はじめに:工賃の低さへの失望と葛藤
就労継続支援B型事業所を利用している方、またはこれから利用を検討している方の多くが直面する問題が、「工賃の低さ」です。「思っていたより安すぎる」「これでは生活できない」「交通費や昼食代を引くとほとんど残らない」「こんなに働いているのに、なぜこんなに安いのか」という失望や不満の声は、非常に多く聞かれます。
厚生労働省の調査によれば、B型事業所の平均工賃は月額約1万6千円、時給換算で約200円程度です。これは、一般の最低賃金(時給1,000円前後)と比べると、はるかに低い水準です。月額1万6千円では、とても生活費を賄うことはできません。「なぜこんなに安いのか」「不当に搾取されているのではないか」「もっと高い工賃の事業所はないのか」という疑問や怒りを感じるのも、当然のことです。
また、工賃の低さは、単に経済的な問題だけでなく、精神的な問題も引き起こします。「こんなに安い工賃では、自分の労働が評価されていない気がする」「働く意味が見出せない」「自己肯定感が下がる」という声もあります。工賃が低いことで、モチベーションが維持できず、通所をやめてしまう方も少なくありません。
しかし一方で、「工賃は低いけれど、それでもB型に通う意味がある」と考えている方もいます。工賃以外の価値(居場所、人とのつながり、生活リズム、成長の機会、社会参加の実感など)を見出し、納得して利用している方もいるのです。
本記事では、なぜB型事業所の工賃は低いのか、その構造的な理由、工賃の実態と事業所による違い、低工賃のメリットとデメリット、工賃を上げる方法はあるのか、より高い工賃の事業所を見つける方法、工賃以外の価値の見出し方、そして低工賃でも納得して利用するための考え方について、詳しく解説していきます。工賃の低さに失望している方、これから利用を検討している方、ご家族や支援者の方々にとって、実践的な情報となれば幸いです。
なぜB型事業所の工賃は低いのか
まず、B型事業所の工賃がなぜ低いのか、その構造的な理由を理解しましょう。
雇用契約ではない
最低賃金の適用外 B型事業所は、利用者と雇用契約を結びません。そのため、最低賃金法の適用を受けず、最低賃金以下の工賃でも法律上問題ありません。
一般企業やA型事業所では雇用契約があり、最低賃金(時給1,000円前後)が保証されますが、B型にはその保証がありません。
生産性が低い
作業効率の問題 B型事業所の利用者は、障がいの影響で作業スピードが遅い、ミスが多い、長時間働けないなど、一般労働者と比べて生産性が低い傾向があります。
そのため、同じ作業をしても、生み出される付加価値が少なく、結果として工賃も低くなります。
受注単価が低い
低単価の仕事を請け負う B型事業所が企業から請け負う仕事は、単価の低い軽作業が中心です。
- 袋詰め、シール貼り、ラベル貼り
- 部品の組み立て
- 清掃
- 農作業
これらの仕事は、もともとの単価が低く、大量にこなしても収益が上がりにくいのです。
人件費や運営費がかかる
工賃に回せる割合が少ない B型事業所の収入は、主に以下の3つです。
- 事業収入(利用者の作業による売上)
- 自立支援給付費(国や自治体からの補助金)
- その他の収入(寄付金、助成金など)
この中から、スタッフの人件費、施設の賃料、光熱費、設備費、材料費などの運営費を支払う必要があります。残った事業収入の部分から工賃が支払われるため、利用者に配分できる金額は限られます。
実際、多くのB型事業所では、事業収入だけでは運営できず、自立支援給付費に大きく依存しています。
支援に時間とコストがかかる
生産性よりも支援を優先 B型事業所の本来の目的は、「生産性を上げて利益を出すこと」ではなく、「利用者を支援すること」です。
- 作業指導に時間がかかる
- 個別の配慮が必要
- 休憩が多い
- 体調不良で欠席が多い
支援を優先すると、生産性は下がり、工賃も低くなります。
販路が限られている
自主製品の販売が困難 事業所が自主製品(パン、クッキー、雑貨など)を作っている場合でも、販路が限られており、大量に売ることが困難です。
一般の企業のように、全国展開したり、大量生産・大量販売したりすることは難しく、結果として売上が伸びず、工賃も低いままです。
事業所の経営努力の差
