はじめに
障害のある方やそのご家族にとって、「医療費の負担が大きい」「どんな助成制度があるのか」「自分は対象になるのか」といった疑問は尽きないと思います。医療費助成制度を正しく理解し活用することは、経済的負担を軽減し、必要な医療を受け続ける上で非常に重要です。
障害者向けの医療費助成制度には、様々な種類があります。国の制度である自立支援医療、自治体独自の重度心身障害者医療費助成制度(マル障)、その他の公費負担医療制度など、複数の制度があり、対象となる障害や疾患、所得などによって利用できる制度が異なります。
本記事では、障害者が利用できる主な医療費助成制度、対象者、助成内容、申請方法、そしてよくある質問まで、詳しく解説していきます。
主な医療費助成制度一覧
国の制度
| 制度名 | 対象 | 自己負担 | 所得制限 |
| 自立支援医療(精神通院) | 精神疾患の通院治療 | 原則1割(上限あり) | あり(一定以上) |
| 自立支援医療(更生医療) | 18歳以上の身体障害者の手術等 | 原則1割(上限あり) | あり(一定以上) |
| 自立支援医療(育成医療) | 18歳未満の身体障害児の手術等 | 原則1割(上限あり) | あり(一定以上) |
| 指定難病医療費助成 | 指定難病患者 | 原則2割(上限あり) | あり |
| 小児慢性特定疾病医療費助成 | 18歳未満の特定疾病患者 | 原則2割(上限あり) | あり |
自治体の制度(例 東京都)
| 制度名 | 対象 | 自己負担 | 所得制限 |
| 重度心身障害者医療費助成(マル障) | 重度障害者 | 無料または一部負担 | 自治体により異なる |
注意 自治体独自の制度は、市区町村により内容が大きく異なります。
1. 自立支援医療制度
制度の概要
目的 心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する制度
管轄 国(厚生労働省)の制度
自己負担 原則として医療費の1割負担(残り9割は公費)
自己負担上限額 世帯の所得に応じて月額上限が設定されます
(1) 精神通院医療
対象者 精神疾患があり、通院による精神医療を継続的に要する方
対象となる主な疾患
- 統合失調症
- うつ病、双極性障害(躁うつ病)
- 不安障害
- 薬物依存症
- てんかん
- 認知症
- 高次脳機能障害
- 発達障害(自閉スペクトラム症、ADHD等)
- その他の精神疾患
対象となる医療
- 精神科・心療内科の通院医療
- デイケア
- 訪問看護
- 処方される薬(精神疾患に関するもの)
対象とならない医療
- 入院医療
- 精神疾患以外の医療(内科、歯科など)
自己負担上限額(月額)
| 世帯の所得区分 | 自己負担上限額(月額) |
| 生活保護世帯 | 0円 |
| 市町村民税非課税世帯(本人収入80万円以下) | 2,500円 |
| 市町村民税非課税世帯(本人収入80万円超) | 5,000円 |
| 市町村民税課税世帯(所得割3.3万円未満)<br>※「重度かつ継続」 | 5,000円 |
| 市町村民税課税世帯(所得割3.3万円以上23.5万円未満)<br>※「重度かつ継続」 | 10,000円 |
| 市町村民税課税世帯(所得割23.5万円以上)<br>※「重度かつ継続」 | 20,000円 |
| 市町村民税課税世帯<br>※「重度かつ継続」に該当しない | 対象外(ただし経過措置あり) |
「重度かつ継続」とは 以下のいずれかに該当する場合
- 症状性を含む器質性精神障害、統合失調症、躁うつ病、てんかん、精神作用物質による精神及び行動の障害、その他の精神疾患(3年以上の精神医療経験を有する医師が認定)
- 医療費が高額な治療を継続して受ける必要がある(月額医療費が5万円超)
- 3級以上の精神障害者保健福祉手帳を持っている
有効期間 原則1年間(更新手続きが必要)
申請先 市区町村の障害福祉担当窓口
必要書類
- 自立支援医療(精神通院)支給認定申請書
