「複数の指示を受けると頭が真っ白になる」「指示の意味がわからず困る」「言われた通りにできなくて申し訳ない」――指示されると混乱してしまう方へ向けて、本記事ではその原因、具体的な対処法、職場や学校での工夫、周囲に理解してもらう方法、そして利用できる支援について詳しく解説します。あなたの困りごとには、理由があり、対処法があります。
「指示されると混乱する」とは
まず、この状態について理解しましょう。
どんな困りごとか
具体的な状況
- 複数の指示を一度に言われると、何から手をつけていいかわからない
- 指示の内容を理解できない
- 指示を覚えられない、すぐに忘れてしまう
- 曖昧な指示だと、何をすればいいのかわからない
- 急に指示されると、頭が真っ白になる
- 指示通りにやったつもりが、違うことをしていた
- 質問したいが、何を質問すればいいかわからない
- 指示を受けている最中にパニックになる
こんな経験はありませんか?
日常の場面
職場で:
- 上司から「これとこれとこれをやっておいて」と言われ、何から手をつければいいか混乱
- 「適当にやっておいて」と言われ、何が「適当」かわからない
- 指示を聞いている途中で頭が真っ白になり、後半を覚えていない
- メモを取ろうとしたが、何をメモすればいいかわからない
学校で:
- 先生の指示が理解できない
- 課題の内容がわからない
- 複数の科目の課題を同時に出されると、混乱する
日常生活で:
- 家族から「買い物行って、あれとこれとそれ買ってきて」と言われ、忘れる
- 料理のレシピを見ても、手順がわからない
- 複数のことを同時に頼まれると、パニックになる
あなただけではない
多くの人が同じ困りごとを抱えている
指示されると混乱するという困りごとは、決して珍しいことではありません。特に:
- 発達障害(ADHD、自閉スペクトラム症など)のある方
- 不安が強い方
- 過去にトラウマがある方
- 疲れている方
- 聴覚情報処理が苦手な方
などに、よく見られます。
指示されると混乱する主な原因
なぜ混乱してしまうのか、原因を理解しましょう。
1. 発達障害
脳の特性
ADHD(注意欠如・多動症):
- ワーキングメモリ(作業記憶)の弱さ:一度に覚えられる情報量が少ない
- 注意の持続困難:長い説明を最後まで集中して聞けない
- 優先順位づけの困難:複数の指示のうち、何から手をつければいいかわからない
- 衝動性:指示を最後まで聞かずに行動してしまう
自閉スペクトラム症(ASD):
- 曖昧な指示の理解困難:「適当に」「いい感じに」などの抽象的な指示がわからない
- 暗黙の了解の理解困難:「言われなくてもわかるでしょ」がわからない
- 複数の情報の統合困難:複数の指示を同時に処理できない
- 変化への対応困難:いつもと違う指示に混乱する
- 聴覚情報処理の弱さ:耳で聞いた情報を処理するのが苦手
知的障害・境界知能:
- 指示の内容を理解するのに時間がかかる
- 複雑な指示が理解できない
学習障害(LD):
- 聴覚情報処理の困難
- 言語理解の困難
2. 不安・緊張
心理的な要因
不安が強い:
- 緊張して頭が真っ白になる
- 「失敗したらどうしよう」という不安で指示が頭に入らない
- パニックになる
過去のトラウマ:
- 過去に指示を間違えて叱られた経験
- 怒鳴られた経験
- PTSD(心的外傷後ストレス障害)
社交不安障害:
- 人前で緊張する
- 指示を受ける場面で過度に緊張
3. 情報処理の特性
聴覚情報処理の弱さ
- 耳で聞いた情報を処理するのが苦手
- 視覚情報(文字、図)の方が理解しやすい
ワーキングメモリの容量が小さい
- 一度に覚えられる情報量が少ない
- 複数の情報を同時に処理できない
処理速度が遅い
- 情報を理解するのに時間がかかる
- 早口で言われるとついていけない
4. 疲労・体調不良
体と心の状態
- 睡眠不足
- 慢性的な疲労
- ストレス過多
- うつ病などのメンタル不調
疲れていると、誰でも情報処理能力が低下します。
5. 環境要因
指示の出し方の問題
- 指示が長すぎる
- 複数の指示を一度に出される
- 曖昧な指示
- 早口で言われる
- 周囲が騒がしい中で指示される
6. コミュニケーションの問題
伝え方と受け取り方のズレ
- 指示する側の伝え方が不明確
- 専門用語や業界用語を使われる
- 前提知識がないのに、「知っているでしょ」という前提で話される
自分でできる対処法
指示を受ける時の工夫を紹介します。
1. メモを取る
最も基本的で効果的
メモの取り方:
