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1. 気分障害の基本的な理解
気分障害とは、気分や感情の調整に変化が生じ、日常生活に支障をきたす精神疾患の総称です。誰もが経験する一時的な気分の落ち込みや高揚とは異なり、症状が一定期間続いたり、繰り返したりすることで、仕事や学校、人間関係などに影響が及ぶことがあります。本人の意思だけで気分をコントロールすることが難しくなる場合もあります。
気分障害は、決して珍しい病気ではありません。世界保健機関(WHO)によると、2019年には世界で約2億8,000万人がうつ病を経験しており、双極症も約3,700万人にみられるとされています。 日本でも、うつ病などの気分障害は多くの人に関わる精神疾患の一つです。年齢や性別にかかわらず、誰にでも起こる可能性があります。
気分障害には、脳の働きだけでなく、遺伝的な要因や環境、ストレス、生活リズムなど、さまざまな要因が関係すると考えられています。そのため、「気の持ちよう」や「怠け」が原因で起こるものではありません。適切な診断を受け、必要に応じて治療や支援につながることが大切です。WHOも、うつ病や双極症には有効な治療や支援方法があるとしています。
また、気分障害というと「気分が落ち込む病気」というイメージを持たれやすいですが、うつ状態だけでなく、気分が異常に高揚したり、活動性が高まったりする状態がみられる病気もあります。この違いを知ることは、気分障害を正しく理解するうえで重要です。
この記事では、気分障害の種類、症状、原因、治療法、そして本人や家族、周囲の人ができることについて、わかりやすく解説していきます。
2. 気分障害の種類
気分障害にはいくつかの種類があり、大きくは「うつ状態を中心とするもの」と「うつ状態と躁状態・軽躁状態の両方がみられるもの」に分けて考えることができます。それぞれ症状や経過、治療法が異なるため、どのような気分の変化が、どのくらいの期間、どのように現れているのかを把握することが大切です。
うつ病性障害(単極性障害)
うつ病性障害は、抑うつ状態を中心とする気分障害です。一般的に「うつ病」と呼ばれているのは、主にこの分類に含まれます。
大うつ病性障害(うつ病)は、代表的なうつ病性障害です。抑うつ気分や、これまで楽しめていたことへの興味・喜びの低下などが続き、日常生活に支障をきたします。診断では、こうした症状が少なくとも2週間続いているかどうかなど、症状の種類や程度、生活への影響を総合的に確認します。
持続性抑うつ障害(気分変調症)は、比較的軽い抑うつ症状が長期間にわたって続く慢性的な状態です。大うつ病ほど症状が強くない場合でも、長く続くことで仕事や学校、人間関係などに影響し、生活の質が低下することがあります。「症状が軽いから困らない」とは限らない点が、この病気を理解するうえで重要です。
季節性感情障害は、特定の季節に抑うつ症状などが現れ、季節の変化に伴って繰り返すタイプのうつ病です。秋から冬にかけて起こるものがよく知られていますが、春や夏に症状が現れる場合もあります。日照時間の変化などが関係すると考えられています。
産後うつ病は、出産後に生じるうつ病です。出産後のホルモンや身体の変化に加え、睡眠不足、育児への負担、環境の変化など、さまざまな要因が関係すると考えられています。「母親になったのだから頑張らなければ」と一人で抱え込む必要はなく、つらさが続く場合は医療機関や周囲に相談することが大切です。
双極性障害(躁うつ病)
双極性障害は、抑うつ状態と、躁状態または軽躁状態がみられる気分障害です。以前は「躁うつ病」と呼ばれていました。
双極I型障害は、少なくとも1回の明確な躁状態がみられるタイプです。躁状態では、気分が異常に高揚したり、強い活動性がみられたりします。睡眠時間が少なくても平気なように感じたり、話し続けたり、考えが次々に浮かんだり、普段より大胆な行動をとったりすることがあります。その結果、仕事や人間関係、金銭面などに大きな影響が及ぶこともあります。
双極II型障害は、軽躁状態とうつ状態がみられるタイプです。軽躁状態は躁状態ほど重くなく、本人が「調子が良い」と感じていることもあるため、病気の症状として気づきにくい場合があります。一方で、うつ状態が長く続いたり、生活に大きな支障をきたしたりすることがあります。
