はじめに
障害のある方やその家族は、確定申告で「障害者控除」を受けることができます。この控除を活用することで、所得税や住民税の負担を軽減できますが、「どのような人が対象になるのか」「いくら控除されるのか」「どう申請すればいいのか」など、わからないことも多いのではないでしょうか。
本記事では、障害者控除の基本的な仕組み、対象者、控除額、申請方法、注意点まで、詳しく解説します。
障害者控除とは
基本的な定義
障害者控除は、納税者本人またはその配偶者、扶養親族が障害者である場合に受けられる所得控除です。所得税法に基づく制度で、所得から一定額を差し引くことができ、結果として税負担が軽減されます。
控除の種類
- 障害者控除(一般の障害者)
- 特別障害者控除(重度の障害者)
- 同居特別障害者控除(同居している特別障害者)
控除の仕組み
障害者控除は「所得控除」です。税額から直接引かれるのではなく、課税所得を計算する際に所得から差し引かれます。
計算の流れ
- 収入から必要経費を引いて所得を計算
- 所得から各種所得控除(基礎控除、障害者控除など)を差し引く
- 課税所得に税率をかけて税額を計算
具体例 所得300万円、障害者控除27万円の場合
- 控除前の課税所得 300万円
- 控除後の課税所得 273万円
- 所得税の軽減額 27万円×税率(10%の場合)=2.7万円
障害者控除の対象者
本人が対象となる場合
納税者本人が以下のいずれかに該当する場合、障害者控除を受けられます。
1. 身体障害者手帳の交付を受けている方
- 1級・2級 特別障害者
- 3級〜6級 一般の障害者
2. 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方
- 1級 特別障害者
- 2級・3級 一般の障害者
3. 療育手帳の交付を受けている方
- 重度(A判定など) 特別障害者
- 中度・軽度(B判定など) 一般の障害者
- ※自治体によって判定基準が異なります
4. 戦傷病者手帳の交付を受けている方
- 特別項症〜第3項症 特別障害者
- 第4項症〜第6項症 一般の障害者
5. 原子爆弾被爆者で一定の要件を満たす方 厚生労働大臣の認定を受けた方
6. その他の障害者
- 精神または身体に障害のある65歳以上の方で、市区町村長等の認定を受けた方(障害者控除対象者認定書)
- 6ヶ月以上寝たきりで、複雑な介護を必要とする方 特別障害者
家族が対象となる場合
納税者の配偶者や扶養親族が障害者である場合も、納税者が控除を受けられます。
対象となる家族
- 配偶者(控除対象配偶者または同一生計配偶者)
- 扶養親族(生計を一にしている親族)
重要なポイント
- 扶養親族の年齢制限はありません(16歳未満でも対象)
- 所得制限があります(年間所得48万円以下)
- 同居している必要はありません(別居していても扶養していればOK)
同居特別障害者の要件
特別障害者が納税者または納税者の配偶者、同一生計親族のいずれかと同居している場合、さらに高い控除額が適用されます。
同居の定義
- 常に同居している必要があります
- 長期入院などで別居している場合は対象外
- ただし、病気療養のための入院など、一時的な別居は同居とみなされることもあります
障害者控除の金額
控除額一覧
| 区分 | 所得税 | 住民税 |
| 一般の障害者 | 27万円 | 26万円 |
| 特別障害者 | 40万円 | 30万円 |
| 同居特別障害者 | 75万円 | 53万円 |
実際の節税額
控除額がそのまま税金から引かれるわけではありません。課税所得に応じた税率をかけた金額が実際の節税額となります。
所得税の税率
- 195万円以下 5%
- 195万円超〜330万円以下 10%
- 330万円超〜695万円以下 20%
- 695万円超〜900万円以下 23%
- 900万円超〜1,800万円以下 33%
- 1,800万円超〜4,000万円以下 40%
- 4,000万円超 45%
節税額の計算例
例1 本人が一般の障害者(課税所得300万円の場合)
- 所得税 27万円×10%=2.7万円の軽減
