はじめに
障害や病気を抱えながらも、働きたい、社会とつながりたいという思いを持つ方々にとって、就労継続支援B型は重要な選択肢となっています。川崎市は神奈川県内でも障害者就労支援に力を入れている自治体の一つであり、多様なB型事業所が市内各区に点在しています。
本記事では、川崎市におけるB型就労支援の実態、各事業所の特徴、利用方法、工賃の実情まで、これから利用を検討している方やそのご家族が知っておくべき情報を包括的に解説します。
B型就労支援とは何か
制度の概要
就労継続支援B型は、障害者総合支援法に基づく就労系福祉サービスの一つです。一般企業での雇用契約を結ぶことが難しい方に対して、就労の機会や生産活動の場を提供する制度として位置づけられています。
最大の特徴は、利用者と事業所の間に雇用契約が存在しない点です。これにより、利用者は自分の体調やペースに合わせて柔軟に働くことができます。年齢制限もなく、週1回から利用可能な事業所も多いため、無理のない社会参加が実現できます。
A型との違い
就労継続支援にはA型とB型があり、両者の最も大きな違いは雇用契約の有無です。A型では事業所と雇用契約を結び、最低賃金以上の賃金が保障されますが、原則として18歳以上65歳未満という年齢制限があります。
一方、B型では雇用契約を結ばないため、賃金ではなく「工賃」という形で報酬が支払われます。全国平均では月額約23,053円(令和5年度)と、A型の平均賃金86,752円と比べると低い水準ですが、その分、利用のハードルが低く、体調に合わせた柔軟な働き方が可能です。
対象者
B型就労支援の対象となるのは、以下のいずれかに該当する方です。
- 企業や就労継続支援A型事業所などでの就労経験があるものの、年齢や体力の面で雇用が困難になった方
- 50歳に達している方、または障害基礎年金1級を受給している方
- 就労移行支援事業者などによるアセスメントにより、就労面での課題が把握されている方
精神障害(統合失調症、うつ病、適応障害など)、発達障害(ASD、ADHD、LDなど)、知的障害、身体障害、難病など、幅広い障害種別の方が利用できます。
川崎市のB型就労支援事業所の現状
川崎市の取り組み
川崎市は障害者就労支援に積極的な自治体として知られています。市では「かわジョブナビ」という障害者就労支援機関の案内冊子を発行しており、市内の就労支援機関を区ごとに詳細に紹介しています。
川崎市健康福祉局障害保健福祉部障害者社会参加・就労支援課が中心となり、就労系福祉サービス事業所の支援や情報提供を行っています。令和7年版のかわジョブナビでは、令和6年10月時点で掲載を希望した事業所が網羅されており、これから就労を目指す方や段階的にステップアップしたい方にとって貴重な情報源となっています。
市内の事業所分布
川崎市は7つの区(川崎区、幸区、中原区、高津区、宮前区、多摩区、麻生区)から構成されており、各区にB型就労支援事業所が存在します。
川崎区には市内でも比較的多くの事業所が集中しており、交通アクセスの良さも魅力です。幸区、中原区、高津区といった中心部に近いエリアにも複数の事業所があり、利用者は自宅からの距離や交通手段を考慮して選択できます。
代表的な事業所の特徴
オレンジふれあい
平成20年4月に設立された歴史あるB型事業所です。月曜日から木曜日は自主製品の作成や内職作業、施設外就労を行い、金曜日はミーティングなどの活動を実施しています。
製品は、エプロンや割烹着、スモック、ガマ口ポーチ、コインケースなどの小物製品が中心です。ビーズを使ったストラップやキーホルダー、ブローチの制作、筆記具の組み立てなどの内職作業も請け負っています。製品は店舗で購入できるほか、地域のバザーでも販売されており、地域とのつながりを大切にしています。
ケイエスガード
川崎駅から徒歩8分という好立地にある就労移行支援・就労継続支援B型の多機能型事業所です。「初歩から学ぶ!」「楽しく働く!」をモットーに、精神疾患や障害を抱えた方の就職をサポートしています。
特徴的なのは、工賃の日払いが可能な点です。積み下ろし作業や清掃、産業廃棄物の搬出などの軽作業で1日の工賃1万円も目指せるとしており、短時間で高工賃を得られる可能性があります。また、障害年金の申請サポートや住宅支援も含めた包括的なサポートを提供しています。
エミフル川崎
川崎区内のお寺を拠点として就労支援活動を行っているユニークな事業所です。地域との交流、コミュニケーション、様々なことへの挑戦を大切にしており、利用者にとって家庭以外の第二の居場所となることを目指しています。