気分循環性障害は、軽い抑うつ症状と軽躁症状が長期間にわたって繰り返される状態です。症状が一つひとつは強くない場合でも、気分の波が続くことで生活の安定が難しくなることがあります。「気分の波が大きい性格」と思われていた人の中に、実際には治療が必要な状態が隠れていることもあります。
その他の気分障害
物質・医薬品誘発性抑うつ障害は、薬物、アルコール、特定の医薬品などの影響によって、抑うつ症状が現れる状態です。原因となっている物質や薬剤を確認することが、診断や治療を考えるうえで重要になります。
他の医学的疾患による抑うつ障害は、甲状腺の病気、脳卒中などの身体疾患に伴って、抑うつ症状が現れる状態です。気分の落ち込みがあるからといって、必ずしも精神疾患だけが原因とは限りません。そのため、診察では身体的な病気や服用している薬などについても確認することがあります。
3. うつ病の症状
うつ病では、心の症状だけでなく、睡眠や食欲、疲れやすさなど身体の症状も現れることがあります。こうした症状が一定期間続き、仕事や学校、家事、人間関係などに支障をきたしている場合は、うつ病の可能性があります。
精神症状
抑うつ気分は、うつ病でよくみられる中心的な症状の一つです。気分が沈む、憂うつになる、悲しさや空虚感を感じるなどの状態が続きます。単に「嫌なことがあって落ち込んでいる」というだけでなく、本人の意思では気持ちを切り替えにくくなることがあります。
興味・喜びの喪失も、うつ病の重要な症状です。これまで楽しめていた趣味や活動に興味がわかなくなり、好きだったことをしても楽しいと感じられなくなることがあります。「何もする気になれない」と感じることもあります。これは、単なる「飽き」や「やる気の問題」とは異なり、楽しさや喜びそのものを感じにくくなる状態です。
思考力・集中力の低下によって、物事を考えたり判断したりすることが難しくなる場合があります。仕事や勉強に集中できない、簡単なことでも決められない、物忘れが増えたように感じる、といった変化がみられることがあります。
自己評価の低下がみられ、自分には価値がない、周囲に迷惑をかけているなど、自分を過度に責める考えにとらわれることがあります。過去の小さな失敗を何度も思い出し、「自分は何をやってもだめだ」と考えてしまうこともあります。本人にとっては現実そのもののように感じられることがありますが、うつ状態によって物事を否定的に捉えやすくなっている場合があります。
希死念慮とは、「死にたい」「消えてしまいたい」と考えたり、自殺について具体的に考えたりする状態です。これは緊急性の高い重要な症状です。本人がこうした思いを抱えている場合は、一人で抱え込まず、できるだけ早く医療機関などの専門家に相談することが大切です。
意欲の低下によって、何かを始めること自体が難しくなる場合があります。朝起きるのがつらい、着替えや入浴など身の回りのことができない、人と会うことが負担になる、といった変化がみられることがあります。「したくない」のではなく、「したいと思っても動けない」ことがあるのも、うつ病を理解するうえで大切なポイントです。
不安・焦燥感が強くなることもあります。漠然とした不安に襲われたり、落ち着かず、じっとしていることがつらいほどの焦りを感じたりする場合があります。うつ病というと「動けなくなる」というイメージがありますが、不安や焦りが強く、落ち着かなくなるタイプのうつ状態もあります。
身体症状
睡眠の変化は、うつ病でよくみられる症状です。寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めて眠れなくなるなどの不眠がみられる一方、長時間眠ってしまうなど、過眠がみられることもあります。睡眠の変化は気分の変化より先に現れることもあり、本人や家族が変化に気づくきっかけになる場合があります。
食欲の変化もみられます。食欲がなくなって体重が減少することもあれば、反対に食欲が増して体重が増加することもあります。食事がおいしく感じられなくなったり、食べること自体が面倒になったりする場合もあります。
疲労感・倦怠感が強くなり、十分に休んでも疲れが取れないように感じることがあります。体が重く感じられたり、少し動いただけでも強い疲労を感じたりすることがあります。「休めばすぐ元気になる」とは限らないことも、周囲が理解しておきたいポイントです。
身体の痛みや不調として、頭痛、肩や首の痛み、腰痛、胃の不快感などが現れることがあります。うつ病では身体症状が前面に出ることもあり、最初に内科などを受診する人もいます。身体の不調がある場合は、うつ病だけと決めつけず、身体的な病気の有無も含めて医療機関で確認することが大切です。
