はじめに 行政手続きに不安を感じている方へ
「障害者手帳を取りたいけど、手続きが難しそう」「福祉サービスを利用したいけど、何から始めればいいかわからない」「役所の説明が専門用語ばかりで理解できない」障害のある方やそのご家族が、福祉サービスや支援制度を利用しようとするとき、最初の壁となるのが「行政手続き」です。申請書、診断書、審査、認定、支給決定など、聞き慣れない言葉が並び、手続きの複雑さに圧倒されてしまう方は少なくありません。
しかし、行政手続きは、決して理解できないほど難しいものではありません。確かに、書類が多く、手順が複雑に見えますが、一つひとつのステップを順番に進めていけば、必ず完了できます。また、わからないことがあれば、市区町村の窓口職員、相談支援専門員、ソーシャルワーカーなど、専門家がサポートしてくれます。一人で悩む必要はありません。
重要なのは、「全体の流れを理解すること」と「わからないことは遠慮せずに聞くこと」です。行政手続きには、必ず理由があり、ルールがあります。それを理解すれば、「なぜこの書類が必要なのか」「なぜこの手順を踏むのか」が見えてきます。また、手続きは「支援を受けるための手段」であり、「目的」ではありません。手続きの先には、あなたの生活を支える様々なサービスや支援が待っています。
本記事では、障害者の行政手続きについて、初めての方でも理解できるよう、できる限りわかりやすく解説します。障害者手帳の取得、障害福祉サービスの利用、医療費助成、手当の申請、年金の申請など、主要な手続きの流れ、必要書類、注意点、よくある質問まで、実践的な情報を提供します。この記事を読むことで、行政手続きへの不安が少しでも軽くなり、必要な支援を受けられるよう、心から願っています。
障害者行政手続きの基本
まず、障害者の行政手続き全般に共通する基本を理解しましょう。
行政手続きの基本原則
1. 申請主義
自分から申請しないと、支援は受けられない
意味
- 役所は、あなたが困っていることを自動的には把握できない
- 支援を受けたい場合は、自分から申請する必要がある
重要
待っていても、誰も助けてくれません。自分から動くことが必要です。
2. 書面主義
多くの手続きで、書類の提出が必要
理由
- 公平性 口頭だけでは記録が残らない
- 正確性 書面で確認することで間違いを防ぐ
- 法的根拠 後で確認できるように
現実
最近は、一部の手続きでオンライン申請も可能になってきています
3. 審査・認定のプロセス
すぐには決定しない。審査期間がある
流れ
申請 → 審査 → 認定・決定 → 通知
期間
手続きによって異なる(数週間〜数ヶ月)
4. わからないことは聞いてOK
窓口職員に質問する権利がある
遠慮しない
- 窓口職員は、あなたをサポートするのが仕事
- わからないことは、何度でも聞いてOK
- 「こんなこと聞いていいのかな」と思わず、聞く
手続きに共通する必要書類
ほぼすべての手続きで必要
- 本人確認書類 運転免許証、マイナンバーカード、健康保険証など
- 印鑑 認印でOK(シャチハタ不可の場合が多い)
多くの手続きで必要
- マイナンバー(個人番号) マイナンバーカード、または通知カード
- 銀行口座情報 通帳のコピー(手当や年金の振込先)
手続きによって必要
- 診断書 医師が作成(有料)
- 障害者手帳のコピー
- 所得証明書 市区町村で取得(所得制限がある手当などで必要)
- 世帯全員の住民票
手続きの窓口
基本は市区町村
ほとんどの手続きは、住んでいる市区町村の役所で行う
窓口の名称(自治体により異なる)
- 障害福祉課
- 福祉事務所
- 障害者支援課
- 福祉課
- など
探し方
「〇〇市 障害福祉課」で検索、または市区町村の代表電話に電話して聞く
その他の窓口
- 年金事務所 障害年金
- ハローワーク 就労支援
- 都道府県の窓口 一部の手帳の判定など
手続きの流れ(共通パターン)
ステップ1 相談
窓口で「〇〇を利用したい」と相談
ステップ2 申請書類の入手
窓口で申請書類をもらう(または自治体のウェブサイトからダウンロード)
ステップ3 必要書類の準備
- 診断書を医師に書いてもらう
- その他の書類を集める
ステップ4 申請
窓口に書類を提出
ステップ5 審査
市区町村、または都道府県が審査
ステップ6 決定・通知
