「社会に出るのがしんどい」「人と関わるのが辛い」「家から出たくない」社会との接点を持つことに強い抵抗や恐怖を感じている状態は、決して珍しくありません。引きこもり、不登校、ニート、休職中、メンタル不調など、様々な背景からこの感覚は生まれます。本記事では、社会に出ることがしんどくなる原因、その心理的メカニズム、段階的に社会とつながる方法、そして自分らしい社会参加の形を見つけるための道筋を詳しく解説します。
「社会に出るのがしんどい」状態とは
まず、この状態を正しく理解しましょう。
よくある状況
引きこもり状態
自宅や自室から出られない、外出は最低限(コンビニ、通院など)のみ、人との接触を避けている、昼夜逆転している、数か月〜数年間、社会から離れているといった状態です。
社会復帰への不安
休職中、退職後、卒業後など、「また社会に出なければ」というプレッシャーがあるが、踏み出せない状態です。
対人恐怖・社交不安
人と会うことへの強い不安や恐怖、視線が怖い、評価されることが怖い、コミュニケーションが苦痛といった対人関係への恐怖です。
無気力・意欲の低下
何もする気が起きない、社会に出る意味が分からない、エネルギーがない、すべてが面倒といった無気力状態です。
身体的・精神的な症状
不安症状
外出を考えると動悸がする、息苦しくなる、冷や汗をかく、パニックになる、吐き気がする、手足が震えるといった不安反応です。
抑うつ症状
気分が沈んでいる、楽しいと感じることがない、自己否定的な思考、死にたいと思う(自殺念慮)、涙が出る、食欲がない・または過食といった抑うつです。
身体症状
慢性的な疲労、頭痛、めまい、胃腸の不調、不眠または過眠、原因不明の痛みといった身体化症状です。
しんどさの程度
- 軽度 外出はできるが、人との関わりが少ない。仕事や学校は行けるが辛い
- 中度 外出が億劫。人との接触を最小限にしている。仕事や学校を休みがち
- 重度 ほぼ完全に引きこもっている。家族以外との接触がない。外出できない
社会に出ることがしんどくなる原因
様々な要因が複合的に作用しています。
1. 過去のトラウマ体験
いじめ
学校や職場でのいじめ、無視、仲間はずれ、暴力、ネットいじめなどの経験は、深刻なトラウマとなり、「また同じ目に遭うのでは」という恐怖を生みます。
パワハラ・セクハラ
職場での暴言、人格否定、過重労働、セクハラなどの被害経験が、社会全体への恐怖につながります。
失敗や挫折
受験の失敗、就職活動の失敗、仕事での大きなミス、プロジェクトの失敗、解雇などの経験が、「自分は社会で通用しない」という信念を形成します。
家庭内のトラウマ
虐待、ネグレクト、親の過干渉、DV、家族の死などの家庭環境が、基本的な安全感や自己肯定感を損ない、社会への不安を生みます。
2. 精神疾患
うつ病
気分の落ち込み、意欲低下、エネルギー不足により、社会に出ることが困難になります。
社交不安障害(社交恐怖)
人前での行動や評価されることへの強い不安や恐怖が、社会参加を妨げます。
パニック障害・広場恐怖症
パニック発作や、特定の場所(電車、人混み、閉鎖空間など)への恐怖が、外出を困難にします。
適応障害
特定の環境やストレスに適応できず、強い不安や抑うつが生じます。
統合失調症
幻覚、妄想、思考の混乱などにより、社会生活が困難になります。
発達障害(ASD、ADHD)
コミュニケーションの困難、感覚過敏、集中力の問題などが、社会参加のハードルを上げます。
3. 長期の引きこもり・ブランク
悪循環
引きこもる→社会から離れる→スキルや自信が低下→さらに出られなくなる、という悪循環が形成されます。
年齢への焦り
「もうこの年齢で」「同年代に取り残された」という焦りが、プレッシャーとなり、かえって動けなくなります。
生活リズムの乱れ
昼夜逆転、不規則な生活により、社会のリズムに合わせることが困難になります。
4. 自己肯定感の低さ
「自分には価値がない」「何をやってもダメだ」「社会に貢献できない」という低い自己評価が、社会参加への恐怖を生みます。
5. 完璧主義・高すぎる理想
「ちゃんとしなければ」「立派な仕事に就かなければ」「普通にできなければ恥ずかしい」という完璧主義や高い理想が、行動を妨げます。
「60点でも良い」「小さく始めても良い」という柔軟性がないと、一歩が踏み出せません。
6. 家族の問題
過保護・過干渉
親が過保護すぎる、または過干渉で、自立の機会が奪われている状態です。
共依存
家族が本人の引きこもりを容認、または依存しており、変化を望まない状態です。
経済的な余裕
親の年金や資産により、働かなくても生活できる状況が、社会に出る動機を弱めることがあります。
7. 社会的なプレッシャー
「普通は」「みんなは」という社会的な期待や比較が、プレッシャーとなり、「そんなレベルには到達できない」と諦めさせます。
8. 情報過多・SNS疲れ
SNSで他人の「成功」や「充実した生活」を見ることで、比較による劣等感が生まれ、「自分は出られない」と感じます。