自律神経に関連した症状として、動悸、めまい、息苦しさ、便秘、下痢などがみられることもあります。このように、うつ病は「心の病気」でありながら、全身にさまざまな症状が現れることがあります。
4. 双極性障害の症状
双極性障害では、抑うつ状態と、躁状態または軽躁状態がみられます。それぞれの状態では、気分だけでなく、睡眠、活動性、考え方、行動などにも大きな変化が現れることがあります。
躁状態の症状
気分の異常な高揚がみられ、普段より強い自信を持ったり、「何でもできる」という感覚になったりすることがあります。よく話したり、機嫌が良くなったりする一方で、刺激に敏感になり、怒りっぽくなったり、攻撃的になったりする場合もあります。
睡眠時間が短くなることも特徴の一つです。数時間しか眠っていないのに疲れを感じにくく、活動を続けてしまうことがあります。単に「眠れない」のではなく、睡眠が少なくても本人があまり眠る必要を感じないことがポイントです。
多弁・活動性の亢進がみられ、話し続けたり、次々に新しい考えが浮かんだりすることがあります。話題が次々に変わり、周囲から見ると話についていくのが難しくなることもあります。じっとしていられず、いくつもの活動を同時に始めることもあります。
注意がそれやすくなるため、一つのことに集中し続けることが難しくなる場合があります。次々と別のことに興味が移り、始めたことを最後まで終えられないこともあります。
衝動的な行動が増えることがあります。高額な買い物を繰り返す、無謀な投資をする、性的な行動が普段より大胆になる、突然仕事を辞めるなど、後先を十分に考えない行動につながる場合があります。本人にとっては「思い切って行動できた」と感じていても、後になって大きな問題につながることがあります。
自尊心が過度に高まることもあります。自分には特別な能力がある、重要な使命があるなどと強く確信し、現実的には難しいほど大きな計画を立てることもあります。程度によっては、現実との区別が難しくなることもあります。
軽躁状態の症状
軽躁状態は、躁状態より程度が軽いものの、普段とは明らかに異なる気分や活動性の高まりがみられる状態です。気分が高揚したり、活動的になったり、睡眠時間が短くなったりします。
躁状態ほど強い症状ではないため、本人や周囲から「調子が良い」「仕事がはかどっている」「いつもより元気」と受け取られ、病気の症状だと気づきにくいことがあります。
ただし、軽躁状態があることは、うつ病との区別や双極性障害の診断を考えるうえで重要な手がかりになります。「元気になった時期があった」というだけで双極性障害と判断できるわけではなく、その程度や期間、普段との違いなどを医師が総合的に確認します。
抑うつ状態の症状
双極性障害の抑うつ状態では、うつ病と似た症状がみられます。気分の落ち込み、興味や喜びの低下、疲れやすさ、睡眠や食欲の変化、集中力の低下などが現れることがあります。
人によっては、過眠や過食、体が鉛のように重く感じるような強いだるさなどが目立つこともあります。ただし、これらが必ずみられるわけではありません。
双極性障害の治療では、うつ病とは薬の選び方などが異なる場合があります。そのため、過去に躁状態や軽躁状態がなかったかを確認することが重要です。
また、双極性障害では、躁状態・軽躁状態よりも抑うつ状態の期間が長くなる人もいます。そのため、本人も周囲も「うつ病」と考えてしまうことがあります。過去の気分の波を含めて経過を確認することが、適切な診断につながります。
5. 気分障害の原因
気分障害の原因は一つに決められるものではありません。遺伝的な要因、脳や身体の働き、ストレスや生活環境など、さまざまな要因が複雑に関係して発症すると考えられています。
生物学的要因
脳内の神経伝達物質や神経回路の働きの変化が、気分障害に関係すると考えられています。セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどが関係しますが、単純に「これらの物質が減るからうつ病になる」というだけでは説明できません。気分障害は、脳内のさまざまな仕組みが複雑に関係する病気です。
脳の構造や機能の違いについても研究が進められています。脳画像研究では、気分障害のある人に特定の脳領域の活動や構造の違いがみられることがあります。ただし、こうした変化だけで個人の病気を診断できるわけではありません。
