1. 抑うつ状態の診断が意味すること
「抑うつ状態」と診断されたとき、多くの方が「これは病気なのか」「どうすればいいのか」と不安になります。まず知っておいてほしいのは、抑うつ状態と診断されたことは、あなたの苦しみが医学的に認められたということです。
抑うつ状態とは、気分の落ち込み、意欲の低下、興味関心の喪失などの症状がある「状態」を指す言葉で、それ自体は病名ではありません。さまざまな原因(うつ病、適応障害、双極性障害、身体疾患、薬の副作用など)によって生じる可能性があります。
重要なのは、診断されたことで適切な治療と休養を受ける道が開けたということです。一人で抱え込まず、医師の指示に従い、焦らず回復を目指していきましょう。多くの人が、適切な治療により回復しています。
2. 「抑うつ状態」とは何か
抑うつ状態という言葉の意味を正しく理解することが、不安を和らげる第一歩です。
状態を表す言葉
「抑うつ状態」は、症状の状態を表す言葉であり、病名ではありません。これは、「発熱している」「血圧が高い」と言われるのと同じで、今の心の状態を説明しているだけです。
医師が「抑うつ状態」と診断するのは、以下のような場合があります。
- まだ診断を確定できる段階ではない(初診や経過観察中)
- 原因がはっきりしない、または複数の可能性がある
- 症状がうつ病ほど重度ではない
- 他の疾患の症状として現れている
うつ病との違い
抑うつ状態
- 状態を表す言葉
- さまざまな原因で生じる
- 症状の期間や重症度は様々
- 軽度から重度まで幅広い
うつ病(大うつ病性障害)
- 正式な診断名
- 特定の診断基準を満たす必要がある
- 抑うつ気分または興味・喜びの喪失が2週間以上続く
- 複数の症状が同時に現れている
つまり、抑うつ状態は「うつ病の一歩手前」「軽度のうつ」という場合もあれば、「他の原因による抑うつ症状」という場合もあります。
なぜ「抑うつ状態」と診断されるのか
医師が「抑うつ状態」という診断を使う理由はいくつかあります。
経過を見る必要がある 初診時は情報が不足しているため、確定診断を避け、経過を見ながら診断を絞り込んでいきます。
症状がうつ病の基準を満たさない 症状の期間が短い、または症状の数が診断基準に達していない場合。
他の疾患の可能性 適応障害、双極性障害、身体疾患、薬の副作用など、他の原因が考えられる場合。
慎重な対応 最初から「うつ病」と診断すると、患者さんにショックを与える可能性があるため、段階的に伝える配慮。
3. 抑うつ状態を引き起こす主な原因
抑うつ状態は、さまざまな原因によって生じます。
精神疾患
うつ病(大うつ病性障害) 最も一般的な原因です。症状が2週間以上続き、診断基準を満たせば、うつ病と診断されます。
適応障害 特定のストレス要因(仕事、人間関係、生活環境の変化など)に対する反応として、抑うつ状態が現れます。ストレス要因が明確なのが特徴です。
双極性障害(躁うつ病) 抑うつエピソードと躁(または軽躁)エピソードを繰り返す疾患です。抑うつ状態だけが見られる時期に受診すると、当初は「抑うつ状態」と診断されることがあります。
不安障害 パニック障害、社交不安障害、全般性不安障害などで、二次的に抑うつ状態が生じることがあります。
統合失調症 統合失調症の経過中に、抑うつ症状が現れることがあります。
パーソナリティ障害 境界性パーソナリティ障害などで、抑うつ状態が見られることがあります。
身体疾患
甲状腺機能低下症 甲状腺ホルモンの不足により、抑うつ症状が現れます。血液検査で診断できます。
脳血管障害 脳梗塞、脳出血の後に、抑うつ状態が生じることがあります。
認知症 認知症の初期段階で、抑うつ症状が見られることがあります。
がん、心臓病、糖尿病、慢性疼痛 慢性的な身体疾患が、抑うつ状態の原因となることがあります。
ホルモンの変動 産後、更年期、月経前などのホルモン変動により、抑うつ状態が生じることがあります。
薬剤性
一部の薬剤の副作用として、抑うつ状態が現れることがあります。
- ステロイド薬
- 一部の降圧薬
- 経口避妊薬
- 一部の抗生物質
- インターフェロン
新しい薬を飲み始めた後に抑うつ状態になった場合は、医師に相談してください。
物質の影響
アルコール アルコール依存症や過度の飲酒により、抑うつ状態が生じます。
薬物 違法薬物や処方薬の乱用により、抑うつ状態が現れることがあります。
心理社会的要因
ストレス 仕事、人間関係、経済的問題、喪失体験などのストレスが、抑うつ状態の引き金になります。
孤立 社会的孤立、サポート不足が、抑うつ状態のリスクを高めます。
4. 診断された直後にすべきこと
抑うつ状態と診断されたら、以下のことを意識しましょう。
