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「親が亡くなった後、この子の財産は誰が管理するのか」「成年後見制度は使いたくない」「もっと柔軟に財産管理ができないか」。障害のある子どもを持つ親にとって、親亡き後の財産管理は大きな課題です。
家族信託は、親が元気なうちに家族に財産の管理を託し、障害のある子どものために使ってもらう仕組みです。成年後見制度より柔軟で、親の意思を反映しやすいため、注目されています。本記事では、家族信託の基本、メリットとデメリット、具体的な仕組み、設計例、手続きの流れ、費用、注意点について詳しく解説します。
家族信託とは
基本的な仕組み
家族に財産の管理を託す
家族信託(民事信託)は、家族に財産の管理を託す仕組みです。
登場人物
家族信託には、3つの立場があります。
委託者(いたくしゃ)
- 財産を託す人
- 通常は親
受託者(じゅたくしゃ)
- 財産を管理する人
- 通常はきょうだいや親族
受益者(じゅえきしゃ)
- 財産から利益を受ける人
- 通常は障害のある本人
基本的な流れ
- 親(委託者)が、きょうだい(受託者)に財産を託す
- きょうだい(受託者)が財産を管理する
- 障害のある本人(受益者)が財産から利益を受ける
例
親が3,000万円を長男に託し、長男が管理して、障害のある次男のために月10万円ずつ使う。
成年後見制度との違い
なぜ家族信託が選ばれるのか
家族信託と成年後見制度の違いを理解しましょう。
| 家族信託 | 成年後見制度 | |
|---|---|---|
| 開始時期 | 委託者が決める | 判断能力が不十分になってから |
| 管理者 | 家族が受託者 | 家庭裁判所が選任(専門職が多い) |
| 柔軟性 | 高い(自由に設計できる) | 低い(家庭裁判所の監督) |
| 報酬 | 不要または家族間で決める | 月2~6万円程度(専門職の場合) |
| 監督 | なし(または任意で信託監督人) | 家庭裁判所の監督 |
| 期限 | 信託契約で決める(何世代も可能) | 本人が亡くなるまで |
| 身上監護 | できない | できる |
| 対象財産 | 信託契約で決める | 本人の全財産 |
家族信託が向いているケース
- 親が元気なうちに準備したい
- 家族に財産管理を任せたい
- 柔軟な設計がしたい
- 報酬を抑えたい
- 親の認知症対策も兼ねたい
成年後見制度が向いているケース
- 既に判断能力が不十分
- 身上監護(施設入所の契約など)が必要
- 信頼できる家族がいない
- 専門家に任せたい
家族信託のメリット
障害者のための家族信託には、多くのメリットがあります。
1. 親の意思を反映できる
自由な設計
親の意思を反映した柔軟な設計ができます。
例
- 月いくら使うか
- 何に使うか(生活費、医療費、趣味など)
- どのような条件で使うか
2. 親の認知症対策になる
親が認知症になっても大丈夫
親が認知症になると、財産が凍結されます。家族信託をしておけば、受託者が管理を続けられます。
3. 親が亡くなった後も継続できる
切れ目のない支援
親が亡くなった後も、受託者が管理を続けられます。
4. 何世代にもわたって設計できる
長期的な設計
受益者が亡くなった後の財産の行き先も決められます(後継ぎ遺贈型信託)。
例
- 1次受益者:障害のある次男
- 2次受益者:次男が亡くなった後は、長男の子ども(孫)
5. 家庭裁判所の監督がない
自由度が高い
家庭裁判所の監督がないため、柔軟な運用ができます。
6. 報酬が安い
コスト削減
家族が受託者の場合、報酬は不要または家族間で決められます。成年後見制度の専門職への報酬(月2~6万円)と比べて安価です。
7. 遺産分割協議が不要
手続きが簡単
信託財産は遺産分割協議の対象外なので、手続きが簡単です。
8. 倒産隔離機能
受託者の債権者から守られる
信託財産は、受託者の財産と分別管理されるため、受託者が破産しても、信託財産は守られます。
家族信託のデメリット・注意点
家族信託にはデメリットや注意点もあります。
1. 身上監護はできない
契約行為はできない
家族信託では、財産管理はできますが、身上監護(施設入所の契約、医療契約など)はできません。
対策
身上監護が必要な場合は、成年後見制度との併用を検討します。
2. 受託者の負担
責任が重い
受託者は、財産を適切に管理する義務があります。
負担
- 管理の手間
- 責任の重さ
- 記録の保管
対策
- 信頼できる人を選ぶ
- 負担が大きい場合は、専門家のサポートを受ける
- 信託監督人を置く
3. 専門家のサポートが必要
自分では難しい
家族信託の設計は複雑で、専門家のサポートが必要です。
費用
