精神障害者保健福祉手帳1級とは?対象者・基準・受けられる支援を解説

1. 精神障害者保健福祉手帳1級とは

精神障害者保健福祉手帳1級は、精神障害により日常生活が著しく制限され、常時援助が必要な状態にある方に交付される手帳です。等級は1級から3級まであり、1級が最も重度の状態を表します。

具体的には、食事、入浴、着替えなどの基本的な日常生活動作(ADL)に援助が必要であったり、自分一人では外出できない、対人関係が極めて困難であるなど、常に誰かのサポートがなければ生活が成り立たない状態を指します。

重要なのは、診断名だけで等級が決まるわけではなく、実際の生活能力や社会的機能がどの程度障害されているかによって判定されるということです。同じ病名でも、症状の重さや生活への影響は人それぞれ異なります。

2. 精神障害者保健福祉手帳の等級とは

精神障害者保健福祉手帳には、障害の程度に応じて1級から3級までの等級があります。

等級の基本的な考え方

1級   日常生活能力の著しい制限、常時援助が必要 日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの

2級   日常生活に著しい制限がある、必ずしも常時援助は必要ないが日常生活は困難 日常生活が著しい制限を受けるか、または日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの

3級   日常生活または社会生活に制限がある 日常生活もしくは社会生活が制限を受けるか、または日常生活もしくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの

判定の基準

等級の判定は、障害年金の等級判定基準に準じて行われます。具体的には、以下のような観点から総合的に評価されます。

  • 日常生活能力(食事、入浴、着替え、排泄など)
  • 日常生活能力の程度(援助の必要度)
  • 精神症状の程度
  • 社会生活への適応状況
  • 就労能力
  • 対人関係
  • 意思疎通の能力

診断名や症状だけでなく、実際の生活にどれだけ支障があるかが重視されます。

3. 1級に該当する状態とは

精神障害者保健福祉手帳1級は、最も重度の障害状態を表します。

日常生活能力の判定

1級に該当するのは、以下のような状態です。

自発的な行動がほとんどできない

  • 食事、入浴、着替え、排泄などの基本的な日常生活動作に常に援助が必要
  • 自発的に行動を起こすことが困難
  • 声かけや促しがなければ、何もせずに過ごしてしまう

意思疎通が極めて困難

  • 会話が成り立たない、またはほとんど成立しない
  • 自分の意思や要求を伝えることができない
  • 他者の指示や説明を理解することが難しい

外出が一人ではできない

  • 一人で外出することが危険
  • 道に迷う、交通事故に遭う危険がある
  • 必ず付き添いが必要

対人関係が築けない

  • 家族以外との関わりがほとんど持てない
  • 他者との交流が極めて困難
  • 社会的な孤立状態にある

判断力・問題解決能力の著しい低下

  • 日常的な判断ができない
  • 危険を認識できない
  • お金の管理ができない

精神症状が重度

  • 幻覚、妄想、強度の不安、抑うつ、興奮などが常時存在
  • 症状により行動が大きく制約される
  • 入院治療を繰り返す、または長期入院が必要

具体的な生活状況の例

以下のような状態が、1級に該当する可能性があります。

  • 家族が声をかけないと、一日中布団の中で過ごしてしまう
  • 食事の準備はもちろん、食べることも促されなければできない
  • 入浴や着替えに介助が必要
  • トイレの使用にも援助が必要なことがある
  • 一人での外出は不可能で、必ず付き添いが必要
  • 簡単な買い物もできない
  • 金銭管理が全くできない
  • 会話がほとんど成立しない
  • 幻覚や妄想に支配されている
  • 自傷行為や他害行為のリスクがある
  • 服薬管理ができない

4. 1級に該当する可能性のある疾患

さまざまな精神疾患で、症状が重度の場合に1級に該当する可能性があります。

統合失調症

陽性症状が重度で、幻覚(幻聴など)や妄想が常時あり、現実との区別がつかない状態。行動が症状に支配されている。

陰性症状が重度で、意欲の欠如、感情の平板化、自発性の低下が著しく、ほとんど動けない状態。

認知機能の著しい低下があり、判断力、記憶力、注意力が大きく損なわれている。

うつ病(大うつ病性障害)