ホルモンの変化も気分に影響することがあります。甲状腺ホルモンなどの異常によって、抑うつ症状に似た状態が生じることもあります。そのため、診察では必要に応じて身体の病気についても確認します。
遺伝的要因
気分障害には遺伝的な要素があることが知られています。家族にうつ病や双極性障害などの気分障害がある場合、発症する可能性が高くなることがあります。
ただし、遺伝だけで発症が決まるわけではありません。遺伝的な影響を持っていても発症しない人はいますし、家族に気分障害の人がいなくても発症することがあります。遺伝的な体質に加え、環境やストレス、生活上のさまざまな要因が重なって発症することがあります。
双極性障害では、うつ病と比べて遺伝的な影響がより強いと考えられていますが、それでも遺伝だけで発症が決まるわけではありません。
心理社会的要因
強いストレスや生活上の大きな変化が、気分障害を発症するきっかけになることがあります。大切な人との死別、離婚、失業、経済的な困難、人間関係のトラブル、長期にわたる介護などが例として挙げられます。
ただし、同じ出来事を経験しても、すべての人が気分障害になるわけではありません。ストレスだけで発症が決まるのではなく、本人の体質やこれまでの経験、周囲から受けられる支援など、さまざまな要因が影響します。
性格傾向が発症リスクと関連することもあります。たとえば、責任感が強い、完璧を求めやすい、周囲の評価を気にしやすいなどの傾向が、ストレスの受け方に影響する場合があります。ただし、特定の性格だから気分障害になる、という単純な関係ではありません。
幼少期の体験も、将来の気分障害のリスクに関係することがあります。虐待やネグレクト、親との離別など、強いストレスとなる体験がその後の心身に影響することがあります。ただし、こうした経験があれば必ず発症するわけではありません。
身体疾患との関連
身体の病気が抑うつ症状などを引き起こしたり、気分の変化に影響したりすることがあります。甲状腺機能の異常、脳卒中、パーキンソン病、がん、慢性的な痛み、糖尿病などが例として挙げられます。
また、特定の薬剤によって、気分の変化や抑うつ症状が生じることもあります。そのため、診察では現在かかっている病気だけでなく、服用している薬やサプリメントなどについても医師に伝えることが大切です。
季節や環境の影響
日照時間や気候、生活リズムなどの環境変化が、一部の人の気分に影響することがあります。特に季節性のパターンを持つうつ病では、秋から冬にかけて日照時間が短くなる時期に症状が現れやすくなることがあります。
毎年同じ時期に気分の落ち込みや睡眠・食欲の変化が繰り返される場合は、単なる季節の気分変化と思い込まず、医療機関に相談するとよいでしょう。
6. 気分障害の診断
気分障害の診断は、専門医による詳しい問診や診察を中心に行われます。血液検査や脳画像検査だけで診断できる病気ではありません。
診断の流れ
医師は、現在の症状、症状が続いている期間、日常生活への影響、これまでにかかった病気、家族歴などを詳しく確認します。症状がいつ頃から始まったのか、どのような場面で悪化するのか、過去に似た状態を経験したことがあるかなども重要な情報になります。
診察では、「今どんな症状があるか」だけでなく、「これまでどのような気分の波があったか」を振り返ることも大切です。特に双極性障害では、過去の躁状態や軽躁状態が診断の重要な手がかりになります。
双極性障害の診断では、過去に躁状態や軽躁状態があったかどうかを慎重に確認します。軽躁状態は本人にとって「調子が良かった時期」と感じられることもあり、本人だけでは気づきにくい場合があります。そのため、必要に応じて、家族など身近な人から見た過去の様子が参考になることもあります。
診断基準
気分障害の診断には、国際的に用いられている診断基準が参考にされます。代表的なものに、米国精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)」や、世界保健機関(WHO)の「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD-11)」があります。
これらの基準では、症状の種類や組み合わせ、続いている期間、症状の程度、日常生活への影響などを総合的に判断するための考え方が示されています。
ただし、診断は基準の項目を機械的に当てはめるだけではありません。本人の症状やこれまでの経過、生活状況などを含めて、医師が総合的に判断します。
