1. 生活保護の支給額とは
生活保護の支給額とは、国が生活に困窮する人々に対して支給する保護費の総額のことです。この金額は、憲法第25条に定められた「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するために、科学的な根拠に基づいて算出されています。
支給額は決して一律ではありません。世帯の人数、年齢構成、居住地域、健康状態、就労状況など、様々な要素を総合的に判断して決定されます。そのため、同じ世帯人数でも、状況によって支給額は大きく異なります。
この記事では、生活保護の支給額がどのように決まるのか、その仕組みから具体的な計算方法、実際の支給例まで、包括的に解説していきます。
2. 支給額の基本的な決定方法
最低生活費の算定
生活保護の支給額を理解する上で最も重要な概念が「最低生活費」です。これは、その世帯が健康で文化的な最低限度の生活を維持するために必要な費用として算定される金額です。
最低生活費は、世帯の状況に応じて以下の要素を積み上げて計算されます。
生活扶助基準額は、日常生活に必要な食費、被服費、光熱水費などを賄うための基本的な費用です。住宅扶助基準額は、家賃や地代など住居費を賄うための費用です。その他の扶助として、必要に応じて教育扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助が加算されます。
収入認定との関係
生活保護の実際の支給額は、最低生活費から世帯の収入を差し引いた金額となります。これを式で表すと以下のようになります。
生活保護支給額 = 最低生活費 – 収入認定額
収入には、就労による給与、年金、各種手当、親族からの仕送りなど、世帯が得るすべての金銭的な利益が含まれます。ただし、一部の収入については控除や認定除外があります。
収入がまったくない世帯の場合、最低生活費の全額が支給されます。何らかの収入がある場合は、その分を差し引いた不足分が支給される仕組みです。
支給の原則
生活保護の支給には、いくつかの重要な原則があります。
世帯単位の原則として、保護は世帯を単位として行われます。世帯全体の収入と必要な生活費を比較して支給額が決定されます。
必要即応の原則として、世帯の実際の必要に応じて保護が行われます。画一的ではなく、個別の状況に対応した支給が行われます。
最低生活保障の原則として、保護は最低限度の生活を保障するものです。それ以上でもそれ以下でもない水準が維持されます。
3. 生活扶助基準額の詳細
生活扶助は、生活保護の中核をなす扶助で、日常生活に必要な費用を賄います。この基準額は、以下の3つの要素で構成されています。
第1類費(個人的費用)
第1類費は、食費や被服費など、個人ごとに必要な費用です。年齢によって金額が設定されており、各年齢階層の標準的な生活費が反映されています。
令和5年度の基準では、1級地-1(東京23区など)の場合、以下のような金額となっています。
0歳から2歳の場合、月額約2万3千円です。3歳から5歳の場合、月額約2万8千円です。6歳から11歳の場合、月額約3万4千円です。12歳から17歳の場合、月額約4万2千円です。18歳から19歳の場合、月額約4万円です。20歳から40歳の場合、月額約4万円です。41歳から59歳の場合、月額約3万8千円です。60歳から64歳の場合、月額約3万7千円です。65歳から69歳の場合、月額約3万6千円です。70歳から74歳の場合、月額約3万5千円です。75歳以上の場合、月額約3万4千円です。
これらの金額は級地によって変動し、2級地では約90%、3級地では約80%程度の金額となります。
第2類費(世帯共通費用)
第2類費は、光熱水費、家具什器費など、世帯全体で使用する費用です。世帯人数によって金額が設定されています。
1級地-1の場合、1人世帯で月額約3万1千円、2人世帯で月額約4万3千円、3人世帯で月額約4万8千円、4人世帯で月額約5万1千円、5人以上世帯で月額約5万3千円となります。
世帯人数が増えるほど一人当たりの金額は減少する仕組みとなっており、これはスケールメリットを反映したものです。
冬季加算
寒冷地では、冬季の暖房費を賄うために冬季加算が支給されます。地域の寒冷度と世帯人数に応じて、11月から3月または4月までの期間、月額数千円から数万円が加算されます。
北海道や東北地方など特に寒冷な地域では、より高い冬季加算が適用されます。
各種加算制度
世帯の状況に応じて、基準額に以下のような加算が適用されます。
母子加算は、18歳以下の子どもを養育するひとり親世帯に支給されます。子ども1人の場合、月額約2万3千円、子ども2人の場合、月額約2万6千円、子ども3人以上の場合、月額約2万9千円が加算されます。