重症うつ状態で、ほとんど動けない、話せない、食べられない状態(うつ病性昏迷)。

強い自殺念慮があり、常時の見守りが必要。

精神運動制止が著しく、思考や行動が極端に遅い。

双極性障害(躁うつ病)

重度の躁状態または重度のうつ状態を繰り返し、その間の正常な期間がほとんどない。

入院を繰り返し、日常生活が著しく障害されている。

器質性精神障害

脳の損傷や疾患により、認知機能が著しく低下し、日常生活に常時援助が必要な状態。

知的障害を伴う精神障害

知的障害に加えて重度の精神症状があり、日常生活が著しく制限されている。

てんかん

難治性のてんかんで、頻繁な発作があり、日常生活に常時援助が必要。精神症状も伴う場合。

認知症

認知機能の著しい低下により、日常生活のすべてに援助が必要な状態。徘徊、暴力、不穏などの周辺症状が重度。

その他

重度の発達障害、重度のパーソナリティ障害、重度の神経症性障害など、症状が極めて重く、日常生活に常時援助が必要な場合。

重要な注意点   診断名だけで等級が決まるわけではありません。同じ病名でも、症状の程度、生活能力、必要な援助の程度により、等級は異なります。

5. 判定基準の詳細

精神障害者保健福祉手帳の等級は、障害年金の判定基準に準じて判定されます。

日常生活能力の判定

以下の8項目について、それぞれ4段階で評価されます。

  1. 適切な食事   配膳などの準備も含めて適当量をバランスよく摂ることがほぼできるなど
  2. 身辺の清潔保持   洗面、洗髪、入浴等の身体の衛生保持や着替え等ができる
  3. 金銭管理と買い物   金銭を独力で適切に管理し、やりくりがほぼできるなど
  4. 通院と服薬   規則的に通院や服薬を行い、病状等を主治医に伝えることができる
  5. 他人との意思伝達及び対人関係   他人の話を聞く、自分の意思を相手に伝える、集団的行動が行える
  6. 身辺の安全保持及び危機対応   事故等の危険から身を守る能力がある、通常と異なる事態となった時に他人に援助を求めることを含めて適正に対応することができる
  7. 社会性   銀行での金銭の出し入れや公共施設等の利用が一人で可能、社会生活に必要な手続きが行える
  8. 日常生活能力の程度

各項目について   

  • できる(1点)
  • 自発的にできるが時には助言や指導を必要とする(2点)
  • 自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできる(3点)
  • 助言や指導をしてもできない若しくは行わない(4点)

日常生活能力の程度

総合的な判定として、以下の5段階で評価されます。

(1) 精神障害を認めるが、社会生活は普通にできる (2) 精神障害を認め、家庭内での日常生活は普通にできるが、社会生活には援助が必要である (3) 精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である (4) 精神障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である (5)精神障害を認め、身のまわりのこともほとんどできないため、常時の援助が必要である