他の疾患との鑑別
気分の落ち込みや意欲の低下などは、気分障害以外の病気でもみられることがあります。そのため、不安症、適応障害、統合失調症、認知症など、症状が似ている他の精神疾患との違いを確認することも重要です。
また、身体疾患によって抑うつ症状などが現れている可能性もあります。必要に応じて血液検査や画像検査などを行い、甲状腺の病気など、身体的な原因が隠れていないかを確認することがあります。
診断の難しさ
気分障害の診断は、必ずしも簡単ではありません。特に双極性障害では、最初に医療機関を受診したときに抑うつ状態が中心となっていることが多く、過去の躁状態や軽躁状態が見過ごされる場合があります。
そのため、現在の症状だけでなく、これまでの気分の変化を振り返ることが重要です。「以前、眠らなくても平気だった時期があった」「普段とは明らかに違うほど活動的だった」など、小さな変化でも診断の手がかりになることがあります。
適切な診断のためには、本人からの情報に加えて、本人の同意を得たうえで、家族など身近な人からの情報が役立つこともあります。
7. 気分障害の治療法
気分障害の治療は、薬物療法や精神療法(心理療法)、生活面での支援などを組み合わせて行うことが一般的です。症状の種類や程度、これまでの経過、本人の希望や生活状況などに応じて、治療方針が決められます。
薬物療法
抗うつ薬は、主にうつ病の治療に使用されます。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、三環系抗うつ薬などがあります。効果が現れるまでには一定の時間がかかるため、飲み始めてすぐに効果が出ないからといって、自己判断で中止しないことが大切です。
気分安定薬は、双極性障害の治療などに用いられます。リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギンなどがあり、躁状態や抑うつ状態の治療、再発予防など、薬によって使用目的が異なります。
抗精神病薬は、双極性障害の躁状態や、場合によってはうつ状態の治療などに使用されることがあります。薬によって適応や効果、副作用が異なるため、医師が状態に応じて選択します。
抗不安薬や睡眠薬は、不安や不眠などの症状を和らげるため、必要に応じて使用されます。薬の種類によっては依存や眠気などに注意が必要なものもあるため、使用期間や量について医師と相談しながら使うことが大切です。
薬物療法では、効果と副作用のバランスを確認しながら、薬の種類や量を調整していきます。自己判断で服薬を中止したり、量を変更したりすると、症状が悪化することがあるため、変更したい場合は主治医に相談しましょう。
精神療法(心理療法)
認知行動療法は、つらい気分につながりやすい考え方や行動のパターンを整理し、より柔軟で現実的な捉え方や行動につなげていく心理療法です。うつ病などに対する治療法の一つとして広く用いられています。
対人関係療法は、家族や友人などとの人間関係や、生活上の大きな変化などに焦点を当て、対人関係の改善を通して症状の軽減を目指す心理療法です。
精神力動的精神療法では、現在の気持ちや人間関係、過去の経験などを振り返り、それらが現在の悩みや症状とどのように関係しているのかを考えていきます。治療期間や進め方は人によって異なります。
支持的精神療法では、本人のつらさや悩みを受け止めながら、安心して治療を続けられるよう支援します。ほかの治療法と組み合わせて行われることもあります。
その他の治療法
電気けいれん療法(ECT)は、重症のうつ病や、薬物療法だけでは十分な改善が得られない場合、緊急性の高い状態などで検討される治療法です。全身麻酔下で短時間の電気刺激を脳に与え、意図的に短いけいれんを起こすことで症状の改善を目指します。適応については、症状の程度や身体状態などを踏まえて慎重に判断されます。
光療法は、季節性のパターンを持つうつ病などに用いられることがあります。専用の強い光を一定時間浴びる方法で、単に日光を長時間浴びればよいというものではなく、適切な機器や方法で行うことが大切です。
経頭蓋磁気刺激療法(TMS)は、磁気刺激によって脳の特定の領域を刺激する治療法です。薬物療法で十分な効果が得られないうつ病などで検討されることがあります。実施できる医療機関や適応条件があるため、詳しくは医療機関で確認します。
その他の治療法
