多賀大社の歴史と由緒
多賀大社は滋賀県犬上郡多賀町に鎮座する、古事記にも記される日本最古級の神社です。お多賀さんの愛称で親しまれ、古くから生命の神、延命長寿の神として全国的な崇敬を集めてきました。伊邪那岐大神と伊邪那美大神の二柱を祀る神社として、日本の国造り神話と深く結びついています。
主祭神の伊邪那岐大神と伊邪那美大神は、日本の国土と神々を生んだ夫婦神です。古事記や日本書紀に記される国生み神話の中心的な神様であり、生命の源、万物の祖神として崇められています。この二柱が鎮まる地として、多賀大社は特別な霊力を持つとされてきました。
創建の年代は不詳ですが、奈良時代の古文書にはすでに多賀大社の名が見られ、少なくとも1300年以上の歴史があることは確実です。平安時代には既に朝廷からの崇敬が厚く、国家の重要な神社として位置づけられていました。
中世には武家からの信仰も集め、源頼朝や足利尊氏、豊臣秀吉など、多くの武将が参拝したと記録されています。特に豊臣秀吉は、母親の病気平癒を祈願して米一万石を寄進し、願いが叶ったことから、太閤橋を奉納したという逸話が残っています。
江戸時代には庶民の間でもお多賀参りが盛んになり、伊勢参宮の後に多賀大社に参拝することが一般的になりました。お伊勢参らばお多賀へ参れ、お伊勢お多賀の子でござると謡われ、伊勢神宮と並ぶ重要な参拝先として栄えました。
現在も年間約170万人もの参拝者が訪れ、特に正月には約50万人の初詣客で賑わいます。滋賀県を代表する神社として、地域の人々の信仰の中心であり続けています。
境内の見どころ
多賀大社の境内には、歴史を感じさせる見どころが数多くあります。太閤橋は豊臣秀吉が母の病気平癒のお礼に奉納した反橋です。太鼓橋とも呼ばれる美しい弧を描く朱塗りの橋で、多賀大社のシンボルの一つです。現在は通行できませんが、その優美な姿は参拝者を迎える印象的な光景を作り出しています。
表参道を進むと、立派な鳥居と神門が現れます。神門は入母屋造の堂々とした建物で、多賀大社の格式の高さを示しています。
拝殿は大きく開放的な造りで、多くの参拝者が祈りを捧げる場所です。拝殿の奥には本殿があり、伊邪那岐大神と伊邪那美大神が鎮座されています。本殿は檜皮葺の美しい社殿で、神聖な雰囲気に満ちています。
寿命石という不思議な石が境内にあります。伊邪那岐大神が天照大神に授けたという伝説の石で、この石に触れると長寿のご利益があるとされています。多くの参拝者がこの石に手を触れ、健康長寿を祈願します。
奥書院庭園は国の名勝に指定されている美しい庭園です。江戸時代初期に作られた池泉観賞式庭園で、四季折々の風景が楽しめます。春のしだれ桜、秋の紅葉が特に美しく、庭園を眺めながら静かな時間を過ごすことができます。
太閤蔵と呼ばれる建物もあります。豊臣秀吉が寄進した米を保管した蔵で、歴史的な価値のある建造物です。
境内には古い杉の巨木が立ち並び、長い歴史を物語っています。樹齢数百年の御神木からは、神聖なエネルギーが感じられます。
授与所では、様々なお守りや御札が授与されています。特に延命長寿のお守り、しゃもじ守りは多賀大社ならではの授与品として人気があります。
延命長寿と縁結びのご利益
多賀大社の最も有名なご利益は、延命長寿です。生命の神を祀ることから、健康長寿、病気平癒、無病息災を願う参拝者が多く訪れます。特に高齢者や病気を患っている人、家族の健康を願う人々の信仰が厚いです。
お多賀杓子、通称おたまじゃくしは多賀大社の名物です。このしゃもじ型の御守りは、延命長寿のシンボルとして古くから信仰されてきました。おたまじゃくしという言葉の語源もお多賀杓子から来ているとされ、長寿のお守りとして全国的に知られています。
縁結びのご利益も有名です。伊邪那岐大神と伊邪那美大神は日本最古の夫婦神であり、良縁成就、夫婦円満、子授けのご利益があるとされています。カップルや結婚を望む人々も多く参拝します。
厄除けのご利益も信じられています。人生の節目に訪れ、厄を祓い、新しいスタートを切るための祈願をする人も多くいます。
家内安全、商売繁盛などの一般的なご利益も広く信仰されています。地域の守護神として、人々の生活全般を見守る神様です。
子宝、安産のご利益を求める人もいます。生命を生み出す神様として、子どもを授かりたい夫婦、安産を願う妊婦が参拝します。
また伊勢神宮の祭神である天照大神の親神を祀ることから、伊勢神宮と深い関係があり、両方を参拝することで、より大きなご利益があるとされてきました。
年間の祭事と行事
多賀大社では、年間を通じて様々な祭事が行われています。1月1日から3日の正月三が日は、初詣で大変賑わいます。約50万人もの参拝者が訪れ、新年の無事と繁栄を祈願します。元日には歳旦祭が執り行われます。
1月18日から20日には古例大祭が行われます。多賀大社で最も重要な祭礼で、1200年以上の歴史を持つ伝統的な神事です。3日間にわたって様々な神事が執り行われ、特に馬頭人と呼ばれる特殊な装束を身につけた神職が登場する儀式は、他では見られない独特なものです。
