1.ストレスはてんかん発作の重要な誘因
「突然、意識を失った」「けいれんが起きた」大人になってから初めててんかん発作を経験すると、大きな不安を感じます。また、「ストレスが多いと発作が起きやすい」と感じている方も多いでしょう。
ストレスは、てんかん発作を誘発する重要な要因の一つです。ストレス自体がてんかんの直接的な原因ではありませんが、てんかんを持つ人にとって、ストレスは発作のリスクを高めます。
重要なのは、大人のてんかんには多様な原因があり、適切な診断と治療により、発作をコントロールできるということです。ストレスを管理し、規則正しい生活を送り、処方された薬を正しく服用することで、多くの人が発作を抑え、普通の生活を送っています。
2. てんかんとは
まず、てんかんについて基本的な理解を深めましょう。
定義
てんかんは、脳の神経細胞が過剰に興奮することで、発作を繰り返す慢性的な脳の疾患です。1回だけ発作が起きただけでは、てんかんとは診断されません。2回以上、原因不明の発作が起きた場合、てんかんと診断されます。
症状(発作の種類)
てんかん発作は、大きく2つに分類されます。
部分発作(焦点発作) 脳の一部から発作が始まります。
- 単純部分発作:意識は保たれ、体の一部がけいれんする、感覚異常がある、など
- 複雑部分発作:意識が障害され、ぼんやりする、無目的な動作をする、など
全般発作 脳全体が一度に興奮します。
- 強直間代発作(大発作) 意識を失い、全身がけいれんする
- 欠神発作 数秒から十数秒、意識がなくなる(ぼーっとする)
- ミオクロニー発作 一瞬、手足がピクッと動く
有病率
日本では、約100万人(人口の約1%)がてんかんを持っているとされています。年齢を問わず発症しますが、子どもと高齢者に多いです。
大人のてんかんの特徴
大人のてんかんは、子どもの頃から続いている場合と、大人になってから初めて発症する場合があります。
大人になってから発症する場合
- 脳の病気(脳梗塞、脳腫瘍、頭部外傷など)が原因のことが多い
- 原因不明のこともある
- 発作の種類は、部分発作が多い
3. 大人のてんかんの原因
大人のてんかんには、さまざまな原因があります。
脳の器質的な病変
脳血管障害
- 脳梗塞、脳出血、くも膜下出血
- 大人のてんかんの最も多い原因の一つ
頭部外傷
- 交通事故、転倒などによる頭部の外傷
- 外傷後、数ヶ月から数年経ってから発症することもある
脳腫瘍
- 良性、悪性を問わず、脳腫瘍がてんかんの原因となることがある
脳炎・髄膜炎
- 感染症による脳の炎症
脳の奇形
- 生まれつきの脳の構造異常
アルツハイマー病などの認知症
- 高齢者のてんかんの原因となることがある
遺伝的要因
一部のてんかんは、遺伝的な要因が関係しています。家族にてんかんの人がいると、リスクがやや高まります。
代謝異常・電解質異常
- 低血糖、低ナトリウム血症、低カルシウム血症など
- アルコール離脱(急にアルコールをやめたとき)
薬物・薬剤
- 一部の薬(抗精神病薬、抗うつ薬など)の副作用
- 違法薬物(覚醒剤、コカインなど)の使用
原因不明(特発性てんかん)
検査をしても、明らかな脳の異常が見つからない場合、「特発性てんかん」「原因不明のてんかん」と診断されます。大人のてんかんの30〜40%は原因不明です。
4. ストレスとてんかんの関係
ストレスは、てんかんの直接的な原因ではありませんが、発作を誘発する重要な要因です。
ストレスが発作を誘発するメカニズム
ストレスは、脳の興奮性を高めます。てんかんを持つ人の脳は、もともと過剰に興奮しやすい状態にあるため、ストレスが加わると、発作の閾値が下がり、発作が起きやすくなります。
ストレスの種類
精神的ストレス
- 仕事のプレッシャー
- 人間関係のトラブル
- 家族の問題
- 経済的な不安
- 生活の変化(転職、引っ越し、結婚、離婚など)
身体的ストレス
- 睡眠不足、疲労
- 病気、怪我
- 過度な運動
ストレスと発作の関連を示す研究
多くの研究で、てんかん患者の50〜70%が「ストレスで発作が増える」と感じていることが報告されています。
ストレスだけでてんかんになるか?
