はじめに
発達障害そのものは生まれつきの脳の特性ですが、適切な理解や支援が得られない環境で過ごすことにより、「二次障害」と呼ばれる新たな問題が生じることがあります。
二次障害は、本人の努力不足や甘えではなく、周囲の理解不足や不適切な対応によって引き起こされる深刻な問題です。本記事では、発達障害の二次障害について、その原因、症状、予防方法、そして対処法まで詳しく解説します。
二次障害とは
基本的な定義
一次障害 生まれつきの脳の特性による症状。発達障害そのものの特性。
- ASD(自閉スペクトラム症) 社会的コミュニケーションの困難、限定的・反復的な行動パターン
- ADHD(注意欠如・多動症) 不注意、多動性、衝動性
- LD(学習障害) 読み、書き、計算などの特定の学習領域の困難
二次障害 一次障害(発達障害の特性)に対する周囲の無理解や不適切な対応、本人の失敗体験の積み重ねなどにより、後天的に生じる精神的・行動的な問題。
重要なポイント 二次障害は予防可能です。適切な理解と支援があれば、多くの場合、発症を防ぐことができます。
二次障害が生じるメカニズム
1. 失敗体験の蓄積 発達障害の特性により、周囲と同じようにできないことが多く、失敗を繰り返します。
2. 否定的なフィードバック 「なぜできないの?」「怠けている」「努力が足りない」などの否定的な言葉を浴びせられます。
3. 自己肯定感の低下 「自分はダメな人間だ」という認識が形成されます。
4. ストレスの蓄積 常に緊張し、周囲に合わせようと過度な努力を続けることで、心身に大きなストレスがかかります。
5. 二次障害の発症 うつ病、不安障害、適応障害などの精神疾患や、不登校、引きこもり、暴力行為などの問題行動が生じます。
二次障害の種類と症状
1. 精神疾患
うつ病
- 抑うつ気分、興味・喜びの喪失
- 無気力、疲労感
- 不眠または過眠
- 食欲の変化
- 自殺念慮
発達障害のある方は、定型発達の方に比べてうつ病を発症するリスクが高いことが知られています。
不安障害
- 全般性不安障害 常に不安や心配が続く
- 社交不安障害 人前での極度の不安
- パニック障害 突然の強い不安発作
- 強迫性障害 強迫観念と強迫行為
適応障害 特定のストレス因子により、抑うつ気分や不安、行動の問題が生じる。
統合失調症 発達障害と統合失調症は併存することがあり、また二次的に発症するケースもあります。
摂食障害 特に女性のASDの方に見られることがあります。
- 拒食症(神経性やせ症)
- 過食症(神経性過食症)
物質使用障害 ストレスから逃れるため、または自己治療として、アルコールや薬物に依存してしまうケースがあります。
2. 行動上の問題
不登校・ひきこもり 学校や社会での失敗体験や人間関係の困難から、外出できなくなる。
暴力・反社会的行動 フラストレーションの蓄積から、暴言や暴力、非行などの問題行動が現れる。
自傷行為 リストカット、髪を抜く、爪を噛むなど、自分を傷つける行為。
チック症状の悪化 ストレスによりチックが増悪または新たに出現する。
3. 身体症状
心身症
- 頭痛、腹痛、吐き気
- 過敏性腸症候群
- 円形脱毛症
- 慢性疲労
睡眠障害 不眠、過眠、睡眠リズムの乱れ。
摂食の問題 食欲不振、過食、偏食の悪化。
4. 人格の変化
回避性パーソナリティ 失敗を恐れ、新しいことに挑戦しなくなる。
依存的パーソナリティ 自分で決められず、常に他者に頼る。
強迫的パーソナリティ 完璧主義が極端になり、柔軟性を失う。
二次障害を引き起こす要因
1. 環境的要因
学校での問題
- いじめ、からかい
- 教師の無理解
- 学習の遅れや失敗の積み重ね
- 集団行動への過度な要求
- 特性に配慮されない指導
家庭での問題
- 親の障害への無理解