注目すべきは、アゼリア地下街の「KAWASAKI Craft Beer Stand」での就労体験です。日中10 00-16 00に利用者が働き、その中で商品開発も行っています。「麦芽粕入りスノーボールクッキー」は、クラフトビール製造時に排出される麦芽粕をリメイクした商品で、SDGsの取り組みとしても評価されています。
リハスワーク川崎
神奈川県内に複数の事業所を展開するリハスワークグループの川崎拠点です。施設外就労に向けた取り組みに力を入れており、実際の企業での就労体験を通じて、より実践的なスキルを身につけることができます。
インプレッションかしまだ
就労移行支援と就労継続支援B型の両方を備えた多機能型事業所です。最大の特徴は、利用者が自分のペースや状況に合わせて、B型と就労移行支援を行き来できる点です。
B型で作業をしながら就労移行のプログラムを受けて就労準備ができるほか、就労移行のプログラムを受けながら工賃作業に参加して働く感覚を養うこともできます。同じ施設内で顔なじみのスタッフがサポートするため、リラックスして通える環境が整っています。
就労継続支援B型事業所 銀河
身体、精神、知的障害をお持ちの方を対象に、ボールペンの組立などの軽作業を通じた就労支援を提供しています。「あなたにはなにができますか?」ではなく、「あなたらしく働ける仕事を作る」という理念を掲げており、利用者の良さに目を向ける温かいスタッフが揃っています。
月8日以上の休みがあり、残業もほぼないため、趣味や家庭と両立しやすい環境です。
B型事業所での具体的な作業内容
主な作業種類
厚生労働省の調査によると、全国のB型事業所における生産活動は以下のような内容が多くなっています。
清掃・施設管理(38.7%)が最も多く、次いで農業・園芸(31.3%)、部品・機械組立(27.4%)と続きます。これらは比較的単純作業の側面がありますが、だからこそ障害の程度や体調に合わせて取り組みやすい特徴があります。
川崎市内の事業所での作業例
川崎市内の事業所では、以下のような多様な作業が行われています。
手工芸品の製作 エプロン、割烹着、スモック、ポーチ、コインケース、ビーズアクセサリーなど。自分で作った製品が実際に販売されることで、やりがいや達成感を得られます。
内職作業 筆記具の組み立て、部品の検品、チラシ折り、衣類の仕分けやタグ付けなど。企業から請け負う作業を通じて、実際のビジネスの流れを学ぶことができます。
施設外就労 実際の企業や店舗に出向いて作業を行います。クラフトビールスタンドでの接客業務など、より実践的な就労体験が可能です。
清掃業務 建物の清掃や産業廃棄物の搬出など。体を動かす作業が得意な方に適しています。
PC作業 データ入力、デザイン制作など。ITスキルを活かしたり、新たに習得したりする機会となります。
農作業 野菜や花の栽培。自然と触れ合いながら作業できるため、心身のリフレッシュにもつながります。
作業を通じて得られるもの
B型事業所での作業は、単に工賃を得るためだけのものではありません。働くうえで必要な労働習慣の確立、時間管理能力、対人コミュニケーションスキル、集中力や持久力など、様々な能力を段階的に身につけることができます。
また、同じ目標を持つ仲間との出会いや、支援員との信頼関係の構築を通じて、社会的なつながりを実感できる場でもあります。日中の居場所として、生活リズムを整える役割も果たしています。
工賃について
全国平均との比較
令和5年度の就労継続支援B型の全国平均工賃は月額23,053円です。これは時給換算すると約233円に相当します。最低賃金が適用されないため、A型の平均賃金86,752円と比較すると大きな差がありますが、近年は工賃向上の取り組みが各地で進められており、上昇傾向にあります。
川崎市内の工賃水準
川崎市を含む神奈川県は、東京都、愛知県と並んで全国平均を上回る工賃を実現している地域の一つです。都市部であり企業との連携が進んでいることが、高工賃につながっていると考えられます。
ただし、事業所によって工賃は大きく異なります。一般的な内職作業中心の事業所では月額1万円台から2万円台が多い一方、ケイエスガードのように1日1万円を目指せる事業所もあります。また、週の利用日数や1日の利用時間によっても大きく変動します。
工賃以外の収入
B型事業所の利用者の多くは、障害年金を受給しています。工賃は障害年金に上乗せされる形となるため、両方を合わせることで生活の安定を図ることができます。
障害基礎年金1級は月額約86,000円、2級は約69,000円(令和6年度)が支給されます。これに工賃が加わることで、最低限の生活費を確保できる水準に達する方も多くいます。
高工賃事業所の事例
全国的には、独自の取り組みで高工賃を実現している事業所も存在します。
