はじめに 途中退所は「失敗」ではない
就労継続支援B型事業所を利用している方の中には、「途中でやめたい」「このまま続けるべきか迷っている」「もう限界を感じている」と悩んでいる方が少なくありません。あるいは、すでに途中退所を決意したものの、「また続かなかった」「自分はダメな人間だ」「周りに申し訳ない」と自分を責めている方もいるでしょう。
しかし、B型事業所を途中退所することは、決して「失敗」ではありません。途中退所には、必ず理由があります。事業所が自分に合わなかった、体調が変化した、生活状況が変わった、より良い選択肢が見つかった、ステップアップのタイミングが来たなど、様々な理由で途中退所は起こります。むしろ、「合わない」と気づいたこと、「このままではいけない」と判断したことは、自分を大切にする重要な決断です。
途中退所を考えている方、すでに退所した方が抱える悩みは深刻です。「次はどうすればいいのか」「また同じことを繰り返すのではないか」「もう福祉サービスは利用できないのではないか」「家族や支援者に何と説明すればいいのか」「受給者証はどうなるのか」「次の事業所は受け入れてくれるのか」など、多くの不安があります。
本記事では、B型事業所を途中退所する主な理由、退所を決断する前に考えるべきこと、退所の手続きと流れ、退所後の選択肢、次に同じことを繰り返さないための方法、家族や支援者への説明の仕方、そして途中退所した自分を責めないための考え方について、詳しく解説していきます。途中退所を考えている方、すでに退所した方、ご家族や支援者の方々にとって、前を向くための実践的な情報となれば幸いです。
B型事業所を途中退所する主な理由
まず、どのような理由で途中退所が起こるのか、理解しましょう。
事業所との相性の問題
雰囲気が合わない
想像と違った 見学時は良いと思ったけれど、実際に通ってみると雰囲気が合わなかった、居心地が悪いと感じることがあります。
- アットホームすぎて距離感が近すぎる
- 逆に冷たく、放置されている感じがする
- 賑やかすぎて疲れる
- 静かすぎて息苦しい
人間関係のトラブル
スタッフや利用者との関係
- スタッフの態度が冷たい、威圧的
- スタッフに相談しても取り合ってもらえない
- 他の利用者からいじめや嫌がらせを受けた
- 利用者同士の派閥に巻き込まれた
- 特定の人との相性が極端に悪い
- パワハラやセクハラを感じた
作業内容が合わない
やりがいを感じられない
- 作業が単調すぎてつまらない
- 逆に難しすぎてできない
- 興味のない作業ばかり
- 体力的に合わない(立ち仕事が辛い、重いものが持てないなど)
- 感覚過敏に配慮がない(騒音、臭いなど)
支援の質が低い
期待していた支援がない
- 個別支援計画が形だけで、実際の支援がない
- 相談しても適切なアドバイスがもらえない
- スタッフの専門性が低い
- 放置されている感じがする
- 約束したことが守られない
工賃が低すぎる
経済的な不満
- 思った以上に工賃が低い
- 交通費や昼食代を引くとほとんど残らない
- 作業量と工賃が見合わない
- 「働く意味がない」と感じる
体調・健康面の理由
体調の悪化
通所が身体的・精神的に負担
- 通所を続けることで体調が悪化した
- 精神症状が悪化した(うつ、不安、パニックなど)
- 新たな病気が発覚した
- 既存の病気が悪化した
- 疲労が蓄積して回復しない
通所自体がストレス
環境適応の困難
- 人間関係のストレスで体調を崩した
- 毎日の通所がプレッシャーになっている
- 「休んではいけない」という強迫観念に苦しむ
- 通所することだけで精一杯で、成長できない
生活状況の変化
家庭の事情
家族の変化
- 家族の介護が必要になった
- 家族が病気になった
- 家庭内で大きな問題が発生した(離婚、死別など)
- 引っ越しが必要になった
経済的な事情
お金の問題
- 家計が苦しくなり、交通費や昼食代が払えない
- 生活保護の受給状況が変わった
- 年金が減額された
他のサービスとの調整
時間の競合
- 他の福祉サービスを利用することになった
- デイケアや訪問看護と時間が重なる
- リハビリの時間が増えた
ポジティブな理由
ステップアップ
より良い選択肢へ
- A型事業所への移行が決まった
- 一般就労が決まった
- 就労移行支援を利用することにした
- 専門学校や職業訓練を受けることになった
より自分に合う事業所が見つかった
事業所の変更
- 別のB型事業所で、より自分に合う場所が見つかった