事業所による違い 同じB型事業所でも、経営者や管理者の経営努力によって、工賃に大きな差が出ます。
- 高単価の仕事を獲得する努力をしているか
- 効率的な作業システムを構築しているか
- 販路開拓に力を入れているか
- 利用者のスキルアップに投資しているか
経営努力が不足している事業所では、工賃がさらに低くなります。
制度の問題
構造的な限界 B型事業所の制度自体が、高い工賃を実現するようには設計されていません。
自立支援給付費の中から人件費などを賄い、事業収入から工賃を出すという仕組みでは、構造的に高い工賃を実現するのは困難です。
工賃の実態と事業所による違い
実際の工賃の水準と、事業所による違いを見てみましょう。
全国平均の工賃
月額約1万6千円、時給約200円 厚生労働省の調査(令和4年度)によれば、B型事業所の平均工賃は以下の通りです。
- 月額平均:約16,507円
- 時給平均:約233円
これは、あくまで平均であり、事業所によって大きく異なります。
工賃の幅
最低と最高の差が大きい
- 最低:月額数百円〜数千円(ほぼゼロに近い事業所も)
- 最高:月額5万円〜10万円以上(稀だが存在する)
同じB型でも、10倍以上の差があることも珍しくありません。
事業所による違い
作業内容による違い
高単価の作業がある事業所は工賃が高い
- 低工賃(月額5千円〜1万円): 軽作業中心(袋詰め、シール貼りなど)
- 中工賃(月額1万5千円〜3万円): やや専門的な作業(PC作業、清掃、農作業など)
- 高工賃(月額3万円以上): 専門性の高い作業、自主製品の製造・販売が成功している
地域による違い
都市部と地方
- 都市部: 比較的高い(仕事の受注が多い、販路が広い)
- 地方: 比較的低い(仕事が少ない、販路が限られる)
ただし、地方でも農作業などで成功している事業所もあります。
運営母体による違い
経営方針の違い
- NPO法人: 様々(支援重視で工賃が低いところも、工賃向上に力を入れているところも)
- 社会福祉法人: 比較的安定
- 株式会社: 比較的高い傾向(ビジネス志向が強い)
規模による違い
大規模と小規模
- 大規模事業所: 大量受注ができ、工賃が高い傾向
- 小規模事業所: 受注量が少なく、工賃が低い傾向
ただし、小規模でも特色のある自主製品で成功している事業所もあります。
初心者と経験者の差
経験によって上がる 多くの事業所では、利用開始当初は工賃が低く、経験を積むと徐々に上がります。
- 初心者: 月額5千円〜1万円
- 経験者: 月額2万円〜3万円
作業のスピードや正確性が上がることで、工賃も上がる仕組みです。
通所日数・時間による違い
働いた分だけ 当然ですが、週5日フルタイムで通う人と、週2日午前のみの人では、工賃に大きな差が出ます。
- 週5日、1日6時間: 月額2万円〜3万円
- 週3日、1日4時間: 月額8千円〜1万5千円
- 週1日、1日2時間: 月額2千円〜5千円
低工賃のメリットとデメリット
工賃が低いことには、デメリットだけでなく、意外なメリットもあります。
デメリット
経済的に自立できない
最大のデメリット 月額1万6千円では、生活費を賄うことはできません。家賃、光熱費、食費、医療費などを考えると、全く足りません。
年金や家族の支援がなければ、生活できないのが現実です。
交通費・昼食代で赤字
持ち出しになることも 交通費が月額5千円、昼食代が月額1万円かかる場合、工賃1万6千円から引くと、ほとんど残りません。むしろ赤字になることもあります。
モチベーションが維持できない
働く意義を見失う 「こんなに働いているのに、この金額では…」と、モチベーションが下がります。「働く意味がない」と感じて、退所する方もいます。
自己肯定感が下がる
評価されていない感じ 「自分の労働が正当に評価されていない」「社会から必要とされていない」と感じ、自己肯定感が下がることがあります。
将来への不安
このままでいいのか 「ずっとこの工賃で働き続けるのか」「将来どうなるのか」という不安が生まれます。
メリット
プレッシャーが少ない
気楽に働ける 工賃が低い分、「絶対にノルマを達成しなければ」「ミスをしてはいけない」というプレッシャーが少なく、気楽に働けます。
高工賃の事業所は、その分要求も厳しくなります。
柔軟性が高い
