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知的障害には該当しないものの、平均よりも知的機能が低い境界知能の方は、社会生活の中でさまざまな困難を抱えています。
IQが概ね70から84の範囲にある境界知能の方は、日本の人口の約14パーセントを占めるとされており、決して少数派ではありません。
しかし、境界知能は知的障害の認定基準に該当しないため、療育手帳の取得が難しく、障害者雇用の対象から外れてしまうケースが多いのが現実です。
一般雇用の枠組みでは健常者と同じ業務遂行能力を求められ、障害者雇用の枠組みでは手帳がないために利用しにくいという、制度の谷間に置かれてしまう方が少なくありません。
本記事では、境界知能の方が障害者雇用を含めた働き方を選ぶ際に直面する難しさと、利用できる選択肢について整理していきます。
自分に合った働き方を見つけるためのヒントとして、参考にしていただければと思います。
境界知能とはどのような状態か
境界知能は、知能指数が概ね70から84の範囲にある状態を指します。
知的障害の診断基準はIQ70未満が目安となるため、境界知能は知的障害には該当しません。
しかし、平均的なIQが100前後とされていることを考えると、平均よりも明らかに低い水準であることがわかります。
境界知能の方は、見た目や日常会話だけでは特性が分かりにくいことが多く、周囲から理解されにくいという特徴があります。
学校生活では勉強についていくのが難しい、社会人になってからは業務の理解や手順の習得に時間がかかる、複雑な指示の理解が困難、計算や文章の処理に苦労するなど、さまざまな場面で困難に直面します。
しかし、本人は「自分が頑張れば何とかなる」「他の人にできることが自分にできないのはおかしい」と感じ、自分を責めてしまうことが多いのが実情です。
努力で乗り越えようとした結果、心身の疲労が蓄積し、二次的にうつ病や不安障害を発症するケースも少なくありません。
境界知能は障害ではないと考えられがちですが、社会生活において実質的な困難を抱えている方が多く、適切な支援が必要な状態であることは確かです。
近年、境界知能への社会的な理解が少しずつ広がってきていますが、制度面ではまだ十分な対応が整っているとはいえません。
障害者雇用における境界知能の位置づけ
障害者雇用枠で働くためには、原則として障害者手帳を取得していることが条件となります。
身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳のいずれかを持っていることで、障害者雇用枠に応募できる仕組みです。
境界知能の方の場合、療育手帳の取得を希望しても、IQが基準を超えているために却下されることが多くあります。
療育手帳の判定基準は自治体によって異なりますが、おおむねIQ70未満が目安とされており、境界知能の方は対象から外れてしまうのです。
ただし、自治体によっては社会適応能力を含めて総合的に判断する場合もあるため、まずは相談してみる価値があります。
精神障害者保健福祉手帳の取得を検討する道もあります。
境界知能と併せてうつ病、不安障害、適応障害、発達障害などの精神疾患を抱えている場合は、これらの診断をもとに精神障害者保健福祉手帳を申請できる可能性があります。
精神科を受診し、主治医と相談することで、手帳取得への道が開ける場合があります。
手帳を取得できれば、障害者雇用枠への応募が可能となり、合理的配慮を受けながら働ける環境を選びやすくなります。
ただし、境界知能そのものを理由として精神障害者保健福祉手帳が交付されるわけではないため、併存する精神疾患の有無が鍵となります。
手帳がない状態でも、就労移行支援などの福祉サービスを利用できる場合があるため、地域の支援機関に相談することが大切です。
一般雇用で働く際の難しさ
境界知能の方が一般雇用で働く際には、いくつかの典型的な困難に直面します。
まず、業務の習得スピードの問題があります。
新しい業務を覚える際、健常者よりも理解や定着に時間がかかることが多く、同期と比較して遅れていると感じてしまうことがあります。
口頭での説明だけでは理解しにくく、何度も同じ質問をすることになり、「やる気がない」「真剣に取り組んでいない」と誤解されるケースも少なくありません。
業務の優先順位の判断も難しい場面です。
複数の業務を同時に抱えたときに、何から手をつけるべきかの判断がつかず、混乱してしまうことがあります。
時間管理や納期管理も苦手とする方が多く、結果的にミスや遅延につながることがあります。
抽象的な指示や暗黙のルールへの対応も困難です。
「適当にやっておいて」「臨機応変に対応して」といった曖昧な指示では、具体的に何をすればいいのか分からず、立ち止まってしまうことがあります。
職場のコミュニケーションでも、空気を読む、冗談を理解する、社内政治を読み取るといった非言語的な能力が求められる場面で苦労します。
これらの困難が積み重なることで、自己肯定感が低下し、職場での孤立感や疎外感を強く感じてしまう方が多いのです。
二次障害としてうつ病や適応障害を発症し、最終的に離職に至るケースも珍しくありません。
一般雇用で頑張り続けることに限界を感じている方は、別の選択肢を検討する価値があります。
境界知能の方が利用できる支援制度
境界知能の方が利用できる支援制度は、限られているものの存在しています。
まず、就労移行支援事業所は、障害者手帳がなくても主治医の診断書などで利用できる場合があります。
利用の可否は事業所や自治体の判断によりますが、相談する価値は十分にあります。
就労移行支援では、自己理解の深化、ビジネススキルの習得、職場実習、就職活動のサポートを受けられます。
境界知能の特性を理解したスタッフから、自分のペースで支援を受けられる環境は、心強い支えとなります。
