はじめに
就労継続支援B型事業所を選ぶ際、「静かな環境で働きたい」と考える方は少なくありません。騒がしい環境では集中できない、大きな音が苦手、人の話し声が気になる、ざわざわした雰囲気が疲れる特に感覚過敏、聴覚過敏、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、不安障害などの特性を持つ方にとって、環境の「静かさ」は、継続して通所できるかどうかを左右する重要な要素です。
しかし、「静か」の定義は人によって異なります。ある人にとっては「無音に近い静けさ」が理想であり、別の人にとっては「適度な作業音がある程度度の静けさ」が心地よいこともあります。また、事業所によって環境は大きく異なります。賑やかでワイワイした雰囲気の事業所もあれば、図書館のように静かな事業所もあります。
本記事では、静かな環境を求める理由、「静か」の定義と種類、静かな事業所の特徴、静かな事業所の探し方、見学時の確認ポイント、そして静かさを保つための工夫まで、詳しく解説していきます。
なぜ静かな環境を求めるのか
理由1 感覚過敏・聴覚過敏
音に敏感 自閉スペクトラム症(ASD)などの発達障害を持つ方の中には、聴覚過敏がある方がいます。
症状
- 普通の音が大きく聞こえる
- 特定の音が不快(金属音、高い声など)
- 音が混ざると処理できない
- 音でパニックになる
静かな環境が必要 騒がしい環境では、ストレスが大きく、継続が難しくなります。
理由2 集中力の問題
集中したい 作業に集中するために、静かな環境が必要な方がいます。
ADHD(注意欠如・多動症)の場合
- 周りの音に気が散る
- 雑音があると集中できない
- 静かな環境の方が作業効率が上がる
性格的な特性
- 元々静かな環境を好む
- 騒がしいと疲れる
理由3 不安障害・パニック障害
騒がしさが不安を増大 不安障害やパニック障害を持つ方は、騒がしい環境で不安が高まることがあります。
症状
- 人の声が多いと不安になる
- ざわざわした雰囲気がストレス
- 静かな方が落ち着く
理由4 うつ症状
刺激が負担 うつ状態の時は、刺激が負担になります。
症状
- 音が頭に響く
- 疲れやすい
- 静かな環境でないと耐えられない
理由5 性格的な好み
静かな環境が好き 障害とは関係なく、性格的に静かな環境を好む方もいます。
例
- 読書が好き
- 一人の時間を大切にする
- 内向的な性格
理由6 聴覚情報処理の困難
音声情報の処理が苦手 発達障害の一部の方は、聴覚情報の処理が苦手です。
症状
- 複数の音が同時にあると処理できない
- 会話と作業音が混ざると混乱する
- 静かな環境の方が情報処理しやすい
「静か」の定義と種類
タイプ1 無音に近い静けさ
ほとんど音がしない
- 図書館のような静けさ
- 利用者がほとんど話さない
- 作業音も最小限
向いている人
- 聴覚過敏がある方
- 完全な静けさを求める方
例
- 個人作業が中心
- パソコン作業(タイピング音のみ)
- 手工芸(音がほとんど出ない)
タイプ2 適度な静けさ
作業音はあるが、話し声は少ない
- 作業音(紙の音、道具の音など)はある
- 大声で話す人はいない
- 必要な会話のみ
向いている人
- 完全な無音は求めないが、騒がしいのは苦手な方
- 多くの方に適している
例
- 軽作業(袋詰め、箱折りなど)
- 静かな雰囲気のカフェ運営
- 清掃作業
タイプ3 穏やかな雰囲気
会話はあるが、落ち着いている
- 利用者同士が話すが、大声ではない
- 和やかな雰囲気
- 騒がしくない
向いている人
- コミュニケーションを取りながらも、落ち着いた環境を好む方
例
- グループでの作業
- 会話しながらの手工芸
- 農作業
タイプ4 賑やかな雰囲気(参考)
活気がある、ワイワイしている
- 利用者同士がよく話す
- 笑い声が聞こえる
- エネルギッシュ
向いている人
- 活気を好む方
- 静かすぎると逆に落ち着かない方
注意 このタイプは、「静か」を求める方には向きません。
静かな事業所の特徴
特徴1 個人作業が中心
グループ作業ではない 個人で黙々と作業する形式の事業所は、静かな傾向があります。
作業例
- パソコン作業(データ入力、ライティング)
- 軽作業(一人で行う袋詰め、検品など)
- 手工芸(個人で作る)
- 内職系の作業
特徴2 利用者数が少ない
少人数制 利用者数が少ない事業所は、静かな傾向があります。
目安
- 定員10名以下
- 実際の利用者数5〜8名程度
理由 人数が少ないと、自然と静かになります。
特徴3 作業内容が静かな作業
音が出ない作業 作業自体が静かな内容の事業所があります。