休みやすい 工賃が低い事業所は、通所の柔軟性が高いことが多いです。体調不良で休んでも、あまりプレッシャーがありません。
年金や手当に影響しにくい
収入制限の問題 障害年金や生活保護を受けている場合、収入が増えすぎると減額されることがあります。B型の低工賃は、この収入制限に引っかかりにくいです。
税金がかからない
非課税 月額1万6千円程度の工賃では、所得税や住民税はかかりません。手取りがそのまま収入になります。
工賃を上げる方法はあるのか
工賃を上げることは可能なのでしょうか。
個人でできること
スキルを向上させる
作業スピード・正確性を上げる 作業に慣れ、スキルが向上すれば、出来高が増えたり、難易度の高い作業ができるようになったりして、工賃が上がることがあります。
通所日数・時間を増やす
働く量を増やす 週3日を週5日に、午前のみを1日フルタイムに増やせば、工賃も増えます。
ただし、体調と相談しながら、無理のない範囲で行うことが大切です。
資格を取得する
専門性を高める PC関連の資格、簿記、その他の資格を取得することで、より高単価の作業ができるようになり、工賃が上がる可能性があります。
積極的に働きかける
工賃アップを交渉する 長く通い、貢献している場合、「工賃を上げてもらえませんか」と交渉してみるのも一つの方法です。すべての事業所で可能とは限りませんが、試す価値はあります。
事業所に求めること
高単価の仕事を獲得する
営業努力 事業所が高単価の仕事を獲得する努力をすれば、工賃が上がります。利用者からも「もっと高単価の仕事を取ってきてほしい」と要望を出すことができます。
自主製品の販路拡大
売上を伸ばす 自主製品を作っている場合、販路を拡大することで売上が伸び、工賃も上がります。
効率化
作業システムの改善 作業の効率化、無駄の削減などで生産性が上がれば、工賃も上がる可能性があります。
現実的な限界
大幅な上昇は難しい 個人の努力や事業所の改善で、ある程度工賃を上げることは可能ですが、B型の構造的な限界があり、大幅な上昇は難しいのが現実です。
月額1万円から3万円になることはあっても、10万円になることはほぼありません。
より高い工賃の事業所を見つける方法
低工賃に納得できない場合、より高い工賃の事業所を探すという選択肢もあります。
事前に工賃を確認する
見学時に必ず聞く 見学時に、必ず以下を確認しましょう。
- 平均工賃(月額、時給)
- 最低工賃と最高工賃
- 初心者の工賃
- 昇給制度の有無
- 皆勤手当などの有無
複数の事業所を比較する
工賃を比較する 複数の事業所の工賃を比較して、より高い事業所を選びましょう。ただし、工賃だけで選ぶのではなく、作業内容、雰囲気、支援の質なども総合的に判断することが大切です。
高工賃を実現している事業所の特徴
どんな事業所か 高工賃の事業所には、以下のような特徴があります。
- 専門性の高い作業(PC作業、清掃、製造など)
- 自主製品の製造・販売が成功している(パン、クッキー、雑貨など)
- 企業との強いつながりがあり、安定した受注がある
- 経営者の経営努力が優れている
- 利用者のスキルアップに力を入れている
これらの特徴を持つ事業所を探しましょう。
インターネットで調査する
工賃を公開している事業所 事業所のホームページで工賃を公開しているところもあります。「B型 工賃 高い」「B型 工賃 ○○市」などで検索してみましょう。
相談支援専門員に相談する
地域の情報を持っている 相談支援専門員は、地域の事業所の工賃水準を把握していることが多いです。「できるだけ工賃の高い事業所を紹介してほしい」と相談してみましょう。
A型や一般就労も検討する
B型以外の選択肢 体調が安定している、一定の能力があるなら、B型ではなくA型事業所や一般就労(障害者雇用枠)を検討することも選択肢です。
- A型: 最低賃金保証、月額10万円以上も可能
- 一般就労: さらに高い給与
工賃以外の価値を見出す
工賃は低いけれど、それでもB型に通う意味を見出している方もいます。
居場所・つながり
孤独からの解放 工賃は低くても、「自分の居場所がある」「人とのつながりがある」ことに価値を見出している方は多いです。
長く引きこもっていた方、孤独感が強い方にとって、これは大きな価値です。
生活リズム
