引きこもりはもはや若者だけの問題ではありません。40代、50代、60代の中高年引きこもりが急増し、深刻な社会問題となっています。内閣府の調査では、40歳から64歳の引きこもりは推計61万人以上、15歳から39歳の推計54万人を上回っています。なぜ社会人の引きこもりが増加しているのか、その社会的背景と構造的な問題を理解し、個人レベルと社会レベルでの対策について詳しく解説します。
引きこもり社会人増加の実態
まず、現状のデータを正しく理解しましょう。
衝撃的な統計データ
内閣府が2019年に発表した調査によると、40歳から64歳の引きこもりは推計61万3000人です。これは、若年層15歳から39歳の54万1000人を上回る数字です。
つまり、引きこもりの半数以上が中高年という事実があります。さらに、この数字は氷山の一角で、実際にはもっと多いとする専門家もいます。
長期化と高齢化
引きこもり期間が10年以上という人が、中高年層では珍しくありません。20年、30年と引きこもり続けている人もいます。
引きこもりの高齢化により、親も高齢化し、「8050問題」80代の親が50代の引きこもりの子を支える、さらには「9060問題」が深刻化しています。
見えにくい中高年引きこもり
若年層の引きこもりは、学校に行かないことで比較的早く発覚します。しかし、社会人の引きこもりは、一度は社会に出ているため、家族も周囲も問題として認識しにくいです。
「休養中」「就職活動中」という名目で、実態が見えにくくなっています。本人も家族も、問題を認めたくないという心理が働きます。
男性が圧倒的に多い
引きこもりは、男性が女性の2倍から3倍と圧倒的に多いです。これは、男性に対する「働いて家族を養うべき」という社会的プレッシャーが強いことと関連していると考えられています。
社会人引きこもりが増加している原因
なぜ社会人の引きこもりが増加しているのでしょうか。
労働環境の悪化
長時間労働、過重労働、サービス残業が常態化している職場が多く、心身を壊す人が増えています。
パワハラ、セクハラ、いじめなど、職場でのハラスメントも深刻です。厚生労働省の調査では、職場でパワハラを受けたことがある人は3割を超えています。
こうした劣悪な労働環境が、離職とその後の引きこもりにつながっています。
雇用の不安定化
非正規雇用の増加により、雇用が不安定になっています。派遣切り、契約終了、リストラなどで仕事を失い、再就職できずに引きこもるケースが増えています。
特に、氷河期世代1970年代から80年代前半生まれは、就職時期が就職氷河期と重なり、安定した職に就けなかった人が多く、中高年になっても不安定な状況が続いています。
就職氷河期の影響
1990年代後半から2000年代前半の就職氷河期に、正社員になれなかった世代が、現在40代から50代になっています。
この世代は、新卒時に正社員になれず、非正規雇用を転々とし、スキルやキャリアを積めないまま中高年になり、就職が困難になっています。
年齢差別
日本の労働市場では、年齢が高くなるほど就職が難しくなります。35歳を過ぎると応募できる求人が激減し、40代、50代ではさらに厳しくなります。
一度離職すると、中高年での再就職は非常に困難で、就職活動に疲弊し、引きこもりになるケースがあります。
精神疾患の増加
うつ病、適応障害、パニック障害などの精神疾患が増加しています。職場のストレスが原因で精神疾患を発症し、退職後、回復できずに引きこもる人が増えています。
厚生労働省の患者調査では、精神疾患の患者数は増加傾向にあります。
発達障害の認識の広がり
近年、大人の発達障害への認識が広がってきました。学生時代は何とかやり過ごせたが、社会人になって求められる能力が変わり、適応できなくなった人が、発達障害と診断されるケースが増えています。
診断されることで、自分の困難の理由がわかり、適切な支援を受けられる一方、診断前に既に引きこもっていたケースも多いです。
家族形態の変化
核家族化、単身世帯の増加により、家族のサポートが得られにくくなっています。一人暮らしの引きこもりは、完全に孤立し、発見されにくいです。
また、親の経済力があるため、働かなくても生活できてしまい、引きこもりが長期化することもあります。
社会的孤立の深刻化
地域コミュニティの衰退、人間関係の希薄化により、社会的孤立が深刻化しています。
仕事を失うと同時に、社会とのつながりも失い、完全に孤立してしまう人が増えています。
デジタル化とインターネット
インターネットやSNSの普及により、家にいながら情報や娯楽を得られるようになりました。これが、外に出る必要性を減らし、引きこもりを助長している面があります。
一方で、オンラインコミュニティが孤独を和らげる面もあります。
経済格差の拡大
経済格差が拡大し、貧困層が増えています。経済的な困難が、精神的な問題や社会からの孤立につながり、引きこもりに至ることがあります。
コロナ禍の影響
新型コロナウイルスのパンデミックにより、多くの人が失業し、孤立しました。リモートワークの普及で、外に出る機会が減り、引きこもり状態になりやすくなりました。
コロナ禍が、潜在的な引きこもり予備軍を顕在化させた面があります。
8050問題と将来への懸念
引きこもりの長期化と高齢化により、深刻な問題が生じています。