いいえ。ストレスだけが原因で、てんかんを発症することは通常ありません。ただし、てんかんを持つ人にとって、ストレスは発作のリスクを高める要因です。
5. その他の発作の誘因
ストレス以外にも、発作を誘発する要因があります。
睡眠不足
最も重要な誘因の一つです。睡眠不足は、脳の興奮性を高め、発作のリスクを大幅に上げます。
飲酒
アルコールは、発作の閾値を下げます。また、アルコール離脱(急にやめたとき)も、発作を誘発します。
薬の飲み忘れ
抗てんかん薬を飲み忘れると、血中濃度が下がり、発作のリスクが高まります。
光刺激
テレビ、パソコン、スマートフォンの画面、ちらつく光、パチンコ店の光などが、発作を誘発することがあります(光感受性てんかん)。
発熱
風邪やインフルエンザなどで発熱すると、発作が起きやすくなります。
過換気(過呼吸)
深く速い呼吸をすると、発作が誘発されることがあります。
ホルモンの変化(女性)
月経前、排卵期に発作が増えることがあります(月経関連てんかん)。
特定の刺激
音楽、読書、計算など、特定の活動が発作を誘発する稀なタイプもあります。
6. 症状と診断
大人のてんかんの症状と診断方法を説明します。
発作の前兆(前駆症状)
発作の前に、以下のような前兆を感じることがあります。
- 違和感、不快感
- 頭痛
- イライラ、不安
- 奇妙な匂いや味を感じる
- 既視感(デジャヴ)
発作中の症状
発作の種類によって異なります(前述)。
発作後の症状
- 意識がぼんやりする
- 頭痛、筋肉痛
- 疲労感
- 記憶障害(発作中のことを覚えていない)
診断方法
問診
- 発作の詳しい様子(本人、目撃者から)
- 発作の頻度、きっかけ
- 既往歴、家族歴
脳波検査(EEG) てんかんの診断に最も重要な検査です。脳の電気活動を記録し、てんかん性の異常波がないか調べます。
画像検査
- MRI 脳の構造を詳しく調べ、腫瘍、梗塞、奇形などを発見します
- CT 緊急時に行われることが多いです
血液検査 代謝異常、電解質異常、感染症などを調べます。
診断のポイント
1回の発作では、てんかんと確定できません。2回以上、原因不明の発作が起きた場合、てんかんと診断されます。
7. 治療方法
てんかんの治療は、主に薬物療法です。
薬物療法
抗てんかん薬 発作を予防する薬です。毎日規則正しく服用することで、発作をコントロールします。
主な抗てんかん薬
- カルバマゼピン(テグレトール)
- バルプロ酸(デパケン)
- レベチラセタム(イーケプラ)
- ラモトリギン(ラミクタール)
- レボノルゲストレル(フィコンパ)
など、多くの種類があります。発作の種類に応じて、医師が選択します。
服薬のポイント
- 決められた時間に、決められた量を服用する
- 自己判断で中止しない(急に中止すると、重篤な発作が起きることがある)
- 飲み忘れたときの対処法を医師に確認しておく
副作用 眠気、めまい、ふらつき、食欲不振、発疹などが起きることがあります。気になる症状があれば、医師に相談してください。
外科治療
薬物療法で発作がコントロールできない場合、手術を検討することがあります。
- 発作を起こす脳の部位を切除する
- 迷走神経刺激療法(VNS)
生活指導
- 規則正しい生活
- 十分な睡眠
- ストレス管理
- アルコールを控える
- 光刺激を避ける
8. ストレス管理と発作予防
ストレスを管理し、発作を予防する方法を紹介します。
ストレス管理
リラクゼーション
- 深呼吸、瞑想、ヨガ
- 好きな音楽を聴く
- 趣味を楽しむ
運動 適度な運動は、ストレスを軽減します。ただし、過度な運動は避けましょう。
カウンセリング ストレスや不安が強い場合、カウンセリングを受けることも有効です。
生活の見直し
- 仕事量を調整する
- 人間関係を見直す
- 無理をしない
睡眠を十分にとる
毎日7〜8時間の睡眠を確保します。規則正しい就寝・起床時間を守りましょう。
アルコールを控える
アルコールは、発作のリスクを高めます。できるだけ控えるか、適量にとどめます。
薬を正しく服用する
