はじめに
就労継続支援B型事業所の利用を検討する際、「工賃はどのくらいもらえるのか」は大きな関心事です。しかし、「平均工賃」という言葉だけでは、実際にどの程度の収入が得られるのか、イメージしにくいかもしれません。
本記事では、B型事業所の工賃の平均額、地域別・作業別の違い、工賃の仕組み、そして工賃を上げるための取り組みについて詳しく解説します。
B型事業所の工賃とは
工賃の基本
工賃とは 就労継続支援B型では、雇用契約を結ばないため、「給料」ではなく「工賃」として報酬を受け取ります。
給料との違い
- 給料(賃金) 雇用契約に基づく労働の対価、最低賃金法が適用される
- 工賃 生産活動に対する報酬、最低賃金法の適用外
重要なポイント 工賃には法定の最低額がないため、事業所によって大きな差があります。
工賃の決まり方
事業所の収益から支払われる 利用者が行った作業により事業所が得た収益から、工賃が支払われます。
工賃支払いの原則
- 事業所は、生産活動に係る事業の収入から必要経費を控除した額に相当する金額を工賃として支払う
- 利用者全員に支払う工賃の総額は、サービス提供に必要な費用(人件費等)を上回らないこと
計算方法の例
- 時間給制 作業時間×時給
- 出来高制 完成した作業量×単価
- 日給制 出勤日数×日給
- 月給制 固定額
全国平均工賃の推移
最新の平均工賃(令和4年度)
月額平均工賃 全国平均 16,507円(令和4年度)
時間額平均工賃 全国平均 233円(令和4年度)
過去10年間の推移
月額平均工賃の推移
- 平成25年度 14,437円
- 平成26年度 14,838円
- 平成27年度 15,033円
- 平成28年度 15,295円
- 平成29年度 15,603円
- 平成30年度 16,118円
- 令和元年度 16,369円
- 令和2年度 15,776円(コロナの影響)
- 令和3年度 16,507円
- 令和4年度 16,507円
傾向 徐々に上昇傾向にありますが、令和2年度はコロナ禍の影響で減少しました。その後回復しています。
工賃の分布
月額工賃の分布(令和4年度)
- 5,000円未満 約15%
- 5,000円以上10,000円未満 約25%
- 10,000円以上20,000円未満 約35%
- 20,000円以上30,000円未満 約15%
- 30,000円以上 約10%
重要なポイント 平均は16,507円ですが、実際には数千円から3万円以上まで、事業所によって大きな差があります。
地域別の工賃平均
都道府県別ランキング(令和4年度 月額平均)
上位5都道府県
- 東京都 約21,000円
- 神奈川県 約20,000円
- 愛知県 約19,500円
- 大阪府 約18,500円
- 埼玉県 約18,000円
下位5都道府県 都道府県により差がありますが、一般的に地方では低い傾向があります(約12,000〜13,000円程度)。
地域差の理由
都市部が高い理由
- 企業からの受注が多い
- 高単価の仕事(IT系など)が多い
- 最低賃金が高いため、工賃も相対的に高い傾向
- 物価が高く、それに応じた設定
地方が低い理由
- 受注できる仕事が限られる
- 単価の低い作業が中心
- 最低賃金が低い
- 経済規模が小さい
注意点 都道府県内でも、事業所による差が大きいため、地域の平均はあくまで参考値です。
作業内容別の工賃
作業種別ごとの傾向
高工賃の傾向がある作業
IT・パソコン作業
- 月額平均 20,000〜30,000円以上
- 内容 Webサイト制作、プログラミング、データ入力、デザイン
- 特徴 専門スキルが必要、高単価の受注
製造業(受託作業)
- 月額平均 15,000〜25,000円
- 内容 部品組み立て、加工、検品
- 特徴 大量の受注、作業効率が良い
飲食・販売
- 月額平均 15,000〜25,000円
- 内容 カフェ運営、弁当製造・販売、パン製造
- 特徴 直接販売により利益率が高い
中程度の工賃の作業
軽作業
- 月額平均 12,000〜18,000円
- 内容 梱包、シール貼り、袋詰め、DM発送
- 特徴 単価は低いが安定した受注
清掃業務
- 月額平均 12,000〜18,000円
- 内容 施設清掃、ビルメンテナンス
- 特徴 継続的な契約が多い
比較的低工賃の作業
農作業・園芸
- 月額平均 10,000〜15,000円
- 内容 野菜栽培、園芸作業
- 特徴 天候に左右される、収穫までに時間がかかる
手工芸・内職
- 月額平均 8,000〜12,000円
- 内容 手工芸品製作、単純な内職
- 特徴 単価が低い、生産性が低い
注意点 これらはあくまで傾向であり、同じ作業内容でも事業所の取り組みや地域により大きく異なります。
