双極性障害(躁うつ病)は、気分の波が大きく、症状の変動により継続的な就労が困難になることが多い疾患です。しかし、就労継続支援B型事業所では、症状の波に合わせた柔軟な働き方ができるため、双極性障害の方にとって有効な選択肢となります。本記事では、双極性障害の特性と就労の課題、就労継続支援B型が適している理由、症状管理と両立する働き方、そして事業所選びのポイントまで、詳しく解説します。
双極性障害の特性と就労における課題
双極性障害について正しく理解することが、適切な働き方を見つける第一歩です。
双極性障害とは
双極性障害は、躁状態(またはその軽症型である軽躁状態)とうつ状態を繰り返す気分障害です。双極Ⅰ型障害は明確な躁状態を伴い、双極Ⅱ型障害は軽躁状態とうつ状態を繰り返します。
躁状態では、気分が異常に高揚する、睡眠時間が短くても平気になる、多弁になる、思考が次々と浮かぶ、注意散漫になる、活動量が増える、衝動的な行動をとる、自分は何でもできると感じる(誇大妄想)といった症状が現れます。
うつ状態では、気分が落ち込む、何にも興味や喜びを感じられない、疲れやすく活動量が低下する、集中力や決断力が低下する、自己否定的な考えが強まる、睡眠障害(不眠または過眠)、食欲の変化、希死念慮(死にたいという考え)といった症状が生じます。
これらの症状は数週間から数か月単位で変動し、予測が難しいことが特徴です。
一般就労における困難
双極性障害の症状の波により、一般就労では以下のような困難が生じます。
症状の変動による勤怠の不安定さが最大の課題です。うつ状態では起床困難で遅刻や欠勤が増え、躁状態では無理をしすぎて疲弊するといった状況が生じます。定期的な通院が必要なため、平日の受診時間を確保する必要もあります。
パフォーマンスの変動も問題です。調子の良いときは高い成果を出せても、うつ状態では簡単な業務も困難になります。この落差により、周囲から「やる気がない」「怠けている」と誤解されることもあります。
躁状態での問題行動として、衝動的な発言や行動、過度な自信による無謀な計画、人間関係のトラブル、金銭管理の問題などが職場での摩擦を生むことがあります。
うつ状態での集中力低下により、ミスが増える、決断ができない、業務が遅れるといった問題が生じます。
薬物療法の副作用として、眠気、だるさ、集中力低下、体重増加、手の震えなどが、業務に影響することもあります。
これらの困難により、能力はあっても長期就労が難しく、転職を繰り返すことが多くなります。
就労継続支援B型が双極性障害の方に適している理由
就労継続支援B型事業所は、双極性障害の特性に配慮した働き方ができるため、多くのメリットがあります。
柔軟な勤務体制
雇用契約を結ばないため、症状の波に応じて勤務日数や時間を調整できます。
調子の良いときは週4~5日働き、うつ状態のときは週1~2日に減らす、午前中だけの利用から始める、体調が優れない日は休むといった柔軟な対応が可能です。
一般企業では、このような変動は「勤務態度が悪い」と評価されがちですが、B型事業所では症状の特性として理解され、個々のペースが尊重されます。
プレッシャーの少なさ
厳しいノルマや納期、責任の重さがないため、精神的なプレッシャーが少なく、ストレスによる症状悪化のリスクを軽減できます。
「完璧にやらなければ」「期待に応えなければ」というプレッシャーは、双極性障害の症状を悪化させる要因となります。B型事業所では、自分のペースで無理なく働ける環境があります。
通院との両立
定期的な通院が必要な双極性障害の方にとって、通院日の休みや時間調整がしやすい環境は重要です。
「主治医の診察日は午後から利用」「通院のため月2回休む」といった調整が容易にできます。
症状への理解
職員は精神障害についての知識があり、双極性障害の症状を理解しています。気分の波があることを前提とした支援を受けられるため、症状による変動を責められることはありません。
調子が悪そうなときには声をかけてくれる、休息を勧めてくれる、医療機関との連携を図ってくれるといった配慮があります。
段階的な負荷調整
症状が安定してきたら、徐々に作業量や勤務日数を増やしていくことができます。急激な負荷増加は症状悪化のリスクがあるため、段階的に調整できることは重要です。
同じ境遇の仲間
同じように精神疾患を抱えながら働く仲間がいることで、孤独感が軽減され、「自分だけじゃない」という安心感が得られます。
お互いの体調を気遣い合える関係性は、回復の大きな支えとなります。
経済的な支援との併用
多くの双極性障害の方は障害年金を受給しており、B型事業所の工賃と併せることで、経済的な基盤を維持できます。無理に高収入を目指して症状を悪化させるよりも、安定した生活を優先できます。
双極性障害の方に適した就労継続支援B型事業所の選び方
事業所によって環境や支援内容は異なるため、自分に合った場所を選ぶことが重要です。
精神障害への理解と実績