飲み忘れを防ぐため、以下の工夫をします。
- アラームを設定する
- 薬を目につく場所に置く
- お薬カレンダーを使う
発作の記録をつける
いつ、どのような状況で発作が起きたかを記録します。誘因を特定し、対策を立てるのに役立ちます。
光刺激を避ける
光感受性てんかんの場合、以下の工夫をします。
- テレビやパソコンの画面を見る時間を制限する
- 画面から距離を取る
- 部屋を明るくする
- サングラスをかける
9. てんかんと仕事・日常生活
てんかんを持ちながら、仕事や日常生活を送るためのポイントです。
職場への対応
伝えるべきか? 法律上、てんかんであることを申告する義務はありません。ただし、発作が起きたときの対応のため、信頼できる上司や同僚には伝えておくことが推奨されます。
配慮を求める
- 夜勤を避ける
- ストレスの少ない部署への配置
- 規則正しい勤務時間
運転について
てんかんの人は、一定の条件を満たさない限り、運転免許の取得・更新ができません。
運転可能な条件
- 発作が過去2年以上起きていない
- 医師が「運転に支障がない」と判断した場合
詳しくは、医師や運転免許センターに確認してください。
日常生活の注意点
入浴 一人での入浴中に発作が起きると、溺れる危険があります。
- シャワーを使う
- 浴槽の水位を低くする
- 家族に声をかけてから入る
高所作業 脚立やはしごに登る作業は避けましょう。
水泳 一人での水泳は避け、必ず監視者と一緒に行います。
自転車 発作が起きると、事故につながります。発作が完全にコントロールされるまでは、避けるか、慎重に乗りましょう。
10. よくある質問(FAQ)
Q ストレスだけで、てんかんになることはありますか? A いいえ。ストレスだけが原因で、てんかんを発症することは通常ありません。ただし、てんかんを持つ人にとって、ストレスは発作のリスクを高める要因です。
Q てんかんは治りますか? A 発作の種類や原因によります。薬物療法で70〜80%の人が発作をコントロールでき、一部の人は薬を中止しても発作が起きなくなります。ただし、慢性的に治療が必要な場合もあります。
Q 薬を一生飲み続けなければいけませんか? A 必ずしもそうではありません。発作が数年間起きておらず、脳波が正常化した場合、医師の判断で薬を減量・中止できることがあります。ただし、自己判断で中止してはいけません。
Q 妊娠・出産は可能ですか? A はい、可能です。ただし、抗てんかん薬の一部は、胎児に影響を与える可能性があります。妊娠を希望する場合は、事前に医師に相談し、薬の調整を行います。
Q 遺伝しますか? A 一部のてんかんには遺伝的要因がありますが、必ず遺伝するわけではありません。親がてんかんでも、子どもが発症しないことの方が多いです。
Q 発作が起きたら、どうすればいいですか? A 周囲にいた場合、以下の対応をします。
- 安全な場所に移動させる(頭を打たないよう保護)
- 衣服を緩める
- 横向きに寝かせる(嘔吐物による窒息を防ぐ)
- 時間を計る
- 口に物を入れない(舌を噛む心配は不要)
- 発作が5分以上続く、または連続して起きる場合は、救急車を呼ぶ
Q てんかんがあることを周囲に知られたくありません。 A あなたのプライバシーは保護されます。ただし、発作が起きたときの安全のため、信頼できる人には伝えておくことが推奨されます。
Q ストレスを減らしても、発作が起きます。 A ストレス以外にも、睡眠不足、薬の飲み忘れ、アルコール、光刺激など、さまざまな誘因があります。発作の記録をつけ、医師と相談して、誘因を特定しましょう。
まとめ
大人のてんかんは、適切な診断と治療により、発作をコントロールできます。ストレスは発作の重要な誘因ですが、ストレス管理、規則正しい生活、正しい服薬により、多くの人が普通の生活を送っています。一人で悩まず、専門医に相談し、適切な治療を受けてください。てんかんを持ちながらも、充実した人生を送ることは十分に可能です。

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