工賃が高い事業所の特徴
1. 収益性の高い事業を行っている
自主製品の販売
- オリジナル商品の製造・販売
- ブランド化により高価格で販売
- 販路の開拓(ネット販売、イベント出店)
高単価の受注
- IT系、専門的な作業
- 企業からの安定した受注
- 付加価値の高い仕事
2. 生産性が高い
効率的な作業体制
- 作業の標準化
- 設備・機材への投資
- スタッフの指導力
利用者のスキル向上
- 研修・訓練の充実
- 個々の能力に応じた作業配置
3. 経営努力をしている
営業活動
- 新規取引先の開拓
- 既存取引先との関係強化
- 地域との連携
コスト削減
- 無駄の削減
- 効率的な運営
4. 利用者の働く時間が長い
工賃は時間×時給 同じ時給でも、長時間働ける利用者が多い事業所は、平均工賃が高くなります。
注意点 長時間労働が必ずしも良いわけではなく、利用者の体調や能力に合った働き方が重要です。
工賃が低い理由
1. 事業収益が少ない
受注量の不足
- 取引先が少ない
- 季節変動が大きい
- 安定した仕事がない
単価の低い仕事
- 低単価の内職作業
- 利益率の低い事業
2. 生産性が低い
作業効率の問題
- 利用者のスキル不足
- 設備の老朽化
- 作業環境の問題
利用者の状態
- 体調が不安定で欠勤が多い
- 短時間しか働けない利用者が多い
3. 経営の問題
営業力不足
- 新規開拓ができていない
- 既存取引先との関係悪化
運営の非効率性
- 無駄なコストが多い
- 適切な人員配置ができていない
4. 工賃向上への意識が低い
福祉的視点のみ 「工賃よりも居場所を提供することが大切」という考えで、工賃向上への取り組みが不十分。
バランスの問題 福祉的支援と工賃向上のバランスが難しい。
工賃向上のための取り組み
国の取り組み
工賃向上計画 都道府県と事業所が「工賃向上計画」を策定し、目標を設定して取り組んでいます。
国の目標 令和5年度までに全国平均工賃を月額20,000円にする(未達成)
支援策
- 工賃向上計画支援等事業
- 共同受注窓口の設置
- 経営コンサルタントの派遣
- 販路拡大支援
事業所の取り組み例
1. 新規事業の開発
- オリジナル商品の開発
- 新しいサービスの提供
- ニッチ市場への参入
2. 販路の拡大
- ネット販売の強化
- イベント・マルシェへの出店
- 企業への営業
- 自治体からの優先調達
3. 生産性の向上
- 設備投資
- 作業手順の見直し
- スタッフ研修
4. 利用者のスキルアップ
- 専門的な訓練
- 資格取得支援
- OJT(実地訓練)
5. 他事業所との連携
- 共同受注
- 共同販売
- ノウハウの共有
優良事例
A事業所(IT系)
- Webサイト制作を主力事業に
- 企業からの継続受注
- 月額平均工賃 30,000円以上
B事業所(飲食)
- 地域密着型のカフェ運営
- 地元食材を使った商品開発
- 月額平均工賃 25,000円
C事業所(製造)
- 企業の下請けで大量受注
- 効率的な作業体制
- 月額平均工賃 22,000円
工賃以外の収入
B型の工賃だけでは生活が難しいため、他の収入源と組み合わせることが一般的です。
1. 障害年金
受給額
- 障害基礎年金1級 約81,000円/月
- 障害基礎年金2級 約65,000円/月
- 障害厚生年金 上記に上乗せ
工賃との併給 障害年金と工賃は両方受け取れます。
合計収入の例 障害基礎年金2級(65,000円)+工賃(16,000円)=月額81,000円
2. 生活保護
受給している場合 生活保護を受給している方がB型で働く場合、工賃は収入認定されますが、一定額まで控除されます。
勤労控除 工賃のうち一定額は収入から控除され、生活保護費が全額減額されるわけではありません。
3. 家族の支援
多くの利用者は、家族と同居し、家族の支援を受けながら生活しています。
工賃を増やすためにできること
利用者ができること
1. 出勤日数・時間を増やす 体調が許す範囲で、通所日数や時間を増やすことで工賃が上がります。
2. スキルを磨く
- 作業の効率を上げる
- 新しいスキルを習得する
- 難しい作業にチャレンジする
3. 工賃の高い事業所を選ぶ 見学・体験時に工賃を確認し、高工賃の事業所を選ぶことも一つの方法です。
4. 一般就労やA型へのステップアップ 将来的に、より高い収入を得られる働き方を目指すことも選択肢です。
事業所に求めること
工賃向上への取り組み 事業所が積極的に工賃向上に取り組んでいるか、見学時に確認しましょう。
透明性 工賃の計算方法や、どうすれば工賃が上がるのかを明確に説明してくれる事業所を選びましょう。
よくある質問
Q1. 全国平均16,507円ということは、誰でもそのくらいもらえるのですか?