- 厳しいしつけ、体罰
- 「普通」であることを強要される
- 兄弟姉妹との比較
- 過保護または放任
職場での問題
- 適切な配慮がない
- 同僚の無理解
- 過度な業務量
- ハラスメント
- 頻繁な配置転換
社会での問題
- 社会の無理解、偏見
- 「見えない障害」への無理解
- 孤立、孤独感
2. 本人の要因
自己認識の問題
- 自分の特性を理解していない
- 無理に「普通」になろうとする
- 助けを求められない
対処法の不足
- ストレス対処法を知らない
- 適切な休息を取れない
- SOSを出せない
併存する問題
- 複数の発達障害の併存
- 知的障害の併存
- 感覚過敏などの問題
3. 診断の遅れ
未診断による問題
- 適切な支援が受けられない
- 「なぜできないのか」が理解されない
- 努力不足と誤解される
- 自分自身も特性を理解できない
診断が遅れやすいケース
- 知的に高い場合
- 女性のASD(カモフラージュしやすい)
- 不注意優勢型のADHD
- 大人になってから
ライフステージ別の二次障害
幼児期
主な二次障害
- かんしゃく、パニック
- 睡眠問題
- 偏食の深刻化
- 集団活動への拒否
背景
- 感覚過敏への配慮不足
- コミュニケーションの困難
- 集団での過度な要求
学童期・思春期
主な二次障害
- 不登校
- いじめによるトラウマ
- 抑うつ、不安
- 自己肯定感の著しい低下
- 反抗的行動、非行
- 摂食障害
背景
- 学習の遅れ
- 友人関係の困難
- いじめ
- 思春期の心理的変化
- 進路の悩み
成人期
主な二次障害
- うつ病
- 不安障害
- ひきこもり
- 就労困難
- 対人関係のトラブル
- 依存症(アルコール、ギャンブルなど)
- DV、虐待の被害者または加害者になる
背景
- 就職活動の失敗
- 職場での適応困難
- 人間関係のストレス
- 恋愛・結婚の問題
- 経済的困難
二次障害の予防
1. 早期発見・早期支援
幼児期からの気づき
- 定期健診での発見
- 保育園・幼稚園での気づき
- 親の気づき
早期療育
- 専門機関での療育
- 言語療法、作業療法
- ソーシャルスキルトレーニング
効果 早期からの適切な支援により、二次障害の発症を大幅に減らすことができます。
2. 適切な理解と配慮
周囲の理解
- 発達障害の正しい知識
- 本人の特性の理解
- できないことを責めない
- 頑張っていることを認める
環境調整
- 学校 合理的配慮の提供、通級指導、特別支援学級
- 職場 業務内容の調整、働き方の配慮
- 家庭 安心できる居場所
コミュニケーション
- 具体的で明確な指示
- 視覚的支援の活用
- 肯定的なフィードバック
- 失敗を責めない
3. 自己肯定感の育成
成功体験の積み重ね
- 得意なことを伸ばす
- 小さな成功を認める
- 適切な目標設定
肯定的な関わり
- 存在そのものを認める
- 努力を評価する
- 比較しない
強みの発見
- 特性を強みとして活かす
- 興味・関心を大切にする
- 才能を伸ばす機会を提供
4. ストレス管理
ストレスへの気づき
- 自分のストレスサインを知る
- 疲れのサインに気づく
ストレス対処法
- リラクゼーション技法
- 趣味や楽しみの時間
- 適度な運動
- 十分な休息
SOSの出し方
- 助けを求めることは弱さではない
- 信頼できる人に相談する
- 専門家を頼る
5. 適切な医療・支援
定期的な相談
- 発達障害の専門医
- 臨床心理士、公認心理師
- ソーシャルワーカー
支援機関の活用
- 発達障害者支援センター
- 障害者就業・生活支援センター
- 相談支援事業所
二次障害への対処法
すでに二次障害が生じている場合
1. 医療機関の受診
診療科
- 精神科・心療内科