認定・決定されたら、通知が届く
ステップ7 サービス利用開始、または手当受給開始
主要な行政手続き
障害者が利用する主要な行政手続きを、わかりやすく解説します。
1. 障害者手帳の取得
最も基本的な手続き
多くの支援を受けるには、障害者手帳が必要です。
手帳の種類
身体障害者手帳
- 対象 身体に永続する障害がある方
- 等級 1級(最重度)〜6級(軽度)
- 窓口 市区町村の障害福祉課
療育手帳(知的障害)
- 対象 知的障害がある方
- 名称 自治体により異なる(東京都では「愛の手帳」)
- 窓口 市区町村の障害福祉課
精神障害者保健福祉手帳
- 対象 精神疾患により長期的に日常生活・社会生活に制約がある方
- 等級 1級(重度)、2級(中等度)、3級(軽度)
- 窓口 市区町村の障害福祉課
手続きの流れ(身体障害者手帳の例)
ステップ1 市区町村の窓口で相談
「身体障害者手帳を取りたい」と相談
ステップ2 申請書類をもらう
- 申請書
- 診断書の様式
ステップ3 指定医師の診断を受ける
- 指定医師(都道府県が指定)に診断書を書いてもらう
- 費用 病院により異なる(数千円〜1万円程度)
- 指定医師のリスト 市区町村の窓口、または都道府県のウェブサイトで確認
ステップ4 写真を準備
- 縦4cm × 横3cm
- 上半身、無帽、背景なし
- 1年以内に撮影
ステップ5 申請書類を提出
- 申請書
- 診断書
- 写真
- 本人確認書類、マイナンバー
ステップ6 審査
- 市区町村 → 都道府県で審査
- 期間 1〜2ヶ月程度
ステップ7 手帳の交付
- 市区町村から通知が届く
- 窓口で手帳を受け取る
精神障害者保健福祉手帳の場合の違い
診断書の条件
初診から6ヶ月経過後
または
障害年金の証書のコピーで申請可能(診断書不要)
有効期限
2年間(更新が必要)
療育手帳の場合の違い
判定
- 18歳未満 児童相談所
- 18歳以上 知的障害者更生相談所(東京都の場合、東京都心身障害者福祉センター)
流れ
市区町村で申請 → 判定の予約 → 判定機関で面接・検査 → 手帳交付
2. 障害福祉サービスの利用
介護、就労支援、生活支援などのサービス
主なサービス
- 居宅介護(ホームヘルプ)
- 生活介護
- 就労移行支援
- 就労継続支援A型・B型
- 共同生活援助(グループホーム)
- 短期入所(ショートステイ)
- など
手続きの流れ
ステップ1 市区町村の障害福祉課で相談
「〇〇のサービスを利用したい」と相談
ステップ2 申請
- 申請書を提出
- サービスの利用を希望する旨を伝える
ステップ3 調査(訪問調査)
- 市区町村の職員が自宅を訪問
- 心身の状況、生活状況などを聞き取り
- 所要時間 1時間程度
ステップ4 障害支援区分の認定(必要な場合)
- 障害支援区分 障害の程度を示す区分(非該当、区分1〜6)
- 調査結果と医師の意見書をもとに、市区町村が認定
- 期間 申請から1ヶ月程度
- 注意 すべてのサービスで必要なわけではない(就労移行支援、就労継続支援B型などは不要)
ステップ5 サービス等利用計画の作成
- 相談支援専門員が、本人の希望や状況をもとに計画を作成
- 相談支援専門員 市区町村が紹介、または自分で探す(相談支援事業所に所属)
- 計画の内容 利用するサービス、目標、週に何回利用するかなど
ステップ6 支給決定
- 市区町村が、サービスの支給を決定
- 受給者証が交付される
ステップ7 事業所と契約
- 利用したい事業所(ホームヘルプ事業所、就労移行支援事業所など)と契約
- 事業所は、自分で選べる
ステップ8 サービス利用開始
利用者負担
原則
1割負担
ただし
所得に応じて月額上限額あり
上限額(2023年現在)
- 生活保護受給世帯 0円
- 市町村民税非課税世帯 0円
- 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満) 9,300円
- 上記以外 37,200円
多くの場合、実質負担は0円
3. 医療費助成
医療費の負担を軽減
重度心身障害者医療費助成制度(マル障)
自治体が実施(内容は自治体により異なる)
対象(東京都の例)
- 身体障害者手帳1級・2級
- 愛の手帳1度・2度
- 精神障害者保健福祉手帳1級
内容