- 住民税 26万円×10%=2.6万円の軽減
- 合計 約5.3万円の節税
例2 同居する親が特別障害者(課税所得500万円の場合)
- 所得税 75万円×20%=15万円の軽減
- 住民税 53万円×10%=5.3万円の軽減
- 合計 約20.3万円の節税
障害者控除対象者認定書
認定書とは
65歳以上で障害者手帳を持っていなくても、一定の要件を満たせば市区町村長から「障害者控除対象者認定書」の交付を受けることで、障害者控除を受けられます。
対象者
- 65歳以上の方
- 要介護認定を受けている方
- 身体障害者手帳や療育手帳を持っていない方
- 一定の障害の状態にある方
判定基準(自治体により異なる)
- 要介護1〜2程度 一般の障害者に該当
- 要介護3〜5程度 特別障害者に該当
- 認知症高齢者の日常生活自立度がⅢ以上 特別障害者に該当
申請方法
申請先 市区町村の高齢福祉課、介護保険課などの担当窓口
必要書類
- 障害者控除対象者認定申請書(自治体の様式)
- 本人確認書類
- 介護保険被保険者証のコピー
- 委任状(家族が申請する場合)
発行までの期間 通常1〜2週間程度
有効期間 1年間(毎年申請が必要な自治体もある)
確定申告での申請方法
会社員の場合(年末調整)
会社員の方は、年末調整で障害者控除を受けることができます。
手続き
- 勤務先から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を受け取る
- 該当欄にチェックを入れる
- 本人が障害者 「障害者」欄にチェック
- 扶養親族が障害者 「障害者」欄と扶養親族欄にチェック
- 障害の種類と等級を記入
- 障害者手帳の写しを添付(会社により異なる)
- 勤務先に提出
年の途中で障害者になった場合 その年の年末調整で控除を受けられます。「扶養控除等(異動)申告書」を再提出してください。
確定申告の場合
自営業者や年末調整で控除を受けられなかった方は、確定申告で申請します。
確定申告書の記入方法
第一表
- 「障害者控除」欄に控除額を記入
- 本人が障害者の場合は「本人」欄にチェック
第二表
- 「障害者控除」欄に詳細を記入
- 本人または家族の氏名
- 続柄
- 障害の種類(身体障害、精神障害など)
- 障害の等級
- 同居の有無
添付書類
- 障害者手帳のコピー(原本提示でも可)
- 障害者控除対象者認定書のコピー
- その他証明書類
e-Taxでの申請
手順
- e-Taxにログイン
- 確定申告書作成コーナーで必要事項を入力
- 所得控除の入力画面で「障害者控除」を選択
- 該当する区分を選択し、詳細を入力
- 電子申告
添付書類の省略 e-Taxで申告する場合、障害者手帳の写しなどの添付書類は提出を省略できますが、5年間保管する必要があります。
よくある質問
Q1. 障害者手帳を取得したばかりですが、今年の確定申告で控除を受けられますか?
A. はい、受けられます。その年の12月31日時点で障害者である場合、その年の所得税について障害者控除を受けられます。会社員の方は年末調整で、それ以外の方は確定申告で申請してください。
Q2. 年の途中で障害者手帳を返還しました。控除はどうなりますか?
A. 12月31日時点で障害者でない場合、その年は障害者控除を受けられません。ただし、年の途中まで障害者であった期間については、按分などの措置はなく、年末の状態で判断されます。
Q3. 別居している親を扶養していますが、障害者控除は受けられますか?
A. はい、受けられます。生計を一にしている(仕送りをしているなど)場合、同居していなくても扶養親族として障害者控除を受けられます。ただし、同居特別障害者控除は受けられません。
Q4. 障害者手帳を持っていませんが、医師の診断書で控除を受けられますか?
A. 原則として、障害者手帳などの公的な証明が必要です。ただし、65歳以上の方は、市区町村から「障害者控除対象者認定書」の交付を受けることで、手帳がなくても控除を受けられます。
Q5. 扶養親族が複数人障害者の場合、全員分の控除を受けられますか?
