1. 吃音は改善できる
吃音(きつおん)は、話すときに音を繰り返したり、伸ばしたり、詰まったりする発話の障害です。「どもり」とも呼ばれます。吃音に悩んでいる方は、「治らないのではないか」「一生このままなのか」と不安を感じているかもしれません。
しかし、吃音は適切な方法で改善できます。完全に消失させることが難しい場合もありますが、症状を軽減し、日常生活でのコミュニケーションをスムーズにすることは十分に可能です。
重要なのは、吃音は「性格の問題」や「緊張しているだけ」ではなく、脳の機能的な要因が関わっている発話の特性だということです。自分を責めたり、無理に治そうと焦ったりするのではなく、適切なアプローチで向き合うことが改善への道です。
2. 吃音とは
吃音の基本的な理解から始めましょう。
吃音の定義
吃音とは、話すときの流暢性(なめらかさ)が損なわれる状態です。自分が言いたいことはわかっているのに、言葉がスムーズに出てこない、という特徴があります。
吃音の種類
吃音には、主に3つのタイプがあります。
連発(れんぱつ) 音や音節を繰り返す。「か、か、か、カレー」「ぼ、ぼ、ぼくは」など。
伸発(しんぱつ) 音を引き伸ばす。「かーーーレー」「ぼーーーくは」など。
難発(なんぱつ、ブロック) 最初の音が出ない、詰まる。「…(沈黙)…カレー」のように、言葉が出るまで間が空く。
多くの人は、これらが混在しています。また、症状の程度は、状況や体調によって変動します。
中核症状と二次症状
中核症状 上記の連発、伸発、難発といった、吃音そのものの症状です。
二次症状 吃音を隠そうとしたり、避けようとしたりすることで生じる行動です。
- 言い換え 言いにくい言葉を別の言葉に置き換える
- 回避 特定の言葉や場面を避ける
- 随伴症状 言葉を出そうとして、体を動かす、顔をしかめるなどの動作をする
二次症状は、吃音そのものよりも、本人にとって大きな負担になることがあります。
吃音の頻度
世界人口の約1%(日本では約100万人)が吃音を持っていると推定されています。子どもの場合、5〜10%が一時的に吃音を経験しますが、その多くは自然に改善します。
男性は女性の約4倍多いとされています。
3. 吃音の原因
吃音の原因は完全には解明されていませんが、複数の要因が関わっていると考えられています。
遺伝的要因
吃音には遺伝的な要素があり、家族に吃音のある人がいると、発症リスクが高まります。ただし、必ず遺伝するわけではありません。
脳の機能的要因
最近の研究により、吃音のある人は、言語処理や運動制御に関わる脳の領域に、機能的または構造的な違いがあることがわかってきました。
発話の計画や実行に関わる神経回路が、通常とは異なる働きをしていると考えられています。
発達的要因
多くの吃音は、言語発達が急速に進む2〜5歳頃に始まります。言いたいことと、それを表現する言語能力のバランスが一時的に崩れることが、吃音の発症に関係していると考えられています。
心理的要因
吃音そのものの原因は心理的なものではありませんが、不安や緊張、ストレスは症状を悪化させる要因となります。
「うまく話せなかったらどうしよう」という予期不安が、さらに吃音を強めるという悪循環に陥ることがあります。
環境的要因
完璧主義的な環境、早口で話すことを求められる環境、話すことを急かされる環境などは、吃音を悪化させることがあります。
吃音は「性格の問題」ではない
吃音は、内気、神経質、臆病といった性格とは関係ありません。また、「緊張しているだけ」「気の持ちよう」でもありません。脳の機能的な特性によるものです。
4. 子どもの吃音と大人の吃音
吃音は、子どもと大人で特徴や対応が異なります。
子どもの吃音(発達性吃音)
発症時期 多くは2〜5歳頃に始まります。言語発達が急速に進む時期です。
自然回復 子どもの吃音の約70〜80%は、自然に改善します。特に発症後1〜2年以内であれば、回復の可能性が高いです。
早期介入の重要性 早期に適切な対応をすることで、回復の可能性が高まります。様子を見すぎると、吃音が固定化することがあります。
親の対応が重要 子どもの吃音に対する親の反応や接し方が、吃音の経過に大きく影響します。
大人の吃音
慢性化 子どもの頃から続いている吃音が、大人になっても残っている状態です。
改善の可能性 大人の吃音も、適切な訓練や治療により、改善できます。ただし、子どもに比べると、完全に消失させることは難しい場合が多いです。
目標の設定 完全に吃音をなくすことよりも、吃音があっても効果的にコミュニケーションができる、吃音による心理的負担を減らす、といった目標を設定することが現実的です。
5. 吃音の改善方法
吃音の改善には、さまざまなアプローチがあります。
言語聴覚療法(ST)
言語聴覚士(Speech Therapist)による専門的な訓練が、吃音改善の中心となります。
流暢性形成法 スムーズに話すための話し方を学びます。ゆっくり話す、柔らかく話し始める、呼吸をコントロールするなどの技法を練習します。