- 指示を受ける前に、メモとペンを準備
- 「メモを取ってもいいですか?」と断る
- 箇条書きで書く
- キーワードだけでもOK
- わからない言葉があったら、その場でチェック
デジタルメモ:
- スマホのメモアプリ
- ボイスレコーダー(許可を得てから)
2. 復唱する・確認する
聞いたことを確認
「今、言われたことは、○○と○○と○○ですね?」と復唱する。
メリット:
- 理解が正しいか確認できる
- 記憶に定着しやすい
- 相手も「伝わったか」を確認できる
3. 質問する
わからないことは聞く
- 「○○とは、具体的にどういうことですか?」
- 「優先順位は、どれからやればいいですか?」
- 「期限はいつまでですか?」
- 「わからない時は、誰に聞けばいいですか?」
**質問は恥ずかしいことではありません。**むしろ、わからないまま進める方が問題です。
4. 指示を分解する
複数の指示を一つずつに
複数の指示を受けたら、
- まず、全体を聞く(メモを取る)
- 一つずつに分解する
- 優先順位をつける
- 一つずつ実行する
例: 指示:「コピーを10部取って、ホチキスで留めて、会議室に配って」 →①コピー10部、②ホチキス留め、③会議室に配る
5. 視覚化する
文字や図にする
- メモを見返す
- チェックリストを作る
- 付箋に書いて貼る
- 図やイラストにする
視覚情報の方が理解しやすい人は多いです。
6. 時間を確保する
焦らない
- 「少し時間をください」と伝える
- 急かされても、焦らず確認
- 理解するまで、その場を離れない
7. 環境を整える
集中できる環境
- 静かな場所で指示を受ける
- ノイズキャンセリングイヤホン
- 一対一で指示を受ける
8. 定型文を使う
あらかじめ準備しておく
- 「もう一度、お願いします」
- 「メモを取ってもいいですか?」
- 「確認させてください。○○ということですね?」
- 「わからないので、教えてください」
9. ルーティン化する
いつも同じ手順
- 指示を受ける→メモを取る→復唱する→質問する
- このパターンを習慣化
10. 自分の特性を知る
得意・不苦手を知る
- 聴覚情報が苦手なら、「文字で指示をもらえますか?」と頼む
- 視覚情報が得意なら、図や写真を見せてもらう
- 一度に複数の指示が苦手なら、「一つずつお願いします」と伝える
周囲に理解してもらう方法
職場や学校で、自分の困りごとを伝える方法です。
1. 自分の困りごとを説明する
正直に伝える
「私は、複数の指示を一度に言われると混乱してしまいます。一つずつ指示していただけると助かります」
伝えるポイント:
- 具体的に
- 否定的にならず
- 「こうしてもらえると助かる」という形で
2. お願いする
配慮を求める
- 「メモを取る時間をください」
- 「指示を文字で書いてもらえますか?」
- 「一つずつ指示してもらえますか?」
- 「優先順位を教えてください」
3. 医師の診断書を提出する
発達障害などがある場合
医師の診断書があれば、職場や学校に「合理的配慮」を求めることができます。
合理的配慮の例:
- 指示を文字で出す
- 一度に一つずつ指示する
- 静かな環境で指示を出す
- 質問しやすい雰囲気を作る
4. 産業医・学校の相談窓口に相談
職場・学校の支援
- 産業医
- 人事部
- 障害学生支援室(大学)
- スクールカウンセラー
5. 障害者手帳を取得する
発達障害などがある場合
精神障害者保健福祉手帳を取得すれば、
- 障害者雇用枠での就労
- 職場での配慮が得やすくなる
- 就労支援機関の利用
指示を出す側ができること
指示を出す側(上司、教師、家族など)の方へ。
わかりやすい指示の出し方
1. 一度に一つずつ:
- 複数の指示を一度に出さない
- 一つ終わったら次、という形
2. 具体的に:
- 「適当に」「いい感じに」などの曖昧な言葉を避ける
- 「○○を△△する」と具体的に
3. 短く、簡潔に:
- 長々と説明しない
- 要点を絞る
4. ゆっくり、はっきりと:
- 早口で言わない
- はっきりと発音
5. 視覚情報も使う:
- 口頭だけでなく、紙やホワイトボードに書く
- 図や写真を見せる
6. 優先順位を伝える:
- 「まず○○、次に△△」
- 「一番大事なのは○○」
7. 期限を明確に:
- 「今日中に」「明日の10時までに」
8. メモを取る時間を与える:
- 焦らせない
- 「メモ取った?」と確認
9. 確認する:
- 「わかった?」ではなく、「今、言ったことを説明してみて」
- 理解度を確認
