はじめに
「仕事中に突然動悸がする」「息が苦しくなって仕事ができない」「胸が締め付けられる感じがする」こんな症状に悩まされていませんか。仕事中の動悸や息苦しさは、単なる疲れではなく、心身が発している重要な警告サインです。
仕事中の動悸・息苦しさは、放置すると危険です。それはストレス、過労、不安障害、パニック障害、または心臓疾患など、様々な原因で起こります。早期に原因を特定し、適切に対処することが、健康を守り、仕事を続けるために非常に重要です。
本記事では、仕事中に動悸・息苦しさが起こる原因、緊急時の対処法、医療機関を受診すべきタイミング、予防策、そしてよくある質問まで、詳しく解説します。
仕事中の動悸・息苦しさとは
動悸(どうき)
定義 心臓の鼓動を不快に感じる症状
感じ方
- ドキドキする
- バクバクする
- 脈が速い
- 脈が飛ぶ
- 胸がドンと鳴る
- 心臓が口から飛び出しそう
息苦しさ(呼吸困難)
定義 呼吸が十分にできない、空気が足りない感じ
感じ方
- 息が吸えない
- 胸が苦しい
- 空気が薄い感じ
- 窒息しそう
- 深呼吸ができない
- 過呼吸になる
よくある状況
いつ起こるか
- 会議の前・最中
- プレゼンテーションの前
- 上司と話す時
- 締め切り前
- 忙しい時
- 朝、出勤前・出勤時
- デスクで作業中(突然)
- 特定の場所(会議室、職場など)
仕事中の動悸・息苦しさの主な原因
1. ストレス・不安
最も多い原因
メカニズム
- ストレス・不安 → 自律神経の乱れ
- 交感神経が優位 → 心拍数上昇、呼吸が速くなる
- 動悸、息苦しさを感じる
ストレスの種類
- 仕事の量が多すぎる
- 締め切りのプレッシャー
- 責任が重い
- 人間関係のストレス
- パワハラ、いじめ
- 評価への不安
- 失敗への恐れ
特徴
- 特定の状況で起こる
- ストレスから離れると治まる
- 休日は症状がない
2. パニック障害
症状 突然の強い不安と身体症状の発作
パニック発作の症状
- 動悸、心拍数の増加
- 発汗
- 震え
- 息切れ、窒息感
- 胸の不快感、痛み
- 吐き気
- めまい、ふらつき
- 現実感の喪失
- 自分をコントロールできない感じ
- 死ぬのではないかという恐怖
特徴
- 突然始まる(10分以内にピーク)
- 10〜30分程度で治まる
- 「また起こるのでは」という予期不安
- 特定の場所を避けるようになる(広場恐怖)
悪循環 発作 → 予期不安 → 緊張 → また発作
3. 不安障害(全般性不安障害など)
症状 慢性的な不安と心配
身体症状
- 動悸
- 息苦しさ
- 筋肉の緊張
- 疲労
- 集中困難
- 不眠
特徴
- 常に何かを心配している
- 「もしも〜だったら」と考え続ける
- リラックスできない
4. 過呼吸(過換気症候群)
メカニズム
- 不安・緊張 → 呼吸が速く浅くなる
- 血中の二酸化炭素が減る
- 息苦しさ、しびれ、めまいなど
症状
- 息苦しい(でも実際は呼吸しすぎ)
- 手足のしびれ
- めまい
- 胸の痛み
- 動悸
悪循環 息苦しい → さらに呼吸が速くなる → 症状悪化
5. 自律神経失調症
原因 ストレス、過労、不規則な生活などで自律神経のバランスが崩れる
症状
- 動悸
- 息苦しさ
- めまい
- 頭痛
- 胃腸の不調
- 不眠
- 疲労感
特徴 様々な症状が出るが、検査では異常が見つからない
6. うつ病
身体症状 うつ病でも身体症状が現れます
症状
- 動悸
- 息苦しさ
- 胸の圧迫感
- 疲労感
- 不眠
- 食欲不振
精神症状
- 気分の落ち込み
- 意欲の低下
- 楽しいと感じない
- 集中困難
7. 心臓疾患
注意が必要
可能性のある疾患
- 不整脈(期外収縮、頻脈など)
- 狭心症
- 心筋梗塞
- 心臓弁膜症
- 心不全
特徴
- 運動時・労作時に悪化
- 胸痛を伴う
- 安静にしても治まらない
- 冷や汗、吐き気を伴う
危険なサイン
- 激しい胸痛
- 左肩・腕への放散痛
- 冷や汗
- 意識が遠のく
- 顔面蒼白
→ すぐに救急車を呼ぶ