A. いいえ、違います。これは全国の全事業所の平均であり、実際には数千円から3万円以上まで、事業所によって大きな差があります。また、同じ事業所でも、通所日数や時間により個人差があります。
Q2. 工賃が最低賃金以下なのは違法ではないのですか?
A. B型は雇用契約ではないため、最低賃金法の適用外です。そのため、最低賃金以下でも違法ではありません。
Q3. 工賃が高い事業所は、その分仕事がきついのですか?
A. 必ずしもそうとは限りません。効率的な事業運営や高単価の受注により、高工賃を実現している事業所もあります。ただし、見学・体験時に作業内容や雰囲気を確認することが重要です。
Q4. 工賃はいつ支払われますか?
A. 多くの事業所では月1回、翌月払いが一般的です(例 4月の工賃を5月に支払い)。事業所により異なるため、契約時に確認しましょう。
Q5. 工賃に税金はかかりますか?
A. B型の工賃は「雑所得」として扱われます。工賃が年間20万円以下であれば、確定申告は不要です。障害年金と合わせても、多くの場合、所得税はかかりません。ただし、住民税は自治体により異なるため、確認が必要です。
Q6. 工賃を上げてほしいと事業所に言えますか?
A. 個人の工賃を上げてほしいと交渉することは難しいですが、スキルアップや出勤日数を増やすことで工賃が上がる可能性はあります。また、事業所全体の工賃向上については、利用者の意見として伝えることは可能です。
Q7. 工賃だけで生活できますか?
A. 平均工賃16,507円では、一人暮らしで生活することは困難です。障害年金や家族の支援と組み合わせることが一般的です。より高い収入を求める場合は、A型や一般就労も検討しましょう。
まとめ
就労継続支援B型の工賃について、重要なポイントをまとめます。
全国平均工賃
- 月額 16,507円(令和4年度)
- 時間額 233円(令和4年度)
- 過去10年で徐々に上昇傾向
工賃の幅
- 数千円〜3万円以上まで、事業所により大きな差がある
- 地域差 都市部が高く、地方が低い傾向
- 作業内容 IT系・製造業が高く、農作業・手工芸が低い傾向
工賃だけでの生活は困難
- 障害年金との併給
- 家族の支援
- 生活保護との組み合わせ
工賃を増やすには
- 出勤日数・時間を増やす
- スキルを磨く
- 工賃の高い事業所を選ぶ
- 将来的にA型や一般就労を目指す
B型の価値は工賃だけではない
- 社会参加の場
- スキル向上の機会
- 居場所としての意義
- 自己肯定感の回復
工賃は確かに重要ですが、B型の価値は金額だけでは測れません。自分のペースで働きながら、社会とつながり、スキルを磨き、自信を取り戻すこと自体に大きな意義があります。
B型を選ぶ際は、工賃だけでなく、作業内容、雰囲気、支援体制なども総合的に判断し、自分に合った事業所を見つけることが大切です。見学や体験利用を通じて、実際の雰囲気や工賃の実態を確認しましょう。

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