障害者加算は、障害のある方に支給されます。身体障害者手帳1級または2級、精神障害者保健福祉手帳1級または2級などの場合、月額約2万6千円が加算されます。3級の場合は月額約1万7千円です。
介護施設入所者加算は、介護施設に入所している方に月額約9千円から1万円程度が加算されます。
在宅患者加算は、在宅で療養している方に月額約1万3千円が加算されます。
妊産婦加算は、妊娠中または出産後6か月以内の方に月額約9千円が加算されます。
児童養育加算は、中学校修了前の子どもを養育している場合に支給されます。3歳未満の子ども一人につき月額約1万5千円、3歳以上中学生以下の子ども一人につき月額約1万円が加算されます。
放射線障害者加算は、原子爆弾被爆者で放射線障害の認定を受けた方に月額約3万5千円が加算されます。
4. 住宅扶助基準額の詳細
住宅扶助は、家賃、間代、地代などの住居費を賄うための扶助です。実際に支払っている家賃額が支給されますが、地域と世帯人数に応じた上限額が設定されています。
地域別・世帯人数別の上限額
住宅扶助の上限額は、都道府県や市区町村ごとに細かく設定されています。主要都市の例を見てみましょう。
東京都特別区(23区)の場合、1人世帯で月額5万3千700円、2人世帯で月額6万4千円、3人から5人世帯で月額6万9千800円、6人世帯で月額7万5千円、7人以上世帯で月額8万3千800円です。
大阪市の場合、1人世帯で月額4万2千円、2人世帯で月額5万円、3人から5人世帯で月額5万5千円、6人世帯で月額5万9千円、7人以上世帯で月額6万8千円です。
名古屋市の場合、1人世帯で月額3万7千円、2人世帯で月額4万6千円、3人から5人世帯で月額5万円、6人世帯で月額5万4千円、7人以上世帯で月額6万2千円です。
福岡市の場合、1人世帯で月額3万6千円、2人世帯で月額4万3千円、3人から5人世帯で月額4万7千円、6人世帯で月額5万1千円、7人以上世帯で月額5万9千円です。
地方の市町村では、さらに低い上限額が設定されていることが一般的で、1人世帯で月額2万5千円から3万5千円程度、2人世帯で月額3万円から4万円程度となることが多くあります。
共益費・管理費の扱い
家賃契約に含まれる共益費や管理費も、住宅扶助の対象となります。ただし、家賃と共益費を合算した金額が上限額以内である必要があります。
駐車場代や町内会費など、住居そのものとは直接関係のない費用は、原則として住宅扶助の対象外となります。
更新料・礼金・敷金
賃貸契約の更新料は、契約に定められている場合、実費が支給されます。ただし、地域の慣習として合理的な範囲内に限られます。
転居時の礼金や敷金については、転居が認められる正当な理由がある場合に限り、一定額が支給されます。礼金は家賃の1か月分程度、敷金は実費が支給されることが一般的です。
5. その他の扶助の支給額
教育扶助
義務教育を受ける子どもがいる世帯には、教育扶助が支給されます。
基準額として、小学生の場合は月額約2千650円、中学生の場合は月額約5千100円が支給されます。
学習支援費として、小学生は月額約2千500円、中学生は月額約4千800円が支給されます。
実費として、教材費、学用品費、通学用品費、校外活動参加費、給食費などが必要に応じて支給されます。入学時には、入学準備金として小学生に約6万3千円、中学生に約7万9千円が支給されます。
医療扶助
医療扶助は、病気やケガの治療に必要な医療サービスを現物給付する扶助です。診察、薬剤、治療材料、処置、手術、入院などの費用が全額支給され、自己負担はありません。
ただし、事前に福祉事務所で医療券の発行を受け、指定医療機関で受診する必要があります。緊急時を除き、医療機関を自由に選ぶことはできません。
介護扶助
介護扶助は、介護保険のサービスを利用する際の費用を賄う扶助です。医療扶助と同様に現物給付で、自己負担はありません。
居宅介護、福祉用具、住宅改修、施設介護などのサービスが対象となります。介護券の発行を受けて、指定事業者のサービスを利用します。
出産扶助
出産に必要な費用として、施設分娩の場合は最大約29万円、居宅分娩の場合は最大約25万円が支給されます。
生業扶助
生業扶助には、高校就学費用と技能修得費用が含まれます。
高校就学費用として、基本額が月額約5千300円、教材費や学用品費などが実費で支給されます。入学時には入学準備金として約6万3千円が支給されます。授業料は別途実費が支給されます。
技能修得費用として、就労に必要な技能や資格を取得するための費用が、月額最大約8千円まで支給されます。
葬祭扶助
葬祭扶助は、死亡した被保護者の葬祭を行う場合に支給されます。大人の場合は最大約21万円、子どもの場合は最大約16万円が支給されます。