10. 質問しやすい雰囲気:
- 「わからないことがあったら、いつでも聞いてね」
- 質問されたら、丁寧に答える
専門家に相談すべきタイミング
こんな時は、専門家に相談しましょう。
相談すべきサイン
- 日常生活に支障:仕事、学校、家事に大きな支障がある
- 二次的な問題:うつ、不安、不眠などが出ている
- 人間関係のトラブル:指示の混乱から、職場や家庭でトラブルが頻発
- 自己評価の低下:「自分はダメだ」と思い詰めている
- 発達障害の可能性:子どもの頃から同様の困りごとがあった
相談先
1. 発達障害者支援センター
- 各都道府県・指定都市に設置
- 発達障害に関する相談、支援
- 診断機関の紹介
探し方:「○○県 発達障害者支援センター」で検索
2. 精神科・心療内科
- 診断、診断書
- 薬物療法(必要な場合)
- カウンセリング
探し方:「発達障害 診断 ○○市」で検索
3. 臨床心理士・公認心理師
- カウンセリング
- 認知行動療法
- ソーシャルスキルトレーニング
4. 障害者就業・生活支援センター
- 就労に関する相談
- 職場への助言
- 生活面の支援
5. 市区町村の障害福祉課
- 福祉サービスの案内
- 障害者手帳の申請
6. ハローワークの専門窓口
- 障害者雇用の相談
- 就職支援
利用できる支援・制度
困りごとに対する支援があります。
1. 障害者手帳
精神障害者保健福祉手帳
発達障害がある場合、精神障害者保健福祉手帳を取得できます。
メリット:
- 障害者雇用枠での就労
- 税金の控除
- 公共交通機関の割引
- 就労支援機関の利用
申請先:市区町村の障害福祉課
2. 就労支援
就労移行支援:
- 一般企業への就職を目指す訓練
- ビジネスマナー、PC操作、コミュニケーションなどの訓練
- 最大2年間
就労継続支援A型・B型:
- 障害や病気がある方の就労支援
- 自分のペースで働ける
- A型は雇用契約あり、B型は雇用契約なし
申請先:市区町村の障害福祉課
3. 職場での合理的配慮
障害者雇用促進法
障害者手帳があれば、職場に「合理的配慮」を求めることができます。
合理的配慮の例:
- 指示を文字で出す
- 静かな環境で作業
- マニュアルの作成
- 定期的な面談
4. カウンセリング
心理的なサポート
- 不安やストレスへの対処
- 認知行動療法
- ソーシャルスキルトレーニング
5. 生活訓練(自立訓練)
日常生活の訓練
- コミュニケーション
- 生活スキル
- ストレス管理
よくある質問(FAQ)
Q1:発達障害なのでしょうか?
A:指示されると混乱する原因は様々で、発達障害だけとは限りません。気になる場合は、発達障害者支援センターや精神科を受診し、専門家の診断を受けましょう。
Q2:何度も聞き返すのは失礼ではないですか?
A:わからないまま進める方が問題です。「確認させてください」「もう一度お願いします」と丁寧に聞けば、失礼ではありません。
Q3:メモを取るのが間に合いません
A:「メモを取る時間をください」と伝えましょう。または、ボイスレコーダー(許可を得て)やスマホで録音する方法もあります。
Q4:職場で理解してもらえません
A:産業医や人事部に相談しましょう。医師の診断書があれば、合理的配慮を求めることができます。
Q5:自分はダメな人間だと思ってしまいます
A:そうではありません。脳の情報処理の特性であり、工夫や支援で改善できます。自分を責めないでください。
Q6:子どもの頃から同じ困りごとがありました
A:発達障害の可能性があります。大人になってから診断される方も多くいます。一度、専門機関に相談してみましょう。
まとめ
「指示されると混乱する」という困りごとには、様々な原因があります。
主な原因:
- 発達障害(ADHD、ASD)
- 不安・緊張
- 情報処理の特性
- 疲労・体調不良
- 環境要因
自分でできる対処法:
- メモを取る
- 復唱する・確認する
- 質問する
- 指示を分解する
- 視覚化する
- 時間を確保する
- 環境を整える
- 自分の特性を知る
周囲に伝える:
- 自分の困りごとを説明
- 配慮をお願いする
- 医師の診断書を提出
相談先:
- 発達障害者支援センター
- 精神科・心療内科
- 障害者就業・生活支援センター
指示されると混乱するのは、決してあなたがダメだからではありません。脳の情報処理の特性や、心理的な要因が関係しています。
適切な工夫と支援があれば、改善できます。一人で抱え込まず、周囲に伝え、専門家に相談しましょう。
あなたが少しでも楽に生活できますように。
