お子さんの将来を考え、B型施設を探している保護者の方へ
障害のあるお子さんに合った選択をするために、まず知っておきたい基本ガイド
初めての方は、基礎知識と不安解消をセットで押さえると安心です。
まず読むべき基礎知識5記事
施設選びでつまずきやすいポイント5記事
解離性同一性障害(DID: Dissociative Identity Disorder)は、かつて多重人格障害と呼ばれていた精神疾患です。一人の人の中に2つ以上の明確に区別される人格状態(アイデンティティ)が存在し、それらが交代で現れる状態を指します。
各人格には独自の記憶、行動パターン、好み、話し方があり、まるで別の人のように振る舞います。人格が切り替わる際には記憶の空白(健忘)が生じることが多く、「気づいたら知らない場所にいた」「自分がしたはずのない買い物をしていた」などの体験をします。多くの場合、幼少期の深刻なトラウマ(虐待、ネグレクト)が原因で発症します。
映画やドラマで誇張して描かれることが多いため誤解も多い疾患ですが、実際には深刻な苦痛を伴う病気であり、適切な治療により改善が可能です。この記事では解離性同一性障害の症状、原因、診断、治療法について詳しく解説します。
解離性同一性障害とは
定義
解離性同一性障害(DID)は、一人の人の中に2つ以上の明確に区別される人格状態(アイデンティティ)が存在し、それらが交代して行動や意識を支配する精神疾患です。
名称の変更
以前は「多重人格障害(Multiple Personality Disorder: MPD)」と呼ばれていましたが、1994年にDSM-IVで「解離性同一性障害」に変更されました。人格が多重化しているのではなく、本来統合されているべきアイデンティティが解離(分離)している状態であることを強調するためです。
解離とは
解離とは、通常は統合されている記憶、意識、知覚、アイデンティティが分断される現象です。自分が自分であるという連続性が失われます。
有病率
正確な有病率は不明ですが、一般人口の約1から1.5パーセントと推定されています。かつて考えられていたよりもはるかに多いことが分かってきました。女性に多く、男女比は約5対1から9対1です。
発症年齢
多くは幼少期から症状が始まりますが、診断されるのは成人後のことが多いです。診断までに平均5から12年かかると言われています。
誤解の多い疾患
映画やドラマ(「24人のビリー・ミリガン」「スプリット」など)で劇的に描かれることが多く、一般の認識と実際の病態には大きな乖離があります。実際の患者の多くはより微妙で目立たない形で症状を示します。
解離性同一性障害の症状
主要症状
1. 複数の人格状態(アルター)の存在
2つ以上の明確に区別される人格状態が存在します。各人格は独自の特徴を持ちます。
- 名前、年齢、性別が異なる
- 声のトーン、話し方、言葉遣いが異なる
- 性格、態度、価値観が異なる
- 好み(食べ物、音楽、服装など)が異なる
- 能力が異なる(ある人格は外国語を話せる、別の人格は話せないなど)
- 身体症状が異なる(ある人格では視力が悪い、別の人格では正常など)
- 年齢が異なる(大人の体に子どもの人格が現れることも)
人格の数
2つから100以上まで報告されています。平均10から15程度とされますが、個人差が大きいです。
主人格とアルター
- 主人格(ホスト): 最も頻繁に現れる人格。本人の本名を持つことが多い。
- アルター(交代人格): 主人格以外の人格。様々な役割を持つ。
人格の役割
- 保護者的人格: 本人を守る役割
- 子どもの人格: トラウマを受けた時の年齢で固定
- 攻撃的な人格: 怒りを担当
- 異性の人格: 主人格と異なる性別
- 迫害者的人格: 自傷行為をさせるなど否定的な役割
各人格はトラウマに対処するために生まれたと理解されています。
2. 人格の交代(スイッチング)
ある人格から別の人格へ切り替わることをスイッチングといいます。
交代のきっかけ
- ストレス
- トラウマを思い出させる刺激(トリガー)
- 特定の状況や場所
- 疲労
- 感情の高ぶり
- 特に理由なく突然起こることも
交代の様子
- 瞬間的に起こることもあれば、数分かけて起こることもある