- 作業内容や雰囲気がより良い事業所に移りたい
心理的な理由
モチベーションの低下
意欲がなくなった
- 何のために通っているのか分からなくなった
- 成長を感じられない
- 将来への希望が見えない
- 「このままでいいのだろうか」という焦り
自信の喪失
自己否定
- 「自分は何をやってもダメだ」という思いが強くなった
- 失敗体験が積み重なった
- 他の利用者と比較して劣等感を感じる
完璧主義の影響
自分を追い込む
- 「もっと頑張らなければ」というプレッシャー
- 「B型では甘えている」という自責の念
- 「フルタイムで働けないとダメだ」という思い込み
その他の理由
通所の負担
物理的な困難
- 通所距離が遠すぎて疲れる
- 交通機関が不便
- 送迎がなくて通えない
- 通勤ラッシュが耐えられない
情報不足で期待と現実のギャップ
事前情報と違った
- ホームページの情報と実態が違った
- 見学時の説明と実際が異なった
- 期待していた作業がなかった
退所を決断する前に考えるべきこと
途中退所を考えている方は、実際に退所する前に、以下のことを考えてみましょう。
本当に退所が最善の選択か
改善の可能性を探る 今抱えている問題は、事業所を変えることでしか解決しないのでしょうか。それとも、現在の事業所で改善できる可能性があるのでしょうか。
スタッフに相談したか
問題を伝える 不満や困りごとをスタッフに伝えましたか。伝えることで改善される可能性があります。
- 作業内容を変えてもらう
- 配置を変えてもらう
- 通所時間を調整してもらう
- 人間関係のトラブルを仲裁してもらう
多くの問題は、相談することで解決できることがあります。
一時的な休養で回復するか
疲れているだけかもしれない 今は疲れていて「もう無理」と感じているけれど、1〜2週間休養すれば気持ちが変わるかもしれません。
「退所」ではなく、まず「休会」や「一時休止」を検討してみましょう。
通所日数や時間を減らす選択肢
負担を軽減する 週5日が辛いなら週3日に減らす、フルタイムが辛いなら午前のみに変更する、という調整で続けられる可能性があります。
退所後の計画はあるか
次のステップを考える 退所した後、どうするのか具体的な計画はありますか。
- 別のB型事業所に移る予定がある
- A型や就労移行支援を利用する予定がある
- 一般就労が決まっている
- しばらく休養してから次を考える
計画がないまま勢いで退所すると、後悔することがあります。
相談支援専門員に相談したか
専門家の意見を聞く 相談支援専門員に、退所を考えていることを相談しましたか。専門家の視点から、他の選択肢や解決策を提案してもらえるかもしれません。
家族や信頼できる人に相談したか
客観的な意見 一人で抱え込まず、家族や友人など信頼できる人に相談しましょう。客観的な意見をもらうことで、冷静に判断できます。
感情的になっていないか
一時的な感情か、継続的な問題か 今日あった嫌なことで感情的になっているだけではないでしょうか。それとも、長期間ずっと悩んできた継続的な問題でしょうか。
感情的な時は、重要な決断を避けた方が良いこともあります。
退所のメリットとデメリットを書き出す
可視化する 退所した場合のメリットとデメリットを、紙に書き出してみましょう。
メリット
- ストレスから解放される
- 新しい環境にチャレンジできる
- 休養できる
デメリット
- 収入がなくなる
- 生活リズムが崩れるかもしれない
- 居場所がなくなる
- 次が見つからないかもしれない
書き出すことで、冷静に判断しやすくなります。
退所の手続きと流れ
退所を決めた場合、どのような手続きが必要なのでしょうか。
事業所への退所の意思表示
いつ、誰に伝えるか 退所を決めたら、できるだけ早めに事業所のスタッフ(サービス管理責任者や施設長など)に伝えましょう。
一般的には、退所希望日の1ヶ月前までに伝えることが望ましいとされています。急な退所は、事業所側も対応が難しくなります。
伝え方の例 「お世話になっているところ申し訳ありませんが、○○の理由により、△月末で退所させていただきたいと思います」
理由を詳しく説明する義務はありませんが、簡潔に伝える方が円滑です。
退所届の提出
書類による正式な手続き 口頭で伝えるだけでなく、退所届(退会届)という書類を提出することが一般的です。事業所に所定の書式があるので、それに記入して提出します。
個人の荷物の整理
ロッカーなどの片付け 自分のロッカーや作業スペースに置いてある私物を持ち帰ります。