- 医師の診断書(所定の様式、医師が記入)
- 健康保険証のコピー
- 世帯の所得を証明する書類
- 精神障害者保健福祉手帳(お持ちの場合)
- マイナンバー関連書類
(2) 更生医療
対象者 18歳以上の身体障害者手帳を持っている方
対象となる医療 身体障害を除去・軽減するための医療で、確実な治療効果が期待できるもの
主な対象例
- 人工透析(腎臓機能障害)
- ペースメーカー植込み術、人工弁置換術(心臓機能障害)
- 人工関節置換術(肢体不自由)
- 外耳道形成術、鼓膜穿孔閉鎖術(聴覚障害)
- 角膜移植術、水晶体摘出術(視覚障害)
- 人工肛門造設術(直腸機能障害)
- 抗HIV療法(免疫機能障害)
- その他
自己負担上限額(月額) 精神通院医療と同様の基準
申請先 市区町村の障害福祉担当窓口
必要書類
- 自立支援医療(更生医療)支給認定申請書
- 医師の意見書(所定の様式)
- 身体障害者手帳のコピー
- 健康保険証のコピー
- 世帯の所得を証明する書類
- その他
(3) 育成医療
対象者 18歳未満の身体に障害のある児童、または放置すると将来障害を残すと認められる児童
対象となる医療 確実な治療効果が期待できる手術等
主な対象例
- 先天性心疾患の手術
- 口唇口蓋裂の手術
- 先天性内反足の手術
- 先天性股関節脱臼の手術
- 斜視の手術
- その他の先天性疾患の手術
自己負担上限額(月額) 精神通院医療と同様の基準
申請先 市区町村の障害福祉担当窓口(保健所の場合もあり)
2. 重度心身障害者医療費助成制度(マル障)
制度の概要
目的 重度の障害者の医療費負担を軽減する制度
管轄 都道府県・市区町村の独自制度
重要 自治体により制度名、対象者、助成内容が大きく異なります。以下は一般的な例です。
名称の例
- 重度心身障害者医療費助成制度
- 心身障害者医療費助成制度
- 障害者医療費助成制度
- マル障(東京都など)
- 福祉医療費助成制度
対象者(一般的な例)
身体障害者
- 身体障害者手帳1級・2級
知的障害者
- 療育手帳A判定(重度)
精神障害者
- 精神障害者保健福祉手帳1級
- 自治体により2級も対象となる場合がある
その他
- 65歳以上で一定の障害がある方(後期高齢者医療制度の障害認定を受けた方)
- 自治体により基準が異なる
助成内容(自治体により異なる)
パターン1 全額助成
- 医療費の自己負担分が全額助成される
- 窓口負担が無料になる
パターン2 一部負担金あり
- 1回あたり数百円の自己負担
- 月額上限が設定される場合もある
パターン3 所得制限あり
- 一定以上の所得がある場合、助成が受けられない
対象となる医療
- 保険診療の自己負担分
- 入院・通院の両方
- 薬剤費
- 訪問看護
対象とならないもの
- 保険外診療
- 入院時の食事代
- 差額ベッド代
- 診断書料
所得制限(自治体により異なる)
東京都の例
- 本人の所得が一定額以下
- 扶養親族の数により基準が異なる
所得制限なしの自治体
- 一部の自治体では所得制限がない
申請先
市区町村の障害福祉担当窓口または医療助成担当窓口
必要書類
- 申請書
- 障害者手帳(身体、療育、精神)のコピー
- 健康保険証のコピー
- 所得証明書(所得制限がある場合)
- マイナンバー関連書類
- その他
利用方法
受給者証の交付 認定されると、医療証(受給者証)が交付されます。
医療機関での提示 医療機関の窓口で、健康保険証と一緒に医療証を提示します。
自己負担 助成内容に応じて、無料または一部負担金を支払います。
3. 指定難病医療費助成制度
制度の概要
目的 指定難病の患者の医療費負担を軽減する制度
管轄 国(厚生労働省)・都道府県
対象疾患 指定難病(現在約340疾患) 例 潰瘍性大腸炎、クローン病、全身性エリテマトーデス、パーキンソン病など
対象者
- 指定難病と診断された方
- 「重症度分類等」に照らして、一定程度以上の方
- または医療費が高額な方(月額医療費33,330円超が年間3回以上)