- 目つきが変わる、表情が変わる
- 声や話し方が変わる
- 姿勢や動作が変わる
- 一瞬ぼんやりする、意識が遠のく感覚
- 本人は交代に気づかないこともある
3. 記憶の空白(健忘)
人格が交代すると、別の人格が活動していた時間の記憶がないことが多いです。
健忘の例
- 気づいたら知らない場所にいた
- 自分が買った覚えのない物が家にある
- 自分が書いた覚えのないメモやメール
- 人から「昨日話したよね」と言われても覚えていない
- 友人から「あの時のあなたは別人みたいだった」と言われる
- 自分がしたはずの行動を覚えていない
- 時間の欠落(何時間、何日もの記憶がない)
共有記憶
すべての人格が完全に記憶を共有していないわけではありません。ある人格は他の人格の記憶にアクセスできることもあります。
幼少期の記憶の欠如
多くの患者は幼少期の記憶がほとんどありません。トラウマの時期の記憶が抜け落ちています。
その他の症状
解離症状
- 離人感: 自分が自分でない感じ、自分を外から見ている感じ
- 現実感喪失: 周囲が非現実的に感じる、霧の中にいるような感じ
- 体外離脱体験
- タイムスリップ感覚
頭の中の声
多くの患者は頭の中で複数の声が話しているのを聞きます。人格同士が会話している、議論している、命令してくるなど。統合失調症の幻聴と区別が必要です。
自傷行為
ある人格が自傷行為をすることがあります。迫害者的人格が「お前は価値がない」と言って自傷を促すことも。
自殺企図
自殺のリスクが高い疾患です。70パーセント以上が自殺企図の既往があると報告されています。
フラッシュバック
トラウマの記憶が突然よみがえる。映像、音、感覚として再体験する。
悪夢
トラウマに関連する悪夢を繰り返し見る。
身体症状
頭痛、腹痛、慢性疼痛、けいれん発作(心因性)、麻痺、視覚障害など。
感情の不安定さ
気分の激しい変動。人格交代に伴って感情が変わる。
対人関係の困難
人格が変わることで対人関係が混乱。信頼関係の構築が難しい。
解離性同一性障害の原因
幼少期のトラウマ
解離性同一性障害の最も重要な原因は幼少期の深刻なトラウマです。
虐待
- 身体的虐待: 殴る、蹴る、火傷を負わせるなど
- 性的虐待: 近親姦を含む性的暴行
- 心理的虐待: 言葉の暴力、脅迫、恐怖を与える
- 組織的虐待: カルト、儀式的虐待
ネグレクト
育児放棄、基本的なケアの欠如、感情的ネグレクト。
家庭内暴力の目撃
親が暴力を振るわれるのを見る、家庭が恐怖に満ちている。
その他のトラウマ
戦争体験、大災害、重度の医療処置、拉致・監禁など。
トラウマの特徴
- 早期に始まる(多くは5歳以前)
- 繰り返される、慢性的
- 重度で耐えがたい
- 逃げ場がない(加害者が親など身近な人)
- 信頼関係の裏切り
トラウマの統計
DID患者の約90パーセント以上が幼少期に深刻なトラウマを経験しています。
解離というメカニズム
適応的防衛
幼い子どもは耐えがたいトラウマから心を守るために解離を使います。「これは自分に起こっていることではない」「別の誰かに起こっている」と感じることで心理的に生き延びます。
人格の形成
繰り返されるトラウマの中で、異なる状況に対処するために複数の人格状態が発達します。例えば、虐待に耐える人格、日常生活を送る人格、怒りを担当する人格など。
発達段階
人格の統合が起こる重要な発達段階(0から9歳頃)にトラウマがあると、統合が妨げられ解離性同一性障害が発症しやすくなります。
その他の要因
生物学的脆弱性
解離しやすい気質、遺伝的素因が関与する可能性。
愛着の問題
安全な愛着関係が形成されない環境。母子関係の障害。
社会的孤立
サポートの欠如。誰にも助けを求められない状況。
文化的要因
一部の文化では解離体験が受け入れられやすく、表現されやすい。
解離性同一性障害の診断
診断基準(DSM-5)
A. 2つまたはそれ以上の他とは区別されるパーソナリティ状態の存在
一部の文化では憑依体験として記述されることもある。パーソナリティの分裂は、自己と行為主体性の顕著な不連続性を伴い、感情、行動、意識、記憶、知覚、認知、感覚運動機能の変化を伴う。