受給者証の扱い
返却は不要 障害福祉サービス受給者証は、事業所に返却する必要はありません。あなたが保管し続けます。
別のB型事業所や他の障害福祉サービスを利用する際に、同じ受給者証を使います。
サービス利用の終了手続き
相談支援専門員との調整 相談支援専門員に、退所することを報告します。相談支援専門員は、サービス等利用計画を変更する必要があります。
次のサービスを利用する場合は、新しい計画を作成します。
最終日
挨拶 最終日には、お世話になったスタッフや仲良くしていた利用者に挨拶をします。円満に退所することが、後々の関係にも良い影響があります。
退所後の連絡先
緊急連絡先の確認 退所後も、必要に応じて連絡が取れるよう、連絡先を伝えておくことが望ましいです。
退所後の選択肢
B型事業所を退所した後、どのような選択肢があるのでしょうか。
別のB型事業所に移る
事業所の変更 一つの事業所が合わなかったからといって、すべてのB型事業所が合わないわけではありません。別の事業所を探してみましょう。
事業所選びのポイント
- 前回の経験を活かす(何が合わなかったのか明確にする)
- 複数の事業所を見学・体験する
- 相談支援専門員に相談する
就労継続支援A型に移る
ステップアップ 体調が安定している、一定の能力がある、経済的自立を目指したいという場合は、A型事業所への移行を検討しましょう。
A型は雇用契約があり、最低賃金が保証されますが、その分勤務条件は厳しくなります。
就労移行支援を利用する
一般就労を目指す 一般企業への就職を目指したい場合は、就労移行支援事業所を利用しましょう。2年間の期限の中で、ビジネスマナー、PC スキル、面接対策などの訓練を受けられます。
一般就労にチャレンジする
直接就職 体調が安定し、能力もあるなら、一般企業への就職にチャレンジすることもできます。障害者雇用枠や、ハローワークの障害者窓口を活用しましょう。
地域活動支援センターを利用する
よりハードルの低い選択肢 B型でも負担が大きすぎた場合、地域活動支援センターを利用するのも選択肢です。
地域活動支援センターは、「働く」ことよりも「活動」「交流」が中心で、さらに自由度が高く、通所のハードルが低いです。
デイケア・訪問看護を利用する
医療的サポートを受ける 精神科デイケアや訪問看護などの医療サービスを利用して、まずは症状の安定を図るという選択もあります。
しばらく休養する
何もしない期間 無理に次のステップを急がず、しばらく休養することも重要な選択です。心身を休め、エネルギーを蓄え、次に何をしたいか考える時間を持ちましょう。
「休む」ことは、決して「逃げ」ではありません。
在宅での活動
自宅でできることを探す 在宅就労、在宅ワーク、クラウドソーシング、趣味の活動、ボランティアなど、自宅でできる活動を探すのも一つの方法です。
生活訓練を利用する
日常生活スキルから 働く前に、まずは日常生活のスキルを身につける必要がある場合、生活訓練(生活自立訓練)を利用するという選択肢もあります。
次に同じことを繰り返さないために
途中退所の経験を活かし、次に同じことを繰り返さないための方法です。
退所の理由を分析する
何が問題だったのか明確にする なぜ退所することになったのか、具体的に分析しましょう。
- 事業所の選び方が間違っていた
- 自分の希望を明確にしていなかった
- 体調管理ができていなかった
- コミュニケーション不足だった
- 無理をしすぎた
原因が分かれば、次に活かせます。
自分の「譲れない条件」を明確にする
優先順位をつける 次の事業所を選ぶ際の「絶対条件」を明確にしましょう。
- 通所距離
- 作業内容
- 雰囲気
- 工賃
- 支援の質
前回の経験から、自分に何が必要か、何が我慢できないかが分かったはずです。
複数の事業所を見学・体験する
慎重に選ぶ 次は、より慎重に事業所を選びましょう。最低3〜5ヶ所は見学し、体験利用をしっかり行ってから決めます。
相談支援専門員を活用する
サポートを受ける 相談支援専門員に、前回の経験と教訓を共有し、次の事業所選びをサポートしてもらいましょう。
事業所に自分の希望を明確に伝える
コミュニケーションを大切に 「こういう作業がしたい」「こういう配慮がほしい」「こういうことは苦手」など、自分の希望や困りごとを、遠慮せず伝えましょう。
無理をしない
自分のペースを守る 「週5日フルタイムで働かなければ」と無理をせず、自分のペースで始めましょう。週1日、午前のみから始めて、徐々に増やしていくのも良い方法です。