これは最低限の葬祭費用を賄うためのもので、豪華な葬儀を行うための費用ではありません。
6. 具体的な支給額のシミュレーション
実際の支給額を理解するため、具体的なケースでシミュレーションしてみましょう。
ケース1:単身高齢者(東京23区)
70歳の単身者が東京23区で賃貸アパートに住んでいる場合を考えます。収入は年金月額6万円です。
生活扶助として、第1類費が約3万5千円、第2類費が約3万1千円、合計約6万6千円です。住宅扶助は家賃実額で月額4万5千円とします。最低生活費の合計は約11万1千円です。
年金収入が月額6万円あるため、支給額は11万1千円から6万円を差し引いた月額約5万1千円となります。年金と合わせて、月額約11万1千円で生活することになります。
ケース2:母子世帯(大阪市)
35歳の母親と子ども2人(小学5年生、小学2年生)の3人世帯が大阪市で暮らしている場合を考えます。母親はパートで月収4万円を得ています。
生活扶助として、母親の第1類費が約3万6千円、子ども2人分がそれぞれ約3万円で合計約6万円、第2類費が約4万3千円です。母子加算が約2万3千円、児童養育加算が2人分で約2万円、合計約18万2千円です。
教育扶助が2人分で月額約1万円です。住宅扶助は家賃実額で月額5万円とします。最低生活費の合計は約24万2千円です。
パート収入が月額4万円ありますが、勤労控除が適用され、約1万2千円が控除されます。認定収入は約2万8千円となります。
支給額は24万2千円から2万8千円を差し引いた月額約21万4千円となります。パート収入と合わせて、月額約25万4千円の収入となります。
ケース3:高齢者夫婦(地方都市)
夫75歳、妻72歳の高齢者夫婦が地方都市(2級地-1)で暮らしている場合を考えます。年金収入は2人合わせて月額10万円です。
生活扶助として、夫の第1類費が約3万円、妻の第1類費が約3万1千円、第2類費が約3万6千円、合計約9万7千円です。住宅扶助は家賃実額で月額3万5千円とします。最低生活費の合計は約13万2千円です。
年金収入が月額10万円あるため、支給額は13万2千円から10万円を差し引いた月額約3万2千円となります。年金と合わせて、月額約13万2千円で生活することになります。
ケース4:若年単身者・就労中(東京23区)
30歳の単身者が東京23区でアルバイトをしながら生活している場合を考えます。月収は8万円です。
生活扶助として、第1類費が約4万円、第2類費が約3万1千円、合計約7万1千円です。住宅扶助は家賃実額で月額5万円とします。最低生活費の合計は約12万1千円です。
アルバイト収入が月額8万円ありますが、勤労控除が適用されます。収入が8万円の場合、約2万円が控除され、認定収入は約6万円となります。
支給額は12万1千円から6万円を差し引いた月額約6万1千円となります。アルバイト収入と合わせて、月額約14万1千円の収入となります。
ケース5:障害者単身世帯(名古屋市)
45歳で身体障害者手帳2級を持つ単身者が名古屋市で暮らしている場合を考えます。障害基礎年金2級を受給しており、月額約6万5千円の収入があります。
生活扶助として、第1類費が約3万4千円、第2類費が約2万8千円、障害者加算が約2万6千円、合計約8万8千円です。住宅扶助は家賃実額で月額3万5千円とします。最低生活費の合計は約12万3千円です。
障害年金収入が月額6万5千円あるため、支給額は12万3千円から6万5千円を差し引いた月額約5万8千円となります。年金と合わせて、月額約12万3千円で生活することになります。
7. 支給額の変動要因
生活保護の支給額は、様々な要因によって変動します。主な変動要因を理解しておくことが重要です。
世帯構成の変化
出生、死亡、世帯員の転入・転出、子どもの就職や独立など、世帯構成が変化すると支給額も変動します。世帯分離や世帯合併が行われる場合は、大きく変動することがあります。
子どもが18歳に達すると、児童養育加算が終了します。子どもが義務教育を修了すると、教育扶助が終了します。このような年齢による変化も、支給額に影響します。
転居による変化
転居によって級地が変わると、生活扶助基準額が変動します。また、家賃が変われば住宅扶助額も変動します。
転居が認められるのは、現在の住居が住宅扶助基準額を大幅に超える場合、立ち退きを求められた場合、就労のための転居、世帯構成の変化により適切な広さでなくなった場合などに限られます。
収入の変化
就労収入、年金額、その他の収入が変化すると、支給額が変動します。収入が増えれば支給額は減少し、収入が減少すれば支給額は増加します。
アルバイトやパートを始めた場合、終了した場合、年金額が改定された場合など、速やかに福祉事務所に届け出る必要があります。
健康状態の変化
