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はじめに
「褒められると恥ずかしくて逃げたくなる」「お世辞だと思ってしまう」「褒め言葉を素直に受け取れない」――褒められることに戸惑い、不快感や不安を感じる人は少なくありません。
褒め言葉は本来、人を喜ばせ、関係を深めるためのものです。しかし、なぜか褒められると居心地が悪く、否定したくなったり、話題を変えたくなったりする――この反応には、深い心理的な理由があります。本記事では、褒められることへの戸惑いの背景を解説し、称賛を受け取る力を育てるための具体的な方法をご紹介します。
褒められると戸惑う心理的背景
低い自己肯定感と認知的不協和
自己肯定感が低い人は、「自分には価値がない」「自分は褒められるような人間ではない」という自己イメージを持っています。そこに他者からの称賛が入ってくると、自分の持つ自己イメージと他者の評価の間に矛盾(認知的不協和)が生じます。
この矛盾は心理的に不快なため、脳は無意識のうちに矛盾を解消しようとします。「相手はお世辞を言っているだけだ」「本当の自分を知らないから褒めているんだ」と解釈することで、自己イメージを守ろうとするのです。
条件付きの愛情と完璧主義
幼少期に、成果や成績が良い時だけ褒められ、失敗した時は叱られるという条件付きの承認の中で育つと、褒め言葉を「期待」や「プレッシャー」として受け取るようになります。
「褒められた=次もそれ以上の結果を出さなければならない」という重圧を感じ、褒められることが苦痛になってしまうのです。また、完璧主義の人は「まだ完璧ではない」と感じているため、褒め言葉が不正確に思え、受け入れられません。
謙遜を美徳とする文化的背景
日本の文化では、謙遜が美徳とされ、自分を褒めたり、褒め言葉を素直に受け取ったりすることが「傲慢」「図々しい」と見なされる傾向があります。「そんなことないです」「いえいえ、全然です」と否定することが礼儀正しい反応とされてきました。
この文化的価値観を内面化すると、褒め言葉を受け取ること自体に罪悪感や不安を感じるようになります。
注目されることへの恐怖
褒められることは、注目を集めることでもあります。社交不安や対人恐怖を持つ人にとって、自分に注意が向けられることは強いストレスです。
褒められると、「これからもっと期待される」「失敗したら失望される」「監視される」という不安が生まれ、注目から逃れたくなります。
過去の裏切りやトラウマ
過去に、褒められた後に裏切られた、褒め言葉が皮肉や嫌味だった、褒められた後に突き落とされた――こうした経験があると、褒め言葉そのものに警戒心を持つようになります。
「褒める=何か裏がある」「褒められた後に何か悪いことが起こる」という連想が形成され、称賛を素直に受け取れなくなるのです。
他者との比較と相対的評価
常に他者と自分を比較する習慣があると、褒められても「でもあの人の方が優れている」「自分なんてまだまだだ」という思考が働き、褒め言葉を受け入れられません。
相対的な評価の中で生きていると、絶対的な評価としての称賛を受け取る能力が失われてしまいます。
インポスター症候群
実際に成果を上げているにもかかわらず、「自分は詐欺師のようなものだ」「いつかバレる」と感じる「インポスター症候群」の人は、褒め言葉を受け取ることが特に困難です。
成功を「運」や「偶然」に帰属させ、自分の能力や努力を認めないため、褒められると「誤解されている」「本当の自分を知らない」と感じてしまいます。
親密さへの恐れ
褒め言葉は、相手からの好意や親密さの表現でもあります。親密な関係を恐れる人、過去に親密な関係で傷ついた経験がある人は、褒められることで相手との心理的距離が近づくことに不安を感じます。
親密さを避けるために、褒め言葉を拒絶したり、話題を変えたりする反応が現れます。
褒められた時の典型的な反応パターン
否定・謙遜
「いえいえ、全然です」「そんなことないですよ」「たまたまです」と、褒め言葉を即座に否定する反応です。日本では最も一般的なパターンですが、過度な謙遜は相手の善意を否定することにもなります。
話題の転換