8050問題とは
80代の親が、50代の引きこもりの子を支えている状態を「8050問題」と呼びます。親が高齢化し、経済的にも身体的にも限界に達しています。
親が亡くなった後、50代の引きこもりの子はどうなるのか。生活保護、孤独死、餓死などの悲劇が実際に起きています。
経済的な困窮
親の年金や貯蓄で生活していた人は、親が亡くなると収入がなくなります。就労経験がない、または少ない中高年が、いきなり自立することは非常に困難です。
生活保護を受けることになるケースも多く、社会保障費の増大につながります。
社会的孤立の深刻化
親が亡くなると、唯一の人間関係も失われ、完全に孤立します。誰にも発見されず、孤独死するケースが増えています。
将来的には9060、9070問題へ
引きこもりがさらに長期化すれば、「9060問題」90代の親が60代の子を、さらには「9070問題」へと進行します。
親子ともに高齢化し、介護問題も重なり、深刻な状況になります。
社会的な対策
引きこもり社会人の増加に対して、社会全体での対策が必要です。
労働環境の改善
長時間労働の是正、ハラスメントの撲滅、適正な労働条件の確保など、労働環境を改善することが根本的な対策です。
働きやすい職場が増えれば、引きこもりの予防につながります。
雇用の安定化
非正規雇用から正規雇用への転換、同一労働同一賃金の徹底、雇用の安定化が必要です。
年齢差別の撤廃
年齢にかかわらず、能力や経験で評価される労働市場を作ることが重要です。中高年でも再就職しやすい環境が必要です。
就職氷河期世代への支援
政府は、就職氷河期世代への集中支援プログラムを実施していますが、さらなる充実が必要です。
職業訓練、就労支援、企業への助成金などを拡充し、この世代の就労を支援する必要があります。
引きこもり支援の充実
ひきこもり地域支援センターの拡充、訪問支援の強化、居場所づくり、就労支援など、引きこもり支援を充実させる必要があります。
特に、中高年の引きこもりに特化した支援プログラムが必要です。
精神保健医療の充実
精神疾患の早期発見、早期治療、継続的な支援が重要です。メンタルヘルスへの社会的な理解を深め、受診しやすい環境を作る必要があります。
生活困窮者支援
生活困窮者自立支援制度の充実、生活保護の適正な運用など、セーフティネットを強化する必要があります。
地域コミュニティの再生
地域での支え合い、見守り、つながりを再生することが、孤立を防ぎます。
社会的な理解と偏見の解消
引きこもりに対する偏見や差別を解消し、社会全体で理解を深めることが重要です。
「怠けている」「甘えている」という見方ではなく、困難を抱える人として理解し、支援する姿勢が必要です。
企業や職場ができること
企業や職場レベルでも、対策があります。
働きやすい環境づくり
柔軟な働き方、ワークライフバランスの重視、ハラスメント防止、メンタルヘルスケアなど、働きやすい環境を作ることが、離職や引きこもりの予防につながります。
中高年の採用
年齢にかかわらず、多様な人材を採用する姿勢が重要です。中高年の経験やスキルを評価し、活用することが、社会全体の利益になります。
リカレント教育の支援
社員のスキルアップ、学び直しを支援することで、長く働ける環境を作ります。
復職支援
休職者への復職支援、段階的な職場復帰プログラムなど、一度離れた人が戻りやすい仕組みを作ることが大切です。
個人や家族ができること
個人や家族レベルでも、できることがあります。
早めの相談
問題が深刻化する前に、早めに専門機関に相談することが重要です。ひきこもり地域支援センター、保健所、精神保健福祉センターなどに相談しましょう。
家族だけで抱え込まない
家族だけで問題を抱え込まず、外部の支援を受けることが大切です。家族会に参加することも、支えになります。
本人を責めない
引きこもっている本人を責めることは、状況を悪化させます。理解し、寄り添う姿勢が大切です。
長期的な視点
すぐに解決を求めず、長期的な視点で見守り、支援することが重要です。
経済的な準備
親は、自分が亡くなった後のことを考え、経済的な準備をする必要があります。遺産、生活保護の手続き、成年後見制度などを検討しましょう。
まとめ
引きこもり社会人の増加は、個人の問題ではなく、社会構造の問題です。労働環境の悪化、雇用の不安定化、就職氷河期の影響、年齢差別、精神疾患の増加など、さまざまな社会的要因が背景にあります。
中高年の引きこもりは、若年層よりも深刻です。長期化、高齢化により、8050問題が顕在化し、経済的困窮、社会的孤立、孤独死などの悲劇が起きています。
この問題を解決するには、労働環境の改善、雇用の安定化、年齢差別の撤廃、引きこもり支援の充実など、社会全体での取り組みが必要です。
同時に、個人や家族も、早めに相談し、外部の支援を受けることが大切です。一人で、または家族だけで抱え込まず、専門家や支援機関につながりましょう。
引きこもりは、決して恥ずかしいことではなく、誰にでも起こりうることです。社会全体で理解を深め、支え合う仕組みを作ることが、すべての人が生きやすい社会につながります。

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