定期的に振り返る
早めに問題に気づく 月に一度など、定期的に「今の事業所は自分に合っているか」「何か問題はないか」と振り返る時間を持ちましょう。
小さな問題のうちに対処すれば、大きな問題になる前に解決できます。
相談する習慣をつける
一人で抱え込まない 困ったことがあったら、すぐにスタッフや相談支援専門員に相談する習慣をつけましょう。我慢して溜め込まないことが大切です。
家族や支援者への説明
途中退所を家族や支援者にどう説明すればよいか、悩む方も多いでしょう。
正直に話す
隠さない 退所することを隠さず、正直に話しましょう。理由も含めて説明します。
「実は、事業所を退所することにしました。理由は○○です」
次の計画も伝える
不安を軽減する 「退所する」だけでなく、「次はこうする予定」という計画も一緒に伝えると、家族や支援者も安心します。
「しばらく休養してから、別の事業所を探します」 「A型事業所にチャレンジすることにしました」
責めないでほしいと伝える
サポートを求める 「責めないでほしい。これは失敗ではなく、自分に合った選択をするための過程です。サポートしてほしい」と伝えましょう。
相談支援専門員を介する
仲介してもらう 家族への説明が難しい場合、相談支援専門員に同席してもらい、専門的な視点から説明してもらうのも一つの方法です。
途中退所した自分を責めないために
途中退所した自分を責めている方へ、伝えたいことがあります。
退所は「失敗」ではない
学びのプロセス 途中退所は、「失敗」ではなく、「自分に合った場所を見つけるための過程」です。合わない場所に無理に留まることの方が、問題です。
挑戦したこと自体が素晴らしい
勇気を認める B型事業所を利用しようと思ったこと、実際に通所したことは、大きな勇気と努力です。その挑戦自体が素晴らしいことです。
学びがあった
無駄ではない たとえ途中退所しても、その経験から多くのことを学んだはずです。
- 自分に合う環境、合わない環境が分かった
- 自分の限界や課題が明確になった
- 次に選ぶべき選択肢のヒントが得られた
これらの学びは、次のステップに必ず活きます。
多くの人が経験している
あなただけではない B型事業所の途中退所は、決して珍しいことではありません。多くの人が、様々な理由で途中退所を経験しています。
一つの道が閉ざされても、他の道がある
選択肢は無限 一つの事業所がダメでも、他にもたくさんの事業所があります。B型がダメでも、A型、就労移行、一般就労、地域活動支援センターなど、多くの選択肢があります。
人生は、一つの選択で決まるものではありません。
自分を大切にする決断
勇気ある選択 「合わない」と気づき、退所を決断したことは、自分を大切にする勇気ある選択です。無理を続けて心身を壊すより、よほど賢明です。
まとめ 退所は新しい始まり
就労継続支援B型事業所の途中退所には、事業所との相性の問題、体調・健康面の理由、生活状況の変化、ステップアップ、心理的な理由など、様々な理由があります。どの理由も、あなたの努力不足や能力不足ではありません。
退所を決断する前に、本当に退所が最善の選択か、改善の可能性はないか、退所後の計画はあるか、相談支援専門員や家族に相談したか、感情的になっていないかを考えてみましょう。
退所を決めた場合は、事業所への意思表示、退所届の提出、受給者証の扱い、相談支援専門員との調整などの手続きが必要です。
退所後の選択肢は、別のB型事業所、A型、就労移行支援、一般就労、地域活動支援センター、デイケア、休養、在宅活動、生活訓練など、多岐にわたります。
次に同じことを繰り返さないためには、退所の理由を分析し、譲れない条件を明確にし、複数の事業所を見学・体験し、相談支援専門員を活用し、自分の希望を明確に伝え、無理をせず、定期的に振り返り、相談する習慣をつけることが大切です。
そして何より、途中退所した自分を責めないでください。退所は「失敗」ではなく、「自分に合った場所を見つけるための過程」です。挑戦したこと自体が素晴らしく、そこから学びがあり、次のステップに活かせます。
途中退所は、終わりではなく、新しい始まりです。この経験を糧に、あなたに本当に合った場所、あなたらしく成長できる場所を見つけてください。
焦らず、自分を責めず、自分のペースで、次の一歩を踏み出してください。応援しています。

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