9. コロナ禍の影響
新型コロナウイルスにより、リモート生活が長期化し、人との直接的な接触が減ったことで、対面コミュニケーションへのハードルが上がった方もいます。
しんどさの心理的メカニズム
なぜ「しんどい」のか、その仕組みを理解します。
1. 回避行動の強化
不安を感じる→回避する→一時的に楽になる→「回避すれば楽」と学習する→さらに回避する→不安が強化される、という悪循環です。
回避は短期的には楽ですが、長期的には不安を強めます。
2. 自己効力感の低下
「自分にはできない」という信念が強まり、挑戦する前から諦めてしまいます。
3. 予期不安
「失敗するに違いない」「また傷つけられる」という未来への不安が、行動を止めます。
4. 認知の歪み
「すべてか無か思考」(完璧にできないなら意味がない)、「過度の一般化」(一度失敗したからもう無理)、「破滅的思考」(失敗したら人生が終わる)といった歪んだ思考が、行動を妨げます。
5. 安全地帯からの恐怖
自宅という安全地帯から出ることは、未知への恐怖を伴います。
段階的に社会とつながる方法
いきなり「普通に」社会に出る必要はありません。段階的なアプローチが可能です。
ステップ1 現状を受け入れる
自分を責めない
「社会に出られない自分はダメだ」と責めることは、かえって状況を悪化させます。
「今はしんどい時期なんだ」「無理をして壊れるより、休む方が賢明だ」と自分を労ります。
焦らない
「早く何とかしなければ」という焦りは、プレッシャーになり、動けなくします。
「ゆっくりで良い」「自分のペースで良い」と許可を与えます。
ステップ2 専門家のサポートを受ける
医療機関の受診
精神疾患が背景にある可能性が高いため、心療内科や精神科を受診します。
適切な診断と治療(薬物療法、心理療法)により、症状が大幅に改善します。
カウンセリング・心理療法
認知行動療法、曝露療法、EMDRなどの心理療法が、恐怖や不安を和らげます。
訪問支援
外出が困難な場合、訪問看護、訪問診療、アウトリーチ支援などを利用できます。
専門家が自宅に来てくれるため、外出しなくてもサポートが受けられます。
ステップ3 生活リズムを整える
規則正しい生活
毎日同じ時刻に起きる・寝る、3食を決まった時間に食べる、日光を浴びる(朝、カーテンを開ける)といった基本的な生活リズムを整えます。
昼夜逆転している場合、少しずつ起床時刻を早めていきます。
小さなルーティン
「朝起きたら顔を洗う」「午前中に散歩する」など、小さなルーティンを作ります。
ステップ4 家の中での活動から始める
家事
料理、掃除、洗濯など、家事をすることも立派な活動です。
趣味
読書、ゲーム、映画鑑賞、手芸、絵を描くなど、家の中でできる趣味を楽しみます。
オンラインでのつながり
オンラインゲーム、SNS、オンラインコミュニティなど、直接会わなくても人とつながる方法があります。
ただし、依存や比較に注意が必要です。
ステップ5 家の外への小さな一歩
最小の外出
まず、玄関を出る、家の周りを歩く、ポストまで行く、ゴミ出しをするなど、本当に小さな外出から始めます。
人の少ない時間帯・場所
早朝や深夜など人の少ない時間帯に散歩する、人の少ない公園に行くなど、負担を減らします。
短時間から
5分だけ外に出る、コンビニに行くだけ、など短時間から始め、徐々に時間を延ばします。
ステップ6 人との接点を少しずつ増やす
家族との会話
まず、家族との会話を増やします。食事を一緒にする、リビングで過ごすなど。
店員との簡単なやり取り
コンビニやスーパーで「ありがとうございます」と言う、レジで会計するなど、最小限のコミュニケーションから始めます。
オンラインでの交流
オンラインミーティング、チャット、SNSなど、対面でない形での交流から始めます。
支援機関の利用
後述する支援機関(地域若者サポートステーション、ひきこもり地域支援センターなど)で、専門家や同じ境遇の人と会います。
ステップ7 社会参加のための訓練
就労移行支援
一般就労を目指すための訓練施設です(利用期間2年)。
ビジネスマナー、パソコンスキル、コミュニケーション訓練、企業実習などが受けられます。
週2〜3日、短時間から始められる事業所もあります。
就労継続支援B型
雇用契約を結ばず、自分のペースで働ける福祉サービスです。
週1日、数時間からでも可能で、プレッシャーが少なく、社会参加の第一歩として最適です。
デイケア・ショートケア
精神科デイケアやショートケアでは、レクリエーション、軽作業、グループ活動などを通じて、生活リズムを整え、対人スキルを訓練します。
地域活動支援センター
地域の支援センターで、創作活動、軽作業、交流などに参加できます。
ステップ8 ボランティアや趣味のサークル
プレッシャーの少ないボランティア活動や趣味のサークルで、社会とのつながりを持ちます。
好きなこと、興味のあることから始めることで、楽しみながら社会参加できます。
ステップ9 アルバイト・短時間勤務
準備が整ったら、週1〜2日の短時間アルバイトから始めます。