「双極性障害や精神障害の利用者は何名いますか」「精神障害に対する支援の経験や実績はありますか」「精神保健福祉士など専門職はいますか」
精神障害専門の事業所や、精神障害の利用者が多い事業所であれば、症状への理解が深く、適切な対応が期待できます。
柔軟な勤務体制
「体調による勤務日数や時間の変動に対応してもらえますか」「当日の急な休みは可能ですか」「短時間からのスタートは可能ですか」
柔軟性が高い事業所ほど、症状の波に対応しやすくなります。
作業内容の適性
躁状態とうつ状態で作業能力が変動するため、複数の作業選択肢がある事業所が理想的です。
調子の良いときはやや複雑な作業、調子が悪いときは単純作業といった使い分けができるかを確認します。
「体調に応じて作業内容を変更できますか」「難易度の異なる複数の作業がありますか」
また、集中力の変動に対応できる作業環境かも重要です。短時間で完結する作業、休憩を挟みながらできる作業が適しています。
作業環境の刺激レベル
躁状態のときは刺激に敏感になり、うつ状態のときは静かな環境を好む傾向があります。
過度に騒がしくなく、かといって孤立感を感じない程度の活気がある環境が理想的です。見学時に、環境の刺激レベルを確認します。
「休憩時に静かに過ごせるスペースはありますか」「個別の作業スペースは確保されていますか」
相談体制
症状の変化を早期に察知し、対応してもらえる相談体制があるかが重要です。
「定期的な面談はありますか」「体調の変化を相談しやすい雰囲気ですか」「医療機関との連携はありますか」
主治医や訪問看護、相談支援専門員などと連携してくれる事業所は、包括的な支援が期待できます。
服薬管理のサポート
双極性障害の治療では服薬の継続が極めて重要です。
「服薬時間のリマインドはありますか」「服薬管理のサポートはありますか」
服薬を忘れがちな方には、職員が声をかけてくれる体制があると安心です。
危機対応の体制
躁状態やうつ状態が悪化したとき、適切に対応してもらえる体制があるかを確認します。
「症状が悪化した場合の対応マニュアルはありますか」「緊急時の連絡体制は整っていますか」
症状の波と向き合いながら働くための工夫
事業所を選んだ後も、自分自身で症状管理をしながら働くことが重要です。
症状モニタリング
自分の症状の波を記録し、パターンを把握することが大切です。
睡眠時間、気分の状態、活動量、食欲などを毎日記録し、変化の兆候に早期に気づけるようにします。スマートフォンのアプリや手帳を活用します。
「最近睡眠時間が短くなっている」「些細なことでイライラする」といった兆候があれば、早めに主治医や事業所職員に相談します。
規則正しい生活リズム
双極性障害の症状管理には、規則正しい生活リズムが不可欠です。
毎日同じ時刻に起床・就寝する、三食を規則正しく食べる、適度な運動習慣を持つといった基本的な生活習慣が、気分の安定につながります。
就労継続支援B型に通うことで、生活リズムが整うという副次的効果もあります。
服薬の厳守
気分安定薬や抗精神病薬などの服薬を、自己判断で中断しないことが最重要です。
「調子が良いから薬をやめる」「副作用が辛いから減らす」といった自己判断は、症状の再燃を招きます。薬に関する疑問や問題は、必ず主治医に相談します。
ストレス管理
過度なストレスは症状悪化の引き金となります。
自分なりのストレス解消法を持つこと(音楽、散歩、趣味など)、無理をしすぎないこと、「できないことはできない」と認めることが大切です。
事業所でストレスを感じたら、我慢せず職員に相談します。
躁状態の予兆への対処
躁状態の予兆(睡眠時間の短縮、多弁、活動量の増加、気分の高揚など)に気づいたら、すぐに対処します。
活動を意識的に抑える、刺激の多い環境を避ける、大きな決断や買い物を控える、主治医に早めに相談するといった対応が必要です。
事業所職員にも状況を伝え、作業量の調整や休養を相談します。
うつ状態の予兆への対処
うつ状態の予兆(気分の落ち込み、意欲低下、疲労感、集中力低下など)に気づいたら、無理をせず休養を優先します。
「今日は調子が悪いので休む」「午前中だけにする」といった判断を早めに行うことが、悪化を防ぎます。
完璧を目指さず、「今日はこれだけやればOK」と低めの目標設定をすることも有効です。
サポートネットワークの構築
主治医、事業所職員、相談支援専門員、訪問看護師、家族など、複数の支援者とつながっておくことで、症状の変化に多角的に対応できます。
各支援者に自分の症状の特徴や対処法を伝えておくと、適切なサポートが受けやすくなります。
職員への伝え方と配慮の求め方
自分の症状特性や必要な配慮を職員に伝えることが、適切な支援につながります。
症状の特徴を説明する
「双極性障害で、気分の波があります」とだけ伝えるのではなく、具体的に説明します。
「調子が良いときと悪いときの差が大きく、うつ状態では起床が困難になります」「躁状態では活動的になりすぎて後で疲弊するので、抑え気味に働くよう声をかけてください」といった具体的な説明が効果的です。