静かな作業
- パソコン作業
- 紙を扱う軽作業(音が小さい)
- 手工芸(編み物、刺繍など)
- 絵画、イラスト制作
音が出る作業(参考)
- 製造業(機械音)
- 木工作業(工具の音)
- リサイクル作業(缶を潰す音など)
特徴4 事業所の方針が「静かな環境」
意図的に静かにしている 一部の事業所は、「静かな環境」を方針として掲げています。
例
- 「集中して作業できる環境を提供します」
- 「落ち着いた雰囲気を大切にしています」
- 「利用者の感覚過敏に配慮しています」
特徴5 施設の構造
個室や仕切りがある 個室や仕切りがある事業所は、音が分散され、静かに感じられます。
例
- 個人作業ブース
- パーテーションで区切られた空間
- 別室での作業
特徴6 利用者の年齢層が高い
高齢の利用者が多い 高齢の利用者が多い事業所は、比較的静かな傾向があります。
理由 若い利用者が多い事業所に比べ、落ち着いた雰囲気になりやすいです。
特徴7 「静かにする」というルールがある
明文化されたルール 一部の事業所では、「作業中は静かに」というルールがあります。
例
- 「作業中の私語は控えましょう」
- 「大声は出さないようにしましょう」
静かな事業所の探し方
方法1 相談支援専門員に希望を伝える
希望を明確に伝える 「静かな環境で作業したいです」と相談支援専門員に伝えましょう。
詳しく伝える
- 「聴覚過敏があるので、静かな事業所を探しています」
- 「騒がしい環境では集中できないので、落ち着いた雰囲気の所が希望です」
- 「個人作業が中心の静かな事業所を探しています」
相談支援専門員ができること 地域の事業所を熟知しており、静かな事業所を紹介してくれます。
方法2 市区町村の窓口で相談
障害福祉課で相談 「静かな環境の事業所を探している」と伝えましょう。
担当者が紹介してくれる 地域の静かな事業所を教えてくれることがあります。
方法3 事業所に直接問い合わせる
電話やメールで質問 事業所に直接「そちらの事業所は、静かな環境ですか?」と質問しましょう。
質問例
「聴覚過敏があり、静かな環境を探しています。
そちらの事業所は、静かな雰囲気でしょうか?
作業中、利用者同士の会話は多いですか?」
正直に答えてくれる ほとんどの事業所は、正直に答えてくれます。
方法4 ホームページで確認
キーワードを探す 事業所のホームページで、以下のキーワードを探しましょう。
静かな事業所を示唆するキーワード
- 「集中できる環境」
- 「落ち着いた雰囲気」
- 「個人作業中心」
- 「静かに作業できます」
- 「感覚過敏の方も安心」
- 「少人数制」
写真を確認 ホームページの写真で、利用者が黙々と作業している様子が写っていれば、静かな可能性があります。
方法5 作業内容から推測
静かな作業内容の事業所を探す パソコン作業、手工芸、軽作業(静かな内容)を行っている事業所を探しましょう。
WAM NETで検索 WAM NETで事業所を検索し、作業内容を確認します。
方法6 少人数の事業所を探す
少人数=静かな傾向 少人数の事業所は、比較的静かな傾向があります。
探し方 定員10名以下の事業所を探しましょう(前回の記事参照)。
方法7 口コミを確認
Googleマップの口コミ Googleマップで事業所を検索し、口コミを確認します。
探すキーワード
- 「静か」
- 「落ち着いた雰囲気」
- 「集中できる」
例 「静かな環境で集中して作業できました」というような口コミがあれば、期待できます。
方法8 見学で確認(最も確実)
実際に見学する 最も確実な方法は、実際に見学することです。
見学時に確認
- 実際の音環境
- 利用者の様子
- 支援員の声の大きさ
- 作業音
見学時の確認ポイント
確認ポイント1 実際の音環境
自分の耳で確認 見学時、実際に作業場の音を聞きましょう。
チェックポイント
- [ ] 全体的に静かか
- [ ] 大声で話す人はいないか
- [ ] 作業音はどの程度か
- [ ] 機械音はあるか
- [ ] 音楽は流れているか(流れている場合、音量は?)
自分の感覚で判断 「ここなら大丈夫」「ここは騒がしい」と自分の感覚で判断しましょう。
確認ポイント2 利用者同士の会話
会話の頻度
- [ ] 利用者同士はよく話しているか
- [ ] 作業中は静かか
- [ ] 休憩時間は賑やかか
会話の音量
- [ ] 普通の音量か、大きな声か
- [ ] 笑い声が頻繁に聞こえるか
確認ポイント3 支援員の声
支援員の声の大きさ
- [ ] 支援員は大きな声で話すか
- [ ] 指示を出す時の声の大きさは?