1級は、主に程度が(5)または(4)の状態に該当します。

総合判定

上記の評価に加えて、以下の要素も考慮されます。

  • 現在の病状または状態像
  • 療養状況
  • 生活環境
  • 就労状況
  • 家族の支援状況

これらを総合的に判断して、等級が決定されます。

6. 1級で受けられる主なサービス

精神障害者保健福祉手帳1級を取得することで、さまざまな支援やサービスを利用できます。

税金の控除

所得税・住民税の障害者控除   特別障害者控除が適用され、所得税で40万円、住民税で30万円の控除が受けられます。

相続税の障害者控除   障害者が相続人の場合、相続税の控除があります。

自動車税・自動車取得税の減免   条件を満たす場合、減免が受けられます(自治体により異なる)。

公共交通機関の割引

鉄道・バス   多くの鉄道会社やバス会社で、本人と介護者1名が割引を受けられます(5割引が一般的)。

航空運賃   一部の航空会社で割引があります。

タクシー   自治体によっては、タクシー券の支給や割引があります。

NHK受信料の減免

全額免除   世帯全員が住民税非課税の場合、または世帯主が重度障害者(1級)の場合。

医療費の助成

重度心身障害者医療費助成   多くの自治体で、医療費の自己負担分の一部または全部が助成されます(自治体により名称や条件が異なる)。

自立支援医療(精神通院医療)   精神科の通院医療費の自己負担が1割に軽減されます。

福祉サービス

障害福祉サービス   居宅介護(ホームヘルプ)、生活介護、短期入所(ショートステイ)、施設入所支援、共同生活援助(グループホーム)など、さまざまなサービスが利用できます。

障害年金   手帳の等級と障害年金の等級は別ですが、1級の手帳を持っている方は、障害年金も受給している場合が多いです。

公共施設の割引

博物館、美術館、動物園、水族館など   多くの公共施設で、本人と介護者の入場料が無料または割引になります。

携帯電話料金の割引

多くの携帯電話会社で、障害者向けの割引プランがあります。

公営住宅の優先入居

公営住宅の抽選で優遇されることがあります。

その他のサービス

駐車禁止除外指定車標章   条件を満たす場合、駐車禁止除外の対象となります(自治体により異なる)。

福祉手当   自治体によっては、障害者福祉手当(月額数千円から数万円)が支給されることがあります。

公共料金の割引   一部の自治体で、水道料金などの割引があります。

※サービスの内容や条件は、自治体や事業者によって異なります。詳しくは、お住まいの市区町村の障害福祉窓口にお問い合わせください。

7. 手帳取得の流れ

精神障害者保健福祉手帳の申請から交付までの流れを説明します。

ステップ1   医師の診断書を取得

初診日から6ヶ月以上経過していることが必要です。主治医に、精神障害者保健福祉手帳用の診断書(自治体指定の様式)を作成してもらいます。

診断書には、病名、症状、日常生活能力、治療状況などが詳しく記載されます。診断書の作成には、数千円から1万円程度の費用がかかります。

ステップ2   市区町村窓口に申請

お住まいの市区町村の障害福祉窓口に、以下の書類を提出します。

  • 精神障害者保健福祉手帳申請書(窓口で入手可)
  • 医師の診断書(または障害年金証書の写し)
  • 本人の写真(縦4cm×横3cm、脱帽、上半身)
  • マイナンバーカードまたは通知カード
  • 本人確認書類