予兆サインを共有する
自分の症状悪化の予兆サインを職員と共有しておきます。
「睡眠時間が4時間以下になったら躁の予兆です」「口数が減り、表情が暗くなったらうつの兆候です」
職員が早期に気づいてくれることで、悪化を防げます。
対処法を伝える
症状が出たときの対処法を事前に伝えておきます。
「調子が悪そうなときは、無理させず早めに帰宅を勧めてください」「躁状態のときは、衝動的な言動があっても後で指摘してください」
通院スケジュールの共有
定期通院の日程を事業所に伝えておくことで、スケジュール調整がしやすくなります。
「毎月第2木曜日は通院のため午後から参加します」といった情報共有が重要です。
家族や支援者の役割
家族や相談支援専門員などの支援者も、双極性障害の方の就労を支える重要な存在です。
症状モニタリングのサポート
家族は日常的に接しているため、症状の変化に気づきやすい立場にあります。
「最近寝る時間が遅くなっている」「食欲がない」といった変化を本人に伝え、必要に応じて受診を促します。
通所のサポート
うつ状態では起床が困難になるため、朝起こす、準備を手伝う、通所に付き添うといったサポートが有効です。
ただし、過度な干渉は本人のストレスになるため、バランスが重要です。
事業所との連携
必要に応じて、家族が事業所と連絡を取り、本人の状態を共有することも有効です。
ただし、本人の同意を得た上で、本人のプライバシーを尊重しながら行うことが大切です。
医療機関との連携
家族が診察に同席し、家庭での様子を主治医に伝えることで、より適切な治療につながります。
就労継続支援B型からのステップアップ
B型事業所で症状が安定し、自信がついたら、次のステップを検討することもできます。
就労継続支援A型への移行
より安定した症状状態が続き、週5日程度の勤務が可能になったら、A型事業所への移行を検討できます。A型では雇用契約を結び、最低賃金が保障されます。
就労移行支援の利用
一般就労を目指す場合、就労移行支援事業所で2年間の訓練を受けることができます。ビジネススキル、コミュニケーションスキル、症状管理スキルなどを学びます。
一般就労(障害者雇用)
症状が十分に安定し、定期的な勤務が可能になったら、障害者雇用枠での一般就労も選択肢です。
双極性障害をオープンにして就職することで、企業側から配慮を受けながら働けます。就労定着支援サービスを利用することで、就職後も継続的なサポートが受けられます。
無理なステップアップは禁物
重要なのは、無理にステップアップを目指さないことです。症状が安定することが最優先であり、B型事業所で長期的に働き続けることも立派な選択です。
焦らず、主治医や支援者と相談しながら、自分のペースで進むことが大切です。
実際の成功事例
双極性障害の方が就労継続支援B型を活用している実例を紹介します。
Aさん(30代女性、双極Ⅱ型障害)
一般企業で事務職として働いていたが、うつ状態での欠勤が増え、退職。1年間の休養後、就労継続支援B型の軽作業事業所に週2日から通所開始。徐々に日数を増やし、現在は週4日安定して通所。気分の波はあるが、柔軟な勤務体制のおかげで、3年間継続できている。障害年金と工賃で生活し、症状管理を最優先にしている。
Bさん(40代男性、双極Ⅰ型障害)
躁状態での衝動的な行動により、複数回の転職と入院を経験。退院後、就労継続支援B型の清掃作業所に通所。単純作業で体を動かすことが症状安定に良い影響を与え、2年間再発なく通所継続。最近、就労継続支援A型への移行を視野に入れている。
Cさん(20代男性、双極Ⅱ型障害)
大学在学中に発症し、就職活動がうまくいかず卒業。就労継続支援B型のパソコン作業事業所で、データ入力やデザイン補助を担当。興味のある作業に取り組めることが意欲につながり、週3~4日のペースで通所。将来的には就労移行支援を経て、デザイン関連の仕事に就くことを目標にしている。
まとめ
双極性障害は気分の波が大きく、継続的な就労が困難な疾患ですが、就労継続支援B型事業所では、症状の変動に合わせた柔軟な働き方が可能です。無理なく自分のペースで働くことで、症状の安定と社会参加を両立できます。
事業所選びでは、精神障害への理解、柔軟な勤務体制、適切な作業内容、相談体制などを総合的に確認し、自分に合った場所を見つけることが重要です。複数の事業所を見学し、体験利用を通じて実際の雰囲気を確かめましょう。
症状管理を最優先にし、服薬の継続、規則正しい生活、ストレス管理、症状モニタリングを徹底することが、安定した就労の基盤となります。主治医、事業所職員、相談支援専門員、家族などの支援者と協力しながら、自分らしい働き方を実現していきましょう。
焦らず、一歩ずつ前進していくことが大切です。B型事業所での経験が、あなたの回復と社会参加の大きな支えとなることを願っています。

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