大阪市の「大阪デジタルキャリア」では、デザイン制作やデータ入力などIT分野の業務を企業から受託し、週5勤務の場合で平均工賃月額4万円から7万円を支給しています。利用者のスキルに応じた業務分担と安定した受注体制が成功の鍵となっています。
千葉県の「アロンアロンオーキッドガーデン」では、洋ランの栽培・販売という独自商品開発とEC販路の拡大により工賃向上を実現しています。
川崎市内でも、企業との連携を強化したり、独自の製品開発に取り組んだりする事業所が増えており、今後さらなる工賃向上が期待されます。
B型事業所の利用方法
利用の流れ
B型事業所を利用するには、以下のステップを踏む必要があります。
ステップ1 相談 まず、お住まいの区の保健福祉センター、相談支援事業所、または利用を希望する事業所に相談します。どの事業所が自分に合っているか、どのような支援が受けられるかなど、丁寧に説明を受けることができます。
ステップ2 見学・体験 気になる事業所があれば、実際に見学したり、体験通所したりすることをお勧めします。雰囲気、スタッフの対応、作業内容、通所している利用者の様子などを直接確認することで、自分に合った事業所を選ぶことができます。
ステップ3 障害福祉サービス受給者証の取得 B型事業所を利用するには、市区町村から発行される「障害福祉サービス受給者証」が必要です。お住まいの区の保健福祉センターに申請し、審査を経て発行されます。
必要書類は自治体によって異なる場合がありますが、一般的には以下のものが求められます。
- 障害者手帳または医師の診断書
- マイナンバーカード(または通知カード)
- 印鑑
- 所得を証明する書類(世帯全員分)
ステップ4 アセスメント 2025年10月からは、B型の利用申請前に「就労選択支援」を利用することが原則となります。就労アセスメントの手法を活用して、本人の希望、就労能力、適性などを評価し、最適な就労先・働き方の選択を支援するものです。
ステップ5 利用開始 受給者証が発行され、事業所との利用契約を結べば、利用開始となります。最初は短時間・少日数から始めて、徐々に時間や日数を増やしていくことも可能です。
利用料について
B型事業所の利用料は、世帯収入に応じて負担上限額が設定されています。
- 生活保護受給世帯 0円
- 市町村民税非課税世帯 0円
- 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満) 9,300円
- 上記以外 37,200円
実際には、多くの利用者が自己負担なく利用しています。これは、障害者総合支援法に基づく福祉サービスであるため、経済的負担を最小限に抑える配慮がなされているためです。
利用時間と日数
B型事業所の利用は柔軟性が高く、週1回・1日数時間からの利用が可能な事業所も多くあります。体調や生活リズムに合わせて、無理のない範囲で通所することができます。
一般的な営業時間は平日の9 00~17 00前後ですが、事業所によって異なります。送迎サービスを提供している事業所もあるため、交通手段に不安がある方も安心です。
就労移行支援との併用や移行
多機能型事業所のメリット
川崎市内には、インプレッションかしまだのように、就労移行支援とB型の両方を提供する多機能型事業所があります。
このタイプの事業所では、以下のようなメリットがあります。
柔軟な選択と移動 体調や希望に応じて、B型と就労移行支援を選べ、状況に応じて移動することも可能です。就労移行支援の2年間の利用期間を効率的に使うことができます。
段階的なステップアップ まずB型で作業に慣れ、体調を整えてから就労移行支援に移行して一般就労を目指すというステップを踏むことができます。
顔なじみのサポート 同じ施設内で同じスタッフが支援するため、安心感があり、リラックスして通所できます。
プログラムと作業の組み合わせ B型で作業をしながら就労移行のプログラムを受けたり、逆に就労移行のプログラムを受けながら工賃作業に参加したりすることができます。
一般就労への道
B型事業所は、必ずしも一般就労を目指す必要はありませんが、スキルや体調が向上すれば、就労移行支援や一般就労に移行することも可能です。
実際に、B型事業所での経験を経て、就労移行支援を利用して一般企業への就職を果たした方も多くいます。川崎市内の事業所の中には、就職実績を公表している事業所もあり、支援の質の高さを示しています。
川崎市の支援体制
かわジョブナビの活用
川崎市が発行する「かわジョブナビ」は、市内の障害者就労支援機関を網羅的に紹介する冊子です。WEB版も公開されており、以下の情報を区ごとに検索できます。
- 事業所名と所在地
- 連絡先
- 対象となる障害種別
- 定員
- 作業内容
- 工賃の目安
- 送迎の有無
- その他の特徴
これから事業所を探す方にとって、非常に有用な情報源です。