褒められた話題から素早く逃げ、別の話に移る、または相手を褒め返すことで注目から逃れようとします。「それより、あなたの方が…」と返すことで、焦点をずらすのです。
冗談化・軽視
「いやいや、ただのラッキーですよ」「適当にやっただけです」と冗談めかして軽く扱うことで、褒め言葉の重みを軽減しようとします。
防衛的な反応
「どうせお世辞でしょう」「何か企んでいるんでしょう」と、相手の意図を疑い、防衛的な態度を取ります。これは過去のトラウマや信頼関係の問題が背景にあることが多いです。
身体的反応
顔が真っ赤になる、目を合わせられなくなる、落ち着きがなくなる、逃げたくなるなど、身体的な不快反応が現れます。これは社交不安の一種です。
褒め言葉を受け取れないことの影響
人間関係への悪影響
褒め言葉を拒絶し続けることは、相手の善意を否定することにもなります。「せっかく褒めたのに」と相手が傷ついたり、距離を感じたりすることで、関係が深まりにくくなります。
また、自分から褒めることも苦手になり、双方向の肯定的なコミュニケーションが成立しにくくなります。
自己肯定感のさらなる低下
褒め言葉を受け取らないことは、自己肯定感を育てる機会を失うことでもあります。他者からのポジティブなフィードバックは、自己イメージを修正する重要な情報源ですが、それを拒絶し続けることで、否定的な自己イメージが強化されてしまいます。
キャリアへの影響
職場で上司や同僚からの称賛を受け取れないことは、自分の成果や能力を正当に評価できないことにつながります。昇進や新しい機会の打診を「自分には相応しくない」と断ってしまうこともあります。
精神的なストレス
褒められるたびに戸惑い、不安や緊張を感じることは、慢性的なストレスとなります。本来喜ばしいはずの場面が苦痛になることで、社交場面全般への不安が高まります。
褒め言葉を受け取る力を育てる方法
ステップ1:自分の反応パターンに気づく
まず、褒められた時の自分の反応パターンを観察しましょう。どんな言葉を返しているか、どんな感情が湧いているか、身体はどう反応しているかに気づくことが第一歩です。
日記やメモに記録することで、パターンが明確になります。
ステップ2:シンプルに「ありがとう」と言う練習
褒められた時、長々と説明したり否定したりせず、ただ「ありがとうございます」とシンプルに返す練習をしましょう。最初は違和感があっても、繰り返すことで慣れていきます。
「ありがとう」の後に何も付け加えない勇気を持つことが重要です。「でも」「いや」「そんなことないです」を我慢する練習です。
ステップ3:褒め言葉を一旦保留する
褒め言葉を即座に否定するのではなく、「そう言っていただけて嬉しいです」「そう見ていただけて光栄です」と、相手の気持ちを受け取る返答をします。
自分が納得しているかどうかは別として、まず相手の善意を受け止めることができます。
ステップ4:褒め言葉を記録する
褒められたことを日記やノートに記録しましょう。何について褒められたか、誰に褒められたか、どんな言葉で褒められたかを書き留めます。
時間が経ってから読み返すと、客観的に見ることができ、「確かにこういう面もあるかもしれない」と受け入れやすくなります。
ステップ5:褒め言葉の真意を考える
「お世辞だ」「裏がある」と決めつける前に、相手が本当に何を伝えようとしているのかを考えてみましょう。多くの場合、人は純粋に好意や感謝、尊敬を表現しようとしているだけです。
相手の動機を疑うのではなく、善意を前提として受け取る練習をします。
ステップ6:部分的に受け入れる
すべての褒め言葉を全面的に受け入れる必要はありません。「完全にその通り」とは思えなくても、「そういう面も少しはあるかもしれない」「相手にはそう見えたのだろう」と、部分的に受け入れることから始めましょう。
ステップ7:自己肯定感を育てる
褒め言葉を受け取る力は、自己肯定感と密接に関連しています。前記事で紹介したような、自己肯定感を育てる実践(セルフコンパッション、小さな成功の記録、自己批判の修正など)を並行して行うことで、褒め言葉を受け入れやすくなります。
ステップ8:謙遜と自己否定を区別する