8. 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)
メカニズム 甲状腺ホルモンが過剰に分泌される
症状
- 動悸
- 頻脈
- 息切れ
- 発汗
- 手の震え
- 体重減少
- イライラ
- 眼球突出(バセドウ病)
特徴 安静時でも心拍数が速い(100回/分以上)
9. 貧血
原因 鉄分不足など
症状
- 動悸
- 息切れ
- めまい
- 立ちくらみ
- 疲労感
- 顔色が悪い
特徴 階段の上り下りなど、軽い運動で症状が出る
10. カフェインの過剰摂取
原因 コーヒー、エナジードリンクの飲みすぎ
症状
- 動悸
- 不安
- 手の震え
- 不眠
特徴 カフェイン摂取後に症状が出る
11. 薬の副作用
原因となる薬
- 気管支拡張薬
- 甲状腺ホルモン薬
- 一部の抗うつ薬
- 風邪薬(一部)
特徴 薬を飲み始めてから症状が出た
12. 更年期障害
対象 40代〜50代の女性(男性にもあり)
症状
- 動悸
- ほてり、発汗
- イライラ
- 不安
- 不眠
原因 ホルモンバランスの変化
危険度チェック すぐに受診すべきサイン
すぐに救急車を呼ぶべき症状
以下の症状がある場合、すぐに119番
- 激しい胸痛
- 締め付けられる、押しつぶされる
- 15分以上続く
- 胸痛が広がる
- 左肩、左腕、顎、背中へ
- 冷や汗
- 大量の汗
- 呼吸困難
- 全く息ができない
- チアノーゼ(唇や爪が青紫色)
- 意識障害
- 意識が遠のく
- 失神
- その他
- 激しい吐き気、嘔吐
- 顔面蒼白
心筋梗塞の可能性 時間との勝負。躊躇せず救急車を!
当日中に医療機関を受診すべき症状
以下の症状がある場合、当日中に受診
- 胸痛が続く
- 軽度でも続く
- 動悸が治まらない
- 数時間続く
- 息苦しさが続く
- 安静にしても改善しない
- 初めての激しい症状
- 今までにない強さ
- 頻繁に起こる
- 1日に何度も
早めに受診した方がいい症状
以下の症状が続く場合、数日以内に受診
- 週に何度も起こる
- 仕事に支障が出る
- 不安が強い
- 眠れない
- 症状が悪化している
仕事中に動悸・息苦しさが起きた時の対処法
1. 安全な場所に移動する
方法
- すぐに作業を中断
- 座る、または横になる
- トイレ、休憩室など静かな場所へ
理由
- 転倒防止
- 落ち着ける
2. 深呼吸をする
方法(腹式呼吸)
- 鼻からゆっくり4秒かけて息を吸う
- 2秒止める
- 口からゆっくり8秒かけて息を吐く
- これを5〜10回繰り返す
ポイント
- 吐く方を長く
- お腹を意識する
- ゆっくり、深く
効果
- 副交感神経が活性化
- リラックス
- 過呼吸の予防・改善
3. 過呼吸の場合 紙袋法(ペーパーバッグ法)
注意 現在は推奨されていません
代わりに
- 深呼吸をゆっくり
- 吐く方を意識
理由 紙袋法は酸素不足のリスクがあります
4. 衣服を緩める
方法
- ネクタイを緩める
- ベルトを緩める
- 襟元のボタンを外す
効果 呼吸がしやすくなる
5. 冷たい水を飲む
方法 ゆっくり、少しずつ飲む
効果
- 気分転換
- 落ち着く
6. 「大丈夫」と自分に言い聞かせる
方法
- 「これは発作だ。命の危険はない」
- 「すぐに治まる」
- 「大丈夫」
効果 パニックの悪循環を断ち切る
7. 今この瞬間に集中する
マインドフルネス
- 呼吸に意識を向ける
- 周りの音を聞く
- 足が床についている感覚に注意を向ける
効果 不安から意識をそらす
8. 誰かに伝える
方法
- 上司、同僚に「体調が悪い」と伝える
- 一人にならない
理由
- 安心感
- 万が一の時の対応
9. 無理をしない
重要 症状が治まっても、無理をしない
方法
- しばらく休む
- 早退を検討
- その日は無理をしない
10. 記録する
記録内容
- 日時
- 状況(何をしていたか)
- 症状
- 持続時間
- きっかけ(思い当たること)
目的
- パターンを見つける
- 医師への説明
医療機関の受診
何科を受診すべきか
迷った場合 まず内科または循環器内科