電気けいれん療法(ECT)は、重症のうつ病や、薬物療法が効かない場合、自殺の危険が高い場合などに検討されます。全身麻酔下で行われ、脳に短時間の電気刺激を与えることで症状を改善します。
光療法は、季節性感情障害の治療に用いられます。毎日一定時間、明るい光を浴びることで症状を改善します。
経頭蓋磁気刺激療法(TMS)は、比較的新しい治療法で、薬物療法で十分な効果が得られない場合に検討されます。
生活習慣の改善
治療と並行して、睡眠や食事、活動量などの生活リズムを整えることも大切です。規則正しい睡眠、バランスの取れた食事、無理のない範囲での運動、ストレスを軽減する工夫などが、症状の安定や再発予防に役立つことがあります。
ただし、症状が強い時期に「生活習慣を改善しなければ」と頑張りすぎる必要はありません。まずは睡眠を確保する、食事をとる、受診を続けるなど、できることから少しずつ取り組むことが大切です。
アルコールや違法薬物は、症状や睡眠を悪化させたり、薬との相互作用を起こしたりする可能性があるため、使用については医師に相談することが望まれます。
入院治療
自殺の危険が高い場合、症状が非常に重く日常生活を送ることが難しい場合、十分な食事や睡眠がとれない場合などには、入院治療が検討されることがあります。
入院することで、安全を確保しながら治療に集中できる環境を整えたり、薬の調整や経過観察を集中的に行ったりすることができます。入院が必要かどうかは、本人の状態や生活環境などを踏まえて判断されます。
8. 本人ができること
気分障害と診断されたとき、「自分で何とかしなければ」と考える必要はありません。治療を受けながら、自分の状態を知り、無理のない範囲で生活を整えていくことが大切です。
治療を続ける
大切なのは、主治医と相談しながら治療を続けることです。症状が改善したと感じても、自己判断で薬を中止したり、通院をやめたりせず、変更したいときはまず主治医に相談しましょう。
薬の副作用や治療への疑問、不安がある場合も遠慮せずに伝えてください。治療について納得できるまで説明を受けることは、安心して治療を続けるためにも大切です。
症状を記録する
気分の変化、睡眠時間、服薬状況、体調、ストレスとなった出来事などを記録すると、自分では気づきにくい症状の変化や悪化の兆候を把握しやすくなることがあります。
特に双極性障害では、気分の波と睡眠時間を記録することが、診察時の重要な情報になる場合があります。紙の手帳やスマートフォンなど、続けやすい方法で十分です。
生活リズムを整える
できる範囲で起床・就寝時刻を大きく乱さないようにし、生活リズムを整えていきましょう。特に双極性障害では、睡眠不足や生活リズムの大きな乱れが、気分の変化に影響することがあります。
ただし、体調が悪いときに完璧な生活を目指す必要はありません。まずは起床時間を大きくずらさないなど、できるところから始めましょう。
無理をしない
症状がつらいときは、無理に頑張ろうとせず、休息を取ることが大切です。「怠けている」と自分を責めるのではなく、休むことも治療の一部だと考えてください。
回復してきたら、いきなり元の生活に戻そうとせず、できることから少しずつ活動を増やしていきます。「調子が良いから一気に取り戻す」のではなく、少し余力を残すくらいのペースを意識することも大切です。
ストレスを管理する
ストレスを完全になくすことは難しいものです。そのため、自分にとって負担になりやすい状況を知り、可能な範囲で減らしたり、対処方法を増やしたりすることが大切です。
深呼吸やリラクゼーション、趣味、散歩などの活動、信頼できる人との交流などが役立つ場合があります。「自分に合う方法を探す」くらいの気持ちで、無理なく取り入れましょう。
サポートを求める
一人で抱え込まず、家族や友人、医療・福祉の専門家などに助けを求めることも大切です。助けを求めることは、弱さではありません。
患者会や自助グループなどで、同じような経験を持つ人と交流することで、孤独感が軽くなることもあります。
自分を責めない
気分障害は、本人の性格や努力不足だけで起こるものではありません。「自分が弱いから」「怠けているだけ」と自分を責める必要はありません。
病気になったことを責めるのではなく、「今の自分に必要な治療や支援は何か」と考えることが、回復への一歩になります。
9. 周囲ができること
気分障害のある人の周囲にいる家族や友人、職場・学校などの人にも、できることがあります。本人を変えようとするのではなく、安心して治療や生活を続けられる環境を整えることが大切です。
病気を理解する