- 児童精神科(子どもの場合)
- 発達障害専門外来
治療
- 薬物療法 抗うつ薬、抗不安薬など
- 精神療法 認知行動療法、カウンセリング
- 環境調整の提案
2. 発達障害の診断・再評価
未診断の場合や、診断が古い場合は、改めて専門医による評価を受けることが重要です。
診断のメリット
- 自分の特性を理解できる
- 適切な支援が受けられる
- 周囲の理解が得やすくなる
- 自己肯定感の回復につながる
3. 環境の調整
学校
- 不登校の場合 フリースクール、適応指導教室、通信制高校
- 特別支援教育の利用
- 休学、転校の検討
職場
- 産業医、人事への相談
- 配置転換、業務調整
- 休職、転職の検討
- 障害者雇用への切り替え
家庭
- 家族カウンセリング
- 家族が発達障害を学ぶ
- 適度な距離を保つ
4. 心理療法・カウンセリング
認知行動療法(CBT) 否定的な思考パターンを修正し、適応的な行動を増やす。
対人関係療法(IPT) 人間関係の問題に焦点を当てる。
ソーシャルスキルトレーニング(SST) 社会生活に必要なスキルを学ぶ。
マインドフルネス 今この瞬間に意識を向け、ストレスを軽減する。
5. 福祉サービスの活用
障害福祉サービス
- 就労移行支援
- 就労継続支援
- 自立訓練
- 居宅介護
手帳の取得
- 精神障害者保健福祉手帳
- 療育手帳(知的障害を伴う場合)
経済的支援
- 障害年金
- 自立支援医療制度
6. ピアサポート
当事者会 同じ経験を持つ人との交流により、孤立感が軽減されます。
家族会 家族同士の情報交換や支え合い。
7. 安全の確保
自殺のリスクがある場合
- 一人にしない
- 危険なものを遠ざける
- すぐに医療機関を受診
- 緊急時は救急車を呼ぶ
自傷行為がある場合
- 医療機関で相談
- 代替行動を見つける
- ストレス要因の軽減
回復のプロセス
回復には時間がかかる
二次障害からの回復は、一朝一夕には進みません。長期的な視点が必要です。
回復の段階
- 安全の確保 心身の安全を守る
- 休養 十分な休息を取る
- 自己理解 自分の特性を理解する
- 環境調整 無理のない環境を作る
- 小さな挑戦 できることから始める
- 社会参加 徐々に活動範囲を広げる
周囲のサポート
家族ができること
- 本人のペースを尊重する
- 無理をさせない
- 小さな進歩を認める
- 専門家と連携する
- 家族自身もケアを受ける
支援者ができること
- 長期的な視点で支える
- 本人の強みに注目する
- 自己決定を尊重する
- 安心できる関係を築く
まとめ
発達障害の二次障害は、本人の問題ではなく、環境と本人の特性のミスマッチから生じる問題です。
重要なポイント
- 二次障害は予防可能である
- 早期発見・早期支援が最も重要
- 適切な理解と配慮で発症を防げる
- すでに発症している場合も、適切な治療と支援で改善可能
- 環境調整が不可欠
- 長期的な視点が必要
予防の鍵
- 発達障害の正しい理解
- 自己肯定感を育む関わり
- 得意なことを伸ばす
- ストレス管理
- SOSを出せる関係づくり
対処の鍵
- 専門医療機関の受診
- 環境の調整
- 心理療法・カウンセリング
- 福祉サービスの活用
- 周囲のサポート
発達障害のある方が二次障害を発症することなく、自分らしく生きられる社会を作ることが、私たち全員の課題です。本人、家族、学校、職場、地域社会が協力し、理解と支援の輪を広げていくことが重要です。
もし自分や身近な人に二次障害の兆候が見られたら、早めに専門家に相談してください。適切な支援により、回復と新たな人生の構築は可能です。

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