4月22日は春の例祭が行われます。五穀豊穣と地域の安寧を祈願する祭りで、神輿渡御や奉納行事が執り行われます。
5月3日には競馬式という神事があります。2頭の馬が競走する古式ゆかしい神事で、その年の豊凶を占うとされています。勇壮な馬の疾走は見応えがあります。
8月の古式古例夏季大祭万灯祭は、夜に約1万個の提灯が灯される幻想的な祭りです。境内が提灯の明かりで照らされる光景は、とても美しく神秘的です。
9月には秋季例大祭が行われます。秋の実りに感謝し、豊作を祝う祭りです。
11月には新嘗祭が執り行われ、その年の収穫に感謝する神事が行われます。
これらの祭事は、古くからの伝統を今に伝えるものであり、地域の人々の生活と深く結びついています。
お多賀杓子と糸切餅
多賀大社を訪れたら、ぜひ手に入れたいのがお多賀杓子です。しゃもじ型をした木製のお守りで、延命長寿のシンボルとして古くから信仰されてきました。
お多賀杓子の由来には諸説ありますが、最も有名なのは醍醐天皇の故事です。醍醐天皇が病に伏せた際、多賀大社に勅使を遣わして祈願したところ、強飯を盛る杓子を授けられました。その杓子を使って食事をしたところ、天皇の病気が治り、延命したという伝説があります。
以来、お多賀杓子は延命長寿のお守りとして信仰され、家の神棚に祀ったり、台所に飾ったりする習慣が広まりました。また赤ちゃんの初めての食事、お食い初めにも使われます。
糸切餅も多賀大社の名物です。多賀大社の門前町で売られている伝統的な和菓子で、約800年の歴史があります。白い餅を薄く伸ばし、あんこを包んで、赤と青と黄色の3本の線が入った独特の形をしています。
糸切餅の名前の由来は、武将が戦の際に腰に下げた兵糧として、刀で切って食べたことから来ているとされています。また蒙古襲来の際、亀山上皇が多賀大社に祈願し、その際に供えた餅が起源とも言われています。
糸切餅は素朴な甘さで、上品な味わいです。多賀大社参拝の土産として、また贈答品としても人気があります。門前の複数の店で購入でき、各店で微妙に味わいが異なるため、食べ比べも楽しめます。
奥書院庭園の四季
多賀大社の奥書院庭園は、国の名勝に指定されている美しい庭園です。江戸時代初期、小堀遠州の作とも伝えられる池泉観賞式庭園で、四季折々の景色が楽しめます。
春は、しだれ桜が見事です。樹齢約300年の古木が、薄紅色の花を咲かせる様子は圧巻です。桜の花が池に映る光景は、まさに絵画のような美しさです。桜の時期には、庭園が特別公開され、多くの人が訪れます。
初夏には新緑が美しく、青々とした木々が生命力に満ちています。池の周りを散策しながら、清々しい空気を感じることができます。
秋は紅葉が素晴らしいです。モミジやカエデが赤や黄色に色づき、庭園全体が錦絵のようになります。池に映る紅葉も美しく、秋の多賀大社の代表的な景観です。
冬は雪化粧した庭園が静謐な美しさを見せます。雪に覆われた庭園は、墨絵のような風情があります。
庭園内には茶室もあり、お茶席が設けられることもあります。美しい庭を眺めながらいただくお茶は、格別な味わいです。
奥書院庭園の拝観は有料で、時期によって公開時間が異なります。特に桜と紅葉の時期は夜間ライトアップも行われ、昼間とは異なる幻想的な雰囲気を楽しめます。
アクセスと参拝情報
多賀大社へのアクセスは、電車または車が便利です。電車の場合、近江鉄道多賀線の多賀大社前駅が最寄りで、駅から徒歩約10分です。JR東海道本線の彦根駅で近江鉄道に乗り換えます。彦根駅からは約15分です。
車の場合、名神高速道路の彦根インターから約10分です。境内に無料の駐車場があり、約300台駐車できます。ただし正月や祭礼の際は大変混雑するため、公共交通機関の利用が推奨されます。
参拝時間は基本的に自由ですが、祈祷受付や授与所の営業時間は午前8時から午後5時頃までです。奥書院庭園の拝観時間も決まっているため、訪れる際は事前に確認することをおすすめします。
御朱印は授与所でいただけます。多賀大社オリジナルの御朱印帳も販売されており、記念になります。
服装は特に決まりはありませんが、神社という神聖な場所であることを意識した服装が望ましいです。祈祷を受ける場合は、きちんとした服装で訪れることが礼儀です。
周辺には彦根城、琵琶湖などの観光スポットもあり、多賀大社参拝と合わせて訪れる人も多くいます。門前町には食事処や土産物店も並び、参拝後の散策も楽しめます。
多賀大社は、生命の神を祀る古社として、延命長寿、縁結びの信仰を集めてきました。豊臣秀吉の逸話、お多賀杓子の伝統、美しい庭園など、歴史と文化が息づく神社です。お伊勢参らばお多賀へ参れと謡われた古来からの参拝の地で、心静かに祈りを捧げる時間は、日常を離れた特別な体験となるでしょう。生命への感謝、健康への祈り、良縁への願いを込めて、多賀大社を訪れてみてはいかがでしょうか。

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