吃音緩和法 吃音を完全になくすのではなく、楽に吃音が出せるようにする方法です。力を抜いて吃音を出す、吃音をコントロールするなどの技法を学びます。
認知行動療法的アプローチ 吃音に対する不安や回避行動を軽減し、吃音があっても積極的にコミュニケーションできるようにします。
リッカムプログラム(子ども向け)
オーストラリアで開発された、就学前の子ども向けの吃音治療プログラムです。親が子どもとの日常会話の中で、特定の話し方を実践することで、吃音を改善します。日本でも実施している施設があります。
認知行動療法(CBT)
吃音に対する否定的な考え方や、不安、回避行動を見直し、より適応的な対処法を学びます。吃音そのものを直接治すわけではありませんが、心理的負担を軽減し、生活の質を向上させます。
セルフヘルプグループ
吃音のある人同士が集まり、経験を共有したり、励まし合ったりする場です。孤独感が軽減され、吃音への向き合い方を学べます。
全国言友会連絡協議会(言友会)など、日本にもいくつかの団体があります。
電子機器(DAF)
遅延聴覚フィードバック(DAF Delayed Auditory Feedback)という装置を使い、自分の声を少し遅れて聞くことで、吃音を軽減する方法です。効果は個人差がありますが、一部の人には有効です。
薬物療法
現在、吃音を根本的に治す薬はありません。ただし、不安が強い場合に抗不安薬が使われることがあります。
6. 日常生活でできる改善のためのトレーニング
自宅でできる、吃音改善のための方法を紹介します。
ゆっくり話す練習
急いで話そうとすると、吃音が出やすくなります。意識的にゆっくり話す練習をしましょう。
- 一語一語をはっきりと発音する
- 文と文の間に間を置く
- 焦らず、自分のペースで話す
柔らかく話し始める
最初の音を強く出すと、吃音が出やすくなります。柔らかく、優しく話し始める練習をします。
「あ」と言う練習をするとき、力を入れずに、息を流すようにして発音します。
腹式呼吸の練習
緊張すると、呼吸が浅くなり、吃音が出やすくなります。腹式呼吸を身につけることで、リラックスして話せるようになります。
- 仰向けに寝るか、椅子に座る
- お腹に手を当てる
- 鼻からゆっくり息を吸い、お腹を膨らませる
- 口からゆっくり息を吐き、お腹をへこませる
- これを繰り返す
音読の練習
一人で音読する練習は、話す練習として有効です。
- ゆっくりと、焦らずに読む
- 詰まったら、そこで止まっても構わない
- 完璧を目指さず、練習として楽しむ
独り言の練習
一人でいるときに、独り言を言う練習も効果的です。人前で話すよりもリラックスして話せるため、流暢に話す感覚をつかめます。
リラクゼーション
緊張を和らげることで、吃音が出にくくなります。
- 深呼吸
- 筋弛緩法(体の各部を緊張させてから力を抜く)
- 瞑想、マインドフルネス
録音して聞く
自分の話し方を録音して聞くことで、客観的に評価できます。吃音が出ている部分、流暢に話せている部分を確認し、改善のヒントにします。
焦らず、継続する
吃音の改善には時間がかかります。すぐに効果が出なくても、焦らず、継続することが大切です。
7. 吃音との向き合い方
吃音を完全になくすことが難しい場合でも、上手に付き合っていく方法があります。
吃音を受け入れる
「吃音があってはいけない」と思うと、かえって症状が強まります。「吃音は自分の一部」と受け入れることで、心理的負担が軽減されます。
隠そうとしない
吃音を隠そうとすると、言い換えや回避といった二次症状が増え、かえってコミュニケーションが困難になります。
吃音があることをオープンにし、必要に応じて相手に伝えることで、楽になることがあります。
コミュニケーションの目的を意識する
完璧に話すことではなく、相手に自分の考えや気持ちを伝えることが、コミュニケーションの目的です。吃音があっても、伝えたいことが伝われば、コミュニケーションは成功です。
自己肯定感を高める
吃音があることで、自己肯定感が低くなることがあります。吃音以外の自分の良いところ、得意なことに目を向け、自分を肯定しましょう。
支援を求める
一人で悩まず、言語聴覚士、カウンセラー、セルフヘルプグループなどの支援を求めましょう。
吃音があっても活躍している人は多い
歴史上の有名人や、現代の著名人の中にも、吃音がある(あった)人は多くいます。吃音があっても、自分らしく生きることは十分に可能です。
8. 子どもの吃音への対応(親・教師向け)
子どもが吃音を持っている場合、周囲の大人の対応が非常に重要です。
してはいけないこと
「ゆっくり話しなさい」「落ち着いて」と言う 子どもは自分でコントロールできないため、プレッシャーになります。
話を遮る、代わりに言う 子どもが言い終わるのを待たずに、親が代わりに言ってしまうと、子どもは傷つきます。