適度な謙遜は美徳ですが、過度な自己否定とは異なります。「まだまだ学ぶことがあります」と謙遜しつつも、「でも努力した部分は認めています」「嬉しいお言葉をありがとうございます」と自分を完全に否定しない表現を使いましょう。
文化的・社会的な視点
日本の謙遜文化を再考する
日本の謙遜文化には良い面もありますが、過度な自己否定は健康的ではありません。現代では、「適度な謙遜と自己肯定のバランス」が求められています。
グローバル化した社会では、「褒められたら否定する」という反応が、相手を困惑させたり、不快にさせたりすることもあります。文化的背景を理解しつつ、柔軟に対応することが大切です。
ジェンダーと褒め言葉
女性は特に、「謙虚であるべき」「目立つべきでない」というジェンダー規範の影響を受けやすく、褒め言葉を受け取りにくい傾向があります。
こうした社会的な圧力に気づき、「褒め言葉を受け取ることは傲慢ではない」と認識することが重要です。
褒める側ができること
具体的に褒める
「すごいですね」という漠然とした褒め方よりも、「このプレゼンテーションの構成が分かりやすくて、とても理解しやすかったです」という具体的な褒め方の方が、受け取りやすくなります。
過程を褒める
結果だけでなく、努力や過程を褒めることで、相手は「運」や「たまたま」と否定しにくくなります。「あなたの粘り強さがすごい」「準備を丁寧にしていましたね」といった褒め方が効果的です。
押し付けない
褒め言葉を否定されても、「そんなことないですよ!」と押し付けるのは逆効果です。相手のペースを尊重し、「そう感じたので伝えたかっただけです」と軽く流すことも大切です。
日常的に肯定する
特別な時だけでなく、日常的に小さな肯定や感謝を伝えることで、相手が褒め言葉に慣れ、受け取りやすくなります。
特殊なケース:トラウマや精神疾患がある場合
複雑性PTSDや愛着障害
過去の虐待やネグレクトの経験がある場合、褒め言葉が「危険の前兆」として認識されることがあります。この場合、トラウマ治療(EMDR、トラウマフォーカスト認知行動療法など)が必要です。
社交不安障害
褒められることへの過度な不安や恐怖がある場合、社交不安障害の可能性があります。認知行動療法や薬物療法が効果的です。
回避性パーソナリティ障害
拒絶や批判への過敏性、親密な関係への恐れが強い場合、回避性パーソナリティ障害の可能性があります。専門的な心理療法が推奨されます。
実践的なエクササイズ
褒め言葉受け取りチャレンジ
1週間、褒められたら必ず「ありがとうございます」とだけ返す挑戦をしてみましょう。否定や謙遜の言葉を我慢し、シンプルに受け取る練習です。
褒め言葉日記
毎日、褒められたこと、肯定的なフィードバックを受けたことを記録します。1週間後、1か月後に読み返すことで、客観的に自分を見る材料になります。
セルフプレイズ(自己称賛)
毎晩、「今日の自分を3つ褒める」時間を作りましょう。他者から褒められる練習の前に、自分で自分を褒める練習をすることで、褒め言葉への抵抗が減ります。
ミラーワーク
鏡の前で自分に褒め言葉をかける練習をします。最初は気恥ずかしいですが、「今日もよく頑張ったね」「あなたは素敵だよ」と声に出すことで、褒め言葉への免疫ができていきます。
まとめ
褒められると戸惑う反応には、低い自己肯定感、認知的不協和、条件付きの愛情、文化的背景、過去のトラウマなど、さまざまな心理的要因が関わっています。この反応は決してあなたの性格の欠陥ではなく、学習された反応パターンです。
褒め言葉を受け取る力は、練習によって育てることができます。シンプルに「ありがとう」と言う練習から始め、褒め言葉を記録し、自己肯定感を高め、謙遜と自己否定を区別することで、少しずつ称賛を受け入れられるようになります。
褒め言葉を受け取ることは、傲慢でも図々しいことでもありません。相手の善意を受け取り、人間関係を深め、自分自身を大切にする行為です。完璧に受け入れる必要はありませんが、少しずつ、自分のペースで、褒め言葉と向き合っていきましょう。
必要に応じて専門家のサポートを受けることも、自分を大切にする選択です。あなたは褒められるに値する存在であり、その称賛を受け取る権利があるのです。