注意   すでに障害年金を受給している場合は、診断書の代わりに障害年金証書の写しと同意書で申請できることがあります。

ステップ3   審査

市区町村から都道府県(または政令指定都市)に書類が送られ、精神保健福祉センターなどで審査が行われます。

診断書の内容に基づき、等級が判定されます。審査には通常1〜3ヶ月程度かかります。

ステップ4   手帳の交付

審査の結果、認定されれば、精神障害者保健福祉手帳が交付されます。市区町村の窓口で受け取ります。

手帳には、氏名、住所、生年月日、障害名、等級、交付日、有効期限(2年間)などが記載されます。

却下された場合

希望する等級に該当しないと判断された場合、手帳が交付されないか、より軽い等級で交付されます。

納得できない場合は、都道府県の精神医療審査会に不服申し立てをすることができます。

8. 手帳取得後の手続き

手帳を取得した後も、いくつかの手続きが必要です。

更新手続き

精神障害者保健福祉手帳の有効期限は2年間です。期限が切れる3ヶ月前から更新手続きができます。

更新時には、再度医師の診断書が必要です(または障害年金証書の写し)。

更新の結果、等級が変更されることもあります。

等級変更の申請

障害の状態が変化し、等級が変わる可能性がある場合は、更新時期を待たずに等級変更の申請ができます。

  • 症状が悪化した場合   より重い等級への変更申請
  • 症状が改善した場合   より軽い等級への変更、または返還

新たに医師の診断書を取得し、申請します。

記載事項の変更

住所や氏名が変わった場合は、市区町村窓口で変更手続きを行います。

都道府県をまたいで転居する場合は、転居先での再交付手続きが必要です。

再交付

手帳を紛失したり、破損したりした場合は、再交付の申請ができます。

返還

障害の状態が改善し、手帳が不要になった場合や、本人が亡くなった場合は、手帳を返還します。

9. 1級の判定に関する注意点

精神障害者保健福祉手帳1級の判定には、いくつかの注意点があります。

診断名だけでは決まらない

同じ統合失調症やうつ病でも、症状の程度や生活への影響は人それぞれです。診断名だけで1級になるわけではなく、実際の生活能力が重視されます。

病状だけでなく生活能力が重要

症状が重くても、家族の手厚いサポートにより日常生活が維持できている場合と、サポートがなく生活が成り立たない場合では、判定が異なることがあります。

医師の診断書の書き方が影響

医師が診断書にどのように記載するかが、判定に大きく影響します。日常生活の困難さを具体的に伝えることが重要です。

自治体による差

判定基準は全国共通ですが、実際の運用には自治体による若干の差があります。

家族の負担が見えにくい

家族が献身的にサポートしている場合、本人の実際の能力よりも「できている」ように見えることがあります。家族の負担も含めて、実際の状態を正確に伝えることが大切です。

入院中の判定

入院中は医療スタッフのサポートがあるため、退院後の生活能力と異なることがあります。退院後の生活を見据えた判定が必要です。

10. よくある質問(FAQ)

Q    1級を取得できるのは、どのような人ですか? 

A    日常生活の基本的な動作(食事、入浴、着替えなど)に常時援助が必要な方、一人で外出できない方、意思疎通が極めて困難な方など、常に誰かのサポートがなければ生活が成り立たない状態の方が対象です。診断名だけでなく、実際の生活能力が重視されます。

Q    うつ病でも1級になりますか? 

A    可能です。うつ病が重症で、ほとんど動けない、食事もとれない、常時の見守りが必要といった状態であれば、1級に該当する可能性があります。ただし、診断名だけでなく、実際の生活への影響の程度が判定されます。

Q    1級を取得すると、働けなくなりますか? 

A    手帳の取得と就労は直接関係ありません。ただし、1級は「常時援助が必要」な状態を表すため、実際には就労が困難な場合が多いです。状態が改善し、働けるようになった場合は、等級変更や返還を検討します。

Q    手帳の等級と障害年金の等級は同じですか? 

A    判定基準は同じですが、必ずしも一致するわけではありません。手帳は1級でも、障害年金は2級ということもあります。それぞれ別の審査機関が判定するためです。

Q    家族が世話をしているので、1級にはならないと言われました。

 A    家族のサポートがあるために日常生活が維持できている場合でも、本人の実際の能力が「常時援助が必要」な状態であれば、1級に該当する可能性があります。診断書に、家族のサポートがなければどうなるかを具体的に記載してもらうことが重要です。

Q    1級を取得するメリットは何ですか? 

A    税金の控除、公共交通機関の割引、医療費の助成、福祉サービスの利用など、さまざまな支援を受けられます。経済的負担の軽減や、生活の質の向上につながります。

Q    1級だと周囲に知られたくありません。 

A    手帳を使用する場面以外で、第三者に知られることはありません。各種サービスを利用する際に手帳を提示する必要がありますが、それ以外の場面で公開する必要はありません。プライバシーは保護されます。

Q    更新で等級が下がることはありますか? 

A    症状が改善した場合、更新時に等級が下がることや、手帳が交付されなくなることがあります。逆に、悪化した場合は等級が上がることもあります。更新は、現在の状態に基づいて判定されます。

まとめ

精神障害者保健福祉手帳1級は、重度の精神障害により、日常生活に常時援助が必要な方のための制度です。手帳を取得することで、さまざまな支援を受けられ、本人や家族の負担を軽減できます。手帳の取得を検討されている方は、主治医や市区町村の障害福祉窓口に相談してみましょう。適切な支援を受けることで、少しでも生活しやすくなることを願っています。

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