「ちゃんと話して」と注意する 吃音は本人の努力不足ではないため、注意しても改善しません。かえって悪化します。
吃音を指摘する、からかう 「また詰まったね」「どもってるよ」といった指摘は、子どもを傷つけます。
話すことを避けさせる 「発表はしなくていいよ」と過度に配慮すると、子どもは話すことへの自信を失います。
するべきこと
最後まで聞く 子どもが話し終わるまで、辛抱強く聞きます。途中で口を挟まず、焦らせません。
ゆっくりとした話し方をモデルにする 親自身がゆっくり、穏やかに話すことで、子どもも真似をします。
内容に注目する 「どう話したか」ではなく、「何を話したか」に注目し、反応します。
リラックスした雰囲気を作る 家庭内で、リラックスして話せる雰囲気を作ります。話すことを急かさない、順番を待つなど。
吃音について話す 子どもが吃音を気にしている場合、無視するのではなく、「時々言葉が詰まることがあるね。大丈夫だよ」と受け止めます。
専門家に相談する 吃音が3ヶ月以上続く、本人が気にしている、悪化しているといった場合は、言語聴覚士に相談しましょう。
学校での配慮
理解を示す 教師が吃音について理解し、適切に対応することが重要です。
発表の機会を奪わない 過度に配慮して発表をさせないのではなく、本人と相談しながら、発表の機会を提供します。
いじめを防ぐ クラスメイトに吃音について理解を促し、からかいやいじめを防ぎます。
時間的配慮 音読などで、時間制限を設けない、順番を柔軟にするなどの配慮をします。
9. 吃音に関する誤解
吃音については、多くの誤解があります。
誤解1 「緊張しているだけ」
緊張は吃音を悪化させる要因ですが、吃音の原因ではありません。リラックスしていても吃音は出ます。
誤解2 「性格の問題」
吃音と性格は関係ありません。内向的な人も外向的な人も、吃音になります。
誤解3 「気の持ちようで治る」
吃音は脳の機能的な特性によるもので、気持ちだけでは治りません。
誤解4 「親の育て方が悪い」
吃音は親の育て方が原因ではありません。ただし、親の対応が、吃音の経過に影響を与えることはあります。
誤解5 「知能が低い」
吃音と知能は関係ありません。吃音のある人の知能は、一般の人と変わりません。
誤解6 「左利きを右利きに直したから」
昔は、左利きを右利きに矯正したことが吃音の原因とされましたが、科学的根拠はありません。
誤解7 「大人になったら自然に治る」
子どもの吃音は自然に治ることが多いですが、大人まで続いた吃音は、自然には治りにくいです。ただし、適切な訓練により改善できます。
10. よくある質問(FAQ)
Q 吃音は完全に治りますか?
A 子どもの吃音の約70〜80%は自然に治ります。大人の吃音は、完全に消失させることが難しい場合もありますが、症状を軽減し、日常生活でのコミュニケーションを改善することは十分に可能です。
Q 何科を受診すればいいですか?
A 耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、または吃音を専門とするクリニックを受診します。言語聴覚士がいる施設での訓練が効果的です。
Q 訓練にはどれくらいの期間がかかりますか?
A 個人差がありますが、数ヶ月から数年かかることがあります。継続的な訓練が重要です。
Q 子どもの吃音は様子を見ていいですか?
A 発症後3ヶ月以上続く、本人が気にしている、悪化しているといった場合は、早めに言語聴覚士に相談することをお勧めします。早期介入が効果的です。
Q 吃音があると就職や結婚に不利ですか?
A 吃音があっても、多くの人が就職し、結婚しています。吃音があることをオープンにし、適切にコミュニケーションをとることで、不利になることは減らせます。職種によっては、配慮を求めることもできます。
Q 吃音は障害ですか?
A 吃音は、発達障害の一つである「コミュニケーション障害」に分類されます。症状が重い場合、精神障害者保健福祉手帳を取得できることがあります。
Q 吃音のある有名人はいますか?
A 歴史上の人物では、モーゼ、アリストテレス、チャーチル、エジソンなどが吃音があったとされています。現代でも、俳優、歌手、政治家など、さまざまな分野で活躍している人がいます。
Q 歌うときは吃音が出ないのはなぜですか?
A 歌うときは、話すときとは異なる脳の回路が使われるためと考えられています。多くの吃音のある人が、歌うときは流暢に発声できます。
まとめ
吃音は改善できます。完全に消失させることが難しい場合でも、症状を軽減し、吃音があっても自分らしくコミュニケーションできるようになることは十分に可能です。一人で悩まず、言語聴覚士や専門家のサポートを受けながら、焦らず取り組んでいきましょう。吃音があっても、あなたの価値は変わりません。自分らしく、堂々と生きていきましょう。

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