地域障害者職業センターでも、手帳の有無にかかわらず相談できる場合があります。
職業評価を受けることで、自分の適性や強み、苦手なことを客観的に把握できる機会となります。
ハローワークの専門援助窓口も、境界知能の方が相談できる場所の一つです。
求人紹介や就労相談を通じて、自分に合った働き方を一緒に考えてもらえます。
精神保健福祉センターや発達障害者支援センターでは、境界知能の特性に関連する相談を受け付けています。
二次障害として精神疾患を抱えている場合は、これらのセンターが総合的な支援拠点となります。
生活困窮者自立支援制度も、境界知能の方にとって有用な制度です。
経済的な困難を抱えている場合、自立相談支援事業や就労準備支援事業を通じて、就労に向けた段階的な支援を受けられます。
困ったときに利用できる窓口を複数知っておくことが、孤立を防ぎ、適切な支援につながる第一歩となります。
境界知能の特性に合った仕事の選び方
境界知能の方が長く働き続けるためには、特性に合った仕事を選ぶことが重要です。
ルーティンワークや定型業務は、境界知能の方にとって取り組みやすい場合が多くあります。
一度手順を覚えてしまえば、同じ作業を繰り返すことで安定したパフォーマンスを発揮できます。
製造業の組み立てや梱包、清掃業務、データ入力、倉庫内作業、軽作業などは、ルーティン性が高く、境界知能の方の強みを活かしやすい職種といえます。
逆に、臨機応変な判断、複雑な計算、抽象的な思考、対人交渉が頻繁に求められる仕事は、ストレスを感じやすい傾向があります。
接客業の中でも、決まった手順で対応できる業務は適性がある場合がありますが、クレーム対応や複雑な状況判断が求められる業務は難しい場合があります。
職場環境も重要なポイントです。
業務マニュアルが整備されている職場、口頭だけでなく文書や図解で指示してくれる職場、丁寧に教えてくれる教育体制がある職場が望ましい環境となります。
職場の人間関係も働きやすさに大きく影響します。
理解のある上司や同僚に恵まれた職場では、安心して業務に取り組むことができます。
面接時に職場見学を申し出たり、実習の機会を活用したりすることで、入社前に職場の雰囲気を把握する努力が大切です。
短時間勤務やパート、アルバイトから始めて、徐々に業務量を増やしていく働き方も有効な選択肢です。
無理のないペースで自信をつけながら、長期的なキャリアを築いていくことが、境界知能の方にとっては理想的な道筋となります。
就労継続支援B型という選択肢
一般就労が難しい場合、就労継続支援B型という選択肢もあります。
就労継続支援B型は、雇用契約を結ばずに、自分のペースで働きながら工賃を受け取る仕組みです。
利用には障害者手帳が必要となる場合が多いものの、自治体によっては医師の意見書などで利用できる場合もあります。
精神疾患を併発している方は、精神障害者保健福祉手帳を取得することでB型事業所の利用が可能となります。
B型事業所では、軽作業、内職、農作業、清掃、調理、手芸など、さまざまな作業を提供しています。
自分の体調や能力に応じて、無理のない範囲で働ける環境が整っており、職員のサポートも手厚いのが特徴です。
工賃は一般就労に比べると低く、月額平均で1万5千円から2万円程度ですが、生活保護や障害年金と組み合わせることで生活を維持している方も多くいらっしゃいます。
B型での就労を続けながら、徐々に一般就労を目指すというステップアップも可能です。
就労継続支援A型は、雇用契約を結んで最低賃金以上の給与を得られる仕組みで、B型より就労に近い形態となります。
A型を経て一般就労に進む方もいれば、B型で安定して働き続ける方もおり、自分のペースに合った場所を選べる柔軟性があります。
就労継続支援は単なる就労の場ではなく、社会参加の場、人とつながる場、生活リズムを整える場としても機能しています。
無理に一般就労を目指す前に、B型から始めて自分のペースを確立することも、立派な働き方の選択です。
まとめ
境界知能の方は、知的障害には該当しないものの、社会生活の中で実質的な困難を抱えており、制度の谷間に置かれやすい立場にあります。
障害者雇用枠で働くためには障害者手帳が必要ですが、療育手帳の取得は難しく、精神障害者保健福祉手帳の取得には併存する精神疾患の存在が前提となることが多いのが現実です。
一般雇用で働く場合は、業務の習得スピード、複雑な指示への対応、対人コミュニケーションなど、さまざまな困難に直面することがあります。
無理を重ねることで二次障害としてうつ病や適応障害を発症するリスクもあり、自分に合った働き方を選ぶことが何よりも大切です。
就労移行支援、地域障害者職業センター、ハローワーク、精神保健福祉センター、発達障害者支援センターなど、利用できる支援機関は複数存在します。
境界知能の特性に合った仕事として、ルーティン性の高い業務、マニュアルが整備された職場、丁寧な教育体制がある職場が選択肢となります。
短時間勤務やパートから始めて徐々に業務量を増やす方法、就労継続支援B型を活用する方法など、自分のペースに合った道を選べる柔軟性を持つことも重要です。
境界知能であることは弱さではなく、自分の特性として受け入れ、その特性に合った環境を選ぶことが、長く働き続けるための鍵となります。
一人で抱え込まず、利用できる制度や支援機関を組み合わせながら、自分に合った道を見つけていきましょう。
働き方は一つではなく、人それぞれに合った形があります。
自分のペースを守りながら、無理のない生活を築いていくことが、健やかな人生につながります。
困ったときは、お住まいの地域の福祉事務所、地域障害者職業センター、就労移行支援事業所などに相談してみてください。
声を上げることで、新しい選択肢や支援との出会いが生まれます。