在宅ワーク、データ入力、清掃など、人との接触が少ない仕事から始めることもできます。
ステップ10 段階的に働く時間を増やす
慣れてきたら、徐々に勤務日数や時間を増やしていきます。
焦らず、自分のペースで調整します。
利用できる支援制度・サービス
社会に出ることがしんどい方のための、様々な支援があります。
1. ひきこもり地域支援センター
各都道府県・政令指定都市に設置されています。
ひきこもりの相談、訪問支援、家族への支援、グループ活動などを行っています。
2. 地域若者サポートステーション(サポステ)
15〜49歳の無業の若者向けの支援機関です。
相談、職業訓練、就労体験、コミュニケーション訓練、保護者向けセミナーなどを提供しています。
全国に設置されており、無料で利用できます。
3. 生活困窮者自立支援制度
市区町村の自立相談支援機関で、経済的に困窮している方の相談を受け付け、就労支援、家計改善支援、住居確保支援などを行います。
4. 精神保健福祉センター
都道府県・政令指定都市に設置されている、精神保健の専門機関です。
相談、デイケア、家族教室などを提供しています。
5. 障害福祉サービス
精神障害者保健福祉手帳を取得することで、就労移行支援、就労継続支援、自立訓練などの障害福祉サービスが利用できます。
6. 生活保護
経済的に困窮している場合、生活保護を申請できます。
「若いから」「働けるから」という理由で断られることは違法です。
7. 家族会・ピアサポート
KHJ全国ひきこもり家族会連合会など、家族や当事者の会があります。
同じ経験をした人たちと話すことで、孤立感が減り、情報が得られます。
8. NPO・民間支援団体
ひきこもり支援を行うNPOや民間団体が多数あります。
訪問支援、居場所の提供、就労支援などを行っています。
家族ができること
家族の対応も、回復に大きく影響します。
すべきこと
受け入れる
「怠けている」「甘えている」と否定せず、「今は辛い時期なんだ」と受け入れます。
プレッシャーをかけない
「早く働け」「いつまでこうしているのか」といったプレッシャーは逆効果です。
話を聞く
否定や説教ではなく、ただ話を聞きます。
専門家につなぐ
医療機関や支援機関への受診・相談を勧めます。無理強いせず、本人の同意を得ながら進めます。
家庭を安全な場所にする
家庭が安心できる場所であることが、回復の土台です。
小さな変化を認める
「今日は起きるのが早かった」「部屋を出た」など、小さな変化を認め、褒めます。
してはいけないこと
否定・批判
「お前はダメだ」「情けない」といった否定的な言葉は、自己肯定感をさらに下げます。
無理やり外に出そうとする
無理やり外出させる、仕事を強要するなどは、かえって状態を悪化させます。
比較する
「〇〇さんの子は」「同年代はみんな働いている」という比較は、傷つけます。
放置する
「本人の問題だから」と完全に放置することも良くありません。適度な関心とサポートが必要です。
共依存
本人の引きこもりを容認しすぎる、何でもやってあげる、という過保護も、自立を妨げます。
家族自身のケア
支える家族も疲弊します。家族向けの相談窓口、家族会などを利用し、自分自身のメンタルヘルスも大切にしてください。
「普通」を目指さなくて良い
多様な生き方がある
フルタイム正社員、華やかなキャリア、「普通」の人生――そういったものを目指す必要はありません。
週2日のアルバイト、在宅ワーク、福祉的就労、ボランティア、創作活動など、様々な社会参加の形があります。
小さく生きることも立派
「小さく、静かに、自分のペースで生きる」ことも、立派な生き方です。
社会の基準に合わせる必要はありません。
価値は「社会に出ること」だけではない
人間の価値は、働くことや社会に出ることだけで測られるものではありません。
存在すること自体に価値があります。
まとめ
「社会に出るのがしんどい」という感覚は、過去のトラウマ、精神疾患、長期のブランク、低い自己肯定感など、様々な原因から生まれます。しかし、この状態は克服できないものではありません。
専門家のサポートを受け、生活リズムを整え、家の中での活動から始め、小さな外出、人との接点、社会参加訓練と、段階的に進むことで、少しずつ社会とつながることができます。
いきなり「普通に」社会に出る必要はありません。自分のペースで、自分に合った形で、小さく始めれば良いのです。
ひきこもり地域支援センター、地域若者サポートステーション、就労移行支援、就労継続支援B型など、様々な支援があります。一人で抱え込まず、助けを求めてください。
焦らず、自分を責めず、一歩ずつ進んでいきましょう。あなたには、社会とつながり、自分らしく生きる力があります。
社会に出ることがゴールではなく、自分らしく、無理なく、幸せに生きることがゴールです。その道筋は、人それぞれ違って良いのです。

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