B. 日常的な出来事、重要な個人的情報、またはトラウマ的出来事の想起に、反復的な空白がある
通常の物忘れでは説明できない。
C. 症状が、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている
D. その障害は、広く受け入れられている文化的または宗教的慣習の正常な一部ではない
小児では、想像上の遊び仲間や他の空想的な遊びによって説明されるものではない。
E. 症状は、物質(アルコール)の生理学的作用または他の医学的疾患(部分発作など)によるものではない
診断のプロセス
詳細な問診
臨床面接で症状の詳細な聴取。幼少期の経験、トラウマ歴、解離症状、人格交代の有無など。
構造化面接
解離性障害面接表(DDIS)、解離性同一性障害構造化臨床面接(SCID-D)など専門的な面接ツール。
質問票
解離体験尺度(DES)など。解離症状の程度を評価。
長期的観察
人格交代を直接観察するには時間がかかることがある。治療関係の中で徐々に明らかになる。
他疾患の除外
統合失調症、双極性障害、境界性パーソナリティ障害、演技性パーソナリティ障害、てんかん、脳腫瘍、薬物の影響などを除外。
診断の難しさ
症状の隠蔽
多くの患者は症状を隠そうとします。「おかしいと思われたくない」という恐れ。
複雑な症状
他の精神疾患を併存していることが多く、診断が複雑。うつ病、不安障害、PTSD、境界性パーソナリティ障害などを併存。
誤診されやすい
統合失調症、双極性障害、境界性パーソナリティ障害と誤診されることが多い。
専門家の不足
解離性障害の専門家が少ない。一般の精神科医でも診断が難しい。
診断までの期間
発症から診断までに平均5から12年かかる。
解離性同一性障害の治療
治療の目標は人格を統合すること、または少なくとも人格間の協調を図り、症状を軽減し、機能を改善することです。
心理療法(主要な治療)
精神分析的精神療法
長期的な治療。トラウマの記憶を扱い、人格の統合を目指す。
認知行動療法(CBT)
現在の症状や問題行動に焦点。トラウマに関連する認知の歪みを修正。
EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)
トラウマ記憶の処理に効果的。PTSDの治療法としても使われる。
弁証法的行動療法(DBT)
感情調整スキル、対人関係スキルの習得。自傷行為への対処。
段階的アプローチ
解離性障害の治療は3段階で進めることが推奨されています。
第1段階: 安全と安定化
- 安全な環境の確保
- 治療関係の構築
- 日常生活の安定化
- 自傷行為、自殺企図への対処
- 症状のコントロール(解離症状、フラッシュバック)
- 基本的なスキル習得(感情調整、ストレス対処)
- 人格間のコミュニケーション促進
第2段階: トラウマの処理
- トラウマ記憶の想起と処理
- 感情の統合
- 人格間の記憶の共有
- この段階は慎重に進める。急ぐと悪化する危険性
第3段階: 統合と再適応
- 人格の統合(可能な場合)
- アイデンティティの再構築
- 対人関係の改善
- 社会復帰
- 将来への希望の再構築
治療期間
長期にわたる治療が必要。数年から10年以上かかることも。焦らず段階的に進めることが重要。
薬物療法(補助的)
解離性同一性障害そのものを治す薬はありません。併存する症状に対して薬物療法が行われます。
抗うつ薬
うつ症状、不安症状に対して。SSRI、SNRIなど。
抗不安薬
不安、パニック発作に対して。短期間の使用。
気分安定薬
感情の不安定さに対して。
睡眠薬
不眠、悪夢に対して。
薬物療法の注意
- 薬だけでは治療できない
- 依存のリスクがある薬もあるため慎重に使用
- 心理療法と併用
入院治療
入院が必要な場合
- 自殺の危険が高い
- 重度の自傷行為
- 安全な環境が確保できない
- 症状が非常に重度
- 集中的な治療が必要
入院の目的
安全の確保、集中的な治療、危機介入。
グループ療法
同じ疾患を持つ人たちとのグループセッション。孤立感の軽減、相互支援、スキルの共有。
家族療法
家族が病気を理解し、適切にサポートできるよう教育。
本人ができること
治療に取り組む