病気やケガ、障害の発生または改善によって、医療扶助や障害者加算、在宅患者加算などが適用または停止され、支給額が変動します。
介護が必要になった場合は、介護扶助が適用されます。
制度改正による変化
生活保護基準は、物価の動向、国民の消費動向、最低賃金の動向などを踏まえて、定期的に見直されます。基準改定が行われると、支給額が変動します。
近年は、物価の動向を反映して基準が調整されることが多く、物価上昇時には基準が引き上げられ、物価下落時には引き下げられる傾向にあります。
8. 支給額に関する注意点
全額が自由に使えるわけではない
生活保護の支給額には、家賃、光熱水費、食費、医療費など、生活に必要なすべての費用が含まれています。したがって、支給された金額をすべて自由に使えるわけではありません。
家賃分は確実に家賃として支払う必要がありますし、光熱水費や食費も計画的に使う必要があります。
使途の制限
生活保護費は、最低限度の生活を維持するために支給されるものです。したがって、ギャンブルや浪費、贅沢品の購入などに使うことは認められていません。
福祉事務所から、支出の内容について説明を求められることがあります。領収書の提出を求められる場合もあります。
貯蓄の扱い
生活保護費から貯蓄することは、原則として認められていません。支給された保護費は、当月の生活費として使い切ることが前提とされています。
ただし、自立に向けた計画的な貯蓄、例えば就労のための資格取得費用、高校や大学への進学費用などについては、事前に福祉事務所に相談し承認を得ることで、一定額の貯蓄が認められる場合があります。
返還義務が生じる場合
不正に受給した場合、収入を申告しなかった場合、過誤により多く支給された場合などは、支給された保護費を返還する義務が生じます。
また、保護受給後に遡って年金が支給された場合、交通事故などで損害賠償金を受け取った場合なども、該当期間の保護費を返還する必要があります。
9. よくある質問
支給日はいつ?
生活保護費は、毎月1日から5日頃に支給されることが一般的です。具体的な支給日は、自治体や福祉事務所によって異なります。
初回の支給は、保護決定から1か月程度かかることがあります。
支給方法は?
現金支給または銀行口座への振込が一般的です。一部の自治体では、専用のプリペイドカードでの支給が試験的に導入されています。
住宅扶助については、本人に支給される場合と、家主や不動産会社に直接支払われる代理納付が行われる場合があります。
支給額は毎月変わる?
世帯の状況が変わらなければ、毎月同じ額が支給されます。ただし、冬季加算がある地域では、11月から3月または4月まで加算額が上乗せされます。
収入に変動があった場合は、その都度支給額が調整されます。
支給額では足りない場合は?
生活保護の支給額は、最低限度の生活を維持できる水準として科学的に算定されています。工夫と節約により、基本的な生活は可能な水準です。
どうしても足りない場合は、まず福祉事務所の担当者に相談しましょう。家計管理の助言を受けたり、支出の見直しをしたりすることで、状況が改善することがあります。
他の制度との併用は可能?
児童手当、児童扶養手当、特別児童扶養手当、障害年金などは、生活保護と併給できますが、これらの収入は認定され、保護費から差し引かれます。
医療費助成制度、障害者手帳による各種減免制度などは、生活保護受給中は利用できないことが多くあります。生活保護の医療扶助や各種扶助でカバーされるためです。
10. まとめ:支給額を正しく理解する
生活保護の支給額は、世帯の状況に応じて個別に算定されます。生活扶助、住宅扶助を基本として、必要に応じて各種加算や他の扶助が組み合わされます。
単身者で月額約9万円から13万円、母子世帯で月額約20万円から28万円、高齢者夫婦で月額約13万円から16万円程度が一般的な目安ですが、これはあくまで参考値です。実際の支給額は、居住地域、世帯構成、健康状態、収入状況など、様々な要因によって決まります。
重要なのは、生活保護は憲法で保障された権利であり、生活に困窮したときに利用できる制度だということです。支給額の多寡にかかわらず、生活に困っている場合は、まずお住まいの地域の福祉事務所に相談してみましょう。
具体的な支給額を知りたい場合、申請を検討している場合は、福祉事務所での相談が不可欠です。専門のケースワーカーが、あなたの状況を丁寧に聞き取り、適切な支給額を算定してくれます。相談は無料で、秘密は厳守されます。
生活保護は、一時的に利用する制度です。安定した生活基盤を築き、自立に向けて歩み始めるための支援として活用しましょう。

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