力の利用
デジタル教科書
拡大、音声読み上げ機能。
OCR(光学文字認識)
教科書や板書を写真に撮り、テキストデータ化。
音声録音
授業を録音し、後で聞き直す。
学習支援アプリ
漢字学習アプリ、作文支援アプリなど。
電子辞書、タブレット辞書
手書き入力で漢字を検索。
合理的配慮としてのICT利用
学校でのタブレット、パソコンの使用を認めてもらう。テストでのタイピング解答を認めてもらう。
3. 作業療法(OT)
微細運動スキルの訓練
- 手指の巧緻性を高める活動(折り紙、ビーズ通し、粘土など)
- 鉛筆の持ち方の指導
- 運筆練習(線を引く、なぞるなど)
視覚-運動統合の訓練
見たものを正確に書き写す練習。
姿勢、体幹の安定
適切な姿勢で書けるよう、体幹を強化。
感覚統合療法
感覚処理の問題がある場合。
4. 認知トレーニング
ワーキングメモリの訓練
書字にはワーキングメモリ(作業記憶)が重要。訓練により改善する可能性。
視空間認知の訓練
パズル、積み木など。
5. 心理的サポート
カウンセリング
自己評価の低下、不安、抑うつへの対応。
ソーシャルスキルトレーニング
対人関係のスキル。
自己理解の促進
自分の特性を理解し、対処法を学ぶ。
自己擁護スキル
自分に必要な支援を求めるスキル。
6. 家庭でのサポート
理解と受容
本人の努力を認め、励ます。結果だけでなく過程を評価。
圧力をかけない
「もっと丁寧に書きなさい」と言っても改善しません。
宿題のサポート
- 量を調整(学校と相談)
- 代筆も選択肢
- ICTの活用
強みを活かす
書字以外の得意なこと(絵、音楽、スポーツ、口頭表現など)を伸ばす。
環境調整
- 静かな学習環境
- 適切な机と椅子
- 照明
7. 薬物療法
ディスグラフィア自体を治す薬はありません。ただしADHDを併存している場合、ADHD治療薬(メチルフェニデート、アトモキセチンなど)により注意力が改善し、書字能力も向上することがあります。
学校での配慮(合理的配慮)
合理的配慮とは
障害者差別解消法により、学校は障害のある子どもに合理的配慮を提供する義務があります。
合理的配慮の例
- 板書をプリントで配布
- ノートテイカー(友達のノートをコピー)
- テストの時間延長
- テストの解答方法の変更(口頭、選択式、タイピング)
- 漢字書き取りの量の軽減
- 宿題の量の調整
- タブレット、パソコンの使用許可
- デジタル教科書の使用
- 録音の許可
学校との連携
医師の診断書を提出
ディスグラフィアの診断書を学校に提出。
具体的な困難と必要な配慮を説明
どのような困難があり、どのような配慮が必要か、具体的に伝える。
定期的な面談
担任、特別支援コーディネーター、校長と定期的に話し合い。
個別の教育支援計画の作成
学校と協力して、支援計画を作成。
進学・受験での配慮
高校入試、大学入試
ディスグラフィアは受験での配慮の対象です。
配慮の例
- 試験時間の延長(1.3倍、1.5倍など)
- 別室受験
- 解答方法の変更(パソコン入力、口頭解答)
- 問題用紙の拡大
申請
事前に診断書を提出し、配慮を申請する必要があります。入試の数ヶ月前に手続きが必要なことが多いです。
二次的問題の予防
学習意欲の低下を防ぐ
成功体験を積む
できることから始め、小さな成功を重ねる。
過程を評価
結果だけでなく、努力の過程を認める。
多様な評価方法
書字だけで評価せず、口頭発表、実技、プロジェクトなど多様な方法で評価。
自己評価の低下を防ぐ
特性の理解
「自分はダメ」ではなく、「脳の働き方が違う」と理解させる。
強みを認識
書字以外の得意なことを見つけ、伸ばす。
著名人の例
学習障害を持ちながら成功した著名人の例を紹介。
いじめ・孤立を防ぐ
周囲の理解
クラスメートに適切に説明(本人・保護者の同意のもと)。
教師の配慮
教師が理解し、適切に対応することでいじめを防ぐ。
精神的問題への対応
不安、抑うつ、自尊心の低下が見られる場合、カウンセリングや心理療法を検討。必要なら精神科受診。
大人のディスグラフィア
診断されないまま大人になる
多くの大人が、子どもの頃にディスグラフィアと診断されないまま成人しています。
影響
- 学歴、職業選択への影響
- 仕事での困難(報告書作成、メモ取りなど)
- 自己評価の低下
大人になってからの対応
診断
精神科、心療内科、または学習障害専門医で診断を受けられます。
職場での配慮
- 障害の開示(任意)
- 合理的配慮の依頼(パソコン使用、音声入力、口頭報告など)
- 障害者雇用枠の活用
代替手段の活用
- パソコン、タブレットの積極的使用
- 音声入力
- 録音
自己理解
自分の特性を理解し、対処法を身につける。
まとめ
ディスグラフィアは、知的発達に問題はないものの、文字を書くことに著しい困難が生じる学習障害です。
文字が整わない、書くのが極端に遅い、板書や作文が難しいなどの症状が見られ、努力不足ではなく脳の特性によるものです。
診断は専門的検査で行われ、支援の中心は教育的配慮と代替手段の活用です。タブレットやパソコンの使用、時間延長などにより学習は十分可能で、早期発見と支援が重要です。

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