専門家の治療を受け続ける。長期戦になるが諦めない。
安全の確保
自分を傷つけない。危険な状況を避ける。サポート体制を持つ。
人格間のコミュニケーション
内的対話を促す。日記を通じて人格間でコミュニケーション。人格同士が協力する関係を築く。
トリガーを理解する
何が人格交代のトリガーになるか把握する。可能な範囲でトリガーを避ける。
グラウンディング
解離しそうになったときに現実につなぎとめる技法。5-4-3-2-1法(5つ見えるもの、4つ触れるもの、3つ聞こえる音、2つ匂うもの、1つ味わうもの)。氷を握る、強い香りを嗅ぐなど。
生活の構造化
規則正しい生活。予測可能なスケジュール。安定した日常。
サポートグループ
同じ病気を持つ人との交流。理解し合える。情報交換。
セルフケア
十分な睡眠、バランスの良い食事、適度な運動、ストレス管理。
家族や周囲ができること
理解と受容
病気を理解する。本人は演技しているのではない。責めない。
一貫した対応
どの人格に対しても一貫して接する。特定の人格を好んだり嫌ったりしない。
安全の確保
自傷や自殺のリスクに注意。危険なものを遠ざける。
境界線を保つ
サポートするが巻き込まれすぎない。共依存にならない。
専門家と連携
治療者と協力する。家族療法や家族教育を受ける。
自分のケア
支える側も疲弊する。自分のケアも大切。相談できる人を持つ。
予後
治療による改善
適切な長期治療により多くの患者が改善します。症状の軽減、機能の改善、生活の質の向上。
統合
一部の患者は人格の統合を達成します。統合後も解離傾向は残ることがあるが、日常生活は送れる。
統合以外のゴール
統合が必ずしも目標ではありません。人格間の協調、共存、機能的な生活を送ることも重要なゴール。
長期的な課題
治療終了後も対人関係の困難、トラウマの影響は残ることがある。継続的なサポートが必要。
よくある誤解
誤解1: 演技や作り話
事実
解離性同一性障害は実在する精神疾患です。患者は演技しているのではありません。深刻な苦痛を伴います。
誤解2: 危険な人たち
事実
映画のような凶暴な人格が現れて犯罪を犯すというのは誇張です。多くの患者は自分自身を傷つけることはあっても他者を傷つけることはまれです。
誤解3: 非常に珍しい
事実
かつて考えられていたより多く、約1から1.5パーセントの有病率とされます。診断されていないだけで実際にはもっと多い可能性も。
誤解4: 治らない
事実
適切な長期治療により改善可能です。完全な統合を達成する人もいます。
誤解5: 子どもの遊びと同じ
事実
子どもの想像上の友達とは全く異なります。病的な解離であり、記憶の欠落や機能障害を伴います。
まとめ
解離性同一性障害は一人の人の中に2つ以上の明確に区別される人格状態が存在し、それらが交代して現れる精神疾患です。かつて多重人格障害と呼ばれていました。
主な症状は複数の人格状態の存在、人格の交代、記憶の空白です。各人格は独自の名前、性格、話し方、好みを持ちます。人格が交代すると別の人格が活動していた時間の記憶がないことが多いです。
原因は幼少期の深刻なトラウマ(虐待、ネグレクト)です。子どもが耐えがたいトラウマから心を守るために解離という防衛機制を使い、複数の人格状態が発達します。
診断はDSM-5の基準に基づき、詳細な問診、構造化面接、質問票などにより行われます。統合失調症など他の疾患との鑑別が重要です。診断までに平均5から12年かかります。
治療は心理療法が中心で、段階的アプローチ(安全と安定化、トラウマの処理、統合と再適応)が推奨されます。長期にわたる治療が必要ですが、適切な治療により改善可能です。薬物療法は併存症状に対して補助的に使用されます。
本人は治療に取り組み、安全を確保し、人格間のコミュニケーションを促し、グラウンディング技法を使うことが大切です。家族や周囲は病気を理解し、一貫した対応をし、安全を確保し、専門家と連携することが重要です。
解離性同一性障害は演技ではなく、深刻なトラウマから生き延びるために発達した適応的な防衛機制の結果です。適切な理解とサポート、専門的な治療により、患者はより統合されたアイデンティティを取り戻し、充実した生活を送ることができます。

コメント