支援員の人数
- [ ] 支援員が多いと、支援員同士の会話が増える可能性
確認ポイント4 作業内容
作業が静かか
- [ ] どんな作業をしているか
- [ ] 作業音はどの程度か
- [ ] 機械を使う作業はあるか
自分がする予定の作業
- [ ] 自分がする作業は静かか
- [ ] 音が出る道具を使うか
確認ポイント5 施設の構造
音の響き方
- [ ] 天井が高い?(高いと音が響く)
- [ ] 仕切りやパーテーションはあるか
- [ ] 個室や別室はあるか
作業スペースの配置
- [ ] 利用者同士の距離は?
- [ ] 密集しているか、離れているか
確認ポイント6 時間帯による違い
見学の時間帯 見学する時間帯によって、騒がしさが異なる場合があります。
確認 「今日はいつもより静か(騒がしい)ですか?」と質問しましょう。
可能なら複数回見学 異なる時間帯に複数回見学すると、より正確に判断できます。
確認ポイント7 利用者の人数
見学当日の利用者数
- [ ] 今日は何名来ていますか?
- [ ] 普段は何名くらいですか?
人数による違い 人数が少ない日は静かで、多い日は騒がしいこともあります。
確認ポイント8 休憩時間の様子
休憩時間は賑やかか
- [ ] 休憩時間の雰囲気は?
- [ ] 利用者同士で話しているか
- [ ] 休憩スペースは静かか
作業時間と休憩時間の違い 作業時間は静かでも、休憩時間は賑やかな事業所もあります。
確認ポイント9 音楽の有無
BGMは流れているか
- [ ] 音楽は流れていますか?
- [ ] 音量はどれくらいですか?
- [ ] 音楽を止めてもらうことは可能ですか?
音楽が苦手な場合 「音楽が苦手なのですが、止めていただくことは可能ですか?」と質問しましょう。
確認ポイント10 個別対応の可否
静かな場所で作業できるか
- [ ] 別室で作業できますか?
- [ ] イヤーマフやノイズキャンセリングイヤホンを使ってもいいですか?
- [ ] 一人で作業できるスペースはありますか?
静かさを保つための工夫
事業所側の工夫(確認すべきこと)
1. ルール設定 「作業中は静かに」というルールがあるか確認しましょう。
2. 個人作業の徹底 グループ作業ではなく、個人作業を中心にしているか。
3. 仕切りやパーテーション 音を遮る仕切りがあるか。
4. 別室の提供 静かに作業したい人向けの別室があるか。
5. 利用者への配慮 「静かな環境を求める利用者がいます」と他の利用者に伝えているか。
自分でできる工夫
1. イヤーマフの使用 聴覚過敏がある場合、イヤーマフを使用できるか確認しましょう。
許可を得る 「イヤーマフを使用してもいいですか?」と事前に聞きます。
おすすめ
- 3M Peltor イヤーマフ
- ミミオキ イヤーマフ
2. ノイズキャンセリングイヤホンの使用 音楽を聴かず、ノイズキャンセリング機能だけ使用できる場合もあります。
確認 「ノイズキャンセリングイヤホンを使用してもいいですか?」
3. 耳栓の使用 簡易的に耳栓を使用する方法もあります。
注意 完全に聞こえなくなると、指示が聞こえないので、部分的に音を遮る耳栓が良いでしょう。
4. 別室での作業を依頼 可能であれば、別室で作業させてもらえるか相談しましょう。
5. 静かな時間帯を選ぶ 利用者が少ない時間帯に通所できるか相談します。
例
- 午前中のみ
- 週の特定の曜日
6. 一人で作業できる場所を確保 他の利用者から離れた場所で作業できるか相談します。
静かな環境とコミュニケーションのバランス
完全に孤立しないために
静か=孤立ではない 静かな環境を求めることと、人と関わらないことは別です。
適度なコミュニケーション
- 休憩時間は少し話す
- 必要な時は支援員に相談する
- イベントには参加する
バランスが大切 静かに作業しながらも、適度に人と関わることが、長期的な継続につながります。
支援員とのコミュニケーション
自分の特性を伝える 「聴覚過敏があるので、静かな環境が必要です」と正直に伝えましょう。
定期的に報告 「今日の音環境は大丈夫でした」「今日は少し騒がしく感じました」と報告することで、事業所側も配慮しやすくなります。
よくある質問(FAQ)
Q1 完全に無音の事業所はありますか?