自己負担 原則として医療費の2割負担(残り8割は公費)
自己負担上限額(月額) 世帯の所得に応じて設定(月額2,500円〜30,000円)
申請先 都道府県または保健所
有効期間 原則1年間(更新手続きが必要)
4. 小児慢性特定疾病医療費助成制度
制度の概要
対象者 18歳未満(引き続き治療が必要な場合は20歳未満)の小児慢性特定疾病の患者
対象疾患 小児慢性特定疾病(現在約800疾患) 例 小児がん、先天性代謝異常、先天性心疾患など
自己負担 原則として医療費の2割負担
自己負担上限額(月額) 世帯の所得に応じて設定
申請先 都道府県または保健所
5. その他の公費負担医療制度
肝炎治療医療費助成
対象 B型・C型肝炎ウイルスによる慢性肝炎・肝硬変の治療を受ける方
自己負担上限額 月額1万円または2万円
原子爆弾被爆者医療
対象 原子爆弾被爆者健康手帳を持っている方
助成 医療費が無料
特定疾患治療研究事業(経過措置)
対象 難病のうち、指定難病に移行していない疾患の一部
助成 医療費の自己負担を軽減
複数制度の併用
併用できる組み合わせ
○ 併用可能
- 自立支援医療 + 重度心身障害者医療費助成
- 指定難病医療費助成 + 高額療養費制度
利用の順序
- まず特定の疾患に対する公費負担医療(自立支援医療、指定難病など)を適用
- その自己負担分に対して、重度心身障害者医療費助成を適用
例 精神通院医療の自己負担上限月額5,000円 → マル障で無料または一部負担
高額療養費制度との関係
高額療養費制度とは
制度 1か月の医療費が高額になった場合、自己負担限度額を超えた分が払い戻される制度
自己負担限度額(70歳未満、一般所得者の例) 月額約8万円+(医療費-26.7万円)×1%
医療費助成制度との関係
自立支援医療、指定難病 これらの制度で設定された自己負担上限額が、高額療養費制度の自己負担限度額より低いため、実質的に医療費助成制度の上限額までの負担となります。
重度心身障害者医療費助成 高額療養費で払い戻しがあった場合、その分は助成対象外となることがあります。
申請の流れ(一般的な例)
ステップ1 相談
相談先
- 市区町村の障害福祉担当窓口
- 保健所
- 医療機関のソーシャルワーカー
相談内容
- どの制度が利用できるか
- 必要な書類は何か
- 申請の流れ
ステップ2 必要書類の準備
医師の診断書・意見書
- 所定の様式があります
- 主治医に記入を依頼します
- 文書料がかかります(数千円〜1万円程度)
その他の書類
- 申請書(窓口で入手)
- 障害者手帳(該当する場合)
- 健康保険証のコピー
- 所得証明書
- マイナンバー関連書類
ステップ3 申請書類の提出
提出先
- 市区町村の障害福祉担当窓口
- 保健所(制度により異なる)
提出方法
- 窓口に持参
- 郵送(制度により可能)
ステップ4 審査
審査期間
- 制度により異なる
- 1〜2か月程度が多い
審査内容
- 対象要件の確認
- 所得要件の確認
- 医師の診断内容の確認
ステップ5 受給者証の交付
認定の場合
- 受給者証(医療証)が郵送される
- 有効期間が記載されている
不認定の場合
- 理由が通知される
ステップ6 医療機関での利用
利用方法
- 医療機関の窓口で健康保険証と受給者証を提示
- 助成後の自己負担額を支払う
医療機関の登録 自立支援医療は、指定された医療機関・薬局のみで利用できます。
更新手続き
更新が必要な制度
自立支援医療
- 有効期間 原則1年間
- 更新申請 有効期間満了の3か月前から受付
重度心身障害者医療費助成
- 自治体により異なる
- 毎年更新が必要な場合と、不要な場合がある
指定難病医療費助成
- 有効期間 原則1年間
- 更新申請 有効期間満了前に手続き
更新時の必要書類
- 更新申請書
- 医師の診断書(制度により必要・不要が異なる)
- 所得証明書
- その他
よくある質問(FAQ)
Q1 複数の医療費助成制度を同時に利用できますか?