医療費の自己負担分を助成(所得により一部自己負担あり)
手続き
- 市区町村の障害福祉課で申請
- 申請書、手帳のコピー、健康保険証のコピー、所得証明書(必要な場合)を提出
- 認定されたら、医療証(マル障)が交付される
- 医療機関で健康保険証と一緒に提示
自立支援医療(精神通院医療)
精神科の通院医療費を軽減
対象
精神疾患で通院している方(精神障害者保健福祉手帳は不要)
内容
- 医療費の自己負担を1割に軽減
- さらに、所得に応じて月額上限額を設定
手続き
- 市区町村の障害福祉課で申請
- 申請書、診断書(精神科医が作成)、健康保険証のコピー、所得証明書(必要な場合)を提出
- 審査(1〜2ヶ月)
- 認定されたら、受給者証が交付される
- 指定医療機関で受給者証と健康保険証を提示
有効期限
1年間(更新が必要)
自立支援医療(更生医療・育成医療)
身体障害の治療・手術の医療費を軽減
4. 手当の申請
障害のある方への手当
特別障害者手当
国の制度
対象
- 20歳以上
- 著しく重度の障害により、日常生活において常時特別の介護を必要とする方
- 施設入所者、3ヶ月以上入院している方は対象外
金額
月額27,980円(2023年度)
所得制限
あり
手続き
- 市区町村の障害福祉課で申請
- 申請書、診断書(所定の様式)、手帳のコピー、所得証明書、銀行口座情報などを提出
- 審査
- 認定されたら、手当が振り込まれる(年4回)
障害児福祉手当
20歳未満の重度障害児への手当
金額
月額15,220円(2023年度)
心身障害者福祉手当
自治体が実施(内容は自治体により異なる)
例 東京都の場合
月額15,500円
対象
身体障害者手帳1級・2級の一部、愛の手帳1度・2度など
重度障害者手当
東京都特別区など一部の自治体が実施
金額
月額約60,000円(自治体により異なる)
対象
身体障害者手帳1級・2級の重複障害、愛の手帳1度・2度など
5. 障害年金の申請
障害により働けない、または生活が困難な方への年金
種類
障害基礎年金
- 国民年金加入者(または20歳前)が対象
- 金額 1級 月額約81,000円、2級 月額約65,000円(2023年度)
障害厚生年金
- 厚生年金加入者が対象
- 金額 障害基礎年金 + 報酬比例部分(人により異なる)
対象
要件
- 初診日要件 初診日に年金に加入していた(または20歳前)
- 保険料納付要件 一定期間、保険料を納付していた
- 障害状態要件 障害認定日に一定の障害状態にある
手続き
窓口
- 障害基礎年金 市区町村の国民年金課、または年金事務所
- 障害厚生年金 年金事務所
流れ
- 年金事務所で相談(予約推奨)
- 必要書類を確認
- 診断書を医師に書いてもらう(所定の様式、有料)
- その他の書類を準備(年金手帳、戸籍謄本、所得証明書など)
- 年金事務所に申請
- 審査(3〜4ヶ月)
- 決定通知
- 認定されたら、年金が振り込まれる(年6回、偶数月)
注意
障害年金の手続きは複雑なため、社会保険労務士(社労士)に依頼することも可能(有料)
6. その他の手続き
補装具費の支給
- 内容 車椅子、義肢、補聴器などの費用を支給
- 窓口 市区町村の障害福祉課
日常生活用具の給付
- 内容 特殊寝台、入浴補助用具などの費用を給付
- 窓口 市区町村の障害福祉課
都営交通無料乗車券(東京都の例)
- 内容 都営地下鉄、都営バスなどが無料
- 窓口 市区町村の障害福祉課
NHK受信料の減免
- 内容 全額免除または半額
- 手続き 市区町村で証明書をもらい、NHKに提出
手続きのコツと注意点
行政手続きをスムーズに進めるコツと注意点を見ていきましょう。
1. まず相談する
いきなり申請しない
理由
- 自分が対象かわからない
- 必要書類がわからない
- 手続きの流れがわからない
おすすめ
まず市区町村の障害福祉課に電話、または訪問して相談
2. メモを取る
窓口で説明を受けたら、メモを取る
内容
- 必要書類
- 手続きの流れ
- 期間
- 担当者の名前
3. わからないことは何度でも聞く
遠慮しない
聞き方
- 「すみません、〇〇がよくわからないのですが、もう一度説明していただけますか?」
- 「この書類は、どこで入手できますか?」
- 「この欄には、何を書けばいいですか?」