A 完全に無音の事業所は、ほとんどありません。しかし、図書館のように静かな事業所はあります。見学で実際の音環境を確認しましょう。
Q2 静かな事業所は、人間関係が希薄ですか?
A 必ずしもそうではありません。静かでも、温かい人間関係がある事業所もあります。静かさと人間関係の質は、別の問題です。
Q3 イヤーマフを使用できる事業所は多いですか?
A 増えています。特に、発達障害の特性に理解がある事業所では、イヤーマフの使用を認めています。見学時に確認しましょう。
Q4 静かな事業所は、少人数の事業所に多いですか?
A 傾向としては、そうです。少人数の事業所は、比較的静かなことが多いです。ただし、少人数でも賑やかな事業所もあるので、見学で確認が必要です。
Q5 見学の時は静かだったのに、通い始めたら騒がしくなりました。どうすればいいですか?
A 支援員に正直に伝えましょう。「見学の時より騒がしく感じます。もう少し静かにしてもらえませんか?」と相談すれば、対応してくれることが多いです。
Q6 「静かにしてください」と他の利用者に言ってもいいですか?
A 直接言うのではなく、支援員に相談しましょう。「○○さんの声が大きくて、集中できません」と支援員に伝えれば、支援員が対応してくれます。
Q7 静かな事業所は、工賃が低いですか?
A 必ずしもそうではありません。静かさと工賃は、直接の関係はありません。ただし、個人作業が中心の事業所は、グループ作業に比べて効率が悪く、工賃が低い傾向はあります。
Q8 静かすぎて、逆に落ち着かないことはありますか?
A あります。人によっては、完全な静けさが不安になることもあります。「適度な音がある方が落ち着く」という方もいます。見学で自分の感覚を確認しましょう。
Q9 音楽が流れている事業所は、静かではないですか?
A 音楽の音量によります。小さな音量でBGMが流れている程度なら、静かと感じる人もいます。大音量の音楽が流れている場合は、静かとは言えません。見学で確認しましょう。
Q10 静かな事業所を見つけるのは難しいですか?
A 地域によりますが、探せば必ず見つかります。相談支援専門員に「静かな事業所を探している」と明確に伝え、複数の事業所を見学しましょう。
まとめ 自分に合った音環境を見つけよう
静かな環境は、感覚過敏や集中力の問題を抱える方にとって、快適に働くための重要な条件です。しかし、「静か」の定義は人によって異なります。
大切なポイント
- 静かさを求める理由を理解する 感覚過敏、集中力、不安障害など、理由は様々。
- 「静か」の種類を知る 無音に近い静けさ、適度な静けさ、穏やかな雰囲気自分に合うのはどれ?
- 静かな事業所の特徴 個人作業中心、少人数、静かな作業内容、方針として「静か」。
- 希望を明確に伝える 相談支援専門員や事業所に「静かな環境が必要」と伝える。
- 見学で必ず確認 実際の音環境は、見学しないと分からない。自分の耳で確認する。
- 工夫できることもある イヤーマフ、ノイズキャンセリング、別室、静かな時間帯工夫の余地あり。
- バランスも大切 静かさと人間関係のバランスを考える。
- 複数見学して比較 静かな事業所と賑やかな事業所、両方見学して比較する。
あなたへのメッセージ
「静かな環境で働きたい」その希望は、決してわがままではありません。感覚過敏や集中力の問題を抱える方にとって、音環境は、快適に働けるかどうかを左右する重要な要素です。
騒がしい環境で無理をして働くより、静かな環境で安心して働く方が、長期的には良い結果につながります。ストレスが少なく、集中でき、継続しやすくなります。
静かな事業所は、必ず見つかります。相談支援専門員に希望を明確に伝え、複数の事業所を見学しましょう。そして、実際の音環境を自分の耳で確認しましょう。ホームページや電話だけでは分からない、リアルな音環境を感じ取ってください。
見学時には、「ここなら大丈夫」「ここは自分には騒がしい」と素直に感じることが大切です。他の人にとっては静かでも、あなたにとっては騒がしいこともあります。自分の感覚を信じましょう。
そして、完璧を求めすぎないことも大切です。完全な無音は難しくても、「許容できる範囲の静けさ」があれば十分です。イヤーマフなどの工夫も活用しながら、自分に合った音環境を見つけましょう。
あなたが、静かな環境で安心して働ける事業所を見つけ、集中して作業し、充実した日々を送れることを心から願っています。静かさは、あなたの権利です。遠慮なく、希望を伝えましょう。あなたにぴったりの静かな場所は、必ず見つかります。

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