A. はい、受けられます。それぞれの障害者について控除を受けることができます。例えば、配偶者と子どもの2人が特別障害者の場合、40万円×2人=80万円の控除を受けられます。
Q6. 過去に控除を受け忘れていた場合、遡って申請できますか?
A. はい、できます。過去5年分まで遡って「更正の請求」を行うことができます。当時の障害者手帳や認定書、源泉徴収票などの書類を用意して、税務署に申請してください。
Q7. 障害年金を受給していますが、確定申告は必要ですか?
A. 障害年金自体は非課税所得なので、障害年金のみの収入であれば確定申告は不要です。ただし、他に給与所得などがある場合は確定申告が必要になることがあります。
Q8. 要介護認定を受けていますが、必ず障害者控除を受けられますか?
A. 要介護認定だけでは障害者控除を受けられません。市区町村から「障害者控除対象者認定書」の交付を受ける必要があります。要介護度によって認定基準が異なりますので、お住まいの自治体に確認してください。
他の控除との併用
併用できる主な控除
障害者控除は、以下の控除と併用できます。
所得控除
- 基礎控除
- 配偶者控除・配偶者特別控除
- 扶養控除
- 社会保険料控除
- 生命保険料控除
- 医療費控除
- 寄附金控除
- など
税額控除
- 住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)
- 配当控除
- など
医療費控除との関係
障害に関連する医療費が多い場合、医療費控除も併用することで、さらに税負担を軽減できます。
医療費控除の対象となる主なもの
- 医師の診療費、治療費
- 処方薬の購入費
- 通院のための交通費
- リハビリテーション費用
- 補聴器、義肢、車椅子などの購入費(医師の証明がある場合)
注意点とポイント
1. 年末の状態で判断
障害者控除は、その年の12月31日時点の状態で判断されます。年の途中で障害者になった場合でも、年末時点で該当すれば1年分の控除を受けられます。
2. 所得制限に注意
扶養親族の障害者控除を受ける場合、その扶養親族の年間所得が48万円以下である必要があります。
所得の計算
- 給与所得の場合 給与収入103万円以下(給与所得控除55万円を引いて48万円以下)
- 年金所得の場合 65歳未満は年金収入108万円以下、65歳以上は158万円以下
3. 障害年金は非課税
障害年金は非課税所得なので、所得に含まれません。障害年金を受給していても、他の所得が少なければ扶養親族として障害者控除を受けられます。
4. 書類の保管
確定申告で提出した障害者手帳などの書類は、申告から5年間保管する必要があります(e-Taxの場合も同様)。
5. 手帳取得のメリット
障害者手帳を取得すると、税制上の優遇措置だけでなく、以下のようなメリットがあります。
- 障害福祉サービスの利用
- 公共交通機関の割引
- 公共施設の利用料減免
- 携帯電話料金の割引
- 雇用面での配慮
まとめ
障害者控除は、障害のある方やその家族の税負担を軽減する重要な制度です。
重要ポイント
- 本人または扶養家族が障害者の場合に利用できる
- 控除額 一般の障害者27万円、特別障害者40万円、同居特別障害者75万円(所得税)
- 会社員は年末調整で、自営業者などは確定申告で申請
- 65歳以上で要介護認定を受けている方は、障害者控除対象者認定書の取得を検討
- 他の控除と併用可能
- 過去5年分まで遡って申請可能
活用のために
- 障害者手帳を取得したら、必ず勤務先や確定申告で申告する
- 要介護認定を受けている高齢の親がいる場合、認定書の申請を検討する
- 過去に控除を受け忘れていないか確認する
- わからないことは税務署や市区町村の窓口で相談する
障害者控除を適切に活用することで、年間数万円から十数万円の節税が可能です。該当する方は、ぜひこの制度を活用してください。
不明な点があれば、お住まいの市区町村や税務署、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

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