4. 書類のコピーを取る
提出前に、すべての書類のコピーを取る
理由
- 後で確認できる
- 万が一、書類が紛失した場合の証拠になる
5. 診断書は早めに依頼
診断書の作成には時間がかかる
期間
病院により異なるが、1〜4週間程度
注意
予約が必要な場合もある
6. 期限を確認
手続きには期限があるものもある
例
- 精神障害者保健福祉手帳の更新 有効期限の3ヶ月前から申請可能
- 自立支援医療の更新 有効期限の3ヶ月前から申請可能
7. 所得証明書は市区町村で取得
手当などの申請で必要
取得場所
- 現在住んでいる市区町村(今年1月1日時点で住んでいた市区町村)
- 手数料 数百円
8. 家族や支援者に手伝ってもらう
一人で難しい場合は、サポートを求める
サポート
- 家族
- 相談支援専門員
- ソーシャルワーカー
- 障害者相談支援事業所
9. 申請してから決定まで時間がかかる
焦らず待つ
期間の目安
- 障害者手帳 1〜3ヶ月
- 障害福祉サービス 1〜2ヶ月
- 障害年金 3〜4ヶ月
10. 却下されても諦めない
不服申立てができる
方法
- 審査請求
- 再審査請求
相談先
- 市区町村の窓口
- 弁護士
- 社会保険労務士
よくある質問
Q1 手続きは一人でできますか?
A できますが、不安な場合は家族や支援者に手伝ってもらいましょう
市区町村の窓口職員も丁寧に説明してくれます。
Q2 書類の書き方がわかりません
A 窓口で聞いてください
窓口職員が書き方を教えてくれます。書き方の見本がある場合もあります。
Q3 診断書の費用はどれくらいですか?
A 病院により異なりますが、数千円〜1万円程度です
病院に事前に確認してください。
Q4 手続きにどれくらい時間がかかりますか?
A 手続きの種類により異なりますが、1〜4ヶ月程度が一般的です
詳しくは窓口で確認してください。
Q5 申請が却下されたらどうすればいいですか?
A 不服申立て(審査請求)ができます
市区町村の窓口、または弁護士に相談してください。
Q6 手続きに費用はかかりますか?
A 診断書の作成費用以外は、基本的に無料です
一部、所得証明書の取得に数百円かかる場合があります。
Q7 障害者手帳がないと、福祉サービスは利用できませんか?
A 一部のサービスは、手帳がなくても利用できます
詳しくは市区町村の障害福祉課に相談してください。
Q8 引っ越したら、手続きはやり直しですか?
A 転入先の市区町村で、住所変更などの手続きが必要です
手帳や受給者証の住所変更、福祉サービスの再申請などが必要な場合があります。
Q9 オンラインで申請できますか?
A 一部の自治体で可能ですが、多くはまだ窓口での申請が必要です
自治体のウェブサイトで確認してください。
Q10 何から始めればいいかわかりません
A まず市区町村の障害福祉課に電話、または訪問して相談してください
窓口職員が、あなたに必要な手続きを案内してくれます。
まとめ 一歩ずつ進めば必ずできる
障害者の行政手続きは、申請主義(自分から申請する)、書面主義(書類が必要)、審査・認定のプロセス(時間がかかる)という基本原則があります。主要な手続きには、障害者手帳の取得、障害福祉サービスの利用、医療費助成、手当の申請、障害年金の申請などがあり、それぞれ独自の流れと必要書類があります。
手続きをスムーズに進めるコツは、まず市区町村の障害福祉課に相談する、メモを取る、わからないことは何度でも聞く、書類のコピーを取る、診断書は早めに依頼する、期限を確認する、家族や支援者に手伝ってもらう、申請から決定まで時間がかかることを理解する、却下されても不服申立てができることを知る、です。
最も重要なのは、「わからないことは遠慮せずに聞く」ことと、「一人で抱え込まず、サポートを求める」ことです。行政手続きは、あなたが必要な支援を受けるための手段であり、目的ではありません。手続きの先には、あなたの生活を支える様々なサービスや支援が待っています。一歩ずつ進めば、必ず完了できます。勇気を持って、最初の一歩を踏み出してください。市区町村の窓口職員、相談支援専門員、家族、友人など、あなたをサポートしてくれる人たちがいます。一人ではありません。

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