規則正しい生活 毎日決まった時間に起きて、外出して、作業をすることで、生活リズムが整います。これは、精神的健康にとって非常に重要です。
社会参加の実感
「働いている」という実感 工賃が低くても、「働いている」「社会に貢献している」という実感が得られることに価値を見出す方もいます。
成長の機会
スキルアップ 新しい作業を覚える、人とコミュニケーションを取る、責任を果たすなど、成長の機会があります。
次のステップへの準備
A型や一般就労への準備 B型を、A型や一般就労への準備期間と捉えている方もいます。工賃は低くても、経験を積み、体調を整え、次のステップに進むための場と考えれば、意味があります。
精神的安定
安心できる環境 プレッシャーが少なく、理解のあるスタッフがいて、安心して過ごせる環境があることに価値を見出す方もいます。
低工賃でも納得して利用するための考え方
工賃の低さを受け入れ、納得して利用するための考え方です。
B型の目的を理解する
「稼ぐ場所」ではない B型事業所の本来の目的は、「生活費を稼ぐこと」ではなく、「社会参加の機会を提供すること」「成長を支援すること」「居場所を提供すること」です。
この目的を理解すれば、低工賃も納得しやすくなります。
工賃を「お小遣い」と捉える
生活費ではなく 工賃を「生活費」と考えるから不満が出ます。「お小遣い」「好きなものを買う楽しみ」と捉えれば、月額1万6千円でも意味があります。
年金や手当とセットで考える
トータルの収入 障害年金(月額6〜8万円程度)、その他の手当、家族の支援などと合わせて、トータルの収入で考えましょう。
年金6万円+工賃1万6千円=7万6千円と考えれば、少し気持ちが楽になります。
非金銭的な価値を重視する
お金以外の豊かさ 居場所、つながり、成長、安心、生活リズムなど、お金では測れない価値を重視しましょう。
段階的に考える
今はB型、将来は別の選択肢 「今は体調が不安定だからB型で、将来体調が安定したらA型や一般就労にステップアップする」と段階的に考えれば、今の低工賃も我慢できます。
他者と比較しない
自分のペース 一般企業で働いている人と比較して落ち込む必要はありません。あなたはあなたのペースで、あなたに合った場所で、成長しています。
感謝の気持ち
働ける場所があること 「低工賃だけど、働ける場所があることに感謝」と考えることも一つの方法です。
まとめ:工賃だけが価値ではない
就労継続支援B型事業所の工賃が低い理由は、雇用契約ではなく最低賃金の適用外、生産性が低い、受注単価が低い、人件費や運営費がかかる、支援に時間とコストがかかる、販路が限られている、事業所の経営努力の差、制度の問題など、構造的な要因があります。
全国平均の工賃は月額約1万6千円、時給約200円程度で、事業所によって数千円から数万円まで大きな差があります。低工賃にはデメリット(経済的自立不可、交通費で赤字、モチベーション低下、自己肯定感低下)もありますが、メリット(プレッシャーが少ない、柔軟性が高い、年金に影響しにくい、税金がかからない)もあります。
工賃を上げるには、スキル向上、通所日数・時間を増やす、資格取得、事業所の経営努力などがありますが、大幅な上昇は構造的に難しいのが現実です。より高い工賃の事業所を探すことも可能ですが、工賃だけでなく総合的に判断することが大切です。
工賃は低くても、居場所・つながり、生活リズム、社会参加の実感、成長の機会、精神的安定など、工賃以外の価値を見出している方も多くいます。
低工賃でも納得して利用するには、B型の目的を理解し、工賃を「お小遣い」と捉え、年金とセットで考え、非金銭的な価値を重視し、段階的に考え、他者と比較せず、感謝の気持ちを持つことが有効です。
工賃だけがB型の価値ではありません。あなたがB型に通うことで得られる、お金では測れない豊かさがあります。工賃の低さに失望するのではなく、あなたにとってB型がどんな意味を持つのか、何を得られるのかを考えてみてください。そして、もし本当に経済的自立が必要なら、A型や一般就労へのステップアップも視野に入れましょう。
あなたに合った働き方、生き方を見つけてください。応援しています。

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