- 設計費用:30万円~100万円程度
4. 税務上の注意
課税関係が複雑
家族信託の課税関係は複雑です。専門家に相談しましょう。
5. 受託者の変更が難しい
信頼関係が前提
受託者が不適切な管理をした場合、変更することは可能ですが、手続きが必要です。
6. 銀行によっては対応していない
金融機関の対応
家族信託に対応していない金融機関もあります。事前に確認が必要です。
7. 不動産の信託は登記が必要
手続きと費用
不動産を信託する場合、信託登記が必要で、登録免許税がかかります。
家族信託の設計例
障害者のための家族信託の具体的な設計例を紹介します。
基本パターン
親から長男への信託
設定
- 委託者:父(70歳)
- 受託者:長男(45歳、健常者)
- 受益者:次男(40歳、障害者)
- 信託財産:現金3,000万円、自宅不動産
内容
- 父が長男に3,000万円と自宅不動産を信託
- 長男が財産を管理
- 次男の生活費として月10万円を給付
- 医療費、施設費用などは必要に応じて給付
- 父母が亡くなった後も、長男が管理を継続
- 次男が亡くなった後、残った財産は長男の子ども(孫)へ
ポイント
- 父母の生存中は、父母も受益者として住宅に居住
- 父が認知症になっても、長男が管理継続
- 親亡き後も、次男の生活を支える
応用パターン1:複数の受託者
長男と長女が共同受託者
設定
- 委託者:父母
- 受託者:長男と長女(共同)
- 受益者:次男(障害者)
内容
- 長男と長女が共同で財産を管理
- 重要な決定は両者の同意が必要
メリット
- 一方の暴走を防げる
- 負担を分散できる
デメリット
- 意見が合わない場合、手続きが進まない
応用パターン2:後継受託者の指定
長男に何かあった場合に備える
設定
- 委託者:父
- 受託者:長男
- 後継受託者:長女
- 受益者:次男(障害者)
内容
- 長男が受託者として管理
- 長男が死亡または管理不能になった場合、長女が後継受託者として管理を引き継ぐ
メリット
- 長期的な管理が可能
応用パターン3:信託監督人を置く
監督機能を持たせる
設定
- 委託者:父
- 受託者:長男
- 信託監督人:弁護士、司法書士など
- 受益者:次男(障害者)
内容
- 長男が財産を管理
- 信託監督人が長男の管理を監督
- 重要な決定には信託監督人の同意が必要
メリット
- 受託者の不正を防げる
- 専門家のアドバイスが受けられる
デメリット
- 信託監督人への報酬が必要
応用パターン4:遺言代用信託
遺言の代わりに
設定
- 委託者兼当初受益者:父
- 受託者:長男
- 2次受益者:次男(障害者)
内容
- 父の生存中は、父が受益者として利益を受ける
- 父が亡くなった後、次男が受益者となる
メリット
- 遺産分割協議が不要
- 遺言より柔軟
家族信託の手続きの流れ
家族信託を設定する手続きの流れを説明します。
1. 専門家に相談する
まずは相談
家族信託は複雑なので、専門家に相談しましょう。
相談先
- 弁護士
- 司法書士
- 税理士
- 信託銀行
- 家族信託専門の会社
相談内容
- 家族構成
- 財産の状況
- どのような信託にしたいか
- 不安や希望
2. 設計する
信託の設計
専門家と一緒に、信託の内容を設計します。
決めること
- 委託者、受託者、受益者
- 信託財産(何を信託するか)
- 信託の目的
- 受益者への給付方法(月いくら、何に使うかなど)
- 信託の終了事由
- 後継受託者
- 信託監督人の有無
3. 家族で話し合う
全員の理解と同意
家族全員で話し合い、理解と同意を得ましょう。
話し合うこと
- 信託の内容
- 受託者の役割と責任
- きょうだい間の公平性
4. 信託契約書を作成する
契約書の作成
専門家が信託契約書を作成します。
内容
- 信託の目的
- 委託者、受託者、受益者
- 信託財産
- 管理方法
- 給付方法
- 終了事由
- その他の条項
形式
- 公正証書がおすすめ(証拠力が高い)
- 私文書でも可能
5. 公正証書を作成する(推奨)
公証役場で
公証役場で公正証書を作成します。
必要なもの
- 信託契約書の案
- 委託者、受託者の印鑑証明書
- 委託者、受託者の本人確認書類
- 不動産の登記簿謄本(不動産を信託する場合)
費用
- 公証人手数料:数万円
6. 信託口口座を開設する
信託財産の管理口座
受託者名義の信託口口座を開設します。
信託口口座とは
- 「受託者○○ 委託者××信託口」という名義の口座
- 信託財産であることが明確
- 受託者の個人財産と分別管理
注意点
- 信託口口座に対応している金融機関は限られる
- 事前に確認が必要
対応していない場合
- 受託者個人名義の口座で管理