フローチャート
- 初めての症状、または心臓が心配 → 内科・循環器内科
- 心臓の検査で異常なし、ストレスや不安が強い → 心療内科・精神科
- パニック発作と思われる → 心療内科・精神科
- 動悸+体重減少、発汗、手の震え → 内科・内分泌内科
内科・循環器内科で受ける検査
主な検査
- 問診
- 症状の詳細
- 既往歴
- 家族歴
- 生活習慣
- 身体診察
- 聴診、触診
- 血圧測定
- 心電図
- 不整脈、心筋梗塞などを調べる
- 胸部X線
- 心臓の大きさ、肺の状態
- 血液検査
- 貧血、甲状腺機能、電解質など
- ホルター心電図(24時間心電図)
- 1日中心電図を記録
- 発作時の心電図を捉える
- 心エコー
- 心臓の構造、動きを見る
- 運動負荷試験
- 運動時の心臓の反応を見る
結果
- 異常なし → 心療内科・精神科へ
- 異常あり → 治療
心療内科・精神科での診察
診察内容
- 問診
- 症状の詳細
- ストレスの有無
- 生活状況
- 精神症状(不安、抑うつなど)
- 診断
- パニック障害
- 不安障害
- うつ病
- 適応障害
- 自律神経失調症
- 治療
- 薬物療法
- 心理療法(認知行動療法など)
- 生活指導
薬物療法
主な薬
抗不安薬
- 即効性あり
- 頓服として使用
- 依存のリスク(短期間の使用が原則)
抗うつ薬(SSRI、SNRIなど)
- パニック障害、不安障害の第一選択
- 効果が出るまで2〜4週間
- 長期服用が可能
β遮断薬
- 動悸を抑える
- 心拍数を下げる
漢方薬
- 半夏厚朴湯、柴胡加竜骨牡蛎湯など
- 副作用が少ない
注意
- 自己判断で中止しない
- 副作用があれば医師に相談
心理療法
認知行動療法(CBT)
- 不安やパニックに対する考え方を修正
- 対処法を学ぶ
曝露療法
- 段階的に不安場面に慣れる
リラクゼーション訓練
- 自律訓練法
- 漸進的筋弛緩法
職場でできる予防策
1. ストレス管理
方法
- 業務量の調整を上司に相談
- 優先順位をつける
- 完璧を求めない
- 断る勇気を持つ
2. 定期的な休憩
方法
- 1時間に1回、5分休憩
- 席を立つ
- ストレッチ
- 深呼吸
3. 呼吸法の習慣化
方法 1日数回、深呼吸の時間を作る
タイミング
- 朝、仕事開始前
- 昼休み
- 午後の休憩
効果
- リラックス
- 自律神経のバランス
- 予防
4. カフェインを控える
方法
- コーヒーは1日2杯まで
- エナジードリンクを避ける
- カフェインレスに切り替え
5. 十分な睡眠
目標 7〜8時間
方法
- 規則正しい就寝・起床時間
- 寝る前のリラックス
- スマホを見ない
6. 規則正しい食事
方法
- 朝食を抜かない
- バランスの良い食事
- 暴飲暴食を避ける
7. 適度な運動
方法
- 散歩、ヨガ、ストレッチ
- 週3〜4回、30分程度
効果
- ストレス発散
- 自律神経のバランス
- 体力向上
8. リラックスの時間
方法
- 趣味の時間
- 好きな音楽を聴く
- 入浴
- マッサージ
9. 環境調整
職場
- デスクの配置
- 照明の調整
- 温度管理
相談 産業医、人事に環境調整を依頼
10. 認知行動療法的アプローチ
不安な考えに気づく
- 「失敗したらどうしよう」
- 「また発作が起きる」
現実的に考え直す
- 「失敗しても命を取られるわけじゃない」
- 「発作は必ず治まる。命の危険はない」
休職・退職の判断
休職を検討すべき状況
以下に当てはまる場合
- 症状が頻繁(週に何度も)
- 仕事が手につかない
- 欠勤が増えている
- 治療しても改善しない
- 医師が休職を勧める
手続き
- 医師の診断書
- 会社に提出
- 傷病手当金の申請
退職を検討すべき状況
以下に当てはまる場合
- 職場環境が原因(パワハラなど)
- 会社が改善しない
- 休職しても復職できない
- 健康を害し続けている
準備
- 経済的準備
- 退職後の計画
- 失業給付の確認
よくある質問(FAQ)
Q1 動悸と息苦しさは心臓の病気ですか?