A はい。自立支援医療と重度心身障害者医療費助成など、併用できる組み合わせがあります。
Q2 障害者手帳がないと医療費助成は受けられませんか?
A 制度により異なります。自立支援医療は手帳なしでも受けられますが、重度心身障害者医療費助成は通常手帳が必要です。
Q3 所得制限はどのように計算されますか?
A 制度により異なりますが、多くは世帯(本人と同じ健康保険に加入している家族)の所得で判定されます。
Q4 入院費も助成の対象ですか?
A 重度心身障害者医療費助成は入院も対象ですが、自立支援医療(精神通院)は通院のみが対象です。
Q5 歯科治療も助成の対象ですか?
A 重度心身障害者医療費助成は対象になります。自立支援医療は基本的に対象外です。
Q6 他の都道府県に引っ越した場合はどうなりますか?
A 引っ越し先の自治体で改めて申請が必要です。制度内容が異なる場合があります。
Q7 申請を忘れていた場合、遡って助成を受けられますか?
A 制度により異なります。自立支援医療は申請日からの適用が原則です。
Q8 診断書の文書料も助成の対象ですか?
A いいえ。診断書料は保険外のため、助成の対象外です。
Q9 65歳以上でも障害者医療費助成は受けられますか?
A 自治体により異なります。後期高齢者医療制度に移行した後も、一定の条件で受けられる場合があります。
Q10 更新を忘れた場合はどうなりますか?
A 有効期間が切れると助成が受けられなくなります。早めに更新手続きをしてください。
まとめ 障害者医療費助成制度
障害者が利用できる主な医療費助成制度は以下の通りです
国の制度
- 自立支援医療
- 精神通院医療 自己負担1割(月額上限2,500円〜20,000円)
- 更生医療 自己負担1割(月額上限2,500円〜20,000円)
- 育成医療 自己負担1割(月額上限2,500円〜20,000円)
- 指定難病医療費助成
- 自己負担2割(月額上限2,500円〜30,000円)
- 小児慢性特定疾病医療費助成
- 自己負担2割(月額上限あり)
自治体の制度
重度心身障害者医療費助成(マル障)
- 重度障害者の医療費を無料または一部負担で受けられる
- 自治体により内容が大きく異なる
大切なポイント
- 複数の制度を併用できる
- 自立支援医療とマル障など
- 申請しないと助成は受けられない
- 自動的には適用されません
- 自治体により制度が異なる
- お住まいの自治体の制度を確認してください
- 定期的な更新が必要
- 有効期間を確認して、忘れずに更新を
- 医師の診断書が必要
- 文書料がかかります
- 所得制限がある制度が多い
- 事前に確認が必要
- 窓口で相談できる
- 市区町村の障害福祉担当窓口へ
- 医療機関の指定がある場合も
- 自立支援医療は指定医療機関のみ
最後に
医療費助成制度を活用することで、障害のある方の医療費負担を大きく軽減できます。
まずは、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に相談してみてください。あなたが利用できる制度について、詳しく教えてもらえます。
複数の制度を組み合わせることで、さらに負担を軽減できる場合もあります。窓口の職員や医療機関のソーシャルワーカーに相談しながら、最適な制度を利用してください。
あなたが必要な医療を安心して受けられることを心から願っています。

コメント