- ただし、信託財産と受託者の個人財産を明確に分別管理する必要がある
7. 財産を信託する
財産の移転
信託契約に基づき、財産を受託者に移転します。
現金の場合
- 信託口口座に入金
不動産の場合
- 信託登記をする
- 登録免許税:固定資産税評価額の0.4%
有価証券の場合
- 受託者名義に変更
8. 管理を開始する
受託者の業務開始
受託者が信託財産の管理を開始します。
受託者の義務
- 善管注意義務(善良な管理者としての注意義務)
- 忠実義務
- 分別管理義務
- 帳簿作成義務
9. 定期的な報告
受益者への報告
受託者は、定期的に受益者(または委託者)に報告します。
報告内容
- 財産の状況
- 収支
- 給付の実績
10. 税務申告
税金の申告
受益者が確定申告をします。
課税関係
- 受益者が税金を負担
- 信託からの給付は受益者の収入
詳細は税理士に相談してください。
費用
家族信託にかかる費用を説明します。
初期費用
設定時にかかる費用
専門家への報酬
- 設計費用:30万円~100万円程度
- 財産額や複雑さによる
公正証書作成費用
- 公証人手数料:数万円
不動産の信託登記費用
- 登録免許税:固定資産税評価額の0.4%
- 司法書士報酬:10万円~20万円程度
合計
- 現金のみの場合:40万円~110万円程度
- 不動産を含む場合:50万円~130万円程度 + 登録免許税
継続費用
管理にかかる費用
受託者への報酬
- 家族の場合:不要または家族間で決める
- 専門家の場合:年間数十万円
信託監督人への報酬
- 置く場合:年間30万円~60万円程度
税理士への報酬
- 税務申告を依頼する場合:年間10万円~20万円程度
注意点とよくある質問
注意点
1. 受託者選びは慎重に
受託者は、長期間にわたり財産を管理します。信頼できる人を選びましょう。
2. きょうだい間の公平性
きょうだいがいる場合、公平性を考慮しましょう。受託者への報酬、最終的な財産の行き先などを明確にします。
3. 税務に注意
家族信託の税務は複雑です。必ず税理士に相談してください。
贈与税
- 委託者と受益者が異なる場合、贈与税がかかる可能性
- 適切な設計で回避可能
所得税
- 受益者に所得税がかかる
相続税
- 委託者が亡くなったときに相続税がかかる
4. 定期的な見直し
状況が変わったら、信託内容を見直しましょう。
よくある質問
Q1: 家族信託と遺言書、どちらがいいですか?
A: 両方を組み合わせることもできます。
家族信託は信託財産についての管理方法を定めますが、遺言書は全財産についての分け方を定めます。家族信託でカバーできない部分は遺言書で補完できます。
Q2: 受託者が不適切な管理をしたらどうなりますか?
A: 受託者の変更や信託の終了を求めることができます。
受益者または委託者は、家庭裁判所に受託者の解任を請求できます。また、信託監督人を置くことで、監督機能を持たせることができます。
Q3: 受託者が先に亡くなったらどうなりますか?
A: 後継受託者を指定しておけば、引き継がれます。
信託契約で後継受託者を指定しておくことで、受託者が亡くなっても信託は継続します。
Q4: 成年後見制度と併用できますか?
A: できます。
家族信託で財産管理を行い、成年後見制度で身上監護を行うという組み合わせも可能です。
Q5: 途中で信託を終了できますか?
A: 条件により可能です。
信託契約で終了事由を定めておくか、委託者と受益者の合意があれば終了できます。
まとめ
家族信託は、親が元気なうちに家族に財産の管理を託し、障害のある子どものために使ってもらう仕組みです。成年後見制度より柔軟で、親の意思を反映しやすく、報酬が安い、何世代にもわたって設計できるなどのメリットがあります。
一方で、身上監護はできない、受託者の負担が重い、専門家のサポートが必要、税務が複雑などのデメリットや注意点もあります。
家族信託を設定する流れは、専門家に相談し、設計し、家族で話し合い、信託契約書を作成し、公正証書を作成し、信託口口座を開設し、財産を信託し、管理を開始し、定期的に報告し、税務申告をするという流れです。
費用は初期費用で40万円~130万円程度、継続費用として受託者や信託監督人への報酬、税理士への報酬がかかります。
家族信託は、親亡き後の財産管理の有力な選択肢です。しかし、複雑な制度なので、必ず専門家(弁護士、司法書士、税理士)に相談しながら進めましょう。
主な相談先
弁護士
- 信託の設計、法的アドバイス
司法書士
- 信託の設計、信託登記
税理士
- 税務相談、税務申告
信託銀行
- 商品の提供
一人で決めず、必ず専門家に相談してください。

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