各区の相談窓口
川崎市では、各区の保健福祉センターに障害者支援の相談窓口が設置されています。B型事業所の利用に関する相談、受給者証の申請手続き、事業所選びのアドバイスなど、様々なサポートを受けることができます。
関係機関との連携
川崎市の就労支援は、市役所だけでなく、ハローワーク、相談支援事業所、医療機関など、多様な機関が連携して行われています。この包括的な支援体制により、利用者は自分に合った支援を受けやすい環境が整っています。
B型事業所を選ぶポイント
立地とアクセス
毎日または定期的に通所することを考えると、自宅からのアクセスは重要な要素です。川崎市内は交通網が発達しているため、電車やバスでの通所が可能な事業所が多くありますが、送迎サービスの有無も確認しましょう。
作業内容と興味
自分の興味や得意分野に合った作業内容の事業所を選ぶことで、やりがいを感じながら働くことができます。手先が器用な方は手工芸、体を動かすのが好きな方は清掃や農作業、PC操作が得意な方はデータ入力など、自分に合った選択肢を探しましょう。
工賃水準
生活の安定のためには、工賃の水準も重要な検討要素です。ただし、工賃だけで事業所を選ぶのではなく、支援の質、雰囲気、作業内容なども総合的に判断することをお勧めします。
支援の質とスタッフの対応
見学や体験通所の際に、スタッフの対応や雰囲気を確認しましょう。親身になって相談に乗ってくれるか、個別のニーズに応じた支援計画を作成してくれるか、安心して通える環境かなど、実際に足を運んで感じることが大切です。
事業所の実績
就職実績、利用者の定着率、工賃の実績など、事業所の実績も参考になります。見学時に遠慮なく質問してみましょう。
雰囲気と相性
最終的には、自分がその場所で安心して過ごせるか、他の利用者やスタッフとの相性が合いそうかという、感覚的な部分も重要です。複数の事業所を見学・体験して、比較検討することをお勧めします。
よくある質問
Q 障害者手帳がないと利用できませんか?
A 障害者手帳がなくても、医師の診断書があれば利用できる場合があります。詳しくは、お住まいの区の保健福祉センターにご相談ください。
Q 週何日から利用できますか?
A 事業所によって異なりますが、週1回・1日数時間から利用可能な事業所も多くあります。体調や生活リズムに合わせて、無理のない範囲で始めることができます。
Q 一度利用を始めたら、他の事業所に変更できませんか?
A 利用期間に制限はないため、自分に合わないと感じたら他の事業所への移行も可能です。まずは相談支援事業所やケースワーカーに相談してみましょう。
Q 工賃はどのように支払われますか?
A 多くの事業所では月払いですが、日払いに対応している事業所もあります。支払い方法は事業所によって異なるため、利用前に確認しましょう。
Q 65歳を過ぎても利用できますか?
A B型には年齢制限がないため、65歳以上でも利用可能です。長く働き続けられる環境が整っています。
Q 一般企業への就職を目指したいのですが、B型からでも可能ですか?
A 可能です。B型で基本的なスキルや労働習慣を身につけた後、就労移行支援に移行して一般就労を目指す方も多くいます。多機能型事業所であれば、同じ場所で段階的にステップアップできます。
まとめ
川崎市には、多様なB型就労支援事業所があり、それぞれが独自の特色を持ちながら利用者の自立と社会参加を支援しています。手工芸品の製作、内職作業、施設外就労、清掃業務など、作業内容も幅広く、自分に合った働き方を見つけることができます。
工賃水準は事業所によって差がありますが、神奈川県全体として全国平均を上回る傾向にあり、今後さらなる向上が期待されます。障害年金と合わせることで、生活の安定を図ることも可能です。
利用にあたっては、複数の事業所を見学・体験し、自分に合った場所を見つけることが重要です。川崎市の「かわジョブナビ」や各区の保健福祉センターを活用し、情報収集と相談を行いましょう。
B型就労支援は、単に働く場所を提供するだけでなく、社会とのつながり、生きがい、自己実現の場としての役割も果たしています。自分のペースで、自分らしく働くための選択肢として、B型事業所の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
働くことへの不安や課題を抱えている方も、まずは相談から始めてみることをお勧めします。川崎市には、一人ひとりに寄り添った支援を提供する事業所と、充実した支援体制が整っています。あなたの「働きたい」という思いを実現するための第一歩を、ぜひ踏み出してください。

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