まず、気分障害が「気の持ちよう」や「怠け」ではなく、本人の意思だけではコントロールしにくい症状が現れる病気であることを理解しましょう。
「もっと頑張ればよくなる」と考えるのではなく、症状によって普段できていることが難しくなる場合があることを知っておくことが大切です。
話を聞く
本人のつらい気持ちを否定したり、すぐに解決しようとしたりせず、まず話を聞きましょう。「頑張れ」「気にするな」「考えすぎだよ」といった言葉は、励ますつもりでも本人に負担になることがあります。
「つらいんだね」「大変だったね」「話してくれてありがとう」と伝え、「必要なときはいつでも話して」と安心できる存在でいることが支えになります。
プレッシャーをかけない
「早く良くなって」「もっと頑張って」といった言葉は、本人を焦らせてしまうことがあります。回復の速度には個人差があるため、周囲のペースで回復を求めないことが大切です。
日常生活をサポートする
症状が重い時期には、食事の準備、買い物、掃除など、普段ならできることが難しくなる場合があります。本人と相談しながら、無理のない範囲でサポートしましょう。
ただし、何でも代わりに行えばよいわけではありません。本人ができることは本人に任せ、難しい部分だけを支えるなど、状態に合わせて支援することが大切です。
治療を支援する
本人が希望する場合は、通院に付き添ったり、診察で伝えたいことを一緒に整理したりすることができます。服薬についても、本人と相談したうえで支援するとよいでしょう。
ただし、治療の主体は本人です。一方的に薬を飲ませたり、受診を強制したりするのではなく、本人の意思を尊重しながら支援することが大切です。
危機的状況に備える
「死にたい」「消えたい」などの発言がみられた場合は、軽く考えず、本人の安全を最優先にして専門家へ相談してください。
自殺について具体的な計画を話している、準備をしている、突然身辺整理を始めるなど、切迫した兆候がある場合は、特に緊急性が高い可能性があります。本人を一人にせず、地域の救急・精神科救急など、利用できる緊急支援につなぐことが重要です。
自分自身を大切にする
家族や友人として支えることは大切ですが、支える側がすべてを背負う必要はありません。
一人で抱え込まず、家族会や相談機関などを利用しましょう。必要であれば、支える側自身も医療機関やカウンセリングなどに相談して構いません。支える人が休息を取ることも、長く支援を続けるために大切なことです。
10. まとめ:気分障害は治療可能な病気
気分障害は、気分や意欲、活動性などに大きな変化が生じ、生活に影響する精神疾患の総称です。うつ病性障害や双極性障害などがあり、それぞれ症状や経過、治療方法が異なります。
抑うつ気分、興味・喜びの低下、睡眠や食欲の変化、疲労感、集中力の低下などが続き、日常生活に支障がある場合は、医療機関への相談を検討しましょう。「まだ大丈夫」と無理を重ねるより、早めに相談することで、必要な支援につながりやすくなります。
双極性障害では、抑うつ状態に加えて、躁状態や軽躁状態がみられます。特に軽躁状態は本人が「調子が良い」と感じていることもあり、見過ごされる場合があります。過去の気分の波を含めて医師に伝えることが、適切な診断につながります。
気分障害には、遺伝的な要因、脳や身体の働き、ストレス、生活環境など、さまざまな要因が関係しています。「本人の気持ちが弱いから」「努力が足りないから」と単純に考えられるものではありません。
治療では、薬物療法、精神療法、生活面での支援などを組み合わせ、症状や本人の状況に合わせて治療方針を調整していきます。症状が強い場合には、入院治療や専門的な治療が検討されることもあります。
大切なのは、一人で抱え込まないことです。精神科や心療内科などの医療機関に相談し、自分に合った治療や支援について一緒に考えてもらいましょう。
周囲の理解やサポートも、治療を続けていくうえで大きな支えになります。ただし、家族や友人だけですべてを支える必要はありません。医療機関や相談機関など、専門的な支援も上手に利用することが大切です。
気分障害と診断されたからといって、将来の生活がすべて決まるわけではありません。症状の経過には個人差がありますが、適切な治療や支援によって症状の安定や回復を目指すことができます。調子が良い時期とつらい時期を行き来しながら回復していく人もいます。
焦らず、その時々の状態に合わせて治療や支援を受けながら、「今できること」を一つずつ積み重ねていくことが大切です。