まずは休息を優先する
心身ともに疲れ切っている状態です。無理をせず、休むことを最優先にしてください。
仕事や学校を休む 症状が重い場合は、休職や休学を検討します。医師に診断書を書いてもらうことができます。
十分な睡眠 睡眠は回復に不可欠です。眠れない場合は、医師に相談して睡眠薬を処方してもらうことも検討します。
無理なスケジュールを入れない 予定を減らし、自分のペースで過ごせる時間を確保します。
医師の指示に従う
定期的に受診する 医師の指示通りに通院し、症状の変化を報告します。
処方された薬を正しく服用する 薬が処方された場合、自己判断で中止せず、指示通りに服用します。効果が出るまで数週間かかることもあります。
わからないことは質問する 診断や治療について、わからないことや不安なことは、遠慮せず医師に質問しましょう。
自分を責めない
「自分が弱いから」「努力が足りないから」と自分を責めないでください。抑うつ状態は、誰にでも起こりうる心身の不調です。
一人で抱え込まない
信頼できる家族や友人に、自分の状態を伝え、サポートを求めましょう。話すだけでも気持ちが楽になります。
情報を集めすぎない
インターネットで情報を集めすぎると、かえって不安が増すことがあります。信頼できる情報源(医師、医療機関の公式サイトなど)を参考にしましょう。
焦らない
回復には時間がかかります。「早く治さなければ」と焦ると、かえってストレスになります。焦らず、少しずつ前に進んでいきましょう。
5. 治療の進め方
抑うつ状態の治療は、原因や症状の程度によって異なります。
原因の特定
まず、抑うつ状態の原因を特定することが重要です。
身体疾患の除外 血液検査、画像検査などで、身体的な原因がないか確認します。
薬剤の確認 現在服用している薬が原因でないか確認します。
生活状況の確認 ストレス要因、生活環境、サポート体制などを確認します。
治療方針の決定
原因が特定されたら、治療方針が決まります。
うつ病の場合 抗うつ薬、精神療法(認知行動療法など)、休養が中心となります。
適応障害の場合 ストレス要因への対処(環境調整、休職など)、精神療法、必要に応じて薬物療法を行います。
身体疾患が原因の場合 身体疾患の治療を行います。甲状腺機能低下症であれば、ホルモン補充療法など。
薬剤性の場合 原因となる薬剤の変更や中止を検討します。
薬物療法
症状が強い場合、薬物療法が行われます。
抗うつ薬 SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などが使われます。効果が現れるまで2〜4週間かかることがあります。
抗不安薬 不安や緊張が強い場合、一時的に使用します。
睡眠薬 不眠がある場合、睡眠を助けるために使用します。
薬は医師の指示通りに服用し、自己判断で中止しないことが重要です。
精神療法
認知行動療法(CBT) ネガティブな思考パターンを見直し、より現実的でバランスの取れた考え方を身につけます。
対人関係療法(IPT) 人間関係の問題に焦点を当てて改善を図ります。
カウンセリング 自分の気持ちを話すことで、整理ができ、気持ちが楽になります。
生活指導
規則正しい生活 毎日同じ時間に起きる、寝る、食事をすることで、心身のリズムが整います。
適度な運動 ウォーキングなどの軽い運動は、気分の改善に効果があります。無理のない範囲で行います。
バランスの取れた食事 栄養バランスの良い食事を心がけます。
アルコール・カフェインの制限 過剰摂取は症状を悪化させることがあります。
6. 日常生活で心がけること
抑うつ状態と診断された後、日常生活で以下のことを心がけましょう。
無理をしない
「普通に振る舞わなければ」と無理をすると、症状が悪化します。自分のペースで過ごすことが大切です。
小さな目標を立てる
大きな目標は立てず、「今日は10分散歩する」「今日は朝ごはんを食べる」など、小さな目標から始めましょう。達成できたら、自分を褒めてあげてください。
できることから始める
すべてをこなそうとせず、できることから少しずつ始めます。家事も、一度に全部やろうとせず、今日は洗濯だけ、明日は掃除だけ、というように分けます。
自分を責めない
「こんなこともできない」と自分を責めないでください。今は病気の症状で動けないだけで、あなた自身の価値は変わりません。
ネガティブな思考に気づく
抑うつ状態では、物事を否定的に捉えがちです。「自分はダメだ」「すべてうまくいかない」といった考えが浮かんだら、「これは病気の症状かもしれない」と一歩引いて見てみましょう。
人との交流を完全に断たない
引きこもりたくなりますが、信頼できる人との最低限の交流は保ちましょう。完全に孤立すると、症状が悪化することがあります。
記録をつける
気分、睡眠、食事、活動などを簡単に記録することで、自分のパターンが見えてきます。医師に報告する際にも役立ちます。
希望を持つ
抑うつ状態は、適切な治療により多くの人が回復します。今はつらくても、必ず良くなる日が来ると信じてください。
7. 仕事・学校をどうするか
抑うつ状態と診断された後、仕事や学校をどうするかは重要な問題です。
休むことを検討する
症状が重い場合、仕事や学校を休むことを検討しましょう。
診断書をもらう 医師に診断書を書いてもらい、職場や学校に提出します。
休職・休学の手続き 職場の人事部門、学校の事務局に相談し、手続きを進めます。
傷病手当金 会社員の場合、健康保険から傷病手当金が支給されることがあります(給与の約3分の2、最長1年6ヶ月)。
働きながら治療する
症状が比較的軽い場合、働きながら治療することも可能です。
業務量の調整 上司に相談し、業務量を減らしてもらいます。
勤務時間の調整 短時間勤務、時差出勤、在宅勤務などを検討します。
産業医に相談 会社に産業医がいる場合、相談することで、職場での配慮について助言を得られます。
退職を急がない
抑うつ状態のときは判断力が低下しています。退職などの重要な決断は、症状が落ち着いてから行いましょう。
8. 家族や周囲の人ができること
抑うつ状態の人を支える際のポイントを知っておきましょう。
理解を示す
「気の持ちよう」「甘え」ではなく、病気による症状だと理解しましょう。
話を聞く
本人の気持ちを否定せず、じっくり聞きます。「辛いんだね」と共感を示すことが大切です。
無理に励まさない
「頑張れ」「しっかりして」といった言葉は、本人にプレッシャーを与え、逆効果です。
日常生活のサポート
家事や買い物など、できる範囲で手伝います。ただし、すべてやってあげるのではなく、本人ができることは見守ります。
見守る
常に監視するのではなく、さりげなく見守ります。自殺のサインがあれば、すぐに医療機関に連絡します。
自分自身も休む
支える側も疲れてしまわないよう、自分の時間を持ち、必要に応じて専門家に相談しましょう。
9. よくある質問(FAQ)
Q 抑うつ状態とうつ病は同じですか?
A 違います。抑うつ状態は症状の状態を表す言葉で、うつ病は正式な診断名です。抑うつ状態は、うつ病の症状として現れることもあれば、他の原因(適応障害、身体疾患など)によって生じることもあります。
Q 抑うつ状態と診断されましたが、うつ病になるのでしょうか?
A 必ずしもうつ病になるわけではありません。適切な治療と休養により、そのまま回復する場合もあれば、経過を見てうつ病と診断されることもあります。定期的に受診し、医師の指示に従いましょう。
Q どれくらいで治りますか?
A 原因や症状の程度によって異なります。軽度であれば数週間から数ヶ月、重度であれば半年以上かかることもあります。焦らず、じっくり治療に取り組むことが大切です。
Q 薬は必ず飲まなければいけませんか?
A 症状が軽い場合は、薬を使わず、休養と精神療法だけで改善することもあります。症状が強い場合は、薬物療法が有効です。医師と相談して決めましょう。
Q 仕事を辞めるべきでしょうか?
A 抑うつ状態のときは判断力が低下しているため、退職などの重要な決断は避けましょう。まずは休職や業務調整を検討し、症状が落ち着いてから将来のことを考えても遅くありません。
Q 家族に心配をかけたくありません。
A 一人で抱え込むと、症状が悪化することがあります。家族はあなたのことを心配していますが、何をすればいいかわからないだけです。自分の状態を伝え、サポートを求めることは、決して恥ずかしいことではありません。
Q 障害年金はもらえますか?
A 抑うつ状態という診断だけでは、通常は障害年金の対象にはなりません。症状が重く長期化し、うつ病などの診断がつき、日常生活や就労に著しい支障がある場合は、対象となる可能性があります。
Q 再発しますか?
A 適切な治療を受けて回復すれば、再発のリスクは減ります。ただし、再び強いストレスにさらされた場合、再発する可能性はあります。ストレス管理、規則正しい生活、早めの対処が再発予防につながります。
まとめ
抑うつ状態と診断されたことは、あなたの苦しみが認められ、回復への道が開けたということです。焦らず、医師の指示に従い、自分のペースで回復を目指していきましょう。今はつらくても、適切な治療により、多くの人が元気になっています。一人で悩まず、周囲のサポートを受けながら、一歩ずつ前に進んでいってください。あなたは決して一人ではありません。

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