A 必ずしもそうではありません。ストレスや不安でも起こります。ただし、心臓疾患の可能性もあるので、まず内科を受診してください。
Q2 パニック発作は命に関わりますか?
A いいえ。パニック発作自体は命の危険はありません。ただし、非常に苦しいので、治療が必要です。
Q3 薬を飲まないと治りませんか?
A 軽度なら、ストレス管理や呼吸法で改善することもあります。ただし、パニック障害などは薬物療法が効果的です。
Q4 一生薬を飲み続けるのですか?
A いいえ。多くの場合、数か月〜2年程度で減薬・中止できます。
Q5 仕事を辞めるべきですか?
A まずは治療を受け、休職を検討してください。それでも改善しない場合、退職も選択肢です。
Q6 同僚に知られたくありません。
A 医師には守秘義務があります。会社には「体調不良」とだけ伝えれば十分です。
Q7 過呼吸になったらどうすればいいですか?
A ゆっくり深呼吸してください。紙袋法は推奨されていません。
Q8 予防法はありますか?
A ストレス管理、十分な睡眠、規則正しい生活、呼吸法の習慣化が有効です。
Q9 心電図が正常でも心臓病の可能性はありますか?
A 安静時の心電図が正常でも、運動負荷試験やホルター心電図で異常が見つかることがあります。症状が続く場合は再受診してください。
Q10 会議の前に必ず起こります。どうすればいいですか?
A 予期不安です。認知行動療法が効果的です。また、会議前に深呼吸、医師に相談して頓服薬も検討してください。
まとめ 早めの対処が重要
仕事中の動悸・息苦しさは、心身からの重要な警告サインです。
覚えておいてほしいこと
- 放置しない
- 早めに受診
- まず内科で心臓をチェック
- 異常なしなら心療内科へ
- ストレスが主な原因
- 多くはストレス関連
- 治療すれば改善する
- パニック障害も治ります
- 発作中の対処法を知る
- 深呼吸、安全な場所へ
- 予防が大切
- ストレス管理、生活習慣
- 無理をしない
- 休職・退職も選択肢
- 一人で抱え込まない
- 医師、家族に相談
今すぐできること
- 深呼吸を習慣にする
- カフェインを減らす
- 睡眠時間を確保する
- 医療機関を予約する
- 症状を記録する
危険なサインを見逃さない
- 激しい胸痛
- 冷や汗
- 意識が遠のく
→ すぐに救急車
最後に
あなたが仕事中の動悸や息苦しさに苦しんでいるなら、それは「助けが必要だ」というサインです。
我慢しないでください。無理をしないでください。
適切な治療を受ければ、必ず改善します。多くの人が回復し、また普通に仕事をしています。
一人で戦わないでください。医師、カウンセラー、そして信頼できる人たちに助けを求めてください。
あなたの健康が何より大切です。仕事よりも、あなたの命、あなたの心身の健康が優先されるべきです。
あなたが症状から解放され、安心して働ける日が来ることを、心から願っています。
あなたには、健